弟と話す
「弟と話したいと思う」
ウィスト嬢との会話から少しして、エドウィンは今度は自分の弟、つまりガルドム王国第二王子との会話を望むのだった。
「次は弟にするのか?」
「ああ、この間ウィスト嬢と話した時に弟の話が出たから、そしたら次は弟と話したいと思ってな」
「そうか」
エドウィン曰く、ガルドム王国第二王子は一度教わった事や読んだ本の内容を覚えられる天才であり、現在婚約解消をしたウィスト嬢の新たな婚約者でもある。
だが人を疑いの目で見る事をしないので貴族の汚い部分がわかっていないらしい。
「なあ、エドウィン、弟との仲は悪くないと言ったが、最近会ってないんだろ? 具体的にはどれくらい会ってないんだ?」
「そうだな、少なくとも二年くらいは会ってなかった気がするな」
「ん? なあ、お前は弟の事を嫌いじゃないと言ってるが、弟がお前との面会を望んでいるのって、お前に対して文句を言いたいんじゃないのか?」
「え?」
俺が言うとエドウィンが全く予想していなかったかのような顔をして驚く。
いや、そんな予想外みたいな顔するなよ。
「いや、普通に考えたらわかるだろ、婚約者がいる身でありながら別の令嬢に乗り換えるような事をしたんだから」
「う」
「おまけに現在は自分の婚約者となったウィスト嬢に冤罪を被せて断罪しようとした、しかも証拠とか一切調べずにその令嬢の証言だけでウィスト嬢が悪だと決めつけた」
「うぐっ」
「さらに俺の事を聞かされていたはずなのに、お前は俺が誰かも知らずに勝手に田舎の方の貴族の息子だと言い、しかも騎士達に連れて行かせようとした」
「ぐうっ」
「さらにシルフィスタの事も知らないと言ってとんでもなく無礼な発言をした」
「むぐっ」
「しかもそれを他国の留学生や貴族達がいる公の場で言ったんだ、しかも陛下達に自分の本音を暴露した」
「ぐむむっ」
「そんな王族としての醜態を晒したのが自分の兄なんだ、普通に考えたら恥晒しをした兄に弟が文句の一つでも言いたいと言っても不思議じゃないんじゃないか?」
「ぐはっ!!」
「その他にも、ん? どうした?」
見るとエドウィンは誰かにやられたのか地面にうずくまっていた。
ホントにどうしたんだ?
「た、確かに私はとんでもない事をしてしまった、それは事実だ」
「まあ、今は反省しているみたいだけどさ、少なくとも弟はこんな醜態を晒した兄に文句が言いたいと思ってる可能性も高いと思うぞ」
「いや、しかし、私と弟は仲が悪くはなかったはずだ」
「けど、二年も会ってないし話もしていないんだろ? 二年も会わなければ変わっていてもおかしくないと思うぞ」
「いや、さすがに・・・・・・なあ、私はどんな言葉を言われると思う?」
エドウィンもバカじゃないからな、弟に何か言われるのは間違いないと気づいたんだろう。
不安な顔で俺に聞いてきてるよ。
「そうだな、少なくともバカな事をした兄に説教じみた事を言うんじゃないのか?」
「そうなのか?」
「逆に弟に誇れる兄と思われるような行為を何かしたか?」
「それは・・・・・・ない」
一瞬の間があったが誇れる部分が何もない事に気づいたエドウィンは暗い顔になっていた。
「まあ、可能性としては高いかもしれないが、お前が弟と話したいと決心した事が良いんじゃないか、逃げずに向き合おうと決めるのは簡単じゃないんだから」
「う、うむ」
「ウィスト嬢の時みたいに逃げずに向き合おうと決めたんだろ? だったら覚悟を決めるしかないだろ、ウィスト嬢の時のようにまた俺が付き合ってやるから、お前は弟と向き合う事だけを考えていれば良いんだ」
「ケイネス、ああ、そうだな、弟に文句を言われるような愚かな事を私はしてしまったんだ、兄としてしっかりとけじめをつけなければならないな、よし、決めたぞ、弟と話をする!!」
拳を握りしめて気合を入れるエドウィン。
こうなったら俺もとことん付き合ってやるよ。
こうしてエドウィンは次に弟との面会を希望するのだった。
そして第二王子との面会当日を迎えるのだが。
「はあ、私はもうダメかもしれない、もうこの世から消える時が来たのかもしれない」
エドウィンが完全に暗い表情になっていた。
「おい、しっかりしろよ、今日は弟と話をする日だろ?」
俺が言うとエドウィンは、何かこの世の恐ろしいものでも見た後のような抜け殻のような顔をしていた。
正直怖いわ。
「向き合うと決めたんだろ? 何弱気になってるんだよ」
