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短編集『トタン屋根を叩く雨粒のような』

揺蕩う炎


『あれからもう14年かー。 すっかり大物になられて、 ねー?』


「へぇー14年、 あの曲が流行ってたの俺が小6の時か」と嶋内(しまうち)傘太(さんた)はラジオに相槌(あいづち)を打つ。


『いえいえ、 あれもこれも好田(よしだ)さんのお陰です』


「小6かー、 ウチの息子と同じだなぁ」と浅田(あさだ)竹一(たけいち)はハンドルを左に切った。


『そんなわけ無いでしょー。 ドームのチケット頼んだよ。 2枚ね。』


「こっちもすっかり枯れてますね」傘太は畦畔(けいはん)に残してきた、 刈り終えた雑草について浅田に(たず)ねる。


『席は別々でいいんですよね?』


「こんだけ連日カラッカラに晴れてりゃ燃やし放題だ」と言って浅田は、 車を農道の(きわ)に寄せて、 駐車した。


『そりゃ隣でしょう?ふざけて....』 ブチッ


あぁまだラジオの続き聞きたかったな、 と考えながら傘太は、 どっこいしょと助手席から降りて、 軽トラの荷台に乗せた(くわ)を2本取り出した。 浅田は既に白茶色の(あぜ)に火をつけ始めている。 清々しい晴天。 (わず)かに風が吹いている。去年刈り取った稲の残骸が残る、 乾いた田んぼを見て、 輪廻(りんね)を感じる。 「春だな」 傘太は、 農道から畦畔に飛び移り、 鍬を浅田に渡した。


「俺は、 向こうやってっから」浅田はここと対称の畦に颯爽(さっそう)と駆けていく。 もう1人でやるのか、 と傘太は 内心ビビっていたが、 炎は既に待ちぼうけを喰らっている。 まだ小さい炎は、 マシュマロを焼くなら丁度良さそうな大きさで、 これくらい可愛いもんだ、 と傘太は一呼吸置いた。


「綺麗だ」


メラメラ、 パチパチ


「よしっ!」炎が停滞しないように、 鍬で隣の枯れ草へと誘導していく。 赤・黄・黒の混ざった炎が独特な臭いを放ちながら、 揺らめいている。 「腰にくるぜ」 と愚痴をこぼしていると、 火柱は傘太の腰程度になった。


「あっちぃなぁ」枯れ草の塊があると、 急に強火になるのだ。 しかし生きた草のエリアに入ると勢いを失ってしまう。 この面倒くさい性格の長所を伸ばして、 畦を効率的に焦がさなければならない。 しかも隣は他所(よそ)の家の田んぼなので、 火が燃え移っても問題なのだ。


他所の家が燃やす派閥とは限らない。 とはいえ、 ここは近くに住宅の無い、 360度見渡す限り田んぼの地域。 煙で誰かに迷惑がかかる心配はない。 多少のはみ出しは、 大目に見てもらえる。


『そこで一旦、 火止めろな』 30分前の記憶。 浅田に出された指示を思い出す。 畦焼き1日目の傘太にも、 要領は分かっていた。 自然と弱まってきた炎を鍬で一生懸命潰す。 のだが、 なかなか思うように消えない。 揺らめく炎はお隣さんに侵入目前だ。


「浅田さーん、 助けてくださーい!」反対側の畦を燃やしている浅田に救助要請を出す。 隣も最近草を刈ったようで燃えやすい枯れ草は豊富だった。 幸運にも、 火はまだ緑が多い地面を()っている。


「はいよー!」ガタイの良い親方体型の浅田が対角線から走ってくる。 近づいて来る、 もっと頑張れやー、 という声を受けて、 傘太は鍬を目一杯動かした。


「もっと全力で消せなー」到着した浅田が物凄いスピードで消化活動を行う。 傘太だって頑張って消したつもりだった。 何でこんなにスピードが違うのだろう。 浅田にお礼を言うと、 初めのうちはこんなもんよ、 と返ってきた。 傘太には、 経験でスピードが上がるとは思えなかった。



「ゴミ拾って帰るよ」


畦焼きを一通り済ませると、 浅田は窓を全開にして、 タバコをふかしながら、 軽トラを走らせる。 一般道に面した田んぼには、 バラエティー豊かなゴミが捨ててある。


「よくもまぁこんな事出来ますよね」傘太はポイ捨てをする人間が大嫌いだった。 憎くてしょうがねーよな、と浅田が言うと、 ボコボコですよ、 と傘太が答えた。 「意外と怖いこと言うね」 と笑って、 じゃあここから始めよう、 と浅田は路上駐車した。


両側が田んぼで開放的でありながら、 人目につかない、 この道路は、 なぜかポイ捨てをしたくなる不思議な力があるらしい。 ポイ捨て犯には常習性があり、 同じものを捨てがちだ。


