その後
俺達が会場を去ってから少ししてパーティーは中止になったそうだ。
さすがにあんな事があっては全員パーティーを楽しめる気分にもなれないから当然と言えば当然だな。
婚約破棄の騒動から一週間が経ち、俺はシルフィスタの宿泊している部屋で彼女と話していた。
「あれから一週間が経ったが、学園の方はどうなんだ?」
「今は落ち着いているよ、さすがに殿下達は退学になって婚約も解消されたよ」
あの騒動を起こした殿下達四人は退学する事になりエドウィン、カルロス、ファルスの婚約も解消され処遇も決まった。
「騎士団長の息子カルロスは騎士団の中でも一番厳しい場所に送られるそうだよ、婚約者への態度が父親である騎士団長の逆鱗に触れたから一から性根を叩きなおすそうだ」
「女を奴隷か何かだと思った男だ、たっぷりと地獄を味わうが良いさ」
「カルロスに影響されて婚約者に酷い態度を取っていた令息二人は退学にもならず婚約破棄もされなかったが、肩身の狭い思いをしていたな、あれは将来婚約者の尻に敷かれるな」
「女を蔑ろにする男は偉そうにする資格なしだ」
「宰相の息子ファルスも似たようなものだな、婚約者には直接言って、他の令嬢には直接ではなくても侮辱した、父親の宰相は紳士な性格で女性に対してそのような態度を取った息子に激怒して彼よりも優秀な者達がいる部署でプライドをへし折って更生させる気らしい」
「こっちも同じだな、女を見下す男のプライドなどズタズタにするが良いさ」
腕を組んで不機嫌な顔をして言うシルフィスタ。
このような人間は彼女が最も嫌いなタイプだから仕方ない。
「その二人は取り調べで言っていたそうだよ、カルロスもファルスも自分より優秀な弟がいて、ファルスの方は妹も自分より優秀だったから、二人共相当なストレスを抱え込んでいて、そこに婚約者が色々言ってきたから怒りも込み上がってストレス発散でつい手を出したり暴言を吐いたりしたそうだ、兄より優秀な弟、妹が許せなかったのかもな」
「だからと言って婚約者に当たるのはないだろ、徹底的にしごかれると良いさ」
「アリンス嬢だが、どうにか死刑だけは免れそうなんだ」
「あの男が新たに婚約者にしようとした男爵の娘か、王妃になれば贅沢な暮らしができると思っていたなんて、頭がおかしいとしか言いようがないな」
「そうだな、本人も死にたくなかったみたいだし、必死な姿にウィスト嬢も同情して頼み込んだし、何とか死刑だけは免れて喜んでたよ」
「だが、家族から縁を切られて修道院に入れられたんだろ?」
「そうなんだけど、本人は充実してるらしいぞ」
「そうなのか?」
シルフィスタは意外とでも言いたそうな顔をして驚いている。
そう、アリンス嬢は貴族令嬢でなくなり修道院に入ったのにも関わらず充実した日々を過ごしているそうだ。
「彼女にとって男爵家は地獄だったのかもな」
「どう言う事だ?」
シルフィスタが首を傾げる。
「彼女って上に兄が下に妹がいるんだけど、どちらも優秀でそんな兄と妹がいるのに自分は成績も悪く特に秀でた才能もない、なのに周りからは兄や妹と比べられて彼女自身それが嫌になってしまってさ、その時に思いついたのが身分が高い人の婚約者になれば自分も凄いと思われて贅沢な暮らしができると思ったらしいんだ」
「全く意味が分からないんだが、何故そんな結論になる?」
あまりにも理解が追いつかないのかシルフィスタは額に手を当てる。
うん、俺も自分で言ってて途中からわけがわからなかったよ。
「とにかく、彼女なりに何かストレスを感じていたんだろうな、修道院に入った事でその重圧から解放されて他と比べられる事もなく自分のペースで頑張れるから毎日充実してるらしい、その分迷惑を掛けてしまった人達には謝罪できない代わりに幸福が訪れるように神に祈りを捧げているらしいぞ」
