最終一日!その2!バカな男!
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「ようやく意識が現実に戻ってきましたね。御主人様ったら、さっきから私に頬を突かれても、全然反応しないのですもの。ふふ、そんなに、私との共同生活が終わるのが嫌ですか?」
おっと、どうやら俺はこの生活の終わりが嫌すぎて、夕食を食べながら現実逃避をしていたらしい。頬を突かれていたどころか、今ヨヒラが隣に移動していることすら気が付かなかった。
あと、頬を突くのはキュンとするからやめて……欲しくはない、というか、もっとやってほしい。
「…すまんヨヒラ。せっかくおいしい夕食を作ってくれたのに、こんな上の空の状態で食べきってしまった」
「ふふ、いいのですよ。人間、たまにはそういう時もあります。それに、御主人様は無意識だったのかもしれませんが、食べている時、それはもう幸せそうな表情をしていたのですよ?」
そうやって綺麗に笑うヨヒラ。
はぁ……好きだなあ…
このシェアハウス生活では、ヨヒラに惚れてもらうことが目的だったのだが……結局俺のほうが惚れ直しまくっただけとなった。
「あら?ありがとうございます」
「…えっと、声に出てた?」
「はい。それはもう『惚れ直しまくった』と、しっかりと口に出していました。御主人様のような人に好かれて、私は嬉しいですよ?」
「え?じゃあ!結婚してくれるよね!?」
「ふふ、それとこれとは話が別です。これまで何度も色々な理由でお断りしてきました。ですので、断る理由はもう伝える必要はありませんよね?」
俺は心の中で、“理由”をひとつずつ思い返した。
そもそもアンドロイドは恋をする機能がない。アンドロイドとして私は恋をするつもりがない。御主人様のような人気者と付き合うと、確実に大きな争いが起きる。すでに付き合っているお二人の恋人にも悪い――
本当に何度も何度も断られてきた。
いつもそんな正論を突きつけられて、俺はぐうの音も出なかった。ヨヒラの言うことはあまりにも正しすぎて反論の余地がなかったのだ。
…それでも、俺は一切諦める気にはなれなかったんだけどな。感情って厄介だ。
「…じゃあ、これは我儘なんだけど……最後にヨヒラの感情面での答えを聞かせてくれ。俺はヨヒラの本心が聞きたい」
たくさんフラれまくったが、感情的な理由で断られたことは一度もないんだよな。だから俺は諦めきれないのかもしれない。
「そうですねえ……論理に頼り、感情をおざなりにするのがアンドロイドとして癖になっているので、私はあまり感情を表に出すのが得意ではないのですが……せっかくもう共同生活が終わるので、最後に頑張って自分の心とやらに向き合ってみますね」
感情を表に出すのが苦手?
多分そう思っているのはヨヒラ自身だけだと思うぞ。ヨヒラって普通に感情が豊かだ。目が口ほどにものをいうタイプで、見れば大体どんな感情か分かる。
あれかな。ヨヒラって基本的に人のことばかり考えているから、自己分析は苦手なのかもな。
そんなヨヒラは「慣れないことをするので、少し時間がかかる」とのことなので、俺は会話形式で、ヨヒラの自己分析を手伝うことにした。
「自然が好きで、生き物が好きで、修羅場が好き。仕事が嫌いで、他のアンドロイドほど人間が好きではない。そんな変わりもののアンドロイドが、私、ヨヒラです」
「うん。よく知ってるよ。でも、それだけじゃないでしょ?ヨヒラはもっと複雑な存在だよ」
「そうですね。今語ったのは、ここに来た当初の私の性格です。どうやら私は、ここに来て羽を休めるような生活をしているうちに、芽生えた感情や、自分でも知らなかった自分を見つけることができました」
そうやって自身の変化を語るヨヒラは、なんだかとても楽しそうだ。
「具体的には、成長したい。変化したい。進化したい。魅力的になりたい……」
そこでヨヒラは息を整えた。
「とにかく、自分の価値を高めたい。そんな感情です」
「たしかにヨヒラって向上心が高いよな」
俺は思わずうなずいた。
俺からすれば、ヨヒラがそういう人なのは当然の認識だ。でも、本人は案外そのことを分かっていなかったらしい。
「なるほど、こうして改めて口に出すと……自身でも自分の心は不明瞭だったのですが、今ふと、私が御主人様をどう思っているのか、はっきり理解できました」
おっ、たったこれだけの会話で、自己分析が完了したようだ。
…こうしてみると、自己分析が苦手というより、おざなりにしていたという方が正しいのかもしれないな。
そんなヨヒラは、少し間を開け、微笑みながらこのように俺に伝えた。
「御主人様のことは、大好きです。好きと伝えられるたび、とても嬉しかった。これは、嘘偽りざる私の本心からの言葉です」
「え?じゃあ…」
「おっと、話は最後まで聞いて下さい」
ヨヒラはにっこり微笑み、先走った俺の口を、指一本で塞いだ。
キュン。
…こんなときにこう思うのもあれだが、ヨヒラが俺に触れてくれてとても嬉しい。
そんな俺の様子を察したヨヒラは、呆れた具合にこう続けた。
「ですが、今のご主人様と結ばれるのは、なんだか癪に障るのです。ですので、もう少し成長してから、出直してきてください。これが、論理を抜いた、感情面だけの私の本心からの言葉ですね」
ん?思ってもみない言葉が返ってきた。
癪に障るというのは、いったいどういう意味だろう。
「そうですね、もっと分かりやすく言うと……御主人様の粗野な告白に、ホイホイと頷いてしまうような安い女でありたくないのですよ。そんなことをすれば、自身の価値が下がってしまう気がするのです」
ちょっと!?粗野な告白って、言葉の火力が強くない!?さっきは嬉しかったって言ってたじゃん!