「くそっ、 またプロテインバーだよ‥‥。 健康に配慮するなら、 環境とか俺たちにも配慮しろよ!」傘太が激怒すると、 浅田は面白がった。


「大物ありました」 傘太がペットボトルを指差して浅田にアピールする。 まだ中身が3割ほど入っている。 「こんなのはバイオテロだ!懲役だ!」 と心の声は騒いでいる。


「シンガポールでポイ捨てすると、 罰金2000ドルらしいですよ」傘太はスポーツドリンクを拾って雑学を披露した。


「2000 ドルっていくらだ?」 浅田は心も頭も朗らかなタイプだ。


「30万くらいです」傘太は、 誇張したドス黒い声で回答する。


「さすが大卒は計算速いな」こんな調子で、 傘太はいつも浅田に踊らされる。


「計算は苦手です。 昨日ムカついて調べたから知ってました」傘太はチョコレートの空き箱をGETした。


「ハハッ、 あ、 そう」浅田は笑って、 執念深いね、 と言った。



***



「本当に辞めちゃうの?」社長が目を丸くして驚いている。 もう80代であろう痩せ型の老人は、 見た目よりずっとパワフルで、 溌剌(はつらつ)としている。 彼は傘太の性格を気に入っていた。


17時になり、 これから皆んなが帰って来る。 事務所の土間には、 まだ他に誰もおらず、 テーブルを挟んで着席した2人の間には、 微妙な空気が流れている。 社長が()れてくれたコーヒーは、 熱すぎてまだ飲めない。


「すいません!違うことしたいと思ったんで!」空気を変えるように、 申し出た傘太の作業着は、 色が変わるほど、汗でびっしょりだった。 時が過ぎるのは、 早いもので、 あっという間に夏が来ていた。


「まぁバイトだから、 ウチはそんなに困んないけど、 何かあった?」社長は心当たりを探すが見つからない、 といった様子だ。 傘太がやって来てまだ5ヶ月。 せめて収穫を経験してから決断してもいいのに、 と複雑な胸中である。


「ゴミ拾うのが馬鹿らしくなりました!」傘太は、 ガバッと開いた両膝をガッチリ鷲掴みして、 詳細な理由を発表した。


「そんなこと?」社長の困惑は当然だった。 メインの仕事や人間関係ではなく、 おまけで行う軽作業を理由に辞めることなど、 考えられなかった。 少なくとも社長が生きてきた時代に、 そんな人間はいなかった。 「傘太くんってイマドキの子だったんだねぇ」 と社長は破顔(はがん)した。




「傘太くん変わってるわ」作業から帰って来た浅田は傘太の大胆不敵さに異質なものを感じた。 熱々のお茶を飲みながら、 ジロジロと新種の生物を観察するように、 傘太を凝視する。 一方、 このミュータントは、「何が悪い」と言わんばかりに、 堂々とした様子でコーヒーを(すす)っていた。


「そろそろ定職に就かないといけない歳だろうが。 26だろ?」浅田には、 傘太が人生を真剣に考えてない様に見えた。 社長は、 若さ(ゆえ)(あやま)ちだな、 と言い残し先に帰ってしまった。


「皆んな良い人ですよね。 クズな(やから)が俺たちの大事な仕事場に、 好き放題ゴミ捨てても、 文句言いながらちゃんと拾うんだから」傘太は丸い煎餅を4つに割って、 1欠片(かけら)ずつ口に運んだ。 こいつ食べ方は繊細だ、 と浅田は思った。


「しょうがねーよ。 ずっと張り込むわけにもいかねぇ」浅田には、 傘太がガキにしか見えなかった。 こいつには、 我慢する力が足りない、 と思った。


「ムカついてしょうがないんです。 因果応報になってない。 一生懸命働いても、 ずっと罰を受けてるみたいで、 クソ腹立つんです」傘太は、 自分の未熟さに気付いていた。 が、 嘘がつけなかった。


「生活費は?今も実家で世話になってるだろ?そろそろ正社員にしても良い頃合いだって、 社長言ってたんだぞ?」浅田はどうしても、 この世間知らずに、 お灸を()えたかった。 こいつはまだ自分の力で生きたことがない。 浅田は高校を卒業してすぐここに就職した。 フラフラしてる余裕なんて無かった。


「一回、 別の世界も眺めてみます。 色々やって、 もしやっぱりココだって思った時に、 求人が出てたら、 また受けさせて下さい。 色々お世話になったのに、 すいません」傘太は深々と頭を下げた。 浅田は、 これ以上問い詰めるのは、 野暮だと思った。


「この仕事で楽しかったことあるか?それだけ聞いたら、 今日はもう帰るわ」浅田は、 程よく冷めたお茶をグイッと飲み干した。


「畦焼きが楽しかったって言うか、 エモかったですかね」傘太の鼻の奥がツンとした。 深呼吸を1つして、 それからコーヒーを飲み切った。



***



「傘太と2人で花火なんて、 オモロイことも起こるもんだ!」深夜美(みやび)は、 綿飴に顔を突っ込んでは噛みちぎるを繰り返しながら、 ベタベタの口で話した。 黒髪ショートウルフが似合う美形は、 頭部だけはすっかり垢抜けた感じだ。


