他星出張!その2!ヨヒラの親友?
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ヨヒラは自身の懸念を話すか話すまいか悩んだ末、ぽつりぽつりと話し出した。
「いえ。一匹、ペットというか、友達というか……」
そこまで話して、ヨヒラの言葉がピタッと止まる。まだヨヒラは話すべきか悩んでいるようだ。
「なんだ?何か少しでも心配事があるのなら、何でも手伝うぞ!頼りないかもしれないが、ちょっとは俺を頼ってくれ!」
これまでの傾向から、どうもヨヒラは、人に頼ることがあまり得意ではないようだ。おそらく、自分で何でもできてしまうからだろう。
何でも一人でできてしまう自立した女性というのは、それはそれで好印象なのだが…
でも、俺は頼られると嬉しくなってしまう性分だ。どんどん頼ってほしい。
そうだな……うん、決めた。ヨヒラには、俺からガンガン踏み込んでいこう。頼られたいなら、自分から動かなきゃな。
それに、またヨヒラが一人で重荷を背負い続けるのは嫌だしね
「いえ、わざわざ御主人様に頼るほどのことでは……ああ、いけませんね。こういうところを、反省しなければいけないのでした」
ヨヒラは小さく肩をすくめて、少し照れたように微笑んだ。
「では、些細なことですが――御主人様に頼らせていただきますね」
その表情は、どこか吹っ切れたように晴れやかだ。
「任せてくれ!」
ふふ、やっぱり頼られるのって、嬉しいな。
さて、どんな頼み事なのかな?何でも来い!
「では、御主人様には、私がこの惑星にいない間、『ブルル』という一匹のウマの面倒を見ていてほしいのです」
「ええっと……ウマの面倒?」
ウマって、あの馬?
「はい、そのコが少々困ったちゃんでして、わがままでかまってちゃんなところがあるんですよね。でも、とても賢く、身体能力に優れ、人間が大好きないい子でもあるんですよ」
ヨヒラの顔が綻んでいる。目には、ブルルへの深い愛情がにじんでいた。きっとヨヒラは、そのブルルのことが大好きなのだろう。
――それから、ヨヒラから頼まれた詳細はこうだ。
そもそもブルルとはペットのような関係ではなく、この森に住む野生の馬らしい。ある日ヨヒラが探索をしていると、たまたまブルルと出会ったとのことだ。
そんなブルルとヨヒラは、初対面でお互いに気が合い、自然と仲良くなった。それから、ヨヒラがブルルの元に通い、交流を深めていたそうだ。
そんなブルルは、普段近隣の森に住んでいるのだが、最近はヨヒラの建てたペット用の馬小屋に、勝手に住み着いているらしい。
なぜ、仲の良い馬とはいえ、ヨヒラがそんな勝手を許しているのか。それは、もうすぐブルルが子供を産むから、特別に許したのだそうだ。
「そして、そのコが困ったことに、『生まれてすぐに、わが子に名付けをしてほしい』と強く願っている変わり者でして…」
どうやらブルルは、ヨヒラに名付けてもらったことが本当に嬉しかったらしい。なので、自分の子にもぜひ名付けをしてもらいたいと考えているそうだ。
「そんな我儘なお願いを叶える義理はないのですが……名付けをしないと産まないと言い出しそうなほど、意地っ張りなんですよね、あのコ。このままだと出産が遅れる、あるいは流れてしまう可能性もあります」
「だから、ヨヒラの代わりに、俺に名付けとお世話を頼みたいと?」
「はい。御主人様なら、きっと素敵な名前をつけてくださると思いまして」
名付けという少し斜め上のお願いだったが、ヨヒラに頼られることなんて早々ないからな。俺の返事は、もちろんこう。
「一切合切、万事俺に任せてくれ!」
ヨヒラでは思いつかないような、最高の名前をつけてやろう!
「ふふっ、おかしい。御主人様が頼られる側なのに、どうしてそんなに嬉しそうなのですか」
そんな肩の力が抜けたヨヒラの笑みに、俺は思わず見惚れてしまった。
その笑い方は――まさに、紫陽花。俺が宇宙で一番好きな花のようだったのだ。
はぁ……やっぱヨヒラ、好きだなあ……可憐すぎる。
見た目もこれだけ綺麗だし、話していて面白い。性格は少しマイペースで、修羅場が好きな変な所もあれど……基本的には控えめで優しい。それに加え、料理の腕も素晴らしい。スローライフだって俺より見事にやってしまうし、有能でハイスペックだし…
どうにかして、俺と結婚してくれねえかなあ…
おっと、恋人がいるのに、脳内でそんなことを考えてしまった。
ま、これはあれだ。女優とかアイドルと結婚したいって思うあの気持ちと同じだ。
だから、これは断じて浮気じゃないぞ。セーフ!ということでお願いします!
