バハムス王国の王族
シェフィーネ王女への勉強はエドウィンに任せて、俺達は馬車に乗りある場所へと向かった。
「着いたな」
その場所とは、バハムス王国の王城だ。
「帰って来たからと言って、わざわざ行かなくても良いのではないか?」
「そういうわけにもいかないだろ、シル、久しぶりに帰って来たんだから、挨拶はしないといけないだろ」
「むう、私はお前と二人きりの時間を過ごしたいんだがな」
シルはどこか不満気だ。
あ、シルとはシルフィスタの事で二人きりの時は俺は彼女の事をそう呼んでいる。
そして王城にはシルの家族がいるので久しぶりに帰って来た俺は彼女の両親、つまり陛下と王妃様に挨拶をしに行くというわけだ。
王城に着き陛下達は部屋で待っているそうなので俺達は陛下達の待つ部屋へと入るとそこには陛下達が座っていたので俺とシルは空いている椅子へと座るのだった。
「帰って来たか、ケイネス」
「お久しぶりでございます、陛下」
俺は礼をして陛下を見る。
この人がバハムス王国の国王陛下である、シルバ・バハムス。
久しぶりにお会いするが、相変わらず何て威圧感を放っているんだ。
歳は四十代くらいのはずなのに衰えているどころか、むしろ増している気がする。
王としての威厳は凄まじいものだ。
弱い者ならこの威圧だけで気を失ってしまうだろうな。
そんな事を思っていると陛下から放たれる威圧感が消え口を開く。
「ガルドムにいる間に少しは腑抜けているのではないかと思ったが、無用な心配だったようだな、いささかも衰えていないな」
口角を上げて言う陛下からはいつの間にか放たれていた威圧感はなくなっていた。
どうやら俺がガルドムに行ってる間に弱くなっていないかを確かめるための威圧だったようだ。
まあ、いつもの事だな。
「父上、私の婚約者をいじめないでくれませんか?」
横ではシルが陛下を睨んでいる。
実の父親に向ける目じゃないよ。
「いや、俺はただお前の婚約者が他国に留学している間に腑抜けていないかを確かめるためにだな、男たるもの婚約者を守れるくらいの強さを持っていなければならぬし、そういう確認も兼ねてだな」
「私の婚約者が信用できないと言うのですか? 少し会わないだけで腑抜けるほどケイネスは弱くないですよ?」
「む、むう、わかったからシルフィスタよ、そんな目で俺を見ないでくれないか、かわいい娘にそんな目を向けられるのは嫌なんだが」
陛下が弱々しくなってる。
王としての威厳がある方だけど、自分の子達には弱いんだよな。
「シル、そんな事言うものじゃないよ、陛下だって父親としてシルの婚約者が大丈夫かどうか確かめるのは当然だろ? 父親として娘が心配なだけなんだ、それがちょっといき過ぎてるだけなんだから」
「おぉ、ケイネス、お前は俺の真意をわかってくれていると思っていたぞ」
先程まで陛下は俺に対して威圧感を放っていたのに対して今は期待の眼差しを向けているよ。
娘に嫌われたくないんだろうな。
「甘い、甘過ぎるぞケイネス、その甘さはお前の良いところでもあるが人によっては厳しくしなければならない時もあるんだ、父上に対してはその甘さは必要ない、むしろ父上なら厳しくしても問題ない」
「フィナーシャ、シルフィスタが俺に厳しいのだが」
「あらあら、あなたったら、シルフィスタくらいになると親に反抗的になったりするものですよ」
隣では王妃様が笑顔で陛下に答えている。
バハムス王国の王妃、フィナーシャ・バハムス。
陛下と同じ四十代くらいのはずなのに四十代とは思えないくらいの美しい見た目をしている。
その美しい見た目から王妃様は実は人間じゃないのでは、と言う噂も流れている。
「あら? ケイネス、今何か私に対して失礼な事を思ってませんでしたか?」
王妃様が笑顔のままこちらを見て言う。
何と言う鋭さ、俺は陛下よりも王妃様の方が恐ろしいと感じる時がある。
「まさか、王妃様は相変わらず美しいなと思っていただけですよ」
「あら嬉しいわね、でもその言葉はシルフィスタに言ってあげなさい、結構嫉妬する子なんだから、ほら」
王妃様に言われて俺はシルを見るとシルは俺をジト目で睨んでいた。
そんなかわいい目で睨むなよ、後で機嫌を取らないとな。
「父上、いつまでも気落ちしていないで、そろそろケイネスからガルドムでの話を聞きましょう」
王妃様の隣の椅子に座っている男性が声を掛ける。
彼がこのバハムス王国の第一王子であり王位継承者のシグフィス・バハムス殿下である。
まだ陛下ほどではないがこの方からも十分な未来の王としての威厳を感じる。
「すまないな、ケイネス、まずはガルドムでの留学ご苦労だな」
「もったいなきお言葉です、シグフィス殿下」
「では、ガルドムでの事を聞かせてくれ、何やら婚約破棄騒動があったと聞いたが、お前の口からも聞きたい」
「はい」
シグフィス殿下に言われて俺はガルドムでの事を陛下達に話すのだった。
「ふむ、シルフィスタから聞いた話と大して変わらないな、ガルドムの第一王子は愚かな事をしたものだ」
「ですが、私はガルドムの第一王子の気持ちもわからなくはないですよ、それにしてもシルフィスタ、ガルドムの第一王子の元婚約者の令嬢に私の最愛の婚約者の事を話すとはな」
「それについては申し訳ありません兄上、しかし、兄上の婚約者が優れているのは事実ではありませんか?」
「それについては異論はないな、私の婚約者は最高だからな」
シグフィス殿下が自慢げに言う。
シルもそうだが、この人も婚約者に対しての愛が凄いんだよなぁ。
まあ、全く愛されないよりはマシかもしれないけど。
「どうやらガルドム王は子育てに関しては上手くできていなかったようだな、王としては優秀なんだがな、話を聞く限りその第二王子は中々優秀な男みたいだ、その第二王子が次のガルドムの王ならガルドム王国との関係も継続して良いかもな、で、その元第一王子が今シェフィーネに勉強を教えているそうだが、大丈夫なのか?」
陛下が俺に問い掛ける。
シェフィーネ王女の事が心配なんだろうな。
「大丈夫ですよ、エドウィンは確かに愚かな事をした男ですが、それでも責任感のある男です、何よりあなたの娘で俺の婚約者である彼女が一応信頼したと認めた男ですからね」
「そうか、まあよい、お前とシルフィスタが認めた男、ここは信じようではないか、だが、もしシェフィーネに何かあった時は、俺の手で終わらせてやる」
陛下がまた威圧を放っている。
頼むぞ、エドウィン。
期待を裏切るような事はするなよ。
お前の命のためにもな。
そんなこんなで俺は陛下達への挨拶を終えてシルと一緒にエドウィン達のいる学園に戻るのだった。
読んでいただきありがとうございます。
面白かったらブクマと評価をよろしくお願いします。