「深夜美が誘ってきたんだろ」幼馴染のおしゃれなのか怪しいジャージ姿を横目に、 傘太はビールを(たしな)む。2 人は屋台で賑わう商店街を歩きながら、 (まば)らに打ち上がる花火を見上げていた。


「スポンサーがショボいと花火もショボいね」食い尽くされて残った綿飴の棒を、 親の(かたき)の様にしゃぶり尽くしながら深夜美が愚痴る。


「本当は金払う余裕ないけど、 断れないんだろうな。 その健気さが放つ光だと思うと、 尊く見える」傘太はビールを飲み干し、 深夜美から棒を奪うと、 この日のために設置された青いポリバケツに、 これらを葬った。


「まだ味がしたのに!」深夜美が、 白く澄んだ顔立ちには似つかわしくない、 お下品な発言をするので、 傘太は可笑しくてしょうがなかった。


「ハハッ相変わらずで最高だな」傘太は飲み物が売られている屋台にわざと立ち寄り、 コーラを2本買った。 棒を触った手が湿って気持ち悪いので、 缶が冷やされている氷水のプールの中で、 ササっと洗った。


「洗ったな?悪だ!極悪非道の手洗い星人だ!キャハハ」深夜美は子どもの頃から変わらない。 傘太曰く、 彼女は小5くらいで脳の成長が止まっている。



傘太が中2の頃、 他所のクラスの男に「篠原(しのはら)って彼氏いるのか?」と聞かれたことがあった。 5限目終わったら、 すぐアイツの教室の前で待機しろ、 と伝えた。 深夜美は授業が終わると「うんこ、 うんこ〜♪」と歌いながらトイレに駆け込んだ。 うんこの妖精を見た男は「悪夢から覚めたよ」と傘太に言い残し、 保健室で横になるのだった。



河川敷に着くと大勢の人で身動きが取れなくなった。 簡素な予約席は大盛況で、 人だらけだ。 「ちゃんと着いて来いよ」と傘太が声を掛けると、「命令するな!」と深夜美は怒った。 思いがけない口撃に、 全然友達の会話の範疇(はんちゅう)だろ、 と傘太は切なくなった。


ドーン!ドドーン!


「ふぅーやっと落ち着いて見れる」草っ原に板を敷いただけの予約席に、 2人は腰掛けた。 傘太は、 人生で初めて花火の為に金を払った。 全く、 生きるのには金が掛かるな、 と当たり前のことを思った。


ドドーン!ドドドドーン!


「おぉ、 丁度そこそこのヤツが始まったな」深夜美は、 傘太が右手に持っていたコーラを奪い取り、 プシュ、 っと音を立ててゴクゴクと美味そうに飲んだ。 傘太は、 初めから深夜美に1本あげるつもりだったが、 彼女のガサツな振る舞いに、 思わず「お嫁に行けませんよ」と(ささや)いた。 花火の音で掻き消されたが、 聞こえてなくて良かったと思った。


連発の花火が一度落ち着いて、 人の声がまたザワザワと聞こえ始めた時、「花火好き?」と深夜美が訊ねてきた。 目線は夜空を流れる煙を追っている。 「日本人は皆んな好きでしょ」 と傘太も煙を見つめていた。 あの煙のように、 皆んなに邪魔だと思われても動じない人って、 いるよなー、 と妄想を膨らませる。


「あの煙は嫌い!」 と深夜美が灰色を指差す。 「不動心ってやつだな」 傘太は自分だけ納得したように(うなず)いた。


ドーン!ドドーン!


金色の枝垂(しだ)れ桜のような花火が連続で打ち上がる。 「メインかなっ!?」 深夜美が大声で訊ねるが、 ほとんど聞こえない。 「知らん!」 傘太は、 ほぼ大型犬の咆哮(ほうこう)みたいに返事をする。


ドドドドドドーン!


花火は今日最大の盛り上がりを見せる。 頭上一面、 金一色に輝く。 「コーラ無くなった!」 深夜美が叫ぶ。 「黙ってなさい!」 傘太は保護者でしかない。 「キャハハハハッ」 深夜美は大の字に寝そべった。 彼女の足と頭が他の客のエリアに入る。 傘太は素早く、 天辺から爪先まで回収し、 この暴れ馬を団子にした。


ドーン、 ドーン‥‥‥


「あー終わっちゃったー」と名残(なごり)惜しそうに、 深夜美は天を仰いで、 (から)の缶を啜っていた。


「今日のメインって今のやつかなぁ?」大騒ぎした空は、 これまでの比じゃないくらい煙で覆われていた。


「何?傘太、 物足りないの?超ヤバかったじゃん!」深夜美は空き缶をグシャリと握り潰した。


「‥‥‥なんかが足りない。 逢紗(あさ)と見たやつの方が良かった‥‥‥」傘太は、 ぼーっと星を探している。


「おいおい、 何百年前の話してんの?えーっと、 14年くらい会ってねーぞ?」深夜美は、 両手で指を折って数えたお陰で、 正しい正解を導き出した。 「まさか、 まだ未練があるとは」 空き缶を傘太のこめかみに投げつける。


