ただ話したかっただけ
エドウィンに救いが欲しいと言う感想が多かったので書いてみました。
正直これが救いになるのかどうか自信がないですがどうぞ。
「こちらです」
騎士の人に案内してもらったのは王城の離宮がある場所だった。
俺はこの中にいる人に会いに来たのだ。
「すみません、本来俺がここに来るのはどうかと思うのですが」
「いえ、陛下と王妃よりお許しが出ましたので、ですが、あの日以来、あの方は家族とは面会を拒否しています、あなたとも会ってくれるかどうか」
「大丈夫ですよ、もしもの時のために彼女を連れて来てますから」
「わかりました、では」
騎士の人が扉を叩くが中からは何も反応はない。
それでも構わずに騎士は声を出す。
「エドウィン様、ケイネス・リカード様が面会を希望しています」
俺の名を聞いた瞬間中で何か物音がしたがその後は特に反応はなかった。
「やはり、会ってはいただけないみたいです」
「問題ありませんよ、カリーナ頼めるか?」
「はい」
俺が言うとカリーナは扉のドアノブに何かをする。
「開きました」
「ありがとう、あ、この事は秘密でお願いしますね」
俺が案内してくれた騎士の人に言うと騎士の人は口をあんぐりと開けたまま頷くのだった。
うん、そんな反応するよね。
彼女はただのメイドじゃないのかよって言いたくなるよね。
そして俺はカリーナには外で待っていてもらい彼女が開けてくれたドアノブに手を掛けて中に入るのだった。
「お邪魔しますよ、殿下」
「何で開いてるんだ!?」
扉を開けると殿下が驚きの声で言ってくる。
「ああ、カリーナに開けさせたんですよ、彼女、こういう事もできるので」
「何者だよ!! あのメイド!! メイドが持って良い技じゃないだろ!!」
「まあ、細かい事は良いじゃないですか、お邪魔しますよ」
「もう入ってるだろ!! 私の許可なしに入ってるだろ!!」
殿下の声など気にせずに俺は部屋の中を見るとたくさんの本があり机の上には勉強していたのかたくさんの本が置かれていた。
「勉強してたんですね」
「ただいても暇なだけだから、単なる暇つぶしだ、それよりリカード殿、何故ここにいる?」
「ケイネスで良いですよ、殿下」
「私はもう殿下と呼ばれる人間じゃない、エドウィンで良い、敬語も不要だ、それよりバハムス王国の第二王女の婚約者が何故ここにいる?」
「それは、会いに来たからだよ」
「私に? 何故他国の者が私に会いに来る? と言うより陛下と王妃は許可したのか?」
「うん、話したいって言ったら許可してくれたよ」
「他国の者を離宮に行かせて何のつもりだ」
「俺に期待したのかもな」
「期待?」
エドウィンはどうしてだと首を傾げる。
「あの日の事でエドウィンが抱えていた闇に唯一気づいた俺なら、もしかしたら会って話を聞いてくれるんじゃないかと期待してんじゃないのか?」
「なるほど、あの人達はまだ私と会って話をしたいのか、私には話す事は何もないと言うのに、何なら言いたい事はあの婚約破棄の時に全部言ったつもりなんだがな」
「お前は確かに全部言ったから良いけど、陛下や王妃、それに第二王子やウィスト嬢は自分の思いを伝えてないだろ? こちらの話も聞いてほしいって事じゃないのか?」
「私が今までどのような思いをしていたのか何も気づかなかったくせに、私が本音を全て話したら実は認めていた? 愛していた? これから家族として歩み寄りたい? 心を通わせたい? そんなのはただの建前だ、結局は自分達が満足したいだけだろ? 私に対しての罪悪感を消したいだけだろ? 心をスッキリさせたいだけだろ? 自己満足だと言うのがわかりやすいんだよ」
そう言ってエドウィンは置いてあったコップに水を入れて一気に飲み干す。
「確かにそうかもな、綺麗事言っても結局は自己満足のためにしているのかもな、今の俺のようにな」
「お前も自己満足のために来たって言うのか?」
