彼女の愛とは何だったのか
「私が勘違いをしている?」
エドウィンの言葉を聞いてウィスト嬢は首を傾げる。
どうやら気づいてないみたいだ。
そんな彼女にエドウィンは言う。
「ウィスト嬢、あなたが私に対する愛は恋愛の愛ではない」
「え?」
「あなたはさっきこう言った、幼い頃の私の行動を見て心配で、でも楽しい姿に胸の高鳴りを感じたと」
「は、はい」
「そして先程私がした質問に弟みたいでと答えただろ?」
「はい、私は弟を愛しているので、だから他人であるエドウィン様に胸の高鳴りを感じたのでこの感情は異性を愛する恋愛の愛だと」
「違う!! 確かにそれは愛だけど、恋愛の愛じゃない!!」
エドウィンが突然大声で言ったのでウィスト嬢はビクッとする。
ここまでの話を聞いていた公爵もシルフィスタもカリーナも目を見開いていた。
皆気づいただろうな、彼女がとんでもない勘違いをしていた事に。
何で今まで気づかなかったんだって思うほどの勘違いに。
「ウィスト嬢、あなたのその愛は恋愛としての愛ではなく、やんちゃな弟がかわいくて、でも危ない事もしているから心配だなと弟を思う姉としての愛だ」
「え?」
「そう考えると今までの事に納得がいってしまう、まず会う度に王としての振る舞いだとか何だとか言ってたが、今思えばあの時感じたのは、いい歳なんだからちゃんとしなさいと弟に言い聞かせてる姉って感じがしたんだ」
「え?」
「そして私が何か手伝おうかと言った時、素っ気ない感じで断ったのも、あれも今思い返せば、弟を心配させたくないから大丈夫だよって自分が大変だと言うのを隠している姉の態度だった気がする」
「え?」
「そして婚約破棄をしたあの日、あの時のあなたの態度は失望したと言うより、バカな事をした弟に呆れている姉って感じだった」
「え?」
「無表情で淡々とした態度だったが、今なら思い返せば弟に対する姉って感じが一番しっくり来る」
「え?」
エドウィンが次々と言う事にウィスト嬢は困惑する。
そう、エドウィンの言う通り、彼女はエドウィンを愛しているのは間違いないが、その愛は異性を愛する恋愛の愛ではなく、弟を愛する姉と言う姉弟愛だったって事に。
「ウィスト嬢、幼かったと言う事もあるが、あなたが私に愛を感じていたのは弟を思う姉と言う姉弟愛で、あなたはそれを異性を愛する恋愛の愛だと、錯覚していたんだ!!」
「ええーっ!?」
エドウィンの言葉に驚くウィスト嬢。
それを待っていたかのように雷が落ちる音が響くのだった。
何かの演劇の舞台かここは。
「わ、私がエドウィン様に抱いていた愛は、姉弟愛?」
「そうだ、そう考えれば現在の状況にも納得がいく」
「え?」
「冷静になって考えてくれ、ウィスト嬢、あなたが私に対して恋愛による愛を持っていたとしたら、現在私の弟と婚約している事に対して罪悪感を感じて心が耐えきれなくなってるはずだ、何故なら今まで好きだった者と婚約破棄して新たに好きだった者の弟と婚約するんだ、しかも婚約破棄してから一週間だ、そんな短い期間で簡単に乗り換えて納得する事ができるのか、あなたはそんな鉄のような強い心を持っているのか?」
「いえ、さすがにそんなに強い心は持っていません」
「そうだ、いくら国の未来のためとは言え、一週間で好きだった者の弟との婚約を受け入れるなんて普通に考えたら罪悪感に苦しまれて私と面会を希望したいと思う事すら簡単にできないはずだ、なのにあなたはそんな事を何とも思わず私との面会を希望した、そして今私と話しているあなたは私と婚約をしていた時よりも、まるで水を得た魚のように生き生きとしているぞ」
「確かに、以前の人形のような気味が悪い感じがなくなってる気がする」
エドウィンが言った事にシルフィスタも同意する。
確かに、心なしか以前のウィスト嬢より生き生きしている気がする。
「ケイネスから私の弟と婚約したあなたは本音で思っている事を話し合っていると聞いた、もしかして好きだとか愛しているとか言われたりもしているんじゃないのか?」
「は、はい、好きだとか愛しているとか言われてお互いに思っている事を話し合って、その、何と言うか、お互いに話をしていると、今までエドウィン様や弟とはまた違った胸の高鳴りが私の中で感じ取れて、早くお会いして顔を見たい、お話をしたいと恥ずかしくも強く感じています」
ウィスト嬢は顔を赤くして答える。
