東国という国
「追い出された?」
「そうじゃ、儂は実家を追い出されたのじゃ」
「な、何故?」
「儂はな、役に立たないと判断されたからじゃ」
エドウィンの問いにカホさんはそう答える。
「もう昔の事じゃが、儂が東国にいた時はな、女は婿である男のために尽くすのが当然という考えが当たり前だったのじゃ、男は仕事で稼ぎに行き、女は婿である男のために家事をするのが当時の東国の当たり前じゃった、家事ができない女はどこにも嫁にいけないと言われるくらいじゃった」
「そんな、家事ができないくらいで」
エドウィンには驚きの事実だったのだろう。
俺も最初聞いた時はそんな事でかと思ったよ。
貴族の家事など使用人がやってくれるし、男だけでなく女だって仕事をする。
家事をするって言ったら平民の家庭くらいかと思っていた。
だから家事ができないくらいで女として役立たずだなんて信じられなかったな。
「儂は洗濯とかは何とかできたんじゃが、料理だけはどうしてもできなかったのじゃ、東国では料理は女がするのが常識でな、料理ができない儂は女としては致命的だったのじゃ、儂の場合、本当に酷いものじゃった、どうも料理は不器用でとても食べられない物ができてしまうんじゃよ」
「とても食べられない物?」
「言葉通りじゃ、不器用で料理とは言えないような物になってしまうんじゃ、のうジョルジュ?」
カホさんがジョルジュに問うとジョルジュは何とも言えない顔で頷く。
一体どんな物を作ったと言うんだ。
気になるが、知らない方が幸せなのかもな。
「まあ、そんなんで料理に関してはあまりにも不器用なもんで儂は嫁の貰い手が見つからずに家から追い出されたんじゃ、儂は東国ではそれなりの名家の生まれでな、嫁げないと知られては世間体が悪い、だから儂は家を追い出される事になったんじゃ、親子の縁も切ると言われてしまったのじゃ、父からは役立たずと言われ、母からはお前など生まなければ良かったと言われたのう」
「私も最初聞いた時は本当に腹が立った、東国は女を道具か何かと思っているのかとな」
シルが腕を組んで不機嫌な顔をする。
俺も腹が立ったよ。
確かに貴族の子に生まれたのならある程度家のために役に立たなければならないのはわかる、だからと言って親が子供に言って良い言葉ではない。
ましてや生まなければ良かったなど、母親が絶対に自分の子に言ってはならない言葉だ。
まあ、東国じゃなくても役に立たない子供を追放するバカな貴族もいるにはいるがな。
この国だってそうだったんだから人の事は言えない。
だからって自分の子供を捨てて良い理由にはならない。
「家を追い出され、当てもなく歩いているといつの間にか海が広がる浜辺に来ていたのじゃ、すると偶然にもそこに小舟が一隻あってのう、何を思ったのか、儂はその船に乗って海を出たのじゃ、今思えば、きっと生きる事がどうでも良くなったから、そう言う事なのじゃろうな」
カホさんはハッキリと言わなかったが、何となく察しはつく。
「儂は船の扱いなど全く知らんし、ちょうど海も荒れていてのう、儂はそのまま海に放り出されてしまったのじゃ、激しく揺れる海の中で思うように動けず、ただ儂はそのまま海に呑まれてのう、目を覚ました時にはこの国にいたんじゃ」
「リカード領の海がある浜辺で倒れているカホを私が見つけまして、まだ息があったので私がそのまま彼女を休ませる場所へと運びました」
「目を覚ますとジョルジュが温かい物を作ってくれてのう、儂が何故あの場所にいたのか疑問に思うはずなのに何も言わずに儂に寄り添ってくれたのじゃ、それからジョルジュと共に暮らす事になったのじゃ」
「そこからカホの事情を色々と知りまして、当時は私も若かったので彼女の両親が近くにいたら今すぐに切りに行きたいほど腹が立ちました」
「当然だな、私だって行ける場所にカホさんの親がいたら問答無用で切りに行く」
シルが物騒な事を言うが、俺も同じ気持ちだな。
エドウィンも同じ気持ちなのか拳を強く握っている。
家族について色々あったからな。
「まあ、そんなこんなでの、当時は儂も女じゃったからな、ここまで優しくしてくれて寄り添ってくれる男と一緒にいたんじゃ、そんな男に惚れぬわけがなくてのう、そのまま儂らは結婚したんじゃ」
恥ずかしかったのかカホさんは顔を赤くしてジョルジュも顔を逸らす。
おおう、お熱いねえ。
「私達も二人みたいな老後を過ごしたいものだな」
シルが俺に言う。
いやいや、まだ結婚してないんだから気が早過ぎでは。
まあ、そんな老後を送りたいのは確かだな。
「しかし、はて」
「どうしたんだ?」
カホさんが何か気がかりがある事に気づいたのかジョルジュが問う。
「はて、儂の気のせいかのう? 東国で食べた玉子焼きとどこか味が違う気がするんじゃ」
「味が違う? もしかして、あの黒い液体がなかったからか?」
「黒い液体?」
「ケイネス様」
「ああ、カホさん、この絵を見てほしいんだ」
俺はカホさんにシェフィーネ王女が描いた玉子焼きの作り方の描かれた絵を見せる。
「おお、上手に描けとる絵じゃのう」
「私の妹が描いたんだ」
「ほほう、シェフィーネ姫の絵じゃったか、上手に描けとるのう」
「カホさん、これがその黒い液体なんだけど」
「どれどれ、ああ、これは醤油じゃな」
俺が指差した黒い液体をカホさんは難なく答えるのだった。
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