挑戦布告!宝探しゲーム!
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「ういーす。漆黒狂戦士ムキムキイケメンのヒノキです。今日はある歌姫をこの拠点に呼んでいます。さあ、自己紹介どうぞ」
「…」
>ガン無視で草
>ん?トリカ様おこ?
>ちょっと怒ってるトリカ様も素敵
>ほら?何したかは知らないが、どうせヒノキが悪いんだろ?早く謝れよ
…まあ、視聴者の言う事は正しい。
トリカにこんな態度をされることに、すごく心当たりはある。
「あのー、トリカさん?自己紹介を…」
また、俺の言葉に完全無視を決め込むトリカ。明らかに目が笑っていない。
俺の背中にツーっと冷や汗が流れる。
「よーしよしよし。クスネは誰かさんとは違って、素直で可愛いわね。ほら?宇宙高級ワンチュールをあげましょう。ふふ、そんなに嬉しそうに尻尾を振っちゃってねえ。可愛いわ」
>あーあ。これは絶対その誰かさんがわるいな
>何したの?まさか、もうウツギの誘惑に負けて浮気でもした?
>クスネキュンはいつだって可愛いなあ
ヤバい!思った以上に怒っている!
なんだかんだ許してもらえると思っていたのに!見積もりが甘かった!こんなことになるなら、あの時もっとしっかり謝っておくんだった!
今思えば、トリカが家に来て、俺に少し抗議した際、「ごめんごめん!でさあ、今日はやりたいことがあるんだよ!それに付き合ってくれ!」と、なあなあで流したのがまずかった!
今日の計画に頭がいっぱいいっぱいだったんだ!すまん!
「ごめん!俺がトリカの許可をとらずにトリカの母親と連絡をとって、この惑星に招待したのは完全に俺が悪かった!許して!」
トリカにそのような態度をとられると、心臓が嫌にバクバクして、変な汗が出てくる。なぜか脳みその奥の変なところがきりきりしてるし、手まで震えてきた。
だから、俺はぎゅっと目をつむりながら深く頭を下げて、必死に許しを請う。
──やけに長く感じられる沈黙が訪れたのち。
ようやく、トリカが口を開いた。
「…ヒノキ。おすわり」
「わん!」
はっ!反射的に鳴き声を発してしまった!
「ほんとに、反省してる?」
「はい!反省してます!ほら?今日のTシャツの文字も“ごめんなさい”って書いてあるだろ?な?」
>草
>珍しく突き放されて、パニックになってるぞwww
>寝癖付きの髪型と、ゆるい部屋着でそんなふうに言われてもな
>その姿で謝ると、女にすがりつくダメ男にしか見えない件
>全く反省しているように見えなくて草www
>トリカ様、必死に笑いこらえていない?
>喜べ!無類のダメ男好きのワイにその謝り方は刺さったぞ!
「…コホン。まあ良いわ。あなたなりに本気で謝っている態度を見せてくれたようですし、今日のところはこれくらいで許してあげるわ。わたくしもそこまで本気で怒っているわけではないですしね」
「ありがとうございます!」
>男女関係の強さが一般的なものと逆な件について
>クスネキュンもヒノキが許されてる様子を見て喜んでるwwwしっぽフリフリで草www
>クスネくん、自分が許されたみたいな反応するね。他人事じゃなかったのかな?
>この反応。絶対クスネくんも絶対こんな針の筵みたいになった経験あるだろうなw
>クスネ君の同族のメスたち、すごく怖そうだったもんな…
ふぅ…良かった良かった。
おっと、ありがとうクスネ。俺のことを気にかけてくれて。
きっとクスネの可愛さもあって、こんなに早く許してもらえたんだと思うぞ。
お返しに、今度クスネが繁殖期のメスたちにさらわれそうになったら、ちょっとだけ守れるように頑張ってみよう。
あ、ちょっとだけな?俺だってアイツらは怖いんだからな。
「で、なんで今日はわたくしをここに呼んだの?」
「…はっ、そうだった!トリカとやりたいことがあるんだった!」
慌てて俺はポケットからある封筒を取り出し、トリカにこう伝える。
…コホン。
「あ、ナンダコレ~。いつの間にか、こんなところに宝の地図のありかを示したお手紙があ~」
>くっそ棒読みで草
>声に抑揚がなさすぎだろwww
>演技力✗
>一緒に宝の地図を解読して、お宝を探そうってことか?
「…まあいいわ。その小芝居に付き合ってあげる。で、その手紙にはなんて書いてあるのよ」
うん。乗ってくれてありがとう。じゃあ、読み上げるぞ?