「ああ、決めたんだ、そう確かに決めたんだ、私は弟と向き合うと、そう昨日の夜までは決心して寝たんだ、だが、朝になって目が覚めたら、一気に不安と恐怖が押し寄せて来たんだ」
エドウィンはそう言って頭を抱えている。
極度の緊張感って奴だな、試験とか舞台とか前日までは確かに覚悟を決められたが、いざ当日になったら、失敗したらどうしようとかそんな不安や恐怖が極度の緊張感となって襲ってくるアレだな。
こういう時って気持ちを落ち着かせるおまじないとか信じない人達でも結構やったりする事が多いんだよな。
そして案外やっても全然効果がなくむしろさらに緊張感が増すという逆効果な結果になる事も多いんだよな。
それでも無意識に何度もやってしまう。
結局その極度の緊張感が晴れる時が来るとすれば本番が始まった時なんだよな。
とりあえず俺はエドウィンと話をする事にした。
「緊張するのはわかる、だって二年間も会話どころか顔さえ見ていないんだから、まるで学園を卒業して別々の役職に就いた後でしばらくして久しぶりに会うのが緊張するって言うあんな感じだからな」
「学園卒業か、ふっ、私はその学園卒業さえせずに退学して現在無職の愚かな男さ、弟からしたら私はダメな兄そのものじゃないか」
おいおい、こりゃ重症だな。
何言ってもダメな方向に行ってしまうよ。
「お前がそこで弱音を吐くなら好きなだけ吐くが良いさ、けどな、弟との話の時間は確実に来るんだ、そしてその時間はもう目の前だぞ」
「ケイネス」
「何だ?」
「実は今まで隠していたが、私はあの日以来、人と接するのが怖くなってしまったんだ」
「嘘下手か!! 少し前までウィスト嬢と普通に会話して今こうして普通に俺と話している状態で人と接するのが怖いわけあるか!!」
「あの時の行動は私も寂しかったから、つい」
「浮気がバレた奴の最低な言い訳か!! 何今の状況と関係ねえ事言ってんだよ!!」
「私も悲しき被害者だったんだよ」
「それは・・・・・・否定しきれないな」
「だから、私は今日弟と会うのはやめた方が良いと思うんだ」
「良いわけあるか!!」
ダメだ、こいつマジで使いもんにならないくらいポンコツ化してるぞ。
ここにシルフィスタがいたら間違いなく殴ってでも第二王子と会話させたな。
やると決めていざ本番になったら逃げ出すような男なんて、シルフィスタじゃなかったとしても多くの人が情けないと幻滅しそうだな。
ちなみにシルフィスタは今日この場にはいない。
彼女はカリーナと一緒にガルドム王国を観光しているのだ。
本当に彼女が今日この場にいなくて良かったと思っている。
エドウィンのこんな姿なんて見たら第二王子と会う前に波乱が起きるところだったからな。
「そもそも、何でお前そんな弱腰なんだよ? ここに最初に来た時、自己満足がしたいだけだろとか罪悪感を消したいだけだろとか、何か強気に言ってただろ? あの時の勢いはどうした?」
「あの時は本人達がいなかったからだよ、ほらあるだろ? 仕事場でムカつく上司がいるけど本人の前では言えずに本人がいない所で同じ仲間と一緒に悪口言いまくってるの、カルロスとファルスが正にそれだったよ、私自身に言えないくせに陰でコソコソとカルロスは、兄の方は学園で一位になってるけど、天才って言われてる弟と比べるとなあって言ってファルスは、まあ弟より劣っていても第一王子で後継者だから媚びを売って損はないでしょって言ってたからな、それと同じだ、本人がいないから強気に言えたんだよ!! これで満足か!!」
「逆ギレしてんじゃねえよ!! とにかくもうすぐ来るんだから、ちゃんとしろよ!!」
俺達が言い合っているとドアがノックして俺達は一斉にドアの方を見る。
「兄上、来ました」
「おい!! 来ちゃったよ!!」
そう言ってエドウィンは机の下に隠れる。
「ケイネス、私は急に腹が痛くなったから今日は会えないと言っておいてくれ」
「ここまで来て何言ってんだよ!! いい加減に覚悟を決めろ!! はーい、どうぞー!! 入って来て良いですよー!!」
いつまでも覚悟を決めないエドウィンを無視して俺が代わりに第二王子に部屋に入って来るように促す。
「おのれケイネス、貴様ぁー!!!」
エドウィンが声を上げるが知った事か。
そして第二王子が部屋に入って来るのだった。
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