第二王子と謝罪
弟である第二王子が来る十分くらい前にエドウィンと一悶着あったが、第二王子が来た事により俺達は彼を部屋に入れた。
そして現在、エドウィンとガルドム王国第二王子が向かい合って座っているのだが。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
いや、またかよ。
ウィスト嬢の時と同じようにお互いに何も語らずに五分くらい経過していた。
ウィスト嬢の時との違いがあるとするなら、シルフィスタ達がおらずに三人しかいない事、そして今日の天気はこれでもかと言うくらいに晴れている事である。
向かい合っている二人の間に座っているが俺はエドウィンの方を見た。
「・・・・・・」
直前になって第二王子に会う事を拒んでいたからか、極度の緊張で凄い強張った表情をしてるよ。
次に俺は第二王子の方を見る。
「・・・・・・」
対して第二王子の方は特に変わらない表情をしている。
この人がガルドム王国第二王子のエルリック・ガルドム。
天才と言われている王子でガルドム王国の後継者でありウィスト嬢の婚約者。
見た感じは好青年と捉えてもおかしくない感じだな。
エドウィンの話では人を疑いの目で見る事ができないために貴族の汚い部分を知らないらしいが。
うーん、何だろうな。
何か違和感を感じるんだよな。
疑問に思いつつも俺はエドウィンが気になったので彼の方に顔を向ける。
「・・・・・・」
すると今にも魂が抜け落ちそうな顔をしていた。
おいおいおいおい。
俺はエドウィンの身体を揺するとエドウィンはハッとして俺を見る。
正気に戻ったエドウィンを見て俺は小声で話し掛ける。
「おい、何やってんだよ、何か喋れよ」
「しかし、何を喋れば良いのかわからないんだ」
「何でも良いだろ、とにかく喋れよ」
「わ、わかった、エルリック」
「はい」
「その、今日は良い天気だな」
「はい、そうですね」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
おい、何だよこれ。
するとエドウィンが俺に小声で話し掛けてくる。
「おい、どうするんだ? 会話が終わったぞ」
「それはこっちが言いたい事だわ、何だよ、今日は天気が良いって、今まで話した事ない奴と二人きりになった時の状況かよ、相手弟だろ?」
「そんな事言われても、正直今弟に恐怖を感じているんだが」
「兄が弟に恐怖を感じてどうするんだよ」
「なら見てみろ、エルリックのあの顔を」
「ん?」
エドウィンに言われて俺は第二王子の顔を見る。
「別に普通な好青年な顔だぞ」
「よく見ろ、あんな今にも私に襲い掛かって来そうな顔を、絶対私に対して怒ってるぞ」
「お前にはどんな顔に見えてるんだよ」
ホントにどんな顔に見えてるんだよ。
どっからどう見ても好青年な優しい顔つきをしているぞ。
こいつ極度の緊張状態と相手が絶対に怒ってるって思い込んでいるから、何か第二王子がとんでもなく恐ろしい顔に見えてるみたいだな。
正直どんな顔だよ。
「あの」
すると第二王子が俺に向かって話し掛けてきたので俺は第二王子の方を見るのだった。
「はい、何ですか?」
「ケイネス・リカード殿ですよね?」
「あ、はい、ケイネス・リカードです」
「話は聞いています、兄上の話し相手になっていただいてありがとうございます」
「あ、いえ、そんな」
第二王子が頭を下げたので俺も頭を下げる。
「あれほど兄上が父上達との面会を断っていたのに今回こうして兄上と面会する事ができました、あなたが兄上の相手をしてくれた事で兄上がその気になってくれたと聞いています、アンリエッタも兄上と話せた事で今まで見た事がないくらいスッキリとしていました、あなたが兄上を変えてくれたのですね」
「そんな、俺はただ彼と話をしただけです、最終的にエルリック第二王子と話をしようと決めたのは彼ですから、俺は特に何もしていませんよ」
「ご謙遜を、それと私の事はエルリックで構いません」
「あ、なら俺もケイネスで良いですよ」
「では、ケイネス殿と呼ばせてもらいます、本来他国のあなたにここまでの事をする義理はないのに、我々はそれに甘えてしまってていて、情けない限りです」
「俺がしたくてやっただけですよ、そうですね、それっぽい事を言うならあの時の騒動をあなた方の国の問題なのに関係ない他国の俺が好き勝手かき回してしまった事への責任を取るためのものと思っていただければどうですか?」
「そこまで責任を感じる必要はありません、あなたには多大な恩ができてしまいましたので、力になれる事があれば遠慮なく言ってください」
「彼との話を許可してくれるだけでも十分ですよ」
うーん、何だろう。
エドウィンが言っていたエルリックと俺が今話していた彼とのイメージが何か違う気がするんだよな。
疑問に思いながらもエドウィンを見ると、お前、何青褪めてんだよ。
「エルリック殿、俺との話よりも彼と話をしに来たのではないのですか?」
俺はエルリックとの話をやめてエドウィンと話をするように促すのだった。
「兄上」
エルリックはエドウィンを見るが肝心のエドウィンは黙って俯いている。
俺はそんなエドウィンにまた小声で話し掛ける。
「おい、いい加減にしろよ、ここまで来て何も話さないのはなしだぞ」
「そ、そうだな、すまなかった、よし」
エドウィンは両手で自分の両頬を勢いよく叩く。
「あ、兄上」
「エルリック、すまなかった」
驚いているエルリックに構わずエドウィンは頭を下げて謝罪する。
「兄上!?」
「何も言わずに聞いてくれ、私は愚かな事をした、アリンス嬢と浮気をしてお前の婚約者であるウィスト嬢にありもしない冤罪を被せようとした、それだけじゃなく他国の留学生がいる場所でたくさんの醜態を晒し、結果お前に迷惑を掛けてしまった、お前に会いたくなかったのは、お前が嫌いだからじゃない、私はお前の誇れる兄でいたかった、だが今の私はお前に誇れる兄でも何でもない、こんな惨めな私の姿をお前には見られたくなかった、私は弱い人間なんだ、こんな私にお前が怒りを覚えているのはわかっている、だから先に謝罪をしておきたかったんだ、許してもらうつもりはない、私はお前の思っている事を全て受け入れる、さあ、言ってくれ」
「兄上、では言わせていただきます」
何を言うのか全くわからないが、エドウィンは怒られたり、罵倒されたりする覚悟だろうな。
この話が終わったら、とりあえず慰めよう。
俺がそう思っているとエルリックが話し出す。
「兄上、申し訳ありませんでした!!」
エルリックはそう言って頭を下げるのだった。
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