「うわっ、 コーラちょっとかかったんだけど」と耳の辺りをゴシゴシ拭く傘太に、 天罰下ったな、 と深夜美は呟いた。


「傘太!あの煙の形って、 うんこ意識してるよね!」


「はぁーまったく、 ‥‥相変わらずで最高だな」



***



「それでは、 作戦を始める」


皆んなが寝静まった頃、 傘太と逢紗はテントから忍び出た。 小学6年生の夏だった。


嶋内家恒例の夏休みキャンプは、 両親と傘太の3人でずっと行っていたが、 幼馴染の逢紗が、 絶対参加したいと懇願したため、 今年は異例の4人での開催となった。 逢紗は、 傘太に良いもの見せてあげる、 と約束して、 今に至る。


「逢紗隊長、 そろそろ何をするのか教えてくれませんか?」傘太は真夜中のキャンプ場をキョロキョロしながら訊ねた。


キャンプ場といっても、 海浜公園の芝生部分がテント設営可となっているだけの簡単な仕様。 一応シンクが用意されていて、 野外での調理もご自由に、 といった雰囲気があるが、 嶋内家はインスタント袋麺と焼きマシュマロくらいしか食べない。


「傘太隊員、 我々の目的地は海だ」お気に入りの水色のリュックを背負った隊長は、 髪をひとつ結びにして、 気合いモリモリだ。 ここは昼間ならテントからでも海が見える。 というより、 目の前が広大な砂浜なのだ。


「懐中電灯を構えろ」ゲームで覚えた、 特殊部隊のライトの持ち方で前進する。


「隊長、 砂が靴に入って気持ち悪いです」


「弱音を吐くな、 そんな弱卒(じゃくそつ)に育てた覚えはないぞ」


「隊長、 ()()()()()とはなんでありますか?」


「‥‥‥‥弱いという意味だ」


「勉強になります!」


「見えた!」


逢紗のライトが真っ暗な海を捉えた。


「で、 何すんの?もう教えてよ」傘太はこれ以上、 逢紗のコントに付き合うつもりはなかった。 懐中電灯 で、 "無限のマーク"を描く。


「光速無限!」傘太は手首を高速でぐねらせて、 無限を召喚し続ける奥義を披露した。


「知ってる?紙飛行機って燃やすと綺麗なんだよ」逢紗は、 傘太を無視して、 本題に移った。


「何それ?ヤンキーじゃん」 あくまで傘太のイメージである。


「ヤンキーじゃないから、 どこにも燃え移らない海でやるんだよ?」逢紗は無罪を主張しながら、 リュックからクリアファイルを取り出す。 そこには、 既に完成された紙飛行機があった。


「2機あるからね」 逢紗は1つを傘太に渡した。 「ヤンキーじゃないならいいよ」傘太は渋々受け取った。 青い折り紙で作った飛行機だった。


「この時間は陸から海に風が吹くんだって」確かに心地良い風が吹いている、 と傘太は思った。 2人の懐中電灯を消すと、 逢紗はライターを取り出し、 まずは私からね、 と言って紙飛行機の先端に火を付けた。


光を灯した機体が逢紗の指先から放たれる。 ぬるい夜風を浴びた翼は、 あっという間に炎に包まれた。 緑色の火の玉となった飛行機は 2 メートル程で墜落した。一瞬だった。


「わぁ‥‥‥」傘太は言葉を失う。


「あれ?風のせいかな?」逢紗は納得いかない様子で、 フォームを繰り返す。


「めっちゃ綺麗だったよ」傘太は目を輝かせて、 ゆっくり尻餅をついた。 凄かったね、 と天を仰ぐ。


「本当はもっと凄いんだよ、 次は傘太の番!」と逢紗が指差すと、 もう一回逢紗が投げて、 と傘太はお願いした。


「え〜傘太に飛ばして欲しいから2個作ったのに」と言いながら、 リベンジ出来ることの喜びを隠せない逢紗は、 ウキウキでフォームを確認している。


「じゃあ2投目いくよ。 集中!」


ザザーン、 ザザーン


波の音しか聞こえない、 真っ暗闇の中でオレンジの火が灯った。 それは、 紙に触れると、静寂を守りながら勢いを増して澄んだ翡翠色(ひすいいろ)となった。 そして(まばた)きの間に、 美しい人の指先から離れて、 風を乗りこなした。


