解読して作る
家に帰ると俺はエドウィンと共にすぐさま厨房へと向かうとジョルジュ達料理人がいた。
「ケイネス様、いかがなさいましたか?」
「ああ、ちょっと頼みたい事があってな」
俺はジョルジュ達にシェフィーネ王女が描いた絵を見せる。
「これがシェフィーネ王女の描いた例の絵ですね」
「本当に一見するとただのラクガキにしか見えないな」
「でも、この絵の通りにしたら何かができたんでしょ? 確か化粧水って言う失われたもの図鑑に載っていたものの一つだったそうじゃないの」
「そう、それで今回のこの絵なんだが、シェフィーネ王女が言うには何かの料理の作り方らしいんだ、それでこの絵に描かれている料理と思われるものを作ってくれないか?」
「奥様からシェフィーネ王女の絵に関しては既に聞いております、これが料理なら早速作ってみましょう」
「旨かったら今日の食事に出せるし、今後のメニューにも加えられる」
「何ができるか楽しみね」
こうして俺達はシェフィーネ王女の絵を解読しながら作り始めるのだった。
「まずは、この絵だな」
「何だこれは?」
俺とエドウィンは最初の絵を見るがやっぱり何が描いてあるのかよくわからないな。
「ふむ、これに描かれているのが料理の作り方だとするなら何かの食材と言う事になりますね」
「形的に野菜じゃない?」
「確かに、そう考えるとこれはニンジンでこれはタマネギに見えるわね」
「だとしたら、これはジャガイモだろうか」
「これって鳥の絵に見えるから鶏肉だと思う」
「じゃあ、これは包丁だからこれらの食材を切っていけば良いって事ね」
さすが我が家の毎日の食事を作っている料理人達。
普段から見慣れてるからもう絵に描かれている食材を解読したよ。
絵に描かれている食材を全て用意して次の絵を見る。
「この絵に描かれている食事は全部揃えたな」
「矢印の通りなら、次はこれですね」
「これは鍋? 切った野菜や肉を全部入れてかき混ぜている感じだから、炒めるって事?」
「ちょっと待ちな、これ何だい?」
ラキムが鍋と思われる絵の上に何かが描かれている事に気づく。
「四角い形をしている何かと切った野菜や肉を入れて一緒に炒めるって事になるのか? この絵を見ると」
「しかし、ケイネス様、この四角い物は一体何なのでしょうか?」
「四角い形をした食材って事になるけど、そんなのあったか?」
俺が言うと全員が考えるが正直何も浮かばないぞ。
四角い形をした食材なんて。
「あ」
するとエドウィンが何かに気づいたかのような反応をしたので俺達はエドウィンを見る。
「エドウィン、何かわかったのか?」
「いや、一つ思い浮かんだんだけど、多分違うだろうな、だってありえないし」
「思い浮かんだのなら言ってみると良いぞ、何もわからないんなら少しでも気になった事は言ってみるものだ」
「そうか? じゃあ言うが、四角い食材でさ、バターが思い浮かんだんだが」
『バター?』
「いや、すまない、やっぱり違うよな」
俺達が疑問に思うとエドウィンはすぐに謝罪するがジョルジュ達は何かを考えているようだ。
「確かにバターは四角い食材ですね」
「でもバターって、お菓子を作る時に使うあのバターだろ? 野菜や肉をバターと一緒に炒めるの?」
「お菓子以外だとパンに塗って食べるけど、野菜や肉に使うのは聞いた事ないわね、大丈夫なのかい?」
三人は疑問を抱いているが無理もない、料理人でない俺だって疑問に思うよ。
「俺も疑問に思うけどさ、他に四角い形の食材なんて思いつかないし、これで作ってみてくれないか? マズかったら俺が責任持って食べるからさ」
「ケイネス様にそのような事をさせるわけにはいきません、作った我々が食べますのでご安心を」
「あまりにもマズかったら最悪捨てるしかないけど」
「料理を作る者としてはできればしたくないんだけど、もしもの時にはそれも仕方ないわね」
「ここはシェフィーネ王女の描いた絵を信じているケイネス様を信じて調理しましょう」
ジョルジュの言葉でシオンとラキムも頷き三人はそれぞれ野菜や肉を切ってバターと一緒に鍋で炒めていく。
「見ていて飽きないくらい手際が良いな」
