母さんに言われて
「ケイネス、何か新しいお菓子を作れないかしら?」
ある日、母さんが俺に用があると言うので聞いたら母さんからそう言われる。
「新しいお菓子?」
「そうなのよ、実は近々貴族の夫人同士で開かれるお茶会があって、今回は私がお菓子を用意する事になったのよ」
「あー」
貴族の世界は何も当主である男性だけではない。
妻である夫人同士でも関係を持ったりする事がある。
むしろ夫人同士の繋がりの方が当主同士の繋がりよりも広くて根深いと言っても過言ではない気がする。
「そのお茶会には王妃様も参加しているし、できれば新しいお菓子を用意したいなと思ってるのよ」
「なるほど」
貴族の世界での他人からの評価って意外と爵位だけじゃないんだよな。
爵位が高くても当主の手腕が大した事ないとなめられたりもする。
爵位が高いだけで当主の実力が見合わない家と爵位は低いが当主の実力が高い家。
賢い者なら将来性を考えてどちらと関係を持つべきかは大体想像ができるだろう。
そして貴族の評価は何も当主の手腕だけではない。
その人の妻もちゃんと評価の基準として周りから見られる。
当主が良くても妻がダメならとかそんな感じの陰口を言われたりする事もある。
だからこそ妻もただ当主と結婚して後継者である子を産むだけの存在ではないと言う事を周りに知らしめなければならない。
だからこそ夫人達が集まるお茶会などでは他の夫人達になめられないようにする、いわば女の戦いのようなものである。
正直男よりも女の戦いの方が俺は恐ろしく壮絶なものだと思えるよ。
「シェフィーネ王女の描いた絵なら何かあるかもしれないしな」
「そうなのよ、だからお願いできないかしら?」
「わかった、何かないか探してみるよ」
「ありがとうケイネス、助かるわ」
こうして母さんから頼まれた俺は厨房に向かうのだった。
「なるほどねぇ」
厨房に行くとラキム、ネロナ、レティがいたので俺はラキムに母さんとの事を話して何かないかと聞く事にした。
「奥様も奥様で大変な思いをされてるな」
「そう言う人達って一度なめた相手をどこまでも見下しますからね」
ネロナとレティの言う通り、貴族は一度なめられたらとことん見下されるんだよなぁ。
それで後で実は凄かったって知ってももう遅いってなった貴族もたくさんいるみたいだし。
「そう言えばレティ、姉のルティと一緒じゃないのか?」
「はい、姉様はエドウィン様の特訓に付き合っています」
ネロナの問いにそう答えるレティ。
双子でいつも一緒に行動しているからな。
二人がそれぞれ別々の場所にいるのは結構珍しいんだよな。
「まあ、姉様が付き合っているのですから、クソザコ体力のエドウィン様も少しはマシになってもらいたいものですね」
「あっはっは、ルティもお前もエドウィン様には容赦ないな、一応王子様だぞ」
ネロナが笑いながら言う。
確かにこの双子は結構エドウィンに容赦がないんだよな。
時々毒舌みたいな事も言うし。
「まあ、たまには抑えてやれよ、容赦しなさ過ぎてエドウィンが倒れたら元も子もないんだから」
「それはエドウィン様の頑張り次第ですよ、若様」
「そうか」
まあ、ルティもレティも容赦がない時もあるけど、ちゃんと相手の状態を見て気遣いもできるから特に問題はないだろう。
「安心してくれ若、エドウィン様がシェフィーネ王女と婚約するためだ、多少の無理をさせてでもエドウィン様をドラゴンを倒せるくらいにまで強くさせるさ」
二イッと笑いながらネロナは言うが、彼女もリックと同じでどっちかと言うと戦闘面でリカード家の使用人として働いているって感じなんだよな。
メイドの仕事も一応できるけどどちらかと言うとモンスターとの戦闘や侵入者への対処の方が多い戦闘メイドなんだよなぁ。
そんな彼女が鍛えるんだから、うん、頑張れエドウィンと言うしかないな。
まあ、それよりも今は母さんに頼まれた新しいお菓子を何か作らなければならない。
俺達はシェフィーネ王女の描いた絵からお菓子と思われる絵を探す。
「ん? これもお菓子なのか?」
ネロナが何かを見つけたようだが疑問を感じているようだ。
「何かあったのか?」
「ああ若、お菓子に使われる材料の絵が描かれているが、本当にお菓子の作り方なのかと確信が持てないんだ」
「確信が持てない?」
気になった俺はネロナが見せた絵を見るとネロナが何故疑問に思ったのかを理解した。
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