ジュウ‥‥‥


「あっ!海に届いちゃった!やべっ!」と言って、 逢紗は懐中電灯をつけた。 顎の下から、 顔を照らし、「どうだった?」 と首を傾げる。


「最高!超最高!綺麗だった!」傘太も顎から顔を照らして、 満面の笑みを見せた。


「これは秘密!深夜美にも言わないこと!」そう言うと、 逢紗はリュックから水筒を出して、 1投目の燃えカスに水をかけた。


「何してんの?」黒焦げの折り紙はバラバラに崩れて、 生前の姿はそこには無かった。


「ゴミは拾って帰るものでしょ?」 逢紗はしゃがんで、 ビニール袋に焦げを一欠片ずつ回収した。 「俺も」 と、 傘太もしゃがんだ。 何だか幼馴染3人で、 砂遊びしたことを思い出していた。


「2投目は、 自然葬だね。 拾ってあげたかった‥‥‥」逢紗が知らない言葉を使ったので、 傘太は「確かに」と分かったフリをした。


「手にいっぱい砂付いちゃった」 傘太がズボンで拭こうとすると、 「海で洗えば?」 と逢紗が提案した。


ザザーン、 ザザーン


2人揃って、 靴が濡れないように、 へっぴり腰でササっと洗った。



***



「嶋内さん、 もうちょいスピード上げて下さいね」バインダー片手にウロウロして、 何かの確認だろうか。 恐らく年下であろう営業の社員に注意され、 ちっぽけなプライドが傷つく。


傘太は現在、 中古自動車販売店で、 洗車のアルバイトをしている。 傘太には洗車以外の仕事は無く、 出勤日は晴れた日だけで、 1日中屋外で手洗い作業をしている。 野晒しで隊列を組む、中古車の大軍勢を、 1台ずつ相手しているのだ。


段々と人と関わらない仕事を選んでいると、 自覚はしつつも、 気付けば抜け出せなくなってしまった。 傘太は、 この世界のスピードに、 ついていけなくなっていた。


「寒ぃ」


12月25日、 晴天だった。12時になり、 昼休憩に入る。 休憩室のガスストーブで芯から冷えた身体を温める。 オレンジ色の火が小さな命を燃焼してるようで、 微笑ましい。 厚手のゴム手袋を装着しているので、 あかぎれなどは無かった。 ゴム手袋を自費で買うのも本当は嫌だった。 傘太は懐事情と比例してケチになっていた。


「雪が本格的に降り始めたら仕事納めか‥‥」


(かじか)んだ手が(ようや)(よみがえ)ってきたのでスマホを開く。 深夜美からメッセージが来ていた。


〈誕生日おめでと! メリークリスマス!

君に見せなきゃいけない番組があります。

慌てて録画したぜ!〉


添付された写真には、朝のニュース番組が映っていた。 女性がロウソクを持っている。


褐色の肌、 少しエラの張った感じで、 笑窪(えくぼ)がある。 綺麗な瞳で、 (あご)の絶妙な位置に小さなホクロ。黒髪のショートカットがよく似合っていた。


傘太はみるみる笑顔になった。 大人になってもその美貌は健在だ。 逢紗だ!


〈今度いつ休みなの?〉 最後の一文に鼓動が速くなる。


〈今週の土曜は雪だから休み〉 深夜美相手に、 こんなに緊張するなんて、 初めてだった。 いや、 遠くに逢紗を感じるからだろう。


3人目の幼馴染は、 中学進学と同時に転校してしまう。 母の再婚相手の仕事の都合だった。 この再婚相手というのが、 曲者(くせもの)だった。 逢紗は、 小学5年の冬、 夜中に雪の降り積もった公園で、 継父(けいふ)と紙飛行機に火をつけて飛ばしていたらしい。 いくら雪の中とはいえ、 調べれば何かしらの軽犯罪なのだろうが、 彼女の新しい父親は、 そんな危険な遊びを教える、 変わり者だった。 逢紗の家とは固定電話でしかやり取りをしなかったので、 転校を機に、 幼馴染3人の関係は途切れてしまった。 どの親も小学校での繋がりが、 大人になっても 続くような重要な絆になるとは、 想像もしていない様だった。



〈逢紗と連絡つきました〜!土曜に会いに行くぞ〜!〉


〈早っ!もう決まったの!?〉


〈まずは8時にウチに来い!テレビ観てから行くぞ!〉



***



新幹線の窓は、 昨夜から降り続く雪でツヤツヤしていた。 付着した雪が室内の温度で滑り落ちていく様子は、 試練から脱落する挑戦者たちのようだ。 雨や雪の日しか休みが無い上に、 名前に傘が付いているにも関わらず、 傘太は晴れの日が好きだった。 隣の深夜美は、 ぐっすりだ。


朝、 深夜美の家で観たニュース番組では、 クリスマスに使いたい、 アイテム特集が組まれており、 逢紗が経営する雑貨屋のアロマキャンドルが紹介されていた。 『小松(こまつ)さん』 ではなく 『山口(やまぐち)さん』 と呼ばれていた。 『主人と経営しておりまして‥‥』 という言葉が2時間近く、 脳内で反響し続けている。 鼻の奥がツンとしたので、 ゆっくり深呼吸する。


