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愛があるなら隠す意味がわからない

 婚約破棄の原因と言える殿下達がいなくなりその場は静まり返っていた。

 周りも口を開いて良いのかわからずに全員が自然と陛下の方に顔を向けていた。

 しかし、陛下は険しい顔をしていて今何を思っているのかがわからず、隣にいる王妃も手に持っている扇子を強く握りしめている。

 

「随分静まり返ったな」


 シルフィスタが小声で俺に話し掛けて来るので俺も小声で返すのだった。


「殿下達がいなくなって騒いでいた人達がいなくなったからね、それに殿下の吐き出した言葉に陛下も王妃も何かしらのショックを受けているんだろう、まあ、俺のせいだな、殿下に抱えていた闇を吐き出させるような事をさせてしまったんだから」


「だが、そうしなければ、あの男の闇を一生知らぬまま終わっていたかもしれない、親なら子供の抱えていたものを知っておくべきだと私は思うがな、だからお前のやった事は間違いだと思う者もいるが私が言おう、お前は間違っていないとな」


「うん、ありがとう」


 シルフィスタは笑って俺のした事を肯定してくれる。

 俺が彼女に惚れている理由の一つがその笑顔なんだよな、俺からすれば反則だよ。


「私がもっと上手くやれれば殿下はこのような事をしなくて済んだのでしょうか」


 静寂だった空間にウィスト嬢の声が響く。

 殿下の言葉を聞いて責任を感じているのかもしれない。


「何を自惚れた事を言ってるんだ?」


 シルフィスタは腰に手を当ててお前はバカかとでも言いたそうな顔で言う。


「お前が上手くやれれば良かった? お前はあの男を愚弄するのか?」


「私は殿下を愚弄などしていません」


「いや、第三者の私から見れば今の発言はそう捉えられるぞ、自分が上手くやれればあの男は婚約破棄をしなかった、まるで自分はあの男より優れていてあの男は何もできないと見下しているようにしか聞こえないぞ」


「ですから、私は殿下を見下してなど」


「私にはそう聞こえるんだよ、お前の言っている事は」


 シルフィスタがにらみを利かせて言うとウィスト嬢は何も言えずに俯く。


「そもそも、何故あの男に素っ気ない態度を取るんだ?」


「え?」


「ケイネスから聞いたが、婚約破棄の原因になったのは自分より優秀というよりも、お前があの男に対して表情を一切変えずに淡々と接していた事に嫌気がさしたんじゃないのか? 普通に考えてみろ、結婚相手が毎日表情が変わらず感情も込めずに淡々と話す、愛のない政略結婚だから仕方ないと言ってもそれを死ぬまで毎日繰り返されたらさすがに嫌になると思うぞ、私だってケイネスがそうだったら即刻婚約を破棄するぞ、違うから良かったが」


 確かにそうだな。

 俺もシルフィスタがそうだったら結構きつかったかも。

 それを考えると俺達は相性が良いんだなと改めて思えて良かったよ。


「あの男が自分の抱えていたものを吐き出している時、お前はずっとあの男を見て心配している顔をしていた、少なくとも、お前はあの男の事を思っていたんだろ? 愛していたんだろ? だったら何故その思いを隠そうとする、私にはそれがわからない、愛しているのなら隠す意味なんてないだろ?」


 シルフィスタは純粋に何故と思っている。

 好きなら好きと言えば良いのにそれを隠して接する事が彼女にはわからない感覚なんだろう。


「未来の王妃として手本とならなければならない、王となる夫を支えるために導くためにしなければならない、愛していたとしてもなるべく表に出さないようにしなければならない、我が国の跡継ぎである兄上の婚約者、つまり私の義理の姉上となるお方もそのように教育されたが婚約破棄は起きずに仲睦まじい関係を築いている、それは何故か、分けていたからだ」


「分けていた?」


「そうだ、公の場や学園にいる時は未来の王妃として他の者達の手本としてお前のように表情も変えずに淡々と接していたが兄上やその家族である私の前では仮面を外して素の自分を出していた、表情もコロコロ変わったりして兄上は他の者達の前での接し方の違いに笑ったりしていた」


 シルフィスタの言う通り彼女の兄上の婚約者は公の場では未来の王妃としてそれ以外の場では婚約者としてきちんと分けて接していたな。

 俺の前でもシルフィスタの婚約者でいずれは家族の関係になるから素の自分を出して接していたな、あの時は器用に分けていて凄いなと思った。


「お前は婚約者に選ばれるほど頭が良いのだろ? ならば分けて接する事くらいできたはずだ、いきなりは難しくとも少なくともあの男一人に対してならできたはずだろ? 愛していたのなら尚更だ」


