男爵家の令息の正体
殿下に声を掛けた軍服を着ている女性。
その姿を見て俺はドレスじゃないのかよと思った。
「な、何だ貴様は!!」
「ほう、面白い事を言うな、何かの冗談か? それとも本気で言ってるのか? 前者なら笑えるが後者なら笑えないな」
彼女が笑って言うが俺にはわかる。
返答次第では絶対に切りに掛かる。
殿下、さすがに大丈夫ですよね? 俺の事知らなくても彼女の事は知ってますよね?
俺がそう思っているとウィスト嬢や他の人達もどこか祈るような感じで見ている。
「何をわけのわからない事を言っているんだ!! 無礼な女だ!!」
あ、終わった、殿下が。
「ほう」
「はいはい、そこまで、ちょっと待ってくれ」
彼女が腰に携えている剣に手を掛けていたのを見て俺は即座にその手を押さえて彼女が剣を抜くのを止める。
「む? ケイネス何故止める? この男はケイネスや私に無礼な事を言ったのだぞ?」
「言いたい事はわかるよ、けどここで殿下を切ったらそれこそとんでもない事態になってしまうだろ? さすがにそれは誰も望んでいないはずだろ?」
「・・・・・・ふむ、それもそうだな」
彼女は剣から手を放し、それを見て俺はひとまず危機は去ったと安堵するのだった。
「殿下、さすがにここまでだとあなたがこの国の王になると言われれば誰もあなたに忠誠を誓う者はいないと思いますよ」
「何をふざけた事を言っている、私がこの国の次期王に決まっているだろ!!」
「だったら彼女に対しての今の発言はマズいですよ」
「その女が何だと言うんだ!!」
「殿下こそ何をおっしゃっているのですか!! 彼女はバハムス王国第二王女のシルフィスタ・バハムス様ですよ!! そしてリカード様はその婚約者です!!」
「は?」
ウィスト嬢が俺と彼女についての説明をすると殿下は目を見開いた。
「殿下にもご説明したはずです!! バハムス王国第二王女の婚約者が留学してくると、お忘れですか!!」
「バカな!? 何故男爵の令息が第二王女の婚約者になれたんだ!?」
「あー、バハムス王国は実力主義の国なんですよ、優秀な者なら男爵家でも関係なく王族の婚約者になれるんですよ、平民でも実力を示せばそれなりの地位が与えられますからね」
「その通り、他の国では爵位を重んじる国が多いそうだが、バハムス王国の者達は爵位などただの飾り、もしくは自分が何者かの証明程度にしか考えてないな」
そう、彼女の言う通り爵位が上だからって必ず上に立てるわけではない、実力があるなら平民でも騎士団長や宰相になれるのだ。
次期国王や王族の婚約者を決める時はさすがに平民からは選ばないけど。
「そしてケイネスが私の婚約者になったのは私が条件を出したからだ、その条件は私より強い者以外とは結婚しないと言う単純な条件だ、私は自分より弱い男に嫁ぐつもりはないからな」
「待て、バハムス王国の第二王女と言えば、ブラッドプリンセスか!?」
あ、さすがにそこは知ってたんだな。
そうなんだよな、軍服を着ているからわかるように彼女、シルフィスタは軍人だ。
それもかなり強い。
お世辞でも何でもなく本当に強いんだ。
戦場に出れば敵は彼女を見ただけで恐怖で逃げ出してしまうくらい強いと他国に伝わっているらしい。
戦が終わる頃には彼女の軍服は常に赤く染まっていた。
それは多くの敵を切った事で返り血を浴びているからだ。
全身が敵の返り血で染まる事からブラッドプリンセスなどと呼ばれているらしい。
「ブラッドプリンセスと言えば、相当な実力者だぞ、貴様がそれに勝ったと言うのか!?」
「あ、はい、そうです」
うん、俺勝ったんだよ。
偶然とかじゃなくて正面から正々堂々と戦って勝ったんだよ。
その時だけ彼女の調子が悪かったとかじゃなくて、万全な状態の彼女に勝ったんだよ。
だから俺は彼女の婚約者になった。
「ブラッドプリンセスの婚約者になって、貴様はそんなのが婚約者で良いのか!?」
殿下は信じられない顔で俺を見る。
失礼な、シルフィスタは戦場での姿の印象が強いから誤解されがちだが、彼女結構女子力高いんだぞ。
俺も当時戦っている彼女とプライベートの彼女との違いに驚いたものだが、今はそれもかわいいと思ってるんだぞ。
「ところで、さっきから黙って聞いているが、私の婚約者に対して無礼な発言をし続けているな、ガルドム王国の王子はバハムス王国を軽視しているようだな、これは我が国に対する宣戦布告と捉えて良いのか? ガルドムの国王よ」
シルフィスタが問うた視線の先にはこの国の国王陛下と王妃がいた。
一緒に来ていたのかよ。
さらにとんでもない事になったな。
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本日二話目の投稿です。
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