絵の通りにしたらできた
白い塊が鍋の中でグツグツと煮込んできたので火を止めて次の手順を見る。
「何かに入れてさらに細かくするって感じか?」
「ただでさえ包丁で細かく切ったのに、さらに細かくするのか?」
シルフィスタが疑問に思うのは無理もない、俺だって同じ事を思っている。
「これ以上細かくと言ったら、これを使うしかないですね」
そう言ってルティはある物を出す。
「なるほど、それならさらに細かくできるな」
「ケイネス、これは何だ?」
「ああ、これは果物を細かくさせてジュースにする事ができる魔道具だよ」
「果物をジュースに? そんな事ができるのか?」
「ガルドムにはないもんな、これは当時身分の低い貴族が作った魔道具で新鮮な果物をそのままジュースにしたら旨いだろうなと思って試行錯誤して作ったらできたのがこの魔道具さ、これに切った果物を入れて使うと中で果物を細かく切ってやがて液体状になるんだ、まあ少しだけ果実が残ったりするからそのまま飲んだりする者もいたが僅かに残った果実と一緒に飲むのが嫌な者もいるからついでにこれも作ったそうなんだ」
俺がそう言って手に取ったのはスープなどを盛る時に使うお玉に形が似ているが掬う部分が網目になっている。
「コップの上にこれを置いてその上から入れれば残った果実はこの上に乗って網目からは液体が落ちていくから残った果実を一緒に入れずに済むって事さ、あ、そうか」
説明をしている途中で俺は気づくのだった。
「この白い塊も同じかもしれないな、細かく液体になった部分だけを使うのかもな」
「確かにこの絵も続きを見ると液体と思われる絵は描かれているが、塊の部分は何も描かれていないな、使うのはあくまで細かくした液体だけって事なのか?」
シルフィスタが言うが、多分それで間違いないと俺は思う。
早速魔道具に細かくした白い塊を入れて作動させると白い塊はさらに細かく切られていき液体が出来上がった。
そしてほとんど液体になったその白い塊をコップの上にさっきの網目のお玉を置いてその上から注ぐとわずかに残った白い塊は網目の上に乗り液体は全部コップの中へと入り分ける事ができた。
「で、この後が次のこの絵だな、これはコップでその隣にあるのは横顔か?」
「コップを飲もうとしているのか? いや、コップを飲む事自体は関係ないか、だとしたらこの次にある何かに入れて液体を出しているって事は、コップを口に入れようとしている絵だから、飲み水を飲もうとしているって事か? だとすればこれは飲み水を入れて液体にしているって事か?」
エドウィンは言うが、正直どういう事なのかさっぱりわからん。
「なあ、ケイネス」
考えているとシルフィスタが声を掛ける。
「ん? どうした?」
「これが飲み水だったとしてだ、このひし形みたいなのがそこら辺に描かれているだろ? これって綺麗さを表現しているって事じゃないのか? キラキラみたいな感じで」
「キラキラ? つまり綺麗な飲み水って事か?」
「綺麗な水、あ」
何かに気づいたのかルティがある物を持ってくる。
「これを使えば綺麗な水ができます」
「ああ、その魔道具があったな」
「今度はどんな魔道具なんだ?」
「これは泥水などの汚い水を綺麗な飲み水に変えてくれる魔道具だよ」
俺がそう説明するとケイネスはポカンと口を開けていた。
「は? 泥水を飲み水に?」
「ああ、これは当時子供だった貴族令息が作った魔道具でな、親と一緒に領地の視察に行った時に災害の影響で飲み水が汚くて飲めない状況になっていた場所があってそれをどうにかできないかと思って作ったのがこの魔道具らしい、この魔道具に泥水や毒に汚染された飲めない水を入れると中で余計な物を取り除いて綺麗な水にして出す事ができるらしい、どういう仕組みでそうなるのかと聞かれるとよくわからないが複雑な構造になっていて動力源の魔石が上手い具合に働いてそのようになっているそうだ、とりあえず綺麗な飲み水に変わるという結果が出てるし、とにかくそういう魔道具だと思えば良い」
「なるほど、まあ、作った本人でもないし、これで飲み水に困らないのは良い事だな」
エドウィンは納得するのだった。
「さて、話を戻すと普通なら泥水などを入れるが、この絵の通りなら飲み水を入れるって事だな」
魔道具に飲み水を入れて動かす。
「これでこっちの方のボタンを押すと綺麗になった水が出て来て、後ろのこの部分が取り外せるようになっているからここに水から抜いた余計な物が別の液体となって出て来る、こっちの方は捨てれば良いって事だ」
「ですが若様、これだと味のない水になってしまいましたが、どうするのですか?」
レティの言う通りこの魔道具は飲めない水を飲める水に変えるが最初から飲める水を入れると水にも少なからず味とかがあるのでこの魔道具はその味が余計な物だと判断して飲める水を味のない綺麗な水に変えてしまうから使うのは飲めない水だと決まっている。
「なあ、次の絵を見ると同じ絵が描かれているんだが、もしかしてその味のない水をもう一度魔道具に入れるって事じゃないのか?」
シルフィスタの言うように確かに次の矢印を見るとさっきと同じ絵が描かれていた。
味のない綺麗な水をさらに綺麗にするだと?
