抱えていた闇
「殿下、あなたは自分を見てほしかった、そうですよね?」
俺が聞くと殿下は今にも泣きそうな顔で俺を見る。
「自分を見てほしい? どう言う事だ?」
シルフィスタが首を傾げて聞いてくるので俺は続きを話すのだった。
「アリンス嬢と一緒に話しているところを見てね、その時、殿下は言っていたんだ」
『私は、誰にも期待されていないんだ、父上にも、母上にも、そして婚約者のアンリエッタにもな』
「ってね」
俺がそう言うと王と王妃そしてウィスト嬢が驚いた顔をする。
知らなくて当然だな、だって殿下がその事を初めて話した相手がアリンス嬢なんだから。
「期待されていない? 何故そう思ったんだ?」
「殿下はこうも言っていた」
『父上も母上もいつも褒めるのは私ではなく弟の方だ、弟の方が優秀だからな、私がいくら頑張って結果を出したとしてもそれを褒めてもらえる事は一度もなかった、私は期待されていないと言う事だ』
「ってね」
「なるほど、だが成績が悪いなら褒めてもらえないし期待もされないのではないか?」
「いや、今でこそ成績は悪い方だが、去年までは成績が良かったんだ、学園で常に一位を取っていた」
「そうなのか? なら何故今は成績が悪いんだ?」
「ああ、それはウィスト嬢との会話をした後に殿下の様子がおかしくなったんだ」
「私との会話?」
黙って聞いていたウィスト嬢がいつの事なのかと思い出そうとしているが多分わからないと思うので俺がその時の事を言うのだった。
「去年の終わり間近の事だった、殿下はウィスト嬢に何か手伝いをしたいと言う事を言っていた、その時ウィスト嬢は何か大量の書類を整理していたみたいで時間が掛かりそうだと思ったから少しでも手伝おうと思っていたんだと思うけど、ウィスト嬢は断ったんだ、けどその時の断り方が俺が見た感じだけどなんか冷たい感じだったんだ、何て言えば良いのかな、殿下が手伝うと邪魔にしかならないって言っているように聞こえるみたいな」
「書類が大量にあったからイラッとしていたのかもしれないな、今集中しているのだから話し掛けるな、みたいな感じで」
「そうだな、その後殿下は一人で人目のない所に行ってね、どうも気になったから俺は後をついて行ったんだ、そしたら殿下は壁を思い切り殴ってこう独り言を言っていたんだ」
『私がそんなに役に立たないか!! 私は婚約者としてそんなに頼りないか!!』
「って言って、壁を思い切り殴っていたから手から血が出ていたよ、俺が保健室に連れて行こうかと思ったが、ここで出たら俺が殿下の話を盗み聞きした事がバレてしまうし殿下だって誰にも聞かれたくないと思ってあえて何もしなかったんだけど、今思えばあの時偶然を装って殿下の話し相手にでもなれば良かったかもなと後悔してるよ」
そう、俺は今後悔している。
あの時、殿下の心の闇は既にギリギリの状態だったのかもしれない。
俺が偶然を装って出会い殿下の心の闇を吐き出す相手になるべきだったかもな。
「お前の判断は間違ってないと思うぞ、何故ならお前は他国から留学しているだけなんだからな、他国の事に必要以上に関わる必要もないだろ」
「そうなんだけどね、続きだけど殿下はこうも言っていた」
『もういい、どれだけ頑張っても誰も何も見てくれないなら、何もかもやめてやる』
「それからだったかな、殿下はあまり授業も真面目に聞かずに成績が落ちるようになったのも」
「まさか、あの時の」
俺が言うとウィスト嬢も思い出したようで口に手を当ててショックを受けている。
王と王妃も思い当たる節があるのか目を見開いている。
「殿下、どうなのですか? あなたは大きな闇を抱えていたのではないのですか?」
「・・・・・・ああ、全部そなたの言う通りだ」
殿下は静かに語り出した。
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本日二話目の投稿です。
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