家族での食事
エドウィンへの屋敷案内でちょっとしたあれこれがあったが、無事に終えたので食事の時間となり俺達は食卓へと着いていた。
「ケイネス、エドウィンは何故こんな生気の抜けたような顔をしているんだ?」
「屋敷を案内していたから疲れたんだよ」
「そうか」
シルフィスタはそれで納得してくれた。
正直もうこれ以上エドウィンを追い詰めるのは酷ってものだ。
もうエドウィンの精神はないに等しいからな。
「よし、全員揃ったな、では、我が息子ケイネスが帰って来たのを祝して乾杯!!」
『乾杯ー!!』
親父が飲み物の入ったグラスを上げて掛け声を言うと俺達もグラスを上げて言うのだった。
今日の食事は肉尽くし。
ジョルジュは俺の好きな物と言ったが、かなりの量の肉を用意したんだな。
手で持って食べる骨付き肉が皿の上に山盛りになっているよ。
まあ、うちはたくさん食べるからこれくらい当然なんだけどな。
俺は山盛りになっている骨付き肉を一つ取ってかぶりつく。
うん、旨い。
ガルドムにいる間は我が家の料理が食べられなかったのが少し辛かったが、久しぶりに食べた我が家の料理はやっぱり旨かった。
「お味の方はいかがでしょうか?」
「旨いぞ、やっぱ我が家の料理が一番って奴だな」
「それはようございました、さあ、エドウィン様も遠慮なく食べてください」
「あ、ああ」
促されるがエドウィンはどうも骨付き肉に手を付けようとしない。
「おいおい、どうしたんだエドウィン様? せっかくの旨い肉料理が冷めてしまうぞ?」
リックがエドウィンに言う。
「もしかして、肉料理好きじゃなかった?」
シオンが問うがエドウィンは首を横に振る。
「いや、そうじゃないんだ」
「あ、そう言う事か」
シルフィスタが何かに気づくがあなた仮にも王女なんだから口の中の肉を飲み込んでから話なさいよ。
そんな俺の思いが通じたのかシルフィスタは肉を飲み込んでから話すのだった。
「王族貴族ってマナーとかを大事にするだろ? 当然食事に対するマナーもだ、骨付き肉って食事で出る事なんてないから、ましてや手に持ってかぶりつくなんてはしたない食べ方だから抵抗があるんじゃないのか?」
『あー』
シルフィスタの説明で全員が納得する。
確かに骨付き肉なんて王族貴族の食事で出る事なんてないな、出るとしたら切った肉を焼いてステーキにして出すくらいだし。
「なるほど、そう言う事でしたか、確かに王族貴族の食事で骨付き肉など聞いた事がありませんでした、私とした事が何たる不覚」
ジョルジュが悔しさをにじませながら拳を握りしめる。
「別に良いんじゃないの? ここはガルドム王国でもましてや自分の家でもないんだからさ」
と、ラキムが言うが確かにその通りかもしれない。
「エドウィン、これはこうやって食べるのがマナーだと思えば良い、食ってみろ、旨いぞ」
「あ、ああ」
俺が言うとエドウィンは骨付き肉を取り思い切りかぶりつく。
「どうだ?」
「な、中々噛み応えがあるが、旨い」
「そりゃ良かった」
俺も骨付き肉を一本食べ終わったので次の骨付き肉を取る。
周りでは楽しそうに食事をしている皆の姿があった。
「おお、良い食いっぷりじゃないかエドウィン様」
「どんどん食いな、アンタ育ち盛りなんだから」
「たくさんありますので遠慮なく食べてください」
「お、おお」
リックとラキムとジョルジュに言われてエドウィンは骨付き肉を一生懸命かぶりついて食べていく。
「うん、やっぱり骨付き肉は旨いな」
「シルフィスタ王女は相変わらずよく食べる、私も負けていられないな」
シルフィスタとネロナはお互いにどっちが多くの肉を食べるか競い合うかのようにかなりの量を食っている。
「んんー」
「アニス様はまだそのまま食べるのは無理みたいですね」
「アニス様、食べやすいように肉をお切りしますね」
「むう、悔しいのです」