「ああ、お前と話をしたいって言う自己満足のためにな」
俺がそう言うとエドウィンは首を傾げる。
「私と話したい? 何を話したいんだ?」
「別に何でも良いさ、ただ話をしたいと思ったんだよ」
「ただ話をしたい? たったそれだけのために私の所に来たと言うのか?」
「ああ、たったそれだけのためさ」
「それをして何になる? お前に一体何の利がある? バハムス王国に何の利がある?」
エドウィンは必死になって考えているが答えを出せずにいる。
「そりゃ出ないだろ、だって利なんて何もないんだから」
俺が言うとエドウィンは目を見開いて俺を見る。
「言っただろ? ただお前と話したいと思っただけだって、それでも納得しないなら、そうだな」
俺は身だしなみを整えてエドウィンと向き合って真剣な顔で言った。
「エドウィン、バハムス王国に来ないか?」
そう言うとエドウィンは目を見開いて驚いていた。
「お前は努力家だし、離宮に幽閉されてもこうして勉強している、お前は生粋の努力家だ、バハムス王国はそんな奴を歓迎するぞ、努力を怠らず精進する者は好意的に見てくれるし手を貸してくれる、結果を出せばちゃんと評価してくれるしその結果に見合った地位を与えてくれる、正直お前をこのまま生涯離宮で過ごさせるのはもったいない、だからバハムス王国に来い、そこでならお前は輝けるぞ、頑張ればお前をちゃんと見てくれるぞ」
そう言って俺はエドウィンに手を差し出す。
「・・・・・・」
エドウィンは差し出された手にどうしたら良いのか戸惑っている。
手を前に出そうとすれば引っ込めたりする動作を繰り返している。
「難しいよな? だって、お前この国を愛しているんだろ? この国を捨てたくないんだろ?」
俺が言うとエドウィンは俺を見る。
「ああ、そうだよ、私はこの国が好きだ、愛しているんだ」
「あんな目に遭ってもか? 親にも婚約者にも誰にも褒めてもらえなかったのに、それでもこの国を愛しているのか?」
「ああ、そうだ」
エドウィンは続けて言う。
「愛しているんだ、嫌な事もたくさんあったけど、良い思い出もあるんだ、まだ王太子とかそう言うのは関係なく父上と母上と弟との楽しい思い出が確かにあるんだ、この国を嫌いになれない、捨てる事ができないんだ、確かにお前の提案は魅力的だ、その手を取れば私はきっと幸せになれる可能性もあるかもしれない、でもできないんだ、この国を見捨てたくないんだ」
「自分の周りに嫌な人達しかいなくてもか? 味方と呼べる人が一人もいなくてもか?」
「理屈とか感情とかそう言うのじゃないんだ、生まれた場所だから、故郷だから好きなんだ、お前はどうなんだ?」
「そうだな」
一呼吸置いてから俺はエドウィンに笑って言った。
「ああ、俺も生まれたバハムス王国が好きだ」
「そうか、そうだよな」
俺の答えを聞いて満足したのかエドウィンも笑っていた。
「さて、断られたから、何話す?」
「は?」
「だから言っただろ? ただ話をしに来たって、何か話そうぜ」
「は、ははは、あはははははははは!! 本当にただ話に来ただけとは、はははは!!」
エドウィンが笑い終えると参ったと言いたそうな笑みを浮かべて俺を見る。
「はあ、色々考えていた自分がバカみたいだ、わかった、話そうか」
「ああ」
それからカリーナにお茶とお菓子を用意してもらってたくさんの事を話した。
「そもそも、父上も母上も言葉が足りなさすぎるんだ、仕事とかではあんなに念入りに確認して話しているのに、何故自分の子になるとそれができないんだ」
「あれじゃないか? 仕事は一つ間違えれば相手との関係を悪くしてしまってより大きな被害が出てしまう可能性があるから、対して家族の場合は少し間違えてもいつでも修正できるし問題ないみたいな」
「その間違いのせいでこうなったんだろうが、それなのに私と会って話したいと今更言うのか」