「罪の意識をちゃんと理解しているなら、これ以上は特に言う事はないな、それとあの男はどうなんだ? 離宮に幽閉されたんだろ?」
「ああ、殿下か」
俺は少し間を置いてから話した。
「本人は死ぬまでそこから出る気はないらしいよ、陛下や王妃、それに殿下の弟が時々面会を申し込んでいるが、殿下自身が面会を拒絶しているらしい、見張りをしている騎士達に伝言で自分に会おうとする時間があるなら国のために時間を割いてくれと伝えているそうだ、その伝言を聞かされる度に陛下達は悲しそうな顔をしているそうだ」
「家族としてあの男に寄り添いたいと思っているのだろうが、あの男にとっては遅すぎたのかもな、あれの意思は固いだろう、簡単にはいかないさ」
「ウィスト嬢も殿下に会って謝罪をしたいと言ってるみたいだが、無理かもな」
「家族でさえ会おうとしないんだ、元婚約者など尚更だ」
「ウィスト嬢の事だが、シルの言った通り殿下の事を愛していたのは本当だったよ、でも殿下の前でそれをしてしまうとはしたないと思ってできなかったそうだ、それに婚約者となった時から彼女の父親の公爵や王妃にあまりその感情を表に出してはならないとも言われていたから、彼女はただ教えられた通りにしていただけなんだけど、殿下にはそれは逆効果だった、公爵も王妃もウィスト嬢を未来の王妃として育てるなら間違ってはいないんだが、まさか自分達の教えた事がこんな結果になるなんて思いもしなかったからそれなりに責任を感じてるみたいなんだ」
「ちゃんと本音で話し合えていたら違う結果もあったのかもしれないな、その令嬢はやはり弟の第二王子と新たに婚約したのか?」
「ああ、今はお互いに思っている事を正直に話し合っているようだよ、多分この国の未来の王と王妃としては誰も文句は言わないと思うよ」
「そうか、それにしてもやけに詳しいな」
「ああ、カリーナが情報収集しているからね、彼女は優秀だから」
「恐れ入ります」
カリーナは会釈をする。
彼女は俺の世話役ではあるが情報収集能力に長けている。
俺も時々何でそんな情報まで知ってるのって思うくらいの情報まで手に入れているのでどうやって情報を手に入れてるのか気になったが、直感的に聞いてはいけないと思い彼女の情報収集能力が凄いんだなと思う事にして手段は聞いていない。
正直聞くのが怖いってのもあるが、とにかくそう言う事だ。
「それより、俺はお前が最後に陛下と王妃に発言をした事に焦ったぞ、シル」
俺は彼女に言う。
彼女の事は公の場とかではシルフィスタと呼ぶが二人きりの時はシルと愛称で呼んでいる。
カリーナはもう知っているから彼女がいる前でも俺はシルをそう呼んでいるのだ。
「それについては、さすがにすまないと思っている、つい勢いで言ってしまってな、後でやってしまったと気づいた時にはどうしようかと思ったが、特に何も言われなかったな」
「シルに言われて陛下と王妃も何か大事な事に気づけたのかもしれないな、それで何も言わなかったのか、あるいはバハムスと本気で戦う事になりそうなのを避けるためかわからないが、とにかく何もないのが一番だ」
正直他国の王に無礼な発言をしたのなら戦争もありえたのだが、バハムス王国とガルドム王国ではそもそも戦力差がありすぎる。
こちらが本気を出さなくても圧倒できるほどの戦力差があるのだ。
それなのに何故俺がこの国に留学しているのかと言うと、バハムス王国とガルドム王国は隣国でありそれなりに交流もあるため次期国王となる殿下がどのような人物なのかを見極めるために俺が留学する事になった。
次期国王としてダメだと判断し、それでもガルドム王国の陛下が殿下を次期国王とするのだったら交流を絶つ事も視野に入れていたそうだ。
結果的に優秀な弟を新たな後継者にしたのならまだ大丈夫だろう。
一応我が国にとってもこの国は利になる事があるからな。