「それって危険では?」
ルティが言う。
「聞いた事があるのですが、かつて泥水を飲み水にした時、見た目は綺麗だけど一回じゃ安心できないと言ってもう一回やってさらに綺麗にしましたが、それでもまだ安心できないと言ってもう一度やってさらに水を綺麗にして安心したのかその水を飲んで身体を壊した人がいると言う話があるのですが」
「私も聞いた事があります、余計な物を取り出し過ぎてしまった事で返って身体に悪影響を及ぼしてしまったのではないかと、だからこの魔道具は飲めない水でも飲める水でも一回だけしか使ってはならないと国から注意されたくらいですから」
ルティとレティの話は実際にあった事だ。
やり過ぎてしまうと返って悪くなる。
何事もやり過ぎずほどほどが一番って事だな。
そして俺達は今そのやり過ぎてしまう事をやろうとしている。
「絵の通りにするには、やるしかない」
「若様!?」
「早まらない方が!!」
「もしもの時は俺が責任を取る」
ルティとレティが止めるが俺は構わずにさらに綺麗にした水を入れて魔道具を動かすのだった。
そして今、さらに綺麗になった水とトゲトゲした草から作った液体が入った二つのコップが置かれていた。
「いよいよ残りわずかだが、これは何だ?」
俺達は次の絵の解読を始める。
「何かの生物に見えるな、形的にこれは虫の羽っぽく見えるな、もしかして虫か? そして虫の隣には何か穴がたくさんある何かに見えるが、ん? この虫の触覚だと思われるものが頭だとしたらこっちの下の方は尻尾か? これが尻尾だとしたら尻尾の部分にあるこの尖がったのはトゲか?」
「尻尾にトゲのある虫って言ったら、ハチか? あ、これがハチだとしたらこの穴がたくさんある何かはハチの巣だな、ハチとハチの巣で関連すると言ったら、ハチミツか?」
シルフィスタが言うと全員が納得するのだった。
あれ? ちょっと待てよ。
俺は次に描かれている絵を見る。
「なあ、これがハチミツだとしたら気のせいか? この次の絵、どう見ても白い塊から作った液体と飲み水を二回も綺麗にした水とハチミツを一つのビンに入れているように見えるんだが」
そう、次に描かれている絵はビンだと思う。
そしてその一つのビンの中に三つの何かを入れている絵にしか見えなかったのだ。
「え? これ全部一つのビンに入れるんですか?」
「得体の知れない草から作った液体と飲めないくらいに綺麗にした水に食べられるハチミツを入れる」
「「本当に作って大丈夫な物なのですか?」」
ルティとレティが疑いの目を向けてここまでできた物を見る。
うん、俺もそう思う。
本当に作っても大丈夫な物なのかと。
「シェフィーネ王女、一応聞きますけど、これについての記憶はありますか?」
この絵に描いてあるのが断片的に覚えていると言うので俺は聞いてみた。
もしかしたら違うのかもしれないとわずかな希望を持ちながら。
「混ぜてた」
「混ぜてた?」
「うん、その三つを綺麗なビンに入れて混ぜてた、そしたら完成」
わずかな希望は砕かれた。
本当に入れるのかよ。
しかも混ぜて完成なんだ。
「ここまで来たんだから、やるか」
綺麗なビンに白い塊の液体と綺麗にし過ぎた水とハチミツを入れる。
ハチミツは隣にスプーンと思われる絵が描かれていたのでおそらく入れる量はスプーン一杯分だと思うのでスプーン一杯分のハチミツを入れてビンに入れて混ぜる。
こうしてシェフィーネ王女の描いた絵の通りにしたら何かができたのだった。
本当に何だよこれ?
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