舞踊決闘!進まないスローライフ!
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9話 舞踊決闘
「はいこれ、お裾分けです」
「おお!わざわざありがとうね」
ひとまず生活の安定したヨヒラに、現在俺はお裾分けをもらっている。
肉や岩塩やハーブやスパイス、お花など様々なものだ。すごいな。もうこんなに生活が安定しているのか。
「俺も何かお返ししたいんだけど、現状返せるものがなにもなくてごめんね」
「いえ、大丈夫です。ただの余ったものなので」
「うーん…そうは言ってもねぇ…」
無料でもらうだけというのは、なんだか申し訳ない。なんというか味気ないというか、面白みがないというか…
俺のそんな表情を見て、ヨヒラはこんな提案をしてきた。
「なるほど。御主人様がどうしてもなにか返したいというのなら、現金をください」
「えっ、現金でいいの?それなら配信の稼ぎで問題なく渡せるけど…そんなんでいいの?」
「はい、SCエネルギーは限られているので、これからはスローライフに必要な道具は通販で買うことも考えています。そのほうが安上がりで、効率よくスローライフができますからね」
「たしかに。俺には道具を買うっていう発想はなかったなぁ。そりゃ買ったほうが安くて便利なものもあるか」
「それに、私は基本的に働くのが嫌いです。ワープして悪人の首を斧でぶった切る仕事をすれば、稼げはします。ですが、わざわざ他の惑星まで出向いて仕事するのが、少し面倒なのです」
首をぶった切る仕事って…言い方が物騒すぎるから、もうちょっとマイルドに表現してくれないか?
「なるほどなあ。でも、物をもらったお裾分けのお返しに、現金を渡すのもなぁ」
どうも、お裾分けのお返しに現金を渡すというのが抵抗がある。
ほら?せっかくのスローライフなのだ。俺もスローライフらしく、なにか物々交換がしたい!現金を渡すなんて、なんかちょっと無粋じゃない?
「はあ…仕方のない御主人様ですね……もし、絶対に物々交換にこだわりたいようでしたら、御主人様の精液でもいいですよ」
そう言って、ニッコリ笑うヨヒラ。その貼り付けたような笑顔を見ていると、背筋が冷える。
この宇宙では男女比が1:10の関係で、男の精液は多少のお金になる。といっても、お小遣い程度だが…
技術が発展しているせいか、微量の精液さえあれば子供を産むのに困らないので、あまり大金にはならないのだ。
やはり、この宇宙では娯楽以外の価値が低い。効率よくお金を稼ぐには、結局のところ娯楽しかないというわけだ。
「アンドロイドって、精液の搾取が抜群に上手くて、一度搾取されると、二度と普通のやり方では満足できないっていう噂がはびこってるじゃん?あれって本当なの?ただの噂だよね?」
「………ふふっ」
「ねえなにか答えてよ!怖いんだけど!」
ヨヒラはいくら俺が追求しても、意味深に笑うばかり。一切返答しようとしない。
「…うん、今は大人しく現金を渡すことにするよ…」
「分かりました。よろしくお願いします」
はあ…なんだかずっとヨヒラの掌の上で踊らされていた感じがするなあ…
まあ、いずれ物々交換できるように頑張ろう。現金を渡すのは今だけだからな!
「ところで、私の方はこの一週間、順調にスローライフを満喫していましたが、御主人様の方はどうですか?どれくらい生活を充実させましたか?」
「俺?俺の方はねぇ…いやぁ…俺はちょっと別のことに夢中になっててね…ぶっちゃけ何も生活は進んでないんだよね。この一週間でしたことといえば、ダンスの練習だけだよ」
「は?」
ヨヒラが心底理解できないというような表情を浮かべる。
「何故ですか?何故、生活も安定していないのに、そんなことを?」
「いやぁ…これには浅い浅い理由があってね……簡単に言うと、この惑星の森に住んでいる七色の猿の集団に煽られたんだよ。だからダンスの練習ばっかりしてた」
「あの…言っている意味がさっぱりわかりません。最初からゆっくり説明してください」
そりゃそうか。流石に説明が雑すぎたな。
「じゃあ、ゆっくり語らせてもらいますか…って言っても、最初から話せばすぐに終わる話なんだけどな」
「お願いします」
俺は今までの苦労を思い出すかのように、こめかみを手で揉みながら、あのときのことを語り始めた。
「俺が生活を安定させるにはまず何をすべきかを考えていた所、何をするにもまずナイフがいるなぁ…って結論になってさ」
「そうですね。ナイフは様々な手段に使えますものね」
「最初は石を割ったり削ったりして作ろうと思ったんだけど、もっといい方法があるじゃん!とふと思いついてさ。バカ恐竜の牙を引っこ抜いて、ナイフにしよう!と思ったんだよ。あいつに肉を取られた恨みの仕返しもできるし、一石二鳥じゃん!とも思ってたな」
「…なんともアホな考えですね…しかもかなり危険ですし」
「まあ、今はあいつに勝てなくても、牙を引っこ抜くくらいなら出来るかなぁって思ってね。結局色々あってそれが出来なかったのは残念だわ。また今度挑戦しに行こうかな」
「その時は私を連れて行ってくださいね。一応危険なので」
「わかった。で、俺はそのバカ恐竜を探すために森をうろついていたんだけど、その時に七体の猿が現れた。それぞれ赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の体毛の猿。俺は虹みたいだなって思ったから、虹猿って呼んでいるんだけどね。その虹猿達が俺になにか言ってるわけよ」
ヨヒラが「安直なネーミングだな」とでも言うような目で俺を見てくる。いいだろ!分かりやすくて!
