陰から
「ケイネス、どうやらエドウィンはちゃんとシェフィーネをエスコートしてるみたいだぞ」
「そうだね」
エドウィンがシェフィーネ王女をエスコートするところを確認した俺達。
あとは二人きりにして俺とシルも二人で祭りの屋台を見て回るのだった。
それにしても今日もシルの私服はかわいいな。
「このじゃがバター、本当に美味しいな」
「ああ、ジャガイモにバターが合うなんて思いもしなかった」
「ケイネス、二人はどうなると思う?」
じゃがバターを食べ終えたシルが言う。
「とりあえずエドウィンはシェフィーネ王女が好きだと言う事を自覚したみたいだし、おそらく両想いだと思うしどちらかが告白をすれば付き合うと思うんだけど」
「シェフィーネはどちらかと言うと自分から行くって性格じゃないからな、シェフィーネからの告白は難しいかもしれない」
シルが腕を組みながら言う。
「一応エドウィンに告白しろとは言ったが、エドウィン自身二度も失恋したからか奥手になってるんだよなぁ」
「結果的にそうだが、その二度とも恋愛と言えるものだったのか?」
「言いたい事はわかるけど、エドウィンからしたら女性関係を二度も失敗したって事だから、男からしたら嫌なものだな」
「確かに二度も女性関係を失敗する男は、何だかかわいそうにも見えるな」
「一応エドウィンにはある場所に行って告白しろと伝えてるからちゃんと告白はすると思う」
「ある場所とは?」
「村から少し離れた場所にある湖」
「ああ、あそこか、そう言えば夜になるとたくさんのホタルが現れるんだったな、昔ケイネスに連れて行ってもらった場所だな」
「そう、そこ」
「あれはまさに幻想的な世界だったな、あまりにもロマンチックだったからケイネスと、その、キス、したな」
「ああ、そうだな」
照れてしまったのか俺達は顔を赤くするのだった。
いや、あのロマンチックな場面だったらキスもしたくなるさ。
「とにかくエドウィンにはそこにシェフィーネ王女を連れて行くように伝えてあるから、時間で言えばそろそろ連れて行ってるかもな」
「上手くいくのかどうか気になるな、私達も行って茂みから様子を見ないか?」
「え? 邪魔になるからやめた方が良いんじゃ」
「だが気にならないか?」
「正直気になるな」
「ならば行くぞ」
「わかったよ」
こうなったシルは止まらないからな。
まあ、俺も正直気になってたけど。
俺達は村から少し離れた場所の湖に行く。
「見ろ、二人がいるぞ」
シルが言うようにベンチにエドウィンとシェフィーネ王女が座っている。
俺とシルは近くの茂みに隠れてそこから見る事にした。
「ケイネス様にシルフィスタ王女」
「ん?」
後ろから声がしたので振り向くとそこにはルートがいた。
「このような所で何を?」
「いや、それはこっちのセリフでもあるぞ」
「そうですね」
「ん? ルート? それに若にシルフィスタ王女じゃねえか」
「リック?」
今度はリックが現れる。
「あら、あなた達」
「何でここにいるの?」
「おや、皆様」
「たくさんおるのう」
ユーリ、シオン、ジョルジュ、それにカホさんまで現れた。
「えーっと、もしかしてだけど俺達皆同じ目的でここにいるって感じか?」
「だと思いますね」
「なんつーか、自覚させちまった手前、気になってさ」
「私も気になって来ちゃったわよ」
「まあ、一応エドウィン様の恋が成功するかどうかって時だしな」
「この目で見届けなければならないと思いましてな」
「儂も気になってのう、お祭りどころじゃなかったのじゃ」
どうやら皆エドウィンの事が気になったようだな。
ちなみに女性の使用人達は親父と母さんとアニスの付き添いをしているのでここにはいない。
あとで皆にも教えてやらないとな。
皆も気になってたみたいだし。
そんな事もあり俺達は茂みからエドウィン達を見るが全員で固まってるので意外と窮屈に感じる。
そんな事を思っているとエドウィンがシェフィーネ王女に何かを話している。
「ん? エドウィンはシェフィーネに何を言っているんだ?」
「んー、この距離だとギリギリ聞こえるかどうかってくらいだな」
「何かこの湖について説明してるみたいだよ」
シオンが言う。
「そう言えば、シオンって耳が良かったな」
「ああ、昔から耳が良いんだ」
俺の問いにシオンは答える。
なら二人の会話はシオンに聞いてもらえば良いか。
「お、見ろ、ホタルが現れたぞ」
シルが言うと目の前にはたくさんのホタルが飛んでいた。
「あら、幻想的で素敵」
「おお、綺麗じゃのう」
「あ、エドウィン様が告白した」