確かにしょっちゅう好き、好きって連呼してたけどさあ……うーん、流石にやりすぎたか?
でも、仕方なかったんだよ。気持ちが溢れて、口から勝手に言葉が出るんだから。
「じゃあさ。俺がヨヒラが認めるくらい素敵になって、最高の告白をしたら……どうする?」
もしや、そんな告白ができれば恋人になれるんじゃないのか?そんな淡い期待を込めて、こう聞いてみた。
「そうですね……そんな素敵な未来が訪れることはないと思いますが……」
ヨヒラはふっと目を細め、柔らかく微笑む。
「でも、もしそんな未来が来たとしたら……ふふ、その時も、同じようにしっかり振ってあげますね」
そう言って、少しだけ間を置き、優しく俺の目を見つめる。
「もっと魅力的になって、もっと素敵な告白を楽しみにしていますよ」
その笑顔は、まるでからかうようでいて、どこかあたたかかった。
「…ヨヒラ。いつか俺と絶対結婚してね?」
なんだか俺、振られるたびにヨヒラのことがどんどん好きになっている気がする。そんなふうに花咲くような最高の笑顔で断られると、結構なことを言われたのにも関わらず、どんどんヨヒラのことが愛おしくなってしまう。
恋愛って難しいわ。心ってものは、難儀だなあ…
「あらら、ホントに御主人様は諦めが悪いですね」
そうやって、俺たちは笑いあう。
その笑顔を見ていると、ほんのり、ほんのりとだが、関係が前に進んでいるような気がした。
――ヨヒラに見送られ、俺はクスネと共にこの家を後にする。
今から向かうのはセリの拠点だ。
その道中、夜風に当たりながら、たくさんヨヒラのことを考えた。
俺に対して、どこか隙だらけのようで、全く隙のないヨヒラ。
ふとした日常の中、ヨヒラからの細やかな気づかい、優しさを感じるたびに、「もしかして、俺のこと好き?」と、ドギマギしたり、目が合うたびにニッコリと笑ってくれたり…
実際、ヨヒラからの好意自体は、ビシバシと感じたのだ。ヨヒラの場合、それが異性への恋慕に繋がらないんだけどな。
だから、俺はこの生活で何度も「え?今もしかして、告白を誘ってる?」と勝手に勘違いして、舞い上がって告白してしまうんだよね。
あの柔らかな笑顔を見たら、つい……な。
「わん!」
「ん?どうしたクスネ?」
クスネが俺の腕の中で、小さく吠えた。クスネの視線は、夜空に向けられている。
「おっ、今日は綺麗な満月だ。それを教えてくれたのか!ありがとう、クスネ」
満月を眺めてクスネを撫でていると、少し感傷的な気分になる。
だからだろうか?ふと、ヨヒラのあのときの言葉を思い出した。
『もっと魅力的になって、もっと素敵な告白を楽しみにしていますよ』
そうねえ…
もっと魅力的に、もっと素敵な告白……かあ。簡単に難しいことを言うなあ…
でも、ちょっとだけ希望を感じる言葉でもあった。告白自体は喜んでもらえたってことだもんな。
…よく考えたら、告白はさせておいて、それでもしっかり振るというのは、なかなかの悪女っぷりだな。
ま、頭でそれが分かっていても、俺はまた告白するんだろうけどな。バカだなあ……俺。
でも、俺自身、俺のこういう愚かなところは、そんなに嫌いじゃない。
母も「弱さを受け入れろ」と言っていたことだし、まずはそんな俺を受け入れてみようか。
俺は、バカで愚かで、どうしようもない人間だ。そして、どうも俺は諦めの悪い人間でもあるようだ。
だから、ヨヒラ。俺は諦める気はないからな。俺は成長してもっと魅力的になり、ヨヒラも思わず頷いてしまうような素敵な告白をする気が満々なのだ。
そのために、とにかくまずは、俺がつまずいているアンドロイド流武術をやり遂げよう。あの修行を乗り越えさえすれば、俺は殻を破り、もっと魅力的になれそうな気がするし。
もうちょっとだけ待っていてくれよな。俺の全身全霊を賭けて、絶対に惚れさせてやるからな!
次回予告:しょうがないにゃあ!ほんっと、しょうがない!!




