エドウィン、頼まれる
「エドウィン、勉強を教えてくれないか」
エドウィンのいる離宮の部屋で扉を開けたシルフィスタが言う。
エドウィンもさすがに慣れたのか扉を開けて言ってきたシルフィスタを気にせずに聞く。
「勉強? 私がシルフィスタ殿にか?」
「いや、私ではなく、私の妹にだ」
「妹? 妹と言う事は、バハムス王国の第三王女か?」
「そうだ、私の一つ下の妹だ」
「私達は全員年齢が同じだから、一つ下と言う事は十六か、エルリックの一つ上だな」
「そうだ、その十六の妹に勉強を教えてやってくれないか?」
「教えるのは良いが、何故私なんだ? バハムス王国の教師とかに教えてもらえば良いのではないか?」
エドウィンは尤もな事を言う。
確かにバハムスの教師達に教えてもらえば良いんだけどな。
「お前の言う事は尤もだが、そうもいかない事情がある、妹は少し変わったところがあるんだ」
「変わったところ?」
「ああ、勉強を教えてほしいと言ったが、妹は別に勉強ができないわけじゃないんだ、教えれば普通に覚えられるし、習った事を質問しても普通に答えられる」
「何も問題ないじゃないか、それで勉強を教える必要があるのか?」
「普通に勉強ができていれば頼んだりはしない、そこで問題となるのがさっき言った少し変わったところなんだ」
「その変わったところとは何なんだ?」
エドウィンの問いにシルフィスタは少し頭を掻いて困ったような顔をしながら答える。
「そのだな、妹は突然何かを書き始めるんだ」
「書き始める?」
「ああ、突然何かが乗り移ったのか、紙とペンを持って何かを書き始めるんだ、書き終えたものを見るとな、よくわからないラクガキが描かれてるんだ」
「ラクガキ?」
「そうだ、どう見てもラクガキにしか見えないものを突然描き始めるんだ、しかもそれが時間に関係なく突然起きるんだ」
「時間に関係なく突然?」
「ああ、朝だろうと夜だろうと関係なく突然起きるんだ、最初はその異常な行為に何かの魔法か呪いでも掛けられてるんじゃないのかと思って魔術師や呪いの専門家に調べてもらったが、何も異常がなく原因がわからぬまま色々考えた結果、妹が持つそういう体質か何かなのではないかという結論になった」
「ふむ、不思議な事もあるものだな、それでその体質と勉強で何が問題なんだ?」
話を聞いてもよくわかっていないエドウィンは首を傾げて問う。
「エドウィン、突然起きると言っただろ?」
「ああ」
「朝でも夜でも関係なく突然起きる、どんな時間帯だろうと関係なくだ」
「どんな時間帯だろうと、まさか」
俺が言った事でエドウィンは何かに気づく。
「学園の授業中やテスト中でもその状態が起きるのか?」
エドウィンの問いに俺とシルフィスタは無言で頷く。
「そうだ、授業中でも急に何かのラクガキを描き始めて、テスト中ではテスト用紙の裏にラクガキを描き始めるんだ、しかもそれをしている最中は集中力が凄まじいのか、いくら声を掛けても反応しないし、止めようとしても止められないんだ、止まる方法があるとしたら、そのラクガキを描き終えた後なんだ」
「物凄い集中力なんだな」
シルフィスタの話を聞いたエドウィンは会ってもいない第三王女がある意味凄い人物だと思ってるんだろうな。
「物凄い集中力ではあるんだけど、それが今問題になっているんだ、テスト中とかで起きて時間内に問題が解けなくて点数が届かずに再テストを受ける事もあるが、その再テスト中でもその状態が起きてしまって、挙句の果てには朝にその状態が起こって遅刻する事も何度かあったんだ、学園側も王女と言えどこうもその状態が起きてしまっては他の生徒達の授業の邪魔にもなってしまう、かと言って勉強ができないわけでもなく特に何か問題を起こしているわけでもないのに退学にさせるのもどうかと学園の教師達も困っているってところなんだ」
「なるほど、それで現在第三王女はどのような状況なんだ?」
そこからは俺が説明をする事にした。
「第三王女は現在学園の特別クラスに通っている、何かしらの事情があって勉強できない者達のために作られたクラスなんだ、そこでは自分で勉強したりしている、今のお前がこの部屋でしているような感じだ」
「なるほど、それで何故私に第三王女の勉強を?」
「特別クラスは何も自分で勉強するだけでなく個別で教師を呼んで勉強を教えてもらう事もできるんだ、特別クラスで勉強を教えるのは別に教師の資格を持っている者じゃなくても良い、同じ学園の生徒や学園外友人や知人が教えても問題ない、特別クラスに入った者達の中には教師ではなく友人や知人から教えてもらった方が成績が上がる者もいたからな」
「なるほど、だが私は第三王女との関わりはないぞ? それなのに私に頼むのか?」
確かにエドウィンは第三王女との関わりはない、だがエドウィンにしか頼めない事なんだ。
「エドウィンに頼みたいと思ったのにはちゃんと理由がある、第三王女に何人かの教師や成績優秀の者に勉強を教えるように頼んだんだが、ラクガキを描くという状態になってしまったせいでその分の勉強ができなくなってしまって教える側が時間の無駄になってしまうんだ、教える側だって予定があるんだからな、だから長続きする者がいないんだ」
「なるほど、確かにそうだな」
「だがエドウィン、お前には時間があるだろ? 学園も退学になってずっとここで勉強をしている、正直暇だろ?」
「まあ、暇だから勉強をしているな」
「そう、暇だからこそ時間がたくさんあるという事だ、お前なら第三王女がラクガキを描く状態になっても特に時間を気にする事もないから問題なく教えられると思うんだ」
「まあ、ここに住んでから勉強やお前と話す事以外する事がないな」
「お前なら根気強く教えられる精神があると思うし、何より信頼できる者に頼んだ方がシルフィスタも安心すると思ったんだ」
「私が信頼できる?」
エドウィンが疑問の声を上げるとシルフィスタが頷いて言う。
「そうだ、知り合いでたくさん時間があって信頼できる者という条件を考えたら、エドウィン、お前しかいないと思ったんだ」
「私は既に廃嫡された身だ、そんな私が他国の王女に勉強など教えても良いものなのか?」
「バハムス王国はそんなの気にしない、何なら過去に成績が優秀な平民が特別クラスにいた王族や高位貴族の者に勉強を教えたという事例もあるぞ」
「平民が王族や高位貴族の者に勉強を教える!?」
シルフィスタの言葉にエドウィンは目を見開き驚く。
ガルドム王国じゃ考えられない事だからな、平民が王族や貴族に勉強を教えるなんて。
「バハムス王国は実力主義だからな」
「そう言えば、そうだったな」
「それでどうする? 俺達としてはお前を信用してるから頼んでるんだが」
「そこまで言われたら無下にできないな、わかった、私もちょうど一人で勉強するのに飽きていたしな」
「よし、決まりだな、じゃあ、早速行こうか」
「ん? 行くってどこにだ?」
「バハムス王国に決まっているだろ?」
「はあーっ!?」
エドウィンが驚きの声を上げるがそんなのお構いなしに俺達はエドウィンを連れてバハムス王国へ向かうのだった。
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