『え?』
ユーリとカホさんが幻想的な世界に見入っているとシオンがエドウィンが告白した事を伝える。
「え? 告白したの?」
「うん、あなたの事が好きだって言った」
「おお、直球か、回りくどく言うより良いじゃねえか」
「しかも恋としての好きって事を伝えて付き合ってほしいって言った」
「あら、勘違いさせずにちゃんと伝えたのは良いわね」
リックとユーリはエドウィンの告白を褒めている。
確かに直球で言ったのは悪くないな。
「シェフィーネ王女もエドウィン様が好きだと言った、シェフィーネ王女も恋としての好きって言ったぞ」
「おお、シェフィーネも勘違いさせずにちゃんと伝えたか」
「お互い好きだと伝えて何よりじゃ」
シルとカホさんは喜んでいる。
うん、エドウィン良かったな。
「ちょっと待って、エドウィン様がシェフィーネ王女に好かれる部分がないと言って自分のした過ちを話してるみたい」
「過ちって、婚約破棄の事か?」
「うん、その事」
「あー、自分の罪を話す感じか、エドウィンそう言うのちゃんとしないといけないって奴だもんな」
「シェフィーネ王女は最初から知ってたみたいだよ、シルフィスタ王女に前の日に教えてもらってたって言ってる」
「ああ、そう言えばエドウィンに頼む前の日に話したな、いきなり連れて来るよりは前もって話しとこうと思ったんだ」
「シェフィーネ王女は自分が今まで見たエドウィン様を好きになったって言ってるよ」
「なるほど、過去は関係ない大事なのは今と言う事か」
「過去よりも今を見る、シェフィーネ王女は寛大なお方のようだ」
シェフィーネ王女の寛大な心にルートとジョルジュは感心している。
「あ、改めてお互いに付き合う事になったみたい」
おお、とうとう付き合う事になったか。
おめでとう。
とそんな事を思っているとエドウィンがシェフィーネ王女の肩に手を置く。
ん? これってまさか。
「む、これってもしかして、キスするのか?」
シルが言う。
やっぱりそうだよな。
「あらやだわ、もうキスだなんて」
「ここまでロマンチックな流れになったらそうなってもおかしくないか」
「儂らも昔はあんな感じじゃったのうジョルジュ」
「あの時は照れも恥ずかしさもあったな」
「ていうかさ、これ俺達が見て良いものなの?」
シオンの言うように確かに二人のファーストキスを俺達が見て良いものかと思うが、ここまで来たらなんか目が離せないんだよな。
「おい、もっとしゃがめよ、見えねえだろ」
「ちょっと押すんじゃないわよ、今良いところなんだから」
リックとユーリが何か言い争っている。
ってちょっと待て。
俺達今一つの茂みに固まって隠れてるんだから。
「ってそんなに押したら」
俺達は一気にバランスを崩し。
『うあーっ!!』
そのまま倒れて茂みの中から出てしまうのだった。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
エドウィンと目が合う。
「・・・・・・まあ、何だ、付き合う事になったみたいで良かったじゃないか、おめでとう、俺達の事はそこら辺に転がっている石ころのようなものだと思って続けてくれ」
俺は笑ってエドウィンに言う。
「できるかぁー!!!」
エドウィンは大声で叫ぶのだった。
うん、マジでごめんね。
その後、家に帰りあの場にいなかった親父達にもエドウィンとシェフィーネ王女が付き合う事になった事を伝えると皆祝福し、次の日はお祝いに豪華な料理をふるまうのだった。
それから数日後。
「・・・・・・」
「ケイネス様、どうしましたか?」
「いやな、エドウィン大丈夫かなと思ってさ」
「そうですね」
俺とルートは難しそうな顔をする。
エドウィンとシェフィーネ王女が付き合う事になったと言う事は、当然家族への挨拶をしなければならない。
それはつまりシェフィーネ王女の家族、この国の王に挨拶に行く事だ。
陛下は殿下には将来の王として厳しくも優しいが娘達にはかわいがっていて甘いんだよなぁ。
そんなかわいがっている娘にいきなり男ができましたって挨拶に来たとなれば。
「あいつ、無事に帰って来れると思うか?」
「わかりませんが、少なくとも命を失う事はないのではないかと」
そうルートが言うが確信が持てない顔をしている。
本当に大丈夫なのだろうか。
(エドウィン、とにかく五体満足で生きて帰って来いよ)
俺は外を見ながらそう願うのだった。
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