家族での話し合い
「父上、母上、これはどう言う事ですか?」
エルリックの低い声が部屋内で響く。
この部屋には現在エドウィンと弟のエルリック、そしてこの二人の両親でありこのガルドム王国の陛下と王妃がいた。
さて、何故このような状況になったのか、それはエルリックとの面会の時にまで遡る。
「兄上、父上母上と今すぐ面会をしましょう」
「え?」
突然エルリックが低い声を出したかと思うと今度は二人の父親と母親、つまり陛下と王妃との面会を提案してきた。
突然の事にエドウィンは目を見開いている。
俺も状況が呑み込めていないよ。
「父上母上と今すぐ話をする必要があります、私も聞かなければならない事がありますので」
「え、エルリック、急にどうした? 何をそんなに怒っているんだ?」
「怒っている? ええ、怒っていますとも、父上と母上にね」
うわぁ。
誰が見てもわかるくらい滅茶苦茶怒ってるよ。
一体何があったって言うんだ。
そう思っていると部屋の扉が開く。
「ケイネス、今帰ったぞ」
扉を開けたのは我が愛しの婚約者のシルフィスタと彼女の観光に付き合って買い物袋を持っているメイドのカリーナであった。
「ん? 何だ、面会の最中だったか?」
「シルフィスタ様、さすがにノックをすべきかと」
「む、そうだったな、それよりも、そこにいるのはガルドム王国の第二王子とお見受けするが」
「初めまして、シルフィスタ・バハムス第二王女、ガルドム王国第二王子のエルリック・ガルドムと申します」
「おお、やはりそうであったか、バハムス王国第二王女、シルフィスタ・バハムスだ」
二人は挨拶をする。
正直このタイミングでシルフィスタが来てくれたのは良かった。
さすがにこの空気はマズかったからな。
エドウィンも心なしか安堵しているよ。
「それで、お前達何を話していたのだ?」
「ああ、それがだな」
俺はシルフィスタにこれまでの事を説明する。
「ふむ、なら簡単な事だ、思い立ったら即行動、第二王子の言う通り今すぐ王と王妃と話をすべきだろ」
「いや、でもエドウィンの心の準備とか」
「役者が揃っているならまとめてやった方が早いだろ? ちょうどお土産に買ったお茶とお菓子もある、ちょっとしたお茶会で話し合えば良いだろ、そうと決まればカリーナ、お茶とお菓子の準備をしてくれ」
「かしこまりました」
こうして俺と当の本人であるエドウィンは置き去りにされてしまうのだった。
そして現在の状況に戻り、腕を組みながら眉間にしわを寄せて明らかに怒っているエルリックと向かい合って陛下と王妃が座っていて、エルリックの隣にはエドウィンが座っている。
俺はそんな四人の間に座っていてその俺の隣ではシルフィスタがお茶を飲んでいて、その俺達の後ろにはカリーナが立って控えていると言った感じである。
「父上、母上、私は言いましたよね? 兄上の様子が何かおかしいから兄上と一度腹を割って話をしてほしいと、兄上と家族の時間を作って兄上の様子をしっかり見てほしいと、私はそうお二人に言いましたよね?」
「う、うむ」
エルリックの問いに陛下が答える。
「私は兄上の邪魔になる連中を排除するために証拠集めなどを行っていたので、兄上と会う事が二年間ありませんでしたが、その間私は父上と母上がちゃんと兄上と話をして兄上の心の状態をどうにかしていると思っていたのですよ? 兄上が婚約破棄をした時、私はお二人が兄上と話をした時にはもうすでに手遅れな状態になっていて、それで父上母上が何とか説得をしたが兄上を止める事ができずにあの日、あのような事をしてしまったのだと思っていました」
「うっ」
エルリックの言葉にエドウィンが頭を抱える。
あの日の行動がこいつにとってトラウマになってないか?
俺は何も言わずにエドウィンにお茶を飲むように促すのだった。
今回のお茶で使われている茶葉は心を落ち着かせる効果の香りを出しているのでこれで少しでもエドウィンの心を落ち着かせる事にした。
しかし、エルリックや陛下や王妃は落ち着けない状況のようだ。
「兄上から話を聞きましたが、父上母上と話をしていないと申していました、家族として話す時間すらなかったと」
「いや、ちゃんと話はしたぞ」
エルリックの言葉に陛下は反論する。
「話をした?」
「ああ、私はちゃんとエドウィンと話をしたぞ、なあ?」
「ええ、確かに話をしていました」
陛下が答え王妃に向くと王妃も頷きエドウィンと陛下が話していた事を言う。
どう言う事だ?
エドウィンは話をしていないと言うのに二人は話をしたと言う。
どちらかが嘘をついているのか、あるいはどちらも本当の事を言っているのか。
「兄上、父上とは話をしなかったと言っていますが、本当に話をしなかったのですか?」
「ああ、確かに話らしい話などしなかったぞ」
エルリックの問いに答えるエドウィン。
見た感じエドウィンが嘘をついているようには見えないな。
かと言って陛下と王妃も嘘をついているようには見えない。
本当にどうなってるんだ?