三人の調理姿を見てエドウィンがそんな感想を言う。
そりゃ我が家の自慢の料理人達だからな。
そして次の絵を見ていく。
「これは、何だ?」
「袋から何かを出しているのでしょうか?」
ジョルジュの言うように袋と思われる絵から何かが出ているが何なのかがわからない。
「ちょいと待ちな、この袋っぽい絵の隣に別の絵が描いてあるね、しかも矢印でこの袋みたいな絵をさしているよ?」
「これ、もしかしてパン?」
ラキムが隣の絵に気づきシオンがそれをパンと言う。
確かに言われて見るとそれに見えなくもないな。
ん? これがパンだとして矢印で袋みたいな絵をさしていると言う事は。
「もしかして、これ小麦粉か?」
『あー』
俺が言うと皆も納得の声を上げる。
「なるほど、小麦粉ですか」
「小麦粉はパンを作るのに必要な材料、この矢印はパンの材料を示していたのか」
「小麦粉ってのはわかったけど、この絵を見るに小麦粉を使うって事なのかい?」
「パンを作る材料の小麦粉を使う、ケイネス、本当に大丈夫なんだよな?」
エドウィンがどこか不安な顔で俺を見る。
俺も同じだよ。
これどんな料理ができんだよって気持ちになってきたよ。
「まあ、とりあえず頼む、この絵はスプーンだな、三個描いてあるから三杯分を入れてかき混ぜるって事か?」
「でしたら、全体にかけて粉がなくなるくらいまでかき混ぜますか、野菜や肉を焦がさないよう弱火にしましょう」
ジョルジュは小麦粉を鍋全体にかけて弱火で粉がなくなるまで混ぜていく。
その間にシオンとラキムは次の絵を見る。
相変わらず見事な連携だよ。
「何かの動物、牛?」
「じゃあ、これはミルクかい?」
二人が見ている絵を見ると、確かに牛と思われる絵と矢印で隣の物は牛から取れる物でミルクを示しているのだろう。
「このミルクを入れてかき混ぜていくって感じだな」
「若、ミルクって確か飲み物のはずなんだけど、それをこの鍋に入れてかき混ぜるの? 野菜や肉にミルクを入れる?」
シオンが怪しい物を見るような顔をしている。
それにエドウィンやラキムもそして粉がなくなるまで混ぜ終えたジョルジュも同じような顔をしている。
俺も同じだよ。
「ミルクを入れてかき混ぜる絵が何個か描かれているが、これは一度に入れずに何度かに分けて入れるって事なのかもな」
「ケイネス様、本当によろしいのですか?」
ジョルジュが俺に確認してくる。
いや、料理人じゃない俺に聞かれてもな。
「とりあえず、やってみない?」
「若が言うならそうするけど」
「正直あたしは怖くなってきたよ」
「では、いきます」
ジョルジュが鍋にミルクを入れてかき混ぜて煮込んでいく。
「む? これは」
するとジョルジュが何かに気づく。
「どうした?」
「それが、ミルクを少しずつ入れて混ぜていったら、液体だったのにトロっとした感じになってきました」
ジョルジュの言う通り鍋を見ると最初は液体だったのにトロっとした感じになっていた。
「本当にトロっとしてるな、けど良い匂いがするな」
そう、確かにトロっとしているのだが匂いを嗅いでみると結構良い匂いがするのだった。
やがてミルクを全部入れてじっくりと弱火で煮込んでいくのだった。
「随分トロっとしたようなものになりましたね」
「だな」
鍋の中をみると白くてトロっとしている何かができていた。
でも匂いは良いんだよな。
「とりあえず、味見しようか」
「そうですね」
「誰が味見するの?」
シオンが一番重要な事を口にした事でその場に沈黙が流れる。
「よし、文句がないように全員で味見をしよう、皆もそれで良いな?」
俺が言うと皆も頷いてジョルジュが味見用の小皿を用意して全員にこの白くてトロっとした料理がいきわたるのだった。
「じゃあ、いくぞ、せーの」
俺の合図と共に全員が一斉に小皿に盛ってある白くてトロっとしたものを飲むのだった。
「ん?」
「おお」
「これは」
「驚いたねぇ」
「こんな事が」
『旨い』
俺達は同じ感想を言うのだった。
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