アニスはまだ骨付き肉をそのままかぶりつけなかったようなのでルティとレティが食べやすいように肉を切る。
アニスは皆みたいにそのまま食べられなくて悔しがっていた。
「カリーナ、ほら」
「ありがとう、シオン」
シオンが肉を皿に盛りカリーナが受け取って礼を言う。
「うまうま」
「全く、もう少し落ち着いて食べなさいよ」
ミスチーは骨付き肉を頬張り、ユーリは上品に食べている。
「がっはっは!! 酒が旨いな、もっと持って来い!!」
「旦那様、この後も仕事があるのでほどほどにしてください」
親父が酒を飲み、ルートは親父が飲み過ぎないように肉を食べながら親父を監視しているようだ。
「まあまあ、ケイネスが帰って来たから食事がいつも以上に賑やかね」
「他の貴族の方達が見たら唖然としますね」
母さんとフレイアは賑やかな食事風景を見ながらも楽しそうに食事をしている。
ああ、本当に帰って来たんだな。
そんな事を思いながら俺は骨付き肉を食べるのだった。
食事が終わりもう寝ようかと思った俺は廊下を歩いているとエドウィンと出くわす。
「よお」
「おう」
俺が声を掛けるとエドウィンも俺に気づいたのか返事をする。
「どうだ? うちの家族」
「何て言うか色々凄いな、と言うかお前若って呼ばれてるのか?」
「ああ、あれか、皆が言うには何かケイネス様より若って感じがするらしくてさ、俺の事をケイネス様って言うのはカリーナとルートとフレイアとジョルジュくらいだな」
「使用人達と一緒に食事なんて驚いたぞ」
「あーやっぱり、使用人達と一緒に食事って珍しく見えるか?」
「当然だろ、貴族の食事なんて使用人達は食べ終わるまで立ったまま待機してるようなものだぞ」
「俺が生まれる前からああだったな、親父が言うには何代か前のリカード家当主が言ったんだ、例えばさ、使用人達が立ったまま待っているって事はさ、俺達貴族が食べ終わるまでは自分達の食事は後になるだろ?」
「そうだな、仕えている家の者達より先に食事をするなんて恐れ多いって感じになるな」
「でもさ、食事ってただ食べるだけじゃなくて今日あった出来事とかを話す家族とかもいるだろ?」
「まあ、そうだな」
エドウィンは曖昧な感じに返事をする。
まあ、エドウィンの家は特に何も話す事がなく静かに食事をする事が多かったからわからないのかもな。
「そんな家族もいるから食事の時間が長くなってしまうと、使用人達もお腹がすくんだから、もしもだが貴族の食事中に使用人のお腹が鳴ったりしたら、どうなる?」
「そうだな、まあ、気になるな」
「だろ? 貴族の中には自分達の食事中にお腹を鳴らした使用人をクビにしたりするんだよな、使用人の分際でとか何とかって」
「あー、ありえないとは言い切れないな」
エドウィンは苦い顔をして答える。
ガルドム王国には実際にそういう貴族もいるんだろうな。
「そんな事もあるから、当時のリカード家の当主は使用人達の事も考えて一緒に食事をしようと決めたんだ、それからかな、うちでは使用人も一緒に食べる事になったのは、それにその当主の言葉は結構気に入ってるんだ」
「どんな事を言ったんだ?」
「食事は皆で楽しく食べるからこそ旨いんだ、これがその時の当主の言葉らしい、お前は今日の食事どうだった?」
「そうだな」
エドウィンは今日の食事を思い返して俺を見て言った。
「使用人との食事も、あんなに騒がしい食事も初めてだが、確かに今までで一番旨いと感じた食事だったな」
「だろ?」
笑って言うエドウィンに俺も自然と笑みを浮かべて言うのだった。
「今日は色々疲れただろ? 明日もシェフィーネ王女に勉強を教えるんだから、遅くならないうちに寝ろよ」
「わかってるよ、おやすみ」
「ああ、おやすみ」
俺はそう言ってエドウィンに手を振り自分の部屋に戻ってベッドの上で眠りにつくのだった。
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