その姿は婚約破棄されたあの時の無表情に近い顔よりも魅力的な顔をしていた。
あ、シルフィスタが俺を睨んでいる、大丈夫だから、俺はシルフィスタ一筋だから。
俺の中のナンバーワンはシルフィスタだぞ。
「そう、その胸の高鳴りこそ、異性を愛している恋愛の愛だ、つまり、あなたは私の弟との婚約で異性に対する真実の愛を知ったんだ」
「これが、異性に対する真実の愛」
顔を赤く染めたウィスト嬢は自分の胸に手を当てる。
「私に対しての愛が姉弟愛なら、私の弟とすぐに何の抵抗もなく婚約できたのも納得だ、何故なら姉弟愛と真実の愛は全く違うんだからな」
「そうだったのですね、私がエドウィン様に抱いていたのは、姉弟愛、あれ? と言う事は、あ、ああーっ!!」
突然大声を上げたウィスト嬢は両手で頭を押さえる。
「わ、私は今までエドウィン様を弟と同じように扱っていたという、とんでもない無礼をしていた事に」
「落ち着くんだウィスト嬢」
エドウィンが落ち着かせようとしている。
そして。
「シルフィスタ、何で頭を抱えているんだ?」
「だって、私はあの公の場で彼女にエドウィンを愛していたのならとか言ったのに、実は姉弟愛だったって、自分の見解が間違っていたのにあんな自信満々で言ったのが、凄く恥ずかしくなってきて」
「いや、愛があったのは間違いないから良いんじゃないのか?」
「そ、そうだな、そうなんだよな?」
シルフィスタが自信なさげな顔で言ってくる。
そんな顔もかわいいな畜生。
「それで、何故公爵も頭を抱えているのですか?」
シルフィスタを慰めながら俺は公爵に問う。
公爵も同じように頭を抱えていたよ。
「それは、まさか娘がエドウィン様に抱いていたのが姉弟愛の好きだったとは、考えてみたら好きだと言ったけど、愛しているとは言っていなかった、なのに私はそれを勘違いしてしまいあの言葉を言ってしまった、もしあの時、あの言葉を言わなければもっと早くに違う事に気づけたはず」
公爵も責任を感じてしまっているよ。
何か婚約破棄の状況とは別の意味で大変な状況になっているな。
「あー、ウィスト嬢」
するとエドウィンがウィスト嬢に声を掛けると彼女は顔を上げてエドウィンを見る。
「まあ、何て言うか、お互いにすれ違いみたいなものがあったって事だな」
「エドウィン様」
「あなたが私に会って話をしたいのは、私に対する謝罪と償いの気持ちがあったって事で良いのか?」
「は、はい」
「だったら、幸せになれ」
「え?」
エドウィンの言葉にキョトンとするウィスト嬢。
「私に抱いていた姉弟愛など忘れてしまうくらい私の弟と真実の愛で幸せになれ、そうでなければ、あなたと婚約した私がただ惨めとしか思えなくなる、そうさせないためにも幸せになれ、それが私に対する償いだ」
「エドウィン様」
「それと、幸せになれと言ったが、私に対して感情も表に出さずに接した事は赦してないからな、少なくとも婚約が決まってから破棄した日までの年数は忘れずに罪悪感に苦しんで後悔しろ、その度に私の弟に慰めてもらえ、良いな?」
「エドウィン様、承知しました、その罪、謹んでお受け致します」
こうして二人の面会は終わるのだった。
ウィスト嬢達がいなくなり現在離宮には俺とエドウィンの二人だけだった。
あ、シルフィスタはカリーナと一緒に先に帰ったぞ。
「それで、あれで良かったのか?」
俺はエドウィンに問う。
「ああ、周りがどう思おうが、彼女に対しての私の心はスッキリした、それに」
「それに?」
「今なら彼女もある意味被害者だったんじゃないのかって思えてな、だからこそ彼女の中にあったモヤモヤを消してやりたかった、これでお互いに婚約の呪縛が解かれて自由になれたって事だ」
確かに帰る時のウィスト嬢は何か憑き物が落ちたかのようなスッキリした顔をしていたな。
「やっぱり、お前根は優しい奴だな」
「私が優しい? バカを言うな、彼女に苦しんで後悔しろと言ったんだぞ?」
「そうかい、じゃあ俺はそろそろ帰るよ」
「そうか、気をつけろよ」
「ああ」
俺が外に出ると今のエドウィンの心の状態でも示してるのか、空は雨が止み太陽の光が差し込んでいるのだった。
読んでいただきありがとうございます。
本日二話目の投稿です。
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