伴侶生活!もっと肩の力を抜こう!
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ヨヒラと別れ、その足で俺はセリの家へ走っていく。
夜風を浴びて走りながら、セリとの生活がどんなものになるかを思いを巡らせてみることに。
…思えば、セリと一緒に暮らすのは久しぶりだ。
というのも、俺はここに来るまで、ずっとセリと二人で一緒に暮らしていたからな。
俺は十五歳のときから一念発起してひとり暮らしを始めたんだが、その日にはもうセリが俺の家に勝手に居着いていた。
この宇宙での男のひとり暮らしって、防犯上の理由や、稼ぎの問題で、結構勇気のいる行為だったんだが……当たり前のように俺の借りた部屋にセリがいたので、ズッコケたことを覚えている。
それから、なんだかんだずっと一緒に二人で過ごしていたので、もう十年くらいは一緒の家に住んでいたことになるのかな?
セリとの二人暮らしは、とても心地の良いものだった。
家に人がいるというだけで、俺はどこか安心していたし、その日あった出来事をすぐに共有できるというのも、今思えばとっても支えになっていた。俺、どうも寂しがりやでかまってちゃんなところがあるっぽいしな。
それに、こんなこと自分で言うのはクズみたいで嫌なんだけど……男のくせに性欲の強い俺は、セリという幼馴染の可愛い女性と爛れた生活を送れていたことが、とても助かっていた。
…あのときの俺は生意気にも、それが当たり前かのように過ごしていたんだよね。よーく考えろ、俺。前世の価値観で言えば、夢のような生活だぞ。
その暮らしに欠点があるとすれば、セリが働かず、俺の金で日々を過ごしていたことだろうか?
あの時はそれが不満だったし、それが原因で俺はあの暮らしを捨て、この惑星に移住してきたと言い聞かせていた。
けれど、今になって思えば、あれはただの言い訳だった気がする。もっともらしい理由を後付けしていただけで、実際にはそれが直接の原因じゃない。
だって正直、セリに貢ぐことなんて苦痛でもなんでもなかったし、むしろ甘えられることに嬉しさすら覚えていたんだから。
――思えば、あの時の生活は、闘技場での挑戦の日々で、少し精神をすり減らしていた。
あまりの勝てなさ、俺が男のせいで、勝てなくても人気になってしまう社会の歪さ、努力しても思った方向に報われない虚しさ、人気になったことが原因の生きにくさ、若さのせいで、無駄に有り余る俺の中のエネルギー…
それらが原因で、俺はどこか「このままではいけない。何かを変えなきゃ」という、漠然とした不安があったのだと思う。
そういう焦燥感が原因で、俺は誰にも言わずこの惑星に来るという思い切った行動をしたのだ。
「今思えば、恵まれていたからこその、贅沢な悩みだったなあ…」
ポツリと呟いた言葉は、夜空に溶けていった。
――さて、そんなこんなで、もうそろそろセリの拠点につく。
そういえば、この森にこんな夜遅くに来たのは初めてだ。
セリの住むこの森は、木々の背が高く、月明かりすらほとんど届かない。地面がぬかるんでいるし、湿度が高いから、空気が少し重い感じがする。
謎の生き物の不気味な笑い声も聞こえてくるし、似たような景色も多い。ずっと同じ場所をループしている気すらしてくる。
そんな、独特の妖しげな雰囲気があるのだ。
でも、感覚を研ぎ澄まし、しっかり観察すれば、それらにもしっかり原因があると分かる。
笑い声は、この森に生息するゴーストが活発に活動しているからだし、似たような景色に見えるだけで、木々一つ一つをしっかり見れば、ちゃんと違いはある。
スローライフ生活をする以前だったら、そんなことには気づかなかっただろう。気づかぬうちに、俺も成長してるんだなあ…
「さてと、ここがセリの家のはず、なんだが…」
位置情報的には絶対にここがセリの家だ。
ただ、俺の目の前に見える景色は、至って普通の森。人工物がある気配が一切ない。
ええっと……セリ、引っ越しでもしたのか?どういうこと?
俺が困惑していると…
「わ!」
「――っうわ!びっくりした!はあぁ……口から心臓が出るかと思った…」
突然、セリが俺の背中からにゅるっと出てきて、俺を飛び上がらせた。ホントにマジでびっくりした。
俺の腕の中のクスネは、俺が驚いたことが面白いのか、すごくテンションが上っている。尻尾がブンブンだ。クスネ、驚きも楽しめるなんて、なかなかの大物だなあ…
…というか、セリ、気配を消すのがうますぎるんだよ!