【この惑星のどこかに、私は宝を隠した。もしそれを見つけたい愚か者がいるならば、この謎を解いてみるがいい!ただし、忠告しておこう。宝は決して一人では見つけられない!──とある盗賊王Xより】
「あ、コンナトコロに、もう一枚謎の絵が同梱されていたぞお~!」
>相変わらず棒読みだ
>予定調和www
>こんな無人惑星で、一体誰が宝を隠したんでしょうかねぇ…
>ネタバレ。とある盗賊王Xの正体はヒノキ
「ねえ。あなたの満足するまで付き合ってあげるから、その演技はもうやめない?ちょっと見てられないわ」
…そうだな。俺もやってて辛かったし、もういいか。
「是非、そうさせてもらうな」
そう言って、俺は封筒から取り出したある一枚の絵を手渡す。
これが、最初の謎だ。
「なになに…うん。なかなか味があっていい絵じゃない。あなたって意外にも普通に絵が描けるのよね。めちゃくちゃ上手いわけじゃないけれど……わたくしはかなり好きよ。それに、手書きの絵って味があるものね」
謎を解くでもなく、絵を見て和みだしたトリカ。
思いがけず絵自体を褒められたので、つい照れてしまった。
「おう!ありがとう!でも、今は絵の謎を気にしてくれ!」
絵の内容は、ある少年がキュキュを持ち上げて、「軽い!」と言っている内容の絵だ。
その少年の胸には名札が付いていて、【たしの すんた】と書かれている。
>「ありがとう」って言っちゃったら、自分で描いたって白状したようなもんじゃね?
>盗賊王Xさんが絵を描いたんじゃなかったのかな??
>確かに盗賊王Xさんの描く絵は雰囲気が柔らかくて味があるよね
…あ、そうか。
一応俺が描いたんじゃなくて、盗賊王Xさんが描いたものって設定は守らないとな。
今やっているのは、いわゆるTRPGみたいなものだ。だから、たとえ設定だとバレバレで、演技力がゴミクズだったとしても、トリカを楽しませるために、最低限世界観は大事にしないとな。
「こんな謎簡単よ。見た瞬間分かったわ。答えはここでしょ?」
トリカは俺の部屋のタンスに向かって歩いていき、タンスの下に手を入れる。
そこには、「謎2」と書かれた封筒が隠されていた。
>秒殺で草
>答えが「“ヒノキ”の部屋のタンス」ってなっていないことには、ツッコんだ方が良いのか?
>あれか、たしのすんた君の名前を逆から読むだけか。イルカが軽いって言っているのは、逆から読むヒントなわけね
>いつも部屋に置いていないタンスが今日は置いてあった時点で、そこ隠してるんだろうなあって実は察してた
…ちょっと、簡単すぎたかな?
ま、いいや。次々。
トリカが正解したことで手にした封筒を開けると、また次の謎が示された絵が出てきた。
「あら?また絵なのね。今度の謎はわたくしを楽しませてくれるのかしら?」
この様子だと、トリカも少し乗ってきたようだ。
いいね!俺はそうやって、楽しくトリカと遊びたかったんだよ!
トリカは視聴者たちに見せるように、絵が書かれた紙を開く。
次の絵は、ウツギが俺の作っていた料理をこっそり食べ、俺が怒っている絵だ。
その近くには、そんな怒っている俺を見て、隠れるように地面に潜るモグちゃんも描かれている。
【答えは、ウツギの行為とモグちゃんの行為を組み合わせた動物!】
絵の下の空白部分には、そう書かれている。
「これも簡単ね。答えはクスネよ。それにしても、あなたの描く絵は表情が柔らかくていいわね」
…正解だ。
>また秒殺で草
>もはや謎解きではなく、絵の鑑賞会になっている件
>想定の回答では「盗み」と「ステルス」を組み合わせてほしかったのかな?
>「つまみ食い」または「食べる」と、「潜る」または「掘る」にしか見えません!謎に問題があると思います!
「…あれ?そういえば、クスネは?」
「宇宙高級ワンチュールを食べ終えて、しばらくしたらいなくなったわよ?透明になって、探検しにいったんじゃない?」
「やべ!次のミッションを書いた手紙をクスネに持たせてたのに!クスネを探さないと!」
あわ、あわわわわ…
どうしよう!クスネに持たせた手紙が無いと、進行が上手く行かない!
「探さなくても、もうここにあるわよ?」
「…え、なんで?」
想定外のことに、俺はポカンと立ち尽くす。
「クスネを撫でていた時、首輪になにか小さな手紙のようなものが挟まっていたから、気になって取っておいたの。まだ中は見ていないから大丈夫よ?」
……助かったー。
きっと手紙を取ったのは偶然だっただろうが、もはやそれでも良い。
これで、まだなんとかなるな。
>というか、あなた今完全にクスネに持たせたって言ったよね?
>正体がバレバレです!盗賊王Xさん!
>設定はしっかり守ろうね
はい、すみません。全て視聴者の言うとおりです。
あーあ。なんか、今日は謝ってばっかりだなあ…
ま、せっかくスローライフをしてるんだ。仕事で失敗したわけでもないし、「たまにはそういう日もあるか」と割り切ろう。
次回予告:陽キャがやる合コンでのゲームみたいなやつ