故郷の味
「話はそこまでにして、お前さん達何か用があってここに来たんじゃないのか?」
そうカホさんが言った事で用事がある事を思い出す。
そうだった、若返りの薬とかそんな事どうでも良かったわ。
「今日来たのは、これをお前に食べさせたかったんだ」
そう言ってジョルジュが箱を開けると作った玉子焼きが姿を現す。
「これは、もしかして玉子焼きかい?」
カホさんが玉子焼きをじっと見る。
「ああ、リカード家で作ったんだ、調べたら和食と書いてあってな、東国出身のカホに食べてもらいたくて持って来たんだ」
「確かに、これは間違いなく玉子焼きなのじゃ」
「味見もしたのだが、東国出身の者にも食べてもらって意見を聞きたいとケイネス様がおっしゃってな、その意見次第でこの国の店に出そうかと考えているんだ」
「ほほお、そうなのかい、なら、ちゃんと味見せんといかんのう」
そう言ってカホさんは二本の棒を手に取る。
それを見てエドウィンは不思議そうな顔をしていたので俺はカホさんの持っている物が何なのかを説明する。
「カホさんの持っているあれは箸と言って東国の人が料理を食べる時に使っている物だよ、俺達のところだとナイフやフォークみたいなものだ」
「なるほど」
「ナイフやフォークと違って自分の好きな物を掴む事ができるんだよな、例えばフォークだとサラダを食べる時食べたくない野菜まで一緒にさして食べる事になってしまうけど、箸なら片手で好きな大きさに開けるからそれで掴みたい物だけを掴む事ができるんだ」
「なるほど、けど、片手で二本の棒を扱うのは難しそうだな」
「確かにあれは最初扱うのに苦労したな」
「懐かしいな、カホさんに教わった時は中々上手くいかなかったものだ」
俺達は昔カホさんに箸の使い方を教わった事がある。
単純にペンを二本持って使うようなものだと、言うのは簡単だがこれが結構難しい。
練習した当時は東国の人は片手でこんな器用な事ができたのかと驚いたものだ。
まあ、その後何とかコツを掴めて扱えるようになったけどな。
ちなみに興味があったのかシルだけじゃなくて陛下達も箸の使い方を練習して扱えるようになったんだよな。
陛下達曰く何かの役に立つ時が来るかもしれないとの事らしい。
「では、いただくとしようかのう」
そう言ってカホさんは手を合わせる。
これは東国の食事の習慣みたいなものらしく。
料理を作った人達やその料理に使われた食材を作ってくれた人達全てへの感謝の気持ちを表すものらしい。
カホさんは箸で玉子焼きを一切れ掴んで口にする。
「おお、これはまさに玉子焼きじゃのう、塩を使ったんじゃな」
「ああ、そしてこっちの方は砂糖を使った甘い玉子焼きだ」
「甘い方も作ったのか」
カホさんはジョルジュが言った甘い方の玉子焼きも一切れ掴んで口にする。
「おお、しょっぱいのも良いが、甘い方も良いのう」
カホさんは嬉しそうに玉子焼きを食べると涙を流していた。
「嬉しいのう、こっちに来た時には、もうこの先和食など食べる事はないだろうと諦めていたのに、玉子焼きだけじゃが、こうしてまた和食を食べられる日が来るとはのう、長生きはしてみるものじゃな」
涙を流しているカホさんの肩にジョルジュは優しく手を置く。
もう食べられないと思っていた故郷の味なんだ。
嬉しくないわけがないだろう。
「ケイネス、ずっと気になっていたんだが、東国の生まれであるカホさんが何故バハムスにいるんだ?」
エドウィンが疑問を口にする。
まあ、当然の疑問だろうな。
「それなら儂が話そう、儂はな、追い出されたんじゃよ」
エドウィンの疑問にカホさんが答えるのだった。
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