バハムス王国へ
現在、シルフィスタの妹である第三王女に勉強を教えるため、俺達はエドウィンを連れて馬車に乗りバハムス王国へと向かっている。
久しぶりの故国だから俺も今から楽しみであるが、約一名状況が追いついていない人物がいた。
それは当然エドウィンであった。
「エドウィンどうした? 随分と混乱している顔だぞ?」
「混乱するに決まっているだろ!! 何故私はバハムス王国に行く事になってるんだ!?」
「そりゃ第三王女が学園に通ってるんだから、勉強を教えるならお前も行くしかないだろ?」
「私は廃嫡されて幽閉されている身だぞ、こんな事して許されると思ってるのか?」
「バハムス王国じゃそんなの大した問題じゃないさ、ただできるかできないかだ、それにお前を連れ出す許可だって取ってあるぞ」
「何!?」
「弟に言ったら速攻で許可してくれたぞ」
「エルリックがか!?」
「ああ、エルリック殿が言ってたぞ」
『兄上はいつまでもこんな所にいるべき人ではないんです、もっと大きく羽ばたくべき人なんです』
「って、相変わらずお前の事を尊敬しているみたいだな、それで陛下と王妃にも頼んでお前をバハムスに連れて行く事を許可してもらったのさ、陛下と王妃も何かしらの形でお前に協力できる事はしたいのかもな」
「許可が取られていたのか、通りで私が城を出ても騎士達が何も言わないと思ったら」
「ケイネス、見えてきたぞ」
シルフィスタが指差す方を見ると王国の城が見えてきた。
懐かしき故国だ。
ちなみにバハムス王国とガルドム王国の距離は馬車で大体三、四十分くらいの距離である。
バハムス王国の入口に着き騎士達による検問が行われているので俺達はその順番待ちである。
その間俺はエドウィンと話していた。
「いやー、お前をバハムス王国に連れて行くのを諦めてなかったが、まさかこんな形で連れて行くなんて思わなかったな」
「お前の思い通りになったってとこか?」
「まさか、本当にただの偶然さ、ただそんな偶然が起きたって事は、お前はやはりバハムスに来るべき運命だったって事だな」
「運命か、それで私の人生も何か変わるのか疑問だな」
「お、そろそろ私達の番だな」
シルフィスタが言い見てみると確かに俺達の番が来ていた。
まあ、シルフィスタがいるからすぐに入れるだろうな。
すると騎士の一人がこちらに来たのでシルフィスタが窓を開け顔を見せると騎士は敬礼をする。
「これは失礼しました、シルフィスタ第二王女」
「うむ、ご苦労だな、お前達がしっかり仕事をしてくれるからこそこの国の治安も守られる、感謝しているぞ」
「もったいなきお言葉です」
「それと今日は客人も連れているんだ」
「お客人ですか」
騎士はエドウィンを見る。
「この国が初めてでしたら、こちらを」
そう言って騎士は水晶玉を取り出す。
「ああ、わかっている、エドウィンこの水晶玉を手に取ってくれ」
「ん? ああ」
よくわからないエドウィンはシルフィスタの持っている水晶玉を受け取るが水晶玉は特に何の反応も示さない。
「問題なさそうですね、では、お通りください」
騎士の許可が出たので水晶玉を返して俺達はバハムス王国へと入るのだった。
「さっきの水晶玉は何だ?」
「ああ、あの水晶玉は持った者が過去に犯罪を犯したかどうかわかる事ができる魔道具だ、犯罪を犯した事がなければ何も反応しないが、もし過去に犯罪を犯した事がある者なら水晶が反応して黒く染まるんだ、ちなみに今はさらに改良されてこれから何か良からぬ事や犯罪を起こそうとする者でも反応するようにできているんだ」
「そんな魔道具があるのか、ガルドムにはないから念入りな検査をしても犯罪者が入る事がある、こんな凄い魔道具を生み出した者がいるとはな」
「ああ、この魔道具を生み出したのは平民の少年でな、その腕を買われて現在は王宮で魔道具を作るのを専門にしている部署に入っている」
「平民が作ったのか!?」
エドウィンが驚く。
やはり平民が生み出した実績を素直に認めるのは珍しいのかもな。
大抵は目立つ平民は貴族に狙われる可能性があるって聞くからな。
「何度も言うが、バハムスは実力主義だ、こんな入口で驚いていたらこれから大変だぞ」
「そ、そうだな、わかっていた事だが、いざ現実で見るとな」
「なるほど」
バハムス王国へと入り馬車専用の道へと入る。
「この馬車が通っている道、人が歩いている道より少し段差が低い気がするんだが」
「ああ、これは昔、平民の者が考えた事らしいんだが、街の真ん中の部分の段差を低くする事でそこを馬車専用の通り道にして両脇は人が通る道と分ける事にしたんだ」
「何故そんな事を?」
「俺達が生まれるよりも前なんだが、馬車による事故が多かったらしくてな、その事故のせいで子供達が亡くなったりする事も少なくなかったんだ、だから当時の平民の者が何とかしたいと思って思いついたのが真ん中の段差を低くして馬車専用の通り道にする事だったそうだ、おかげで事故が激減したんだけど、それでもうっかり転んだりして馬車専用の道に入って事故が起きたりしたんだが、そこで考えたのがあの柵だよ」
「そう言えば気になっていた、人が通っている道に牧場とかで見る柵があるから、あれは何の意味があるのかと思ったが、あれのおかげで子供や大人が転んだりして馬車専用の道に入らないようにしているんだな?」
エドウィンの問いに俺は頷いてから続きを話す。
「ああ、あの柵のおかげで子供達が道に飛び出す事もなくなって事故が減ったそうだ」
「道の幅は広いのにやけに片方に寄ってるのは何故なんだ?」
「それは、ああいう事だ」
俺が指差すとちょうど向かいから別の馬車がやって来て俺達の馬車とすれ違う。
「わかったか?」
「ああ、そういう事か、ガルドムでは馬車専用の道などないからいつも道の真ん中を進んでいる、そのせいで向かいからも馬車が来たら、必然的に身分の高い者が乗っている馬車の方を優先して通らせなければならないから、その分の時間が取られてしまう、だがバハムスの馬車専用の道ならそれがないから止まらずに進めるのか」
「そうだ、おかげで馬車での移動が楽になったと荷物を運ぶ多くの商人達が喜んでるよ、商人の荷物には早く届けなければならない物も扱ってるからな」
「なるほど、それを平民が考えたのか、その時からこの国は実力主義だったんだな、身分など関係なく実力や実績を素直に認め称える、それも王族貴族には必要なものなのかもしれないな」
「二人共、話しているところ悪いが着いたぞ」
シルフィスタが言うと馬車が止まる。
俺達は目的の場所へと到着するのだった。
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