最終一日!あっという間の一週間!
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――一日が過ぎ、また一日が過ぎていく。ヨヒラとのシェアハウスは、あっという間に日々が流れていった。
「これが最後の夕食か…」
俺はそう呟きながら、テーブルの上に並べられた料理を見つめる。
手作りのスープに、焼きたてのパン、そしてサラダ。たとえこれだけシンプルな料理だろうが、とても温かみがあり、めちゃくちゃ美味しい。この生活で何度も実感したことだ。
「どうしました?いつもは食事の時間がくれば、輝かんばかりの笑顔を見せていましたが……今日は顔が曇っていますよ?」
「いや、今日までの楽しかった生活が終わると感じて、なんか寂しくなってきてな…」
俺は今までの生活の思い出を、食事を噛み締めながら、一つずつ大切に思い起こす。
あの日々のサイクル――朝起きて生物・動物たちと顔合わせをするか、ヨヒラと共に探索に出かけるかのどちらかをする。昼からは木工の授業。夕方からは配信を終え、アンドロイド流武術の修行に入る。その後就寝。
うまくいったこと、できなかったことなど様々あったが……どの日も今振り返ると素晴らしい毎日だった。
順調に進んだのは、木工と探索、動物たちとの交流だ。
特に木工に関しては、ヨヒラの教え方が上手かったこともあり、俺もちょっとした家具を作れるくらいには成長した。
動物たちとの交流は、特にクスネが積極的に行っていた。俺が忙しくしている間に、クスネはクスネで色々な動物と交流を深めていたのだ。クスネはコミュ力がやたら高いので、びっくりするほどここの生物と仲良くなっていたなあ…
そして、一番肝心の修行については――“ドーピング”をすることによって、なんとか形になった。
あ、ドーピングっていっても、「違法薬物に頼る」みたいなことではないぞ?
俺がドーピングと言っているのは、修行中に寂しくなったら、順次ヨヒラに声をかけてもらったり、以前ダンジョン騒動のときに俺が手に入れた「音声付きお手紙」を何度も脳内で直接音を再生させ、寂しさを紛らわせたりすることだ。
無音無光の空間で修行することが前提のこの修行では、これらは明らかなズルだ。だから、俺はこの行為をドーピングと呼んでいる。
どうも俺は無音無光の空間にいると、心が丸裸になってしまうようなのだ。そのせいで、魂咲の行はまったくもって進まなかった。
だから、せめて形だけでもと、ドーピングをしながら進めることになったってわけだ。
ドーピングをすることになった経緯についても、色々あったんだよなあ――
俺が魂咲の行があまりに進まず、にっちもさっちもいかなくなっていると、ヨヒラから、「私では御主人様の気持ちが理解できず、役に立てそうにありません。ですので、私の母にアドバイスをもらってみてはいかがでしょうか?」と、話を持ちかけられた。
ルリさんはアンドロイド流武術の達人。そんなルリさんなら、ヨヒラより的確なアドバイスができると期待して、ヨヒラはそう進言したのだろう。
魂咲の行の糸口すら掴めていなかった俺は、その提案に乗ることにした。
悩みが解決することを期待して、ルリさんにメールを送る。
…けれど、帰ってきた返答は、正直全く参考にならなかった。
ルリさん曰く『うーん……説明が難しいけれど、ルリの場合は、ドカーン!!!って感じかなあ~』とのこと。
そんな説明でどうやって理解しろと…
そもそも、ルリさんはアンドロイド流武術において、独自路線を突っ走り過ぎている。
だって、滝行中に天使の羽のような大きな二対の羽が生えてきただの、魂咲の行で今まで見えなかったものまで見えるようになっただの、ぶっとんだことばかり言ってくるんだもん。
「ごめんね♡そもそも、アンドロイド流武術って個人によって取り組み方が全然違うから、人の方法はあまり参考にならないのよ~。でも、人に相談するのはとってもいいことだと思うわ♡」
このアドバイスを最後に、メールのやり取りは終わった。
…ルリさんがアンドロイド流武術の理解度が深いことは事実だし、人に相談するのはいいということを信じてみるか。
そう思った俺は、どんどん色んな人に相談していくことを決めた。
次に相談したのが、俺の母だ。
母に相談すると決めた深い理由はない。ただルリさんつながりで思いついただけだ。
――でも、そんな母の言葉が、ものすごく俺の助けになった。
俺は自分の事情を事細かにメールで説明した。すると、母は俺の性格を考慮した上で、めちゃくちゃ的確なアドバイスをくれたのだ。