「それは」


「王妃教育としてそう教わらなかったのなら、この国の王妃教育を少し見直した方が良いんじゃないのか?」


 シルフィスタの言葉に周りの人達が目を見開く。

 うん、俺もさすがにいくら王女でも他国の教育に口を出して良いのかと思うが、こうなった彼女は止まらないから俺は何も言わずにただ見守るのだった。


「ほぼ間違いないが、あの男はちゃんと表に出して言ってくれないとわからない性格だと思うぞ、現にさっき自分で言ってただろ、本音と建前がわからない、言ってくれないとわからないと、おそらくだがあの男は他国の者と接する時は相手が本音と建前を使っているのは気づけると思うぞ、何故なら他人だからだ、何か企んでいたり考えていたりする事はわかると思うんだ、ただ身内だけはちゃんと言葉にして表に出してほしかったんだと思う」


 なるほど、他人は良いが家族だけは隠さずにちゃんと言ってほしいという事か。

 家族だけは包み隠さずにしてほしいと、言われてみればアリンス嬢と一緒にいた時もコソコソ隠れるより表に出して見せていたな。

 ウィスト嬢に注意されても隠さずに自分の思った事を言っていたし、やっている事は間違っていても婚約者に隠し事はしていなかったな。


「まあ、貴族の世界は化かしあいとも言うしな、相手に隙を見せずいかにして自分のペースに持っていって利を得るか、王族なら他国との交渉もあるからいかにして自国の隙を見せずに他国から利を得るのか、そう言った事もあるから表情を変えないようにする、少しの事では動じないようにする、将来国を背負っていく者としては間違ってはいないな」


 確かに間違ってはいない、アリンス嬢みたいにコロコロと表情が変わってしまえば交渉事が上手い相手や舌が回る相手には良いように言いくるめられる可能性がある。

 だから表情に現さないように教育されるんだろう。


「だが、愛する者と二人きりの時には仮面を外して素の自分を出しても良いと教えても良かったのではないか? その時は他に誰も聞いていないし、婚約者と二人きりなんだから、愛しているのなら尚更それで良かったのではないのか? 愛する者の前でもそんな風にしていれば、人形みたいで気味が悪いと思われるだけだぞ」


 アリンス嬢が言っていたな、殿下はウィスト嬢を表情が変わらない人形みたいで気味が悪いと。

 確かに殿下みたいな人には本心を伝えた方が良いのかもな。

 そう考えるとシルフィスタの言う通り王妃教育を少し見直した方が良いのかもしれないな。

 だが、それはあくまで俺と彼女の考えでありこの国にはこの国の考えがあるのだろう。

 最終的にどうするかはこの国が決める事だ。


「シルフィスタ、そこまでにしたらどうだ? これ以上はいじめているようにしか見えないぞ」


「む、私はいじめているつもりなどないのだが、まあ、見方によってはいじめているように見えるか」


 俺に言われてシルフィスタはムッとした顔をしているがこれ以上は何も言わずに大人しくなった。

 彼女の怒った顔も結構かわいいんだよな。


「もうここには用もないし、会場を出るぞケイネス」


「うおっ」


 彼女に手を引っ張られるが彼女は止まって再びウィスト嬢に目をやる。


「あの男の言った通り、この国の第二王子の婚約者が決まっていないのなら第二王子が新たな後継者になりお前がその婚約者になると思うが、第二王子とはちゃんと思っている事を言ったりすると良いぞ、あの男と同じような事にならないためにも」


 ウィスト嬢にそう言って次は陛下と王妃に顔を向ける。


「王と王妃という立場もあるが、それ以前に一人の父親、母親だ、きちんと親として向き合うのも必要だったのではないかと思うぞ」


 それだけ言って彼女は俺の手を引っ張り会場を後にするのだった。

 いや最後に陛下と王妃に無礼な発言をするなよ。

 これで本当にこの国と敵対したら、特にこちらが不利になる事もないけどさ。

 そんな事を考えながら俺は彼女に引っ張られて会場を出るのだった。

 




 

 



読んでいただきありがとうございます。


本日二話目の投稿です。

次回で完結します。


面白かったらブクマと評価をよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
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