◆
そして、出発の日。
「では、行ってまいります」
「いってらっしゃーい!なるべく早く帰ってきてくれよな!頑張れヨヒラ!」
俺は全力で手を振った。
ヨヒラはそんな俺を見て、ほんの少しだけ口角を上げる。あの控えめな笑い方、すっごい好きなんだよな。
ヨヒラはその後、擬似的なスリープモードに入り、ワープを使った。
そうして、光の中に溶けこむように、姿を消したのだった。
――さて、出産予定日は、ちょうど二日後。
せっかくヨヒラに頼ってもらったのだから、全力でやり遂げるぞ!
とはいえ、俺にとっては、ブルルの世話なんて初めてのことだ。
最初の数時間こそ「余裕じゃね?」とか思っていたのだが、すぐにその考えは甘かったと気づかされることになる。
まず驚いたのは、ブルルの体の大きさだ。
馬としか聞いていなかったので、少し油断していたが、いざ並んでみると、下手な軽トラックくらいのサイズ感だったのだ。
可愛い名前とは裏腹に、なかなかのイケメン黒馬で、重さは二トンもあり、筋肉質で鋭い目をもっている。毛並みはツヤツヤで、たてがみがなびく佇まいは、かなり堂に入っている。
そんなブルルが、おっとりした顔で俺のほうにすり寄ってくるのだ。可愛いけど、なかなかの迫力だったな。
「お、おいブルル、近い近いってば!」
もちろん、ブルルに悪気はない。
ただ、どうやら人恋しい性格らしく、俺がちょっとでも視界から外れると、悲しげな声で鳴き始める。
「ぶるるぅ~…」
「ああもう、わかったって!そっち行くから泣くなってば!」
離れる→泣く→戻る→機嫌が直る→離れる→泣く……ずっと、こうやって繰り返している。
これは、思っていたよりかまってちゃんだぞ……なかなか骨が折れるなあ…
正直、ブルルのお嬢様っぷりに、気疲れをしたりもした。
餌はこれを混ぜてくれないと嫌、ここを撫でてくれないと嫌、もっとかまってくれないと嫌、などなど…
でも、ブルルは今、お腹の中で新しい命を育てている。その尊さを思えば、多少のわがままくらい、どうってことない。
それに、言っても気疲れしたのは最初だけだ。お世話に慣れてきてからは、わがまますらも愛おしくなってきたしな。
やっぱり俺、頼られるのは好きみたいだ。
よーし!このヨヒラから任された大事な仕事、最後まで全力でやりきるぞ!
――と、意気込んでいたところで…
「ただいま戻りました」
「……え!?おかえりヨヒラ!早いな!」
なんと、ヨヒラは本来なら約百時間かかる計算だった仕事を、たった三十時間で終わらせて帰ってきたのだ。
なにはともあれ、早く帰ってきてくれて嬉しい!
「ぶるるぅ~♪」
「はいはい、ブルル。いい子にしてたみたいですね」
ブルルも、ヨヒラの姿を見た瞬間、ぱあっと顔を輝かせた。体を弾ませて駆け寄ってくる様子は、まるで大好きなお母さんに甘える子どものようだ。
ヨヒラがやさしく撫でると、ブルルはうっとりと目を閉じる。そのご機嫌な姿を見て、俺は自然と笑みがこぼれた。
ふふ、俺も精一杯世話を焼いたが、ヨヒラには敵わないな。
これだけヨヒラが早く帰ってきたので、ブルルの出産はまだ行われていない。おそらく、今日の夜には出産するだろう。
――帰ってきて少し休んだヨヒラと一緒に、俺はその日の夜、ブルルの出産に立ち会ったのだった。
あたたかな命の誕生。
「クルル~」
その小さな子馬がお腹から出てきてすぐ、かすかな産声を上げた。
その瞬間、どうしようもなく胸がいっぱいになった。
命って、尊い。
次回予告:ハズレ回?