「おい、 ウチの親の言うこと聞いてみたら?」目覚めた深夜美が言っているのは、 先程、 篠原家にお邪魔した時に、 深夜美の父から「ウチの社長に雇ってもらえるか、 相談しようか?」と出会い頭に言われたことについてだ。 傘太は「俺はポンコツだから迷惑になります。 自分でなんとかします」と言って(かわ)していた。


悪い話では無いが、 自分の我儘(わがまま)で、 また転職を繰り返したら、 親父さんに合わせる顔がなくなる。 今の傘太には義理を通す自信がなかった。 他人からすれば、 大したことないような、 譲れない正義があって、 それが傘太の生き方を狭めていた。


「俺ってどうなるんだろうね?」珍しく弱気な傘太を見て、 深夜美もブルーになった。 深夜美は、 通路側の席から身を乗り出して、 窓に 「ハァー」 と息をかけると、 結露した窓に、 どデカく 『バカ』 と書いた。


傘太たちはその文字を消すことはなかった。



***



都会の匂いのする田舎町にそれはあった。 目の前には、 テレビで観た水色の家。 三角屋根の木造建築。 ここに逢紗がいる‥‥‥。 2人で店の前で立ち止まると、 ほどなくして、 店の扉が勢い良く開いた。


「もしかして、 傘太と深夜美!?」


流れ星が爪先に落ちた気がした。 ずっと忘れることのなかった、 その笑顔には、 面影(おもかげ)がありすぎた。 生命力が(みなぎ)る、大きな瞳に(たちま)ち吸い込まれた。 傘太は(たま)らず、 目頭を押さえた。


「げっ!?泣いてんの!?」深夜美は左隣の傘太を見て、 心の潮が引いた気がした。 だが、 逢紗がつられて泣いているのを見て、 深夜美も結局ポロポロ泣いた。 深夜美は逢紗を抱きしめると、 我慢出来ずに嗚咽(おえつ)した。


1番初めに、 我に返ったのは、 傘太だった。 店の入り口で号泣する2人が邪魔になり、 カップルが帰れなくなっていた。 傘太は鼻水を垂らしながら「ごめんなざい」と言って、 2人をずらした。 客は、 凄いの見ちゃったね、 とコソコソ話しながら、 彼女の方が「良かったですね」とグッドポーズをして、 去って行った。 傘太は、 鼻をチーンとかむと、 恥ずかしいような、 温かいような、 やっぱりこそばゆい気分になった。


「あの、 良かったら中入って下さい」と、 傘太より少し背の高い、 ラグビーでもやってそうな男が声を掛けてきた。 名札には、 『店長』 と書いてある。 傘太は咄嗟(とっさ)に、 心の中で念仏を唱えた。


店長は 『Open』 の札を 『準備中』 にしてくれた。


「私らは最強だったんです」深夜美の戯言(ざれごと)に、 うんうんと山口夫妻が頷く。


()()()で、 運命の3人だよねって、 一生友達だって、 誓いを立てたんですよ」馬鹿4人は、 レジ前のスペースに、 パイプ椅子を出して円になっている。


「それなのに転校しちゃって、 連絡先も知らない状態!私らは捨てられたんだと思ってました!‥‥‥が、 再び会えた!」赤べこ夫妻は、 ジャージの女に拍手を送る。 そして、 マジすまんかった、 と逢紗はライトに謝った。


「良かったな〜、 傘太!1番最初に泣いたもんな〜!」肩をバシバシ叩かれて痛いが、 深夜美がいたから、また集まれた。 傘太も頷いて拍手した。


「ところで2人は今どんな仕事してるの?」逢紗が発した当然の世間話に傘太は動揺した。 深夜美が、 私はタクシードライバーで傘太はフリーター、 と答えた。 普段は何とも思っていなかったのに、 逢紗の前で言われたら、 顔が熱くなった。


「そっか、 そっか」逢紗は言葉に詰まった。 別に逢紗は、 人生遠回り上等の人間だったが、 傘太が顔を真っ赤にしているのを見て、 頭が真っ白になってしまった。


「傘太くん、 逢紗のお父さんの仕事とか、 興味ないかな?」ラグビー男(仮)が予想外の所からパスを出した。 まさか〜、 と逢紗は手を振って、 隆家(たかいえ)冗談キツいよ〜、 と破顔した。 傘太と深夜美は、「旦那さん戦国武将みたいな名前だな」と思ったが、 口にはしなかった。