「で、脳内のチップで虹猿が何を言っているかを解析してもらったら、決闘を挑まれていることが分かった。なら決闘するかと俺はその挑戦に乗ったわけだが…俺はてっきり戦うのかと思ってたけど、虹猿達の決闘方法は“ダンス”だったんだよ」
脳内のチップには、ある程度賢い動物の発する声を解析して、感情を読み取ることもできる。ほんとチップ便利だわ。
「ダンス…ですか。なんともまあ変わった生態の猿ですね」
「そうなんだよ。まあ俺もダンスは昔軽くかじってたから、ダンスだろうが軽くいなしてやろうと思ってたんだけど、思ってた以上に虹猿たちはダンスが上手くてさ。結果ボロ負けしたわけよ」
ヨヒラが「こいつ、猿以下なんだ」とでも言うように、俺を見てため息をついた。
いやいや、アイツら相当ダンスうまかったからな!俺が下手だったわけじゃないぞ!
「で、その後。勝った虹猿たちが、俺をバカにしたような目で見ながら、煽るようなダンスをしてきたんだよ。それに俺は頭にきて、絶対に見返してやろうとこの一週間、持てる技術を全て使って、全力でダンスの練習ばっかりしていたってわけよ」
「なぜわざわざ相手の得意分野で対決しようとするのか…なぜ猿如きに煽られて頭にくるのか…御主人様の思考は理解できませんね」
いやぁ…俺は身体能力に自信があるからさ。体を動かす分野で、野生動物ごときに負けたくなかったんだよね。しかも、ほんとにダンスには自信があったし。
「で、もう一回俺からダンスバトルを挑みに行って、その猛練習のおかげで虹猿には無事勝てた。でも、その後が問題だったんだよ。虹猿たちは、『ダンスが上手い奴ほど魅力的』という価値観を持っているみたいで、興奮して俺を襲ってきたんだよ。一応アイツらメスだから、かなり怖かったわ……まあ、ゆっくり説明するとこんな感じかな」
俺の話をすべて聞き終えたヨヒラは、呆れたように一言だけ俺に言い放った。
「…御主人様は、スローライフをするつもりがあるのですか?」
ぐはっ!
今の言葉、俺の心に深く刺さった。感情を込めてそんな事言わないで!
俺もナイフを作るつもりが、ダンスの練習ばかりすることになるとは夢にも思ってなかったよ!全てが想定外なんだ!煽ってきた虹猿が悪い!
「仕方ないですね…では御主人様、私は今からそのバカ恐竜とやらを狩りに行きますので、ついてきてください。デカい生物の素材は大抵強度が強く、万能なのですよ。牙の一本や二本くらい、持っていって構いませんから」
「え、良いの?ありがとう!」
ということで、俺はヨヒラについて行った。
ヨヒラは見事な手腕であっという間にバカ恐竜を見つけ出し、その背中のバカでかい戦斧を使って、一太刀で首を斬った。その後、SCエネルギーを使い、全ての素材を圧縮して持って帰り、ついでに俺に牙を渡してくれたというわけだ。
俺にポイッと牙を投げ渡したヨヒラ。めちゃめちゃクールでかっこよかったなあ…一生ついていきます!
でも、戦斧を振りかざすときのヨヒラは、かなり怖かったなあ…だって、見たことのないような満面の笑みで、それはもうすごく楽しそうだったもん。
ヨヒラってさあ……いや、なんでもない。首を切るのが好きなサイコパスみたいだったなんて思ってないぞ!やっぱり怖いので一生ついていきません!
というかさあ!そんなことより言いたいことがある!
このアンドロイド!俺がこの一週間でやろうとしてたことの上位互換を、一時間もかからないうちに終えたんだけど!
優秀すぎて、俺の立場がない!
だから、ね。
…あのー。今から、もうちょっとダメなアンドロイドに変更できませんか?
次回予告:おっぱい襲来!