「エドウィンも言えば良かったんじゃないのか? 自分の事をどう思っているのかって? 家族だけしかいない時にさ」
「確かに、今思えばそうすれば良かったなと思っているが、あの時はもうそこまで考える余裕がなかったんだ、周りに味方と呼べる者がいなかったしな」
「なるほど」
陛下や王妃に対して思っていた事を話したり。
「弟ってそんなに優秀なのか?」
「ああ、一度読んだ本の内容を全部覚えたり、教わった事をすぐに身に付けたりできるほど優秀だ、弟は真の天才だ」
「嫌ってはいないのか?」
「ああ、嫉妬をする事はあっても嫌いではないし、そんなに仲が悪いわけでもない」
「貴族の汚い部分を知らないって言っていたよな? あれはどういう意味だ? 第二王子って確か二つしか違わないから十五だよな? 十五なら貴族の汚い部分を知ってるんじゃないのか?」
「確かにそうかもしれないが、ああ見えて意外と人を疑いの目で見る事がないんだよな、だから彼女にああ言っておけば助けになると思ったんだ、彼女なら相手を疑いの目で見てくれるからな」
「おお、結構考えてるんだな」
「これでも一応第一王子だったんだぞ、それくらい考えられなければお前の言う通り、私が王になったら国が滅ぶさ」
「はは」
弟の事を話したり。
「彼女は結構真面目すぎな人間だと思うんだ」
「あー、何となくわかるかも、学園で見ていて思ったけど、ウィスト嬢って良くも悪くも真面目すぎって感じたんだよな」
俺が言うとエドウィンもうんうんと頷く。
「そう、だから母上の王妃教育も習った事も真面目にその通りにしようと行動したんだと思う、それが私には言われた事に忠実に従う人形みたいな感じで気味が悪かったんだ」
「ウィスト嬢はお前の事を愛していたらしいんだけど、彼女の父親の公爵や王妃にあまりそう言った感情を表に出すべきではないって言われたらしくて、おまけに彼女自身がはしたないって思ったらしいぞ」
「はしたないって、何だそれは、それに私を愛していた? 多分それは違うんじゃないか」
「本人がそう言ってるんだぞ?」
「いや、多分その愛は違う愛だと思うぞ」
「ん?」
元婚約者ウィスト嬢の話ではエドウィンの言った事に首を傾げたがそれ以上は何も言わずにその後も様々な事を話した。
話している間のエドウィンはどこか楽しそうだと俺は感じるのだった。
「さて、そろそろ帰るとするよ」
「そうか、まあここに長居しても仕方ないしな、久しぶりに楽しい会話をした気がするよ」
「ああ、今日は帰るけど、また来るよ、諦めてもいないしね」
「諦めていない? 何をだ?」
「お前をバハムス王国に誘う事さ」
俺が言うとエドウィンは目を見開く。
「その話ならさっき断っただろ?」
「確かに断られたが俺は諦めていないぞ、話に来る度に誘ってやるよ」
「そうか、まあ好きにすれば良いさ」
「ああ、またな、エドウィン」
「ああ、またな、ケイネス」
そう言った時のエドウィンの顔は最初の時とは違ってどこか生き生きとしていた。
こうして俺は離宮を出て帰るのだった。
彼との話は楽しかったからまた来ようと素直に思えた。
次行った時はどんな話をしようかな。
読んでいただきありがとうございます。
この話を書いていてこの後、エドウィンが陛下や王妃、弟やウィスト嬢と話し合いたいと言ってケイネスが付き合うみたいな展開とか思いついたのですが、正直書こうかどうか迷っています。
理由は上手く書けるかわからないし、せっかく良い感じに完結したのにつまらなくなったらどうしようかと、でも希望が多ければ書こうかなと言う気持ちもあります。
希望が多かったら、または自分が書きたいと思ったら、もしかしたらまた続きを書くかもしれませんが、ここで一旦完結とさせていただきます。
ここまで読んでいただき本当にありがとうございました。
面白かったらブクマと評価をよろしくお願いします。