「ごめん、 お父さんってどっちの?」傘太の心に何かが引っかかる。


「2番目のお父さん。 ほら、 紙飛行機の」逢紗が飛行機を飛ばす動作をした。


「あ〜、あのロマンチックな‥‥‥」ずっと変な父親だと思っていた。が、 逢紗を前に、 緑の炎を思い出して、 言葉が変換されてしまった。


「脱サラして備長炭を作る職人してるんだ」逢紗から出た、 思いもつかなかった職業に、 傘太は驚き、 深夜美は興奮した。


「職人なの!?かっちょいー!」深夜美は他人事だと思ってはしゃいでいる。 また肩を叩いて、 やってみなよ、 とちょっかいを出す。


傘太は、 炭職人の仕事が全く想像出来なくて、 自分にも出来るかも、 という根拠の無い自信が顔を出した。 「職人ってカッコいいよな」とボソッと発言したところ、 逢紗が、 体験だけでもしてみたら?と首を傾げて提案してきた。 傘太の心にポッと小さな火が灯った。


折角、 久しぶりに会ったのに、 気付けば傘太の就活話ばかりになってしまった。 帰る前に、 どうせならと、 記念に雑貨を買って帰ることにした。


「父が炭職人やってたら、 ひょんなことから、 海外の有名なアーティストと繋がることになってね。 その縁でこの店に、 彼がデザインしたアロマキャンドルを置かせてもらえることになったんだ」文庫本より2回り小さい、 紅白のマーブル柄のキャンドルを手に、 凄いでしょ、 と見せつける逢紗が傘太には愛おしかった。


「テレビで紹介してたロウソクだね。 ほうほう、 『錦鯉』 か、 私これにする!」 深夜美はここに来る前から、 お目当てを決めていたかのように、 即決した。 そういえば、 深夜美は赤を選ぶことが多い。 性格に合っていると傘太は思った。


「俺はこれ気になるな」 傘太は水色と黒のマーブルを手に取った。 「私もそれ好きなやつ」 と逢紗が発した瞬間、 「俺はこれにする!」 と傘太は宣言した。


「それの名前は 『夜光(やこう)』だよ。 なんか良いよね」 逢紗の問いかけに、 傘太は激しく頷いた。



ピッ


「では、 一点で5500円です」


「へ?」傘太は自分の目が落下したように錯覚した。 良かった。 下を見ても何も落ちていない。


「ボッタクリやないかい!!」深夜美は、 縁もゆかりもない関西人の血が騒ぎ出した。


「確かに高いとは思うよ。 でも 『ライアン・ウィークリー』 の作品だと思えば、 かなりお買い得だよ。 当店の1番人気だし、 もっと高いキャンドルだって他所の店にはあるくらいだ」隆家が自分たちは、 悪徳業者ではない、 と主張する。 確かに言っているのは、 至極真っ当なことかもしれない。


が、 「ライアン・ウィークリーって誰だよ!カレンダーかよ!」 深夜美の追及は止められない。 「牛丼何杯食えると思ってんだよー!」と言いながら深夜美は指折り数えている。 そして、 いっぱい食えるよー!、 と計算を諦めた。


「俺は買う!」傘太はクレジットカードを取り出した。 本当は、 逢紗のお気に入りをどうしても手に入れたい 気持ちと、 もっと安い品物と取り替えたい気持ちで、 揺れ動いていた。


「リボ払いにしますか?」 深夜美が悪魔の囁きをする。


「一括で!」 傘太は金を稼ぐ理由を見つけた。




「バイバーイ!また連絡するねー!」逢紗と隆家は、 店の前で、 仲睦(なかむつ)まじく肩を組んで手を振っている。


傘太と深夜美は、 シャーベット状になった地面を、 一歩一歩前進していた。 身体と懐の寒さに歯を食いしばりながらも、 感動の再会の余韻に浸っていた。 2人の手には、 逢紗の店のビニール袋。 中には、 もう一生買うことのないであろう高価なキャンドル。


「2人のビニール袋見た?」 逢紗がほくほくの笑顔で隆家に訊ねる。


「何かあったっけ?」 隆家は何も気付いていない。


「2人とも、 受け取ったらすぐに口を縛ったの。 ‥‥‥あれは元々傘太の癖でね。 あぁ見えて傘太って几帳面っていうか、 神経質でさ」


「深夜美さんは、 全然そんな感じ無いのにね」


「フフフッ。 ミステリーだよね、 ワクワクする」



***



日が短くなって、 すっかり暗い。 こっちの世界の方が雪多いな、 なんて傘太は、 別世界を行き来したようなことを考えていた。


「ただいま」 玄関までカレーの匂いがする。


「おかえり、 逢紗ちゃんどうだった?写真ないの?」傘太の父がちょうど、 2階から降りてきた。 既に風呂に入ったようでパジャマ姿だった。 今回の再会を、 意外と気にしていたらしい。


「そう言えば、 写真撮ってないわ!うわ〜!やっちまった〜!」


頭を抱える息子を見て、 父は、 良い再会だったのだなと、 ホッとした。 そして「(じき)に飯だ」と言って、 リビングに入った。




「いただきます」


正面に父、 向かって左に母がいる。 傘太はスプーンを握ったまま動かない。 「逢紗ちゃん元気だった?」 と母が堪らず質問する。


「元気だった。 幸せそうだった」 深呼吸する息子を見て、 こいつ泣きそうなのか、 と母は驚いた。


「逢紗の2番目のお父さんの所で、 備長炭職人になるかもしれない」カレーをジッと見つめて、 傘太は驚愕の報告をした。 嶋内夫妻は、 サスペンス映画の、 死体の第一発見者のように、 目をひん剥いて、 お互いの顔を見た。


