東国の調味料
「醤油?」
「そうじゃ、この黒い液体は醤油じゃ、ああそうか、醤油がなかったから味が違ったのか、まあ仕方ない事じゃな、なんせ醤油は東国にある調味料じゃからな」
「東国の調味料?」
「そうじゃ、この醬油を加える事でより美味しい玉子焼きができるんじゃ」
やはり東国出身のカホさんに玉子焼きを味見してもらって良かった。
黒い液体は醤油と言う東国にある調味料だったのか。
だったら俺達が知らないのも当然だな。
「なあ、気になったんだが」
「どうした?」
エドウィンが気になる事があるようなので俺はエドウィンに聞く。
「いやさ、失ったもの図鑑ってかつてあったものが載ってるんだろ? だったら何故玉子焼きが載ってるんだ? 玉子焼きは和食と言う東国にある食べ物なんだろ? だったら失われてないんじゃ」
「おそらくじゃが、この国では失われたものだからじゃないかのう」
カホさんがそう言うがエドウィンはわかっていない様子。
「失われたもの図鑑と言う本は儂も見た事があるし、和食もたくさん載っておった時は驚いたのじゃ、なんせ東国ではこれらの和食は当たり前のようにあったからのう、そこで思ったのじゃが、この失われたもの図鑑に載っているものはかつてこのバハムス王国周辺で作られたものじゃないのかと思うんじゃ」
「失われたもの図鑑に載っているものがこの国の周辺で作られたもの?」
「そうじゃ、現に東国にはこの図鑑はなかったのじゃ」
「そう言えば、ガルドムにも失われたもの図鑑なんてものはなかったな」
「そうなのか?」
「ああ、このバハムスで初めて見た図鑑だった」
「そう言えばガルドムの学園の図書館に行ったが、失われたもの図鑑はなかったような気がするな」
思わぬ新事実が発覚したな。
失われたもの図鑑ってバハムス王国だけにしかなかったのかもしれない。
それはつまり、この図鑑に載っているものはかつてバハムスの周辺で生み出されたって事になるな。
と言う事は、昔はバハムス周辺でこれらを巡った戦争が起きまくっていたって事だな。
物騒な話だな。
ん? 待てよ。
「もしかして、図鑑に載っているものを作った人達がその場所を去ったって話があるんだけど、それって」
「おそらくじゃが、この本に載っている和食を生み出した当時の者達が東国の周辺に辿り着いてそこで新たに作られたのかもしれんのう、海を越えた場所じゃ、ここの者達が知るすべなどないのじゃ」
なるほど、他の国で作られているなんて知らなかったから失われたものだと思ってこの図鑑に載っていたのか。
そうなると俺達が知らないだけでもしかしたら他にも図鑑に載っているものが作られている国があるかもしれないな。
「それに東国は鎖国国家で余所者を一切受け付けない国じゃったから情報が渡らなかったのかもしれんのう」
「鎖国国家?」
「そうじゃ、儂がいた時は東国は他の国との交流を一切しなかったのじゃ、他国を一切受け付けない国でのう、故に誰も近づこうとはしなかったのじゃ」
「誰もって、狙われたりは?」
「それもなかったのじゃ、あったとしても敵国の方が負けて逃げるだけじゃった、強い侍達がいたからのう」
「侍?」
「簡単に言うと剣を持って戦う者達じゃ、こっちだと騎士や戦士と言えば伝わるかのう?」
「あー」
カホさんがそう言うとエドウィンは理解する。
「その侍と呼ばれる者達が強くてのう、敵国の者達はその強さだけでなく気迫にも恐怖して逃げ出す者が多かったのじゃ」
「そんなに凄かったのか?」
「俺もカホさんから聞いた話だけどさ、マジでヤバイらしいんだ」
「どうヤバいんだ?」
「例えばさ、軍隊で戦う時って隊長がやられると残った者達は撤退したりするだろ?」
「そうだな、指揮する者がいなくなれば隊は崩れて撤退しかないしな」
「侍達は違うんだよ、あいつらは隊長がやられても前に出て戦い続けるんだよ、最後の一人になろうともだ」
「なっ!?」
エドウィンは目を見開いて驚く。
「敵に背を向けて逃げるのは恥だと思う連中でさ、恥を晒して生き延びるくらいなら戦場での死を選ぶって感じで最後の一人になっても敵に突撃するんだよ、相手はその気迫に恐れをなして二度と攻めようとしないらしいんだ」
「そうじゃ、それで今まで他国との交流も一切しなかったのじゃが、五年くらい前からその風習が変わって来たらしいのじゃ」
「一体何が?」
「五年くらい前かのう、ここの領地に何かの依頼で冒険者が来た事があってのう、その時に東国の者がおったんじゃ」
エドウィンの疑問にカホさんが答える。
俺も何度か会った事があるな。
「その東国の者と話せる機会があってのう、その時に東国の現在も知ったのじゃ、何でも東国では城主、つまり国の王が変わったそうじゃ、しかも新たに王となったのは女性らしいのじゃ」
「女性が国の王に?」
エドウィンは驚く。
女性の王なんて珍しいからな。
「その女城主は王になった時に今までの東国の在り方を一気に変えたそうじゃ、女が家事をするのが当たり前だとかそう言った常識を変えたそうじゃ、どうやら国をまとめ上げる手腕は本物だったようでな、今では儂がいた頃より男も女も関係なく平等に暮らしやすい国になったそうじゃ、それにその女城主は他国との交流も行うようにしたようじゃ、その理由はこのままどこの国とも交流しなければいざ東国が危機に陥った時に頼れる国がなければ滅んでしまう事を危惧したからじゃな」
なるほど、確かに国の危機が迫った時に助けを求められる国が一つもなければ滅びの道一直線だな。
その東国の女城主は先の事もちゃんと考えて行動してるみたいだ。
「かと言って今すぐ東国自体を開国させるわけではなく、実力のある者達を他国に行かせてその国が関係を持つに値するかどうかを確かめる感じみたいじゃ、国の光景を見るだけでその国がどんな国かわかる事もあるしのう」
確かにいきなり開国して他国の者を受け付けるよりこちらから少人数で他国を視察する。
実際に自分達の目で見てその国の人達と交流すれば自分達の国と交流を持つに値するかどうかもわかる。
バハムスにも東国の者達がいると言う事は交流するべき国か見極めているのかもな。
「そう言えば、父上も東国と関係を築くために数年くらい前から色々動いてたな、そのおかげで東国から仕入れた品を売っている店もあるらしいし、品を仕入れるという事はバハムスは一応関係を築くのに値する国って思われてるって事かもしれないな」
「だとすれば、そう遠くないうちに東国の女城主とも交流するかもしれんのう、まあ、そこは国の王同士に任せればよいだけじゃな」
東国との交流か、まあ、そこは陛下に任せれば良いとして、東国の品を仕入れて売っている店がこの国にあったか。
もしかしたら、あそこに売ってあるかもしれないな。
明日あいつに聞いてみるか。
とにかく、物足りない玉子焼きでもカホさんが喜んでくれて何よりだ。
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