「えへへ~、びっくりしたでしょ?なんだかヒノキがごちゃごちゃ考え事をしているみたいだったから、驚かせてみました!ほら、もっと肩の力を抜いて!」
「えへへ~、じゃなくて……はあ、もういいけどさあ」
確かに、もう今更考え事をする気にはならない。なんだか気が抜けてしまった。
色々思い起こした結果、セリにちょっと時間を取ってもらい「いつも俺のそばにいてくれてありがとう」とか「俺が俺でいられるのはセリのおかげ」だとか、日頃の感謝を伝えようと思ってたんだがな。そういう気分じゃなくなってしまった。
…まあよく考えれば、こういうことはわざわざイベントの様にするのではなく、普段の日常を送るときに言葉にしたほうがいいか。ちょっと大げさに考えすぎていたな。
「かっか!」
「おう、閣下、こんばんはー。相変わらず元気そうで何よりだ」
閣下がふよふよと飛んできたので、俺はいつものごとくハイタッチして挨拶する。
「で、セリさあ、ここにあった拠点はどうしたの?なんかなくなってるけど…」
「ふふふ~。別に引っ越しをしたわけでも、取り壊したわけでもないよ。この建物回りを、ちょっと、リフォームしただけ。ちゃんとここに建物はあるからね。まあ、見せたほうが早いか――閣下、お願い!」
「かっか!」
閣下が元々家があったであろう場所に両手をかざすと…
――ゴゴゴゴゴッ……と、地面が揺れ始めた。
「えっ?ちょ、なに!?何が起こってるんだ!?」
いきなりのことに、思わず俺は慌てふためく。一方クスネはキラキラ目を輝かせる。
…この場に何が起こっているのか、しだいに分かってきた。
「生えてきた…?」
地面が割れ、地中からセリのあのお化け屋敷みたいな家が、ニョキニョキと姿を現したのだ。
これにはクスネは大興奮。尻尾をパタパタとちぎれんばかりに振っている。
「ふふ、どう?地面に格納された屋敷だよ!なかなかロマンがあるでしょ?」
「いや、確かにちょっと面白かったけどさあ…」
やることのスケールがデカい!腰を抜かすかと思ったわ!
「さあ、入って入って!僕、ヒノキとの同棲を楽しみにしてたんだ!」
「お、おう」
まだ驚きが抜けていない中、セリに手を引かれ、俺は家の中に連れていかれる。クスネも楽しそうに俺の後に続いた。
「さあ、もう夜も遅いし、ヒノキは寝る時間でしょ?その前に、ヤることヤっちゃおう!もうなんだかんだ一週間もしてないんだもん。身体がウズウズして仕方ないよ!それに、ヒノキは一週間見ない間に、すごく魅力的になってるし、もう我慢できない!」
「おいおい、いきなり急展開すぎる!落ち着く暇が無い!」
「だって、恋人になってからはあの嘘の契約書のおかげで、二、三日に一回は交われていたじゃん。でも、今月はヨヒラさんの家にシェアハウスしてたから、一週間もしてない!だからもうこれは仕方ないことなんだよ!ほら?脱いで脱いで!」
「…え?今、嘘の契約書って言った?あれ、嘘だったの!?」
契約書とは、酔った勢いで恋人関係になった時、ついでとばかりにトリカに『私たちと毎晩交互にベッドで交わりなさい』と言われ、ホイホイと軽い気持ちでサインしたあの時のやつだ。
その契約どおり、セリとトリカは毎晩交互に俺の家へ顔を出した。俺の方も、契約した身としては誘いを断るなんて発想すらなかった。
まあ最近は、契約なんてなくても、喜んで俺も楽しんでいた気がしないでもないが…
「あ、まだ気がついていなかったんだね。そりゃ、今どきただの紙ッペラの契約書なんかに、人を縛る効果なんてないもん。ヒノキだって、大きな買い物するときとかは、紙じゃなくて、チップを介した契約をするでしょ?だから、あんな紙の契約書なんて、おままごとみたいなものだったんだけど…」
ここに来てから驚きの連続だ。感情に頭が追いつかない。
俺がそんな状態でも、事態は順調に進んでいく。セリによっていつの間にかクスネは専用のベッドに寝かされ、俺も気づけばセリのベッドに腰掛けていた。
「ねえ?あのキラキラするやつの状態で、今夜はやってみない?あの状態だと、すごく気持ちいい気がするんだ!お願い!」
「ええ……あの状態をそんな風に使うのは、なんk…ムグ」
俺が断る雰囲気を出すことすら許さないとばかりに、セリが俺の唇を唇で塞ぐ。
「ねえ?お願い?」
セリが俺に胸を押し付け、上目遣いでそう甘えてくる。
「…しょうがないなあ!今夜は寝かせないぜ!」
「わーい!やったー!ヒノキ大好き!」
俺は当たり前のようにセリに流され、熱い夜を過ごすのだった。
次回予告:なんの努力もしてないのに…