まず母は、俺の話を聞き、「心が丸裸になっちゃうのね」と怖くなる原因を突き止めた。そして、対策として「ドーピング」の提案をしてくれた。
…これは本当に助かったなあ。
そんな母が、最後に俺に伝えたのは、
『とにかくあなたは、弱い自分も受け入れる練習をしなさい。赤ちゃんの頃からそうだったけど、あなたは極度の寂しがりやのくせに、それを隠そうとする見栄っ張りなのよ。それ、あんまり良くないと思ってたのよね。その生き方が癖になってるから、この機会に矯正しちゃいなさい』
とのことだ。
弱い自分も受け入れるねえ…
うーん、どうも、俺には苦手分野だ。
今まで、嘘でもいいからカッコつけまくって、見栄えだけは良くするように生きてきたからなあ…
カッコつけていないと、前世の自分のようにモテなさすぎて、みんなが離れていってしまうという漠然とした恐怖が俺の中にはある。情けない姿を見せるのが、すごく怖いのだ。
頭ではみんなが離れていってしまうなんて、そうそう起こらないと分かってはいるのだが……どうもこの恐怖は根強く、俺の中で大きいんだよね。
あと、俺の心には、普段は考えないようにしている別の大きな恐怖が巣食っている。
俺のトラウマ――それは、前世の「死」
それも乗り越えなければいけないのが、どうにも億劫だ。
俺は、前世の死に方をしっかりと覚えている。時間、日付、どんな場面で、どんなことが起こって、どんな痛みだったか……全て覚えているのだ。
ああ、それにしても、あのときはマヌケな死に方をしたなあ…
なんだか、考えるだけで気分が重くなってきた。一旦このことは考えないようにしよう。どうせ前世の死んだ時期の十二月になれば、毎年苦しむしね。俺にはまだアレを乗り越えるのは、時期尚早だ。
一旦深呼吸して……よし!落ち着いた。リセットできる分だけ成長はしていると、前向きに考えよう。
さて、一度思考を切り替えて…
裏テーマだったヨヒラとの仲を深めることについても、思うようには進まなかった。
俺がいくらヨヒラのことが好きだと伝えても、感情というより、論理的な理由をつけられて、毎回きっぱりフラれてしまうんだよね。
…あ、そういえば、フラれるときに「なぜアンドロイドには恋をする機能がない」のかも教えてもらった。
アンドロイドといえど、しっかり感情はある。嬉しいとか、悲しいとか、悔しいとか――ちゃんと感じている。
それなのに、なぜ意図的に恋をする機能だけが欠落しているのか。
その理由は、以前少し話題には出たが、「恋をすると、戦争が起こるから」だそうだ。
では、なぜアンドロイドが恋をすると、戦争が起こるのか。
再三言うが、この宇宙は男女比が極端に偏っている。男はとにかく貴重な存在で、もはや“資源”扱いされてるレベルだ。
女性たちは、その希少な男との関わりを強く求めている。テクノロジーは進んでるので、ほぼ本物そっくりの疑似恋愛や性体験もできるが――結局、「本物の男」を求める欲求は、どうしても抑えきれないものらしい。
で、だ。もしそこに、アンドロイドまでが「恋する存在」として参戦してしまったら?
人間の女性とアンドロイドが限られた資源を奪い合う未来なんて、容易に想像できる。そして当然、そうなれば、争いが起きる。
つまり、恋愛感情の存在そのものが、宇宙規模の戦争の火種になりうるってことだ。
あ、ちなみにだが、「じゃあ、男性型アンドロイドだけ作ればいいじゃん」とヨヒラに聞いてみたが……実はこれも最終的には同じような結果になるし、こっちはこっちでもっと大きな問題が起こることが予想されるらしい。
うーん……ままならない社会だなあ。
アンドロイドは本来、「宇宙の平和を守るための存在」として作られた。だから、不安要素は最初から排除しておく。それが合理的というものだろう。
故に、論理性と合理性を重視しているヨヒラは、決して俺のアプローチになびかないというわけだ。
そもそもヨヒラは貞操観念が高く、アンドロイドとしての矜持も高い。そんなヨヒラは、まさに鉄壁の女といっても過言ではないだろう。
…まあ、それでも俺は諦めるつもりはさらさらないんだけどな。
アプローチこそうまく行かなかったが、ヨヒラとの共同生活はとても楽しかった。ヨヒラも、そこそこでも楽しんでくれていたなら嬉しいな。
さあ、そんなこんなで、あっという間に今日が最終日。今は、ヨヒラとの最後の夕食をともにしているわけだ。
夕食が終われば、もうここでのシェアハウスは終わり。はあ……あっという間だったなあ…
次回予告:刑事さん!相手もまんざらじゃなかったんです!信じてください!




