エドウィン、何かに気づく
現在エドウィンと元婚約者であるウィスト嬢がお互いに向かい合って座っていた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
お互いに何を言えば良いのかわからずに耐えきれない静寂のようなものが流れていた。
その気まずい空間を表現しているのか、今日の天気は雨が降っていて雷も鳴っていた。
だが、俺が気になるのはそれだけではなかった。
何故ならここにいるのは俺達三人だけではなかったからである。
まず一人目は俺、二人目はエドウィン、三人目はウィスト嬢、そして。
「何故ここにいるんだ?」
俺が小声で声を掛けたのは俺の婚約者であるバハムス王国第二王女のシルフィスタ・バハムスである。
「何故と言われても、面白そうだと思ったから来たんだが?」
シルフィスタは当然とでも言うように答える。
「帰ったんじゃなかったのか?」
「父上に頼んでしばらくこの国に厄介になる事にした」
「学園はどうした?」
「それなら心配ない、卒業まで余程の問題を起こさなければ通わなくても良いくらいの成績と単位は取ったからな、だからこの国に来た」
「マジかよ」
「これで私は卒業までする事がなくなったので、愛するお前に会いに来たんだ」
嬉しい事言ってくれるけど、他人がいる前で言われると少し恥ずかしいな。
「それに、私に黙ってこんな面白そうな事をしているのは感心しないぞ」
「いや、確かに他人からすれば面白いかもしれないけど、エドウィン達からしたら真面目な事なんだから、あまりそういう事を言うものじゃないぞ」
「ふむ、それもそうだな、それより、私は彼女の隣にいる人物も気になるが」
それは俺も思った。
この場にいるのは他にカリーナともう一人、ウィスト嬢の隣に座っている男性。
彼はウィスト嬢の父親であるウィスト公爵である。
ウィスト嬢と話をする前日にウィスト公爵も同席したいと言う希望があったため、エドウィンも俺も仕方ないと思い同席を許可したのだった。
そして現在、お互いに向かい合っているが誰も何も話さずに気まずいと言える空間となっていた。
正直この空間から外に出て綺麗な空気を吸いたいが外はあいにくの雨であった。
「全く、見てられないな」
シルフィスタにとってもこの空間は嫌だからな、我慢できなくなるのは仕方ない事だ。
「おい、エドウィン、お前が話をしたいと言ったんだろ? なら何故黙っている? 何でも良いから話せ」
「ああ、そうだな」
「ウィスト嬢も話したい事があるなら相手から来るのを待たずに自分から話せ」
「は、はい」
「公爵殿もこの中で一番の大人なのだから、この二人が話しやすくしたらどうなんだ?」
「む、申し訳ない、確かにあなたの言う通りですね」
シルフィスタが話したら場の空気が少し良くなった気がする。
こういう時のシルフィスタは頼もしいな。
「その、ウィスト嬢、改めてあの時はすまなかった」
まず話し出したのはエドウィンだった。
あの時の婚約破棄を改めて謝罪して頭を下げる。
その光景にウィスト嬢も公爵も慌て出す。
「あ、頭をお上げください、私にも至らない点があり申し訳ありませんでした」
「私からも謝罪します、良かれと思って言った事がまさかこのような事になるなんて思いもしませんでした、私が軽率でした、申し訳ありません」
そう言ってウィスト嬢と公爵も頭を下げて謝罪する。
「幼い頃、あなたと出会った時にあなたの事が好きだと聞いて、その時あなたの婚約者になる可能性が一番高かったのがアンリエッタなので、その気持ちはあまり表に出してはならないと言ってしまいました、まさかあの時の言葉を守った結果がこのような事になってしまうなんて」
「それなんだが、ウィスト公爵、どうも私はウィスト嬢が私に対して抱いている愛は恋愛とかの愛とは違う気がするんだ」
「「え?」」
エドウィンがそう言うと公爵もウィスト嬢本人も首を傾げる。
「な、何をおっしゃっているのですか? 娘本人があなたの事を愛していたと申しているのですよ?」
「そうですよ、私は殿下の事を愛していました、お父様からそれをあまり表に出さないようにと言われて私自身も確かに好きと言う気持ちを表に出し過ぎるのははしたないと思って、それがあなたを追い詰めてしまったのですよ?」
「そう、そこなんだウィスト嬢、あなたが私を愛していると言うが、それが恋愛の愛だと感じた事はないんだ」
「それは、私が表に出さなかったからでは?」
「では、ウィスト嬢、あなたが私を愛しているとどうして思えるんだ? その時の状況と思っていた事を正直に話してくれ、まずは幼い私と出会った時に私を好きだと言ったが、その時はどのような感じだったんだ?」
「えっと、その時は」
ウィスト嬢はエドウィンと初めて会った時の幼い頃の記憶を思い出して話し出す。
「幼い頃、初めてエドウィン様とお会いした時は、やんちゃな方だなと思いました」
「そうだな、幼い頃の私はやんちゃだった、目を離せばすぐにどこかに行って困らせていたな」
「はい、初めてお会いした時もエドウィン様に色々な所に連れて行かれました、あんなに歩いたのは初めてでした」
「あの時は本当にすまなかった、さすがに令嬢に対してするべき事ではなかったな、女性をたくさん歩かせるなどもってのほかだ」
「色々な場所に連れて行かれましたが、その度にエドウィン様が危ないなと思ったりもしました」
「確かに、転んでケガをしそうになったり、噴水の水に落ちそうになったり、花に止まっていた危険な虫などに近づいたりしていたな」
その時の事を思い出したのかエドウィンは何とも言えない顔をしていた。
お前、本当に子供の頃結構なやんちゃだったんだな。
「そんな場面をたくさん見て心配で、でも楽しそうにしているエドウィン様を見て私も胸が高鳴っていくのを感じました」
「「ん?」」
ウィスト嬢の話を聞いて俺は何かの違和感を感じた。
それはエドウィンも同じだったようだがウィスト嬢は続きを話す。
「こんなにも男性の方に胸の高鳴りを感じたのは初めてだったので、きっと私はエドウィン様の事が好きなんだと自覚したんです」
「それで娘が私の所に来て好きだと聞かされたのです、それからは私が話した通り、その気持ちは表に出してはならないと言ったのです」
「ちょ、ちょっと待っていただいて良いだろうか?」
エドウィンは額に手を当てて何かを整理するかのような仕草をしている。
うん、俺も同じように情報を整理しているが、とんでもない答えが出そうな気がするんだ。
何かこう、探偵もの小説とかである、全ての悲劇の始まりはほんの些細な小さな勘違いによるものだったみたいな。
「ウィスト嬢、さっき心配だったと聞くが、心配なのに私の事が好きだと思ったのか?」
「はい、まるで怖いもの知らずだった私の弟みたいな感じだったのでいつも大ケガをしないか気が気ではありませんでした、でも喜んでいる姿を見ているとかわいいなと思ってしまって、その時のエドウィン様にも同じようなものを感じて、私は弟を愛していました、でもエドウィン様は家族ではなく他人なので、だからこの感情が異性を愛する恋愛の愛なんだと」
「そうか、全部わかったぞ、そう言う事だったのか」
ウィスト嬢の発言でエドウィンは何かに気づいて頭を抱え出す。
多分俺も同じ答えに辿り着いたと思う、とんでもなくヤバい答えに。
ていうかウィスト嬢も何で気づかないんだよ。
真面目過ぎるから気づかなかったのか?
「ウィスト嬢、あなたは今までとんでもない勘違いをしていたと思われる」
エドウィンが話すのだった。
うん、これはちゃんと話さないといけない事だったな。
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