「何もないのは良いが、私はせっかくこの国に来てお前との楽しい時間を過ごせると思ったら婚約破棄などが起きたから、おかげで色々あってお前と一緒に観光とか考えていたのに予定が崩れてしまった、父上に頼んでこの国への滞在期間を延期してもらわないとな」
「陛下を困らせるなよ」
「そもそも、私がこの国に留学すれば簡単にあの男が次期国王としてはダメだと判断できたのに、何故私ではなくケイネスに行かせたんだ?」
「まあ、そうだな」
確かに王女であるシルが留学するのが普通だと思うが、マズいんだよな。
何故なら彼女の二つ名はこの国の人達皆知ってるし、ブラッドプリンセスなんて絶対に皆恐れるに決まってる。
おまけにシルは曲がった事が嫌いな性格だからカルロスやファルスみたいな事をする奴を見つけただけで容赦なく制裁を下すからな。
しかも、相手が男でも女でも関係なく平等に制裁を下すんだよな。
そうなったら女は少し怖がらせる程度で済むが男は腕の一本は確実になる。
この学園で生活しているとそう言った令息や令嬢や教師が意外といたんだよな。
もし彼女がいたら頻繁に病院送りになる人達が出てくる可能性がある。
それも考えて陛下はシルではなく婚約者の俺の方が穏便に何事もなく済むと思って俺に行かせたって事さ。
シルには内緒だけどな。
「まあ、何だ、結果的に殿下が婚約破棄したから国のダメな部分をどうにかできたってのもあるし」
「ああ、あの男が言っていたな、城にいるのに仕事をしていない者達がいたと」
「そう、あの後すぐ陛下達が徹底的に調べたら本当に仕事をしていなくて誰かに押し付けていたみたいで、それを自分の手柄にしていたみたいだ」
「よく今までバレなかったものだ、そういうのに知恵が働くのが上手い連中だったって事か」
「今までは上手く隠せてたが、殿下の発言で明るみになった事でその人達は職務怠慢で降格処分されるみたいだ」
「そいつらの代わりはちゃんと仕事ができる者にするべきだな、身分が低くても適任ならその者にさせるべきだ、どうもこの国は身分が上の者を役職に就けさせるようだな、能力が劣っていれば意味がないと言うのに」
「こればかりはこの国の人達が決める事だからな、俺達が口を出す事じゃないさ」
俺達の国では身分は関係なく実力で選ばれるが、この国にはこの国の考えがある。
王子の問題に口を出してしまっただけでもマズいのにそこまで口を出してしまえばそれこそ色々と問題になるだろう。
これ以上は何もしない方が良い、後はこの国の判断に任せるだけだ。
「それよりもだ、私はお前と一緒にこの国を観光しようと楽しみにしていたんだ、予定が潰れてしまった、このモヤモヤはどうしたらいいんだ」
すっかりご機嫌斜めだな、仕方ない。
俺はシルの頭に手を置いて優しく撫でる。
「ケ、ケイネス」
「安心しなって、もうじき長期の休みが入るから、その時にたっぷりと付き合ってやるよ、何なら今からたっぷりとかわいがってやるから」
「~~っ!!」
俺がそう言うとシルは顔を真っ赤にする。
こういう乙女な部分もあるから、俺は彼女の事が好きなんだよな。
「お前は、そういうところだぞ、そんな風に言われたら、大人しくするしかないじゃないか」
真っ赤にしながら俺をにらむが俺にはかわいい顔にしか見えないぞ。
「お二人共、そういう激甘な空間は私がいなくなってからにしてくれませんか?」
「「ごめんなさい」」
じっとにらんでくるカリーナに俺とシルは素直に謝罪する。
身分など関係なく思った事を素直に言うのも大切なんだなと俺は今回の事で何となくそう思うのだった。
読んでいただきありがとうございます。
これにて完結です。
面白かったらブクマと評価をよろしくお願いします。
他にも連載している作品があるのでそちらもブクマや評価してくれたら嬉しいです。
それでは、また何かの作品で縁があれば。