教育について
「確かに、私は父と母から厳しく育てられた」
陛下が自身の受けた教育を話し出す。
「その時は後継者が私だけだったから、王になるためにはこれくらいしなければならないんだと信じて疑わなかった、だからこそエドウィンにも同じように厳しくしたんだ、それが王になる事に必要な事だと信じて疑わなかった、だからこそ教育係にも厳しくするようにと伝えたんだ」
「そのせいで兄上はこうなってしまったではないですか、厳しくする事だけが全てではないでしょう、私の時には何故厳しくせずに誉めたりしたのですか?」
「それは、わからなかったんだ」
「はい?」
陛下の言葉にエルリックは首を傾げる。
「私には兄弟が一人もいない一人っ子だった、二人目に関してはどう育てれば良いのかわからなかったんだ、それである日の会議で子育ての話になってな、そこで最近は厳しくしすぎるのは良くないと言う話しになってな、それでエルリックは褒めて育てる事にしたんだ」
「なら何故それを兄上にもしなかったんですか!!」
エルリックは声を上げて陛下に問う。
確かにそうだ。
褒めて育てる事が良いと聞いたのならそれをエドウィンにもすべきだ。
「それは」
陛下は言葉に詰まる。
「もしかしてだが、ガルドム王国の王よ、あなたはエドウィンなら大丈夫だと勝手に思い込んでいたのではないのか?」
黙って聞いていたシルフィスタが口を開く。
「どう言う事ですか?」
「親が勝手に期待しているみたいな感じだな、私の子ならこれくらいはできるだろとか、私の子なら問題ないだろとか、確かな根拠も何もないのに何故か自分の子なら絶対に大丈夫だと信じて疑わないようなそんな感じだ」
エルリックの問いにそう答えるシルフィスタ。
「おそらくだが、あなたもエドウィンと同じように厳しく育てられた、だがそのおかげで立派な王となられた、自分が大丈夫だったのだから自分の子であるエドウィンも自分の時と同じように厳しく育てれば立派な王になるだろうと勝手に決めつけていたのではないか? どれだけ厳しくしても自分の子だから問題ないと勝手に思い込んでいたのではないか? だから特に褒める事はしなかった」
シルフィスタが言った後で陛下の方を見ると陛下は何も言わずに黙っている。
「父上、まさか本当にそう思っていたのですか?」
エルリックの問いにも何も答えない。
沈黙すると言う事は、そう言う事なんだろうな。
「父上、兄上は父上とは血が繋がっていても父上とは別人なんですよ!! 父上とは違う人間なんですよ!! 似ている部分はあっても全部が全部父上と同じなわけがないじゃないですか!!」
「そうだな、エドウィンは私ではない、一人の違う人間だ、だが私はあの日まではそうだとは思わなかった、私もエドウィンと同じように厳しくされても努力を怠らなかった、だから大丈夫だと本人がどう思っているのかも聞かずに勝手に決めつけていたのかもしれない、そう思い込んでいたのかもしれない」
エルリックの問いにそう答える陛下だがエルリックにとっては納得のいかない答えなのかもな。
エルリックは王妃にも言うのだった。
「母上も母上ですよ、おかしいと思わなかったのですか? あまりにも兄上に厳しすぎるのではないかと」
「思わなかったわけではないわ、確かにエドウィンに厳しいのではないかと、たまには褒めても良いのではないかと思った事はあるわ」
「なら何故それを父上に言わなかったのですか!!」
「私もそのように育てられたと言えば良いのかしら、女は男のする事に余程の事でない限りむやみに口をはさむものではないと、王妃教育でも先代の王妃様からそう教わったわ、現に陛下の手腕でこの国は良くなっている、だからこそ陛下のやり方で大丈夫だと思ってしまったのよ」
「だからって」
エルリックは片手で頭を押さえている。
陛下と王妃にも理由があったが、それで納得するかどうかはまた別の話だしな。
言い分はわかったがそれでどうするのかと聞かれたら答えは一つしかない。
「エドウィン、お前はどうしたいんだ?」
「私か?」
俺はここまで黙って聞いていたエドウィンに問うと全員がエドウィンを見る。
そう、最終的にどうするかはエドウィン自身が決めなければならないんだ。
「陛下と王妃様がお前に厳しくしていた理由は聞いただろ?」
「あ、ああ」
「聞いた上でお前がどうするかだ」
「私がどうするか」
「そうだ、色々話したが結局のところ最終的にどうしたいかはお前が決めなければならない事だと思うんだ、それで陛下と王妃がお前に対しての教育について聞いたが、お前は今後どうしたい? 皆で家族としての時間を取り戻したいか? それとも」
俺はその先を言わなかった。
俺が言うべき事じゃないだろう。
それはエドウィンもわかっていたのか、俺を見て頷いたエドウィンは陛下と王妃の方に顔を向けるのだった。
「父上、母上、私が今思っている事を正直に言います、今の私は、あなた達ともう会う気はありません」
エドウィンは陛下と王妃の目を見て言うのだった。
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