「いや、話をしただろ?」
「いや、いつですか?」
「食事の時間とかに私がお前の最近の様子はどうかとか聞いただろ? その時に話をしただろ?」
「食事の時・・・・・・え? もしかして、あの時の事?」
陛下に言われたエドウィンは思い当たる節に気づいたようだが、どこか腑に落ちない顔をしていた。
「エドウィン、思い当たる節があるなら、その時の会話を話してみたらどうだ?」
「あ、ああ、そうだな」
俺がそう言うとエドウィンはその時の会話を話すのだった。
「あの時、確かに食事の時間で父上と話をしたが、その時の会話は」
『エドウィン』
『はい』
『最近の調子はどうだ?』
『別に、何も変わりありませんよ』
『そうか』
「って感じで終わって、それ以来特に父上母上と話らしい話なんてした事はなかったような気が」
エドウィンの話を聞いて俺は思った。
マジかよ、と。
俺は何気なくエルリックを見ると、彼はわなわなと震えていて次の瞬間思い切り机を叩いて言い出すのだった。
「父上!! それだけしか話していないのですか!! そもそもたったそれだけの会話で何故終わらせるのですか!!」
「私は調子がどうか聞いたんだ、それでエドウィンが何ともないと言ったのでエルリックの思い過ごしかと思ったんだ」
「いや、それにしても話が短すぎるだろ」
ここでシルフィスタが陛下に物申すのだった。
「調子を聞かれて何ともないと言うのは大抵何かがあってそれを無理に隠している定番だぞ」
「そ、そうなのか?」
「そうだ、そもそも何故一回聞いてそこで終わるんだ? その後に本当に大丈夫かとか最近婚約者のアンリエッタとの仲が著しくないかとか聞くべきではないか、それでエドウィンが何か反発するような事を言えば少なくとも何かおかしいと気づけたはずだ、そうでなくとも調子を聞いた時のエドウィンの反応を見れば気づけたはずだ、聞いた時にエドウィンの反応をちゃんと見たのか?」
シルフィスタの問いに陛下と王妃は黙って何も言わない。
これはもしかして。
「あの、陛下も王妃もエドウィンに話したと聞きましたが、その時ちゃんとエドウィンの顔は見てましたか? エドウィンの目を見てましたか?」
「いや、見ていないな」
「王妃様は?」
王妃にも問うが王妃も陛下と同じように首を横に振る。
「あの、お二人共仕事とか外交とかで相手の顔を見ないで会話をしているわけじゃないですよね? 会話をする事で相手の様子や目の動きを見て相手がどのような人間なのか、今どのような状態なのかある程度わかると思うのですが、何故それを自分の子供にしなかったのですか? 仕事でそれが当たり前のようにできてるのなら自分の子供にそれをやるなど難しくもないですよね?」
「うむ、そうだな」
俺の言う事に陛下と王妃は言葉に詰まっている感じだ。
仕事ではしていて自分の息子にはそれをしない。
何故そうなるんだ?
俺は考えを巡らせる。
「・・・・・・いや、まさかな」
俺は一つの考えに思い至る。
まさか、これって事はないよな?
そう思いながらも俺は聞かずにはいられなかった。
「あの、陛下」
「何だ?」
「もしかして、先代の王と王妃、つまり陛下の父上と母上はそのように陛下を教育していたのではないですか?」
俺がそう言うと陛下は目を見開く。
あ、この反応やっぱりそうだったのか。
「ケイネス殿、どう言う事ですか? 何故そこでお爺様とお婆様が出て来るのですか? お爺様とお婆様はもう亡くなられていますが」
「いやさ、陛下と王妃様って仕事はしっかりとこなしているじゃないですか? それって相手の様子を窺ったり相手の顔を見たりして相手を見定めたりする事ができているって事ですよね? でなければガルドム王国と関係を持ちたい国なんてありませんよ、そう言うのって意外と人との信頼関係を築くのが大事なのですから」
「ええ、その通りです」
「仕事でちゃんと人との接し方ができてるのに、何故息子であるエドウィンにはそれができていないのか考えてみた結果、陛下の父上と母上がそのような教育をして育ったからじゃないのかと思ったんですよ、ほら、よく言うじゃないですか、子は親の背中を見て育つって」
少し無理があるかなと思ったが、仕事ではエドウィンに必要だった行動ができてるのに子育てでそれができてなかった理由を考えると陛下が親からそのように育てられたって言うのが一番自然に感じるんだよな。
「なるほど、父上答えてください、お爺様とお婆様からそのように教育されたのですか?」
エルリックが陛下に問う。
「ああ、そうだな」
陛下は話すのだった。
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