「‥‥‥急展開すぎないか?」父は息子が無鉄砲だと承知していたが、 ここまでとは思わなかった。 30までには、 何で生きて行くか決めろ、と常々伝えてきたが、 これは大冒険だ。


「あんたまさか、 まだ逢紗ちゃん諦めてないの!?」 母は違うベクトルで心配していた。 「旦那さんいるのに、 まだ両想いだと思ってんの!?流石にテッセン生えるわ!!」 興奮した母のスプーンからカレーが飛び散った。 まるでジャクソン・ポロックだと父は思った。


「まぁまぁ。 テッセンって何だ?」 父が台拭きでポロックを拭き取る。


「若い子が笑うことを 『草生える』 って言うでしょ?テッセンの花言葉は 『甘い束縛』 とか 『縛り付ける』 なの。 だからこいつの状態は、 『テッセン生える』 って話!!馬鹿みたい!信じらんない!!」


元花屋の母は、 怒ると怖い。 現役時代、 客とも度々口論になったことがあるらしく、 引退する時は、 社長が 「命拾いした」と父に話したらしい。 冗談交じりだが、 そんな話を聞いても、 ずっと一緒にいる父を傘太は尊敬していた。


「火を扱う仕事に興味があるのかもしれない。 あと逢紗の2番目のお父さんと働いてみたい。 逢紗とは関係ない」傘太はやっと2人の顔を見た。 言いたいことを言って、 スッキリしている。 言葉に出してみて、 やっと自分の気持ちが分かった感じがした。



***



善悪がまだ判断できない年頃、 好きな女の子が紙飛行機に火をつけて投げると綺麗だと言ってきた。 あの頃は火が燃え移るとか、 何も考えてなかった。 ただ揺らめく炎が滑空する姿に一瞬のトキメキを感じていた。



購入した水色のアロマキャンドルに火を灯す。 初めて嗅ぐ甘い香りがした。 テッセンの花言葉を思い出して苦しくなる。


「ゔぅぅーー、 結婚してたかーーー」両親に聞こえない音量で枕に想いをぶつける。


『ポーン!』


通知だ!


ベッドから飛び降り、 スマホを開く。


〈まさか、 まだ逆転できると思ってる?〉


深夜美からだった。 「なーんだ」 と呟く自分に驚く。 おいおい、 まだ逆転できると思ってるのか?まさか‥‥‥。 深呼吸して「良い旦那さんだった」と自分に言い聞かせる。 大丈夫だ。 正義は揺らいじゃいない。


〈思ってねーし〉


思うわけがない、 ありえない、 と反芻(はんすう)して送信。


〈高校で別の女に手出してんだから、 今更悩むなよ〉


「ぐはっっ!」深夜美のアッパーがフルスイングで顎を揺らした。 傘太はベッドに倒れ込んだ。


〈あれは悪女だった。 次もヒステリックだし。 俺はつくづく女を見る目が無い。 逢紗もあぁ見えてヤバいかもしれない〉


〈灯台って知ってる?〉


「何?」傘太は、 何と返信すべきか分からなくなった。


〈馬鹿にしてんの?〉


適当に返信してみた。


〈私はずっとその下にいるんですけど〉


灯台の下?また外出してるのか?


〈なぞなぞ?〉


支離滅裂な会話に傘太は噴き出す。


〈暗いよ〜、 マジで寒くて凍える〜〉


いよいよ訳の分からない展開になった。 しかし「訳わかんないけど、 最高だな」と傘太は感心した。 深夜美とのやり取りで、 すっかり元気を取り戻していたからだ。


熟考の末、 傘太は焚き火のスタンプを送った。 深夜美からは、 かなり暴力的なスタンプが返ってきた。



〈おやすみ〉 と送信した。 少し間があって 〈おやすみ〉 が返ってきた。



「小学生の頃から変わらないな」



傘太はキャンドルの火を消して眠りについた。


最後まで読んで下さりありがとうございました!

『揺蕩う炎』いかがでしたか?たゆたう炎と読みます。タイトルにフリガナ付けられなくて、ここで紹介しました。物理的、心理的に定まらない状態を「揺蕩う」と呼ぶそうです。

炎を象徴に人生を描いてみよう、と思って書き始めました。色々考えるうちに、両想いの幼馴染と夜の海で、燃える紙飛行機を飛ばす映像が浮かんできました。プロの小説家ならどうやって描写するんだろう、と想像しながら、やるだけやってみました。

傘太と深夜美という名前、慣れるまで読みにくいですよね。でも美しいと思い、採用しました。

次回の作品も読んで頂けると嬉しいです。

ではまた!

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