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異世界転移返し④


夜が明けての寝覚めは最悪だった。

否、用意されたベッドでの寝心地はかなり良かった。問題は入眠の仕方である。

普通、翌日に処刑されると宣告された人がぐっすり眠ることなどできない。

ずっと処刑の恐怖におびえながら後悔と自責の念に囚われてなかなか眠れないものである。

しかし、皆一様にベッドに入った瞬間にスイッチが切れたように眠ってしまった。

またしても、一杯食わされたのである。

精神干渉系の魔術を知らぬ間に施され、朝までぐっすりと眠ってしまったのだ。

逆に余計なことを考えずに朝を迎えられたことに感謝すら覚えるも、魔術師としてのプライドは塵と化した。

自分たちは井の中の蛙、いや、蛙などという上等なものですらないノミやダニ程度の存在だったのだと思い知らされてしまった。


そんな暗澹たる表情のまま、再び生えてきたテーブルには見たことのない朝食が並び、これが最後の食事になるのかと噛みしめながら食べていた。やたらとおいしくて食欲はないはずなのにお代わりをする者もいた。


そして、審判のときが訪れた。

壁から声が語り掛けてきた。

『お待たせいたしました。処刑内容をお知らせいたします。皆様をこれより元居た世界のそれぞれの所属する国家及び組織にお返しする手続きを開始いたします。』


理解が追い付かない。またしても呆けながら話を聞くことになるとは誰も思いもしなかった。


『昨日の尋問内容から、皆様の所属先に対する影響度がそれぞれがAクラスであると評定されました。皆様をお返しすることで日本国に対する友好的姿勢形成のインフルエンスを期待できると判断されました。将来の友好的な関係構築も視野に入れた施策となります。』


友好的な関係構築などという言葉が飛び出てくるとは思わず、つい鼻で笑ってしまった。

昨夜は誰よりも落ち込んでいたイデクがつい悪態をついてしまう。

「元居た世界へ帰していただいたところで、警戒を促すだけで友好関係を結ぼうなどと努力しないかもしれませんなー。」


全員が思っていたが、口に蓋をして黙っていたことを口走るイデクに対して、王女もその他の面々も戦々恐々である。もしも帰してもらえなかったらどうしてくれる。

鋭い視線がイデクに集まる。


「私は、約束を守ります!必ずやニホン国との友好関係を築いていけるように自国における影響力を活用させていただきます!」


焦った王女が早口でまくし立てる。


『もちろん、皆様には監視を付けさせていただきます。が、とくに行動は束縛いたしません。』


開き直ったイデクは安酒を飲んだ酔っぱらいのように絡みだす。


「どうせ昨日のハザマが我々に魔術的に洗脳するのでしょう?我々に自由意志など与えるはずがない!」


『回答としては否です。洗脳では行動・性格に矛盾が生じてしまい、最終的に皆様のインフルエンス力が無効化されてしまいます。私たちはあくまでも皆様のインフルエンスに期待します。』


「ふ、ふん!我々が総力を結集してようやく世界の壁を越えたというのに、あっさりと帰すことができる力を持っているのであれば、いつでも侵略してこれるということではないか!私は信じないぞ!」


『確かにそのようなことも不可能ではありませんが、国体維持及び経済的合理性を考慮するとそのメリットは決して高くありません。むしろデメリットが多いため、今回のような施策が選ばれました。』


「訳が分からん!!―――――――――!?―――――!―――――……」


イデクの必死の抵抗むなしく、それから何度かどちらの味方なのかわからなくなった問答により、ほかの面々の精神は回復の傾向を見せた。


「それでは、帰してください。もう二度と今回のような愚かな行為を私の世界の人々が実行しようとしないように伝えていきます。きっと将来的に友好関係を結べるように努力いたします!」


この時の王女はとにかく帰りたい一心でそんなことを宣言して見せた。

のちに、本心からもう一度宣言することになるとは思わなかった。


『それでは、双方に合意が確認されましたので、手続きを開始いたします。手続きには1週間程度の時間を要しますので、その間は日本国との友好を深めるきっかけを見つけていただくためにも国内をご案内いたします。』


すると、ハザマが消えていった壁に今度は4人程度が余裕をもってすれ違えるほどの穴が開き、その先に照明に照らされた清潔感のある通路が見えた。通路の先には窓でもあるのか、陽光が降り注いでいるのがわかる。

王女一行がおずおずと通路に向かって歩き出すと、通路の向こうからスイーっと音もなく人影が近づいてきた。

王女はハザマとの再会を予想して気まずい気持ちに陥った。ほかの面々も同じ気持ちのようだ。

表情を硬くして人影の到着を立ち止まって待っていると、ハザマとは似つかない陽気な声が通路に響き渡った。


「こーんにーちはーー!!ようこそ日本へー!」


通路中に響くような大きな声に満面の笑みをたたえた小柄な男性が到着した。

スイーっと近づいてきた移動手段がなんだったのかはわからないが、王女一行の前で静かに止まった男は自己紹介を始めた。


「どうも始めましてー!私は特別渉外庁国際交流事務局の陽木元気(ヒロキ ゲンキ)と申します!これから1週間、皆様に日本の魅力を知ってもらうために精一杯おもてなしいたします。よろしくお願いいたします!」


とても人当たりのよさそうな少年のような役人の登場に、緊張しっぱなしだった一面はいきなり和んでしまった。

王女も自国に置いてきたペットのチョッピ―のことを思い出してしまい、思わず抱きしめてしまった。

他の面々は昨日の出来事の再来を予見して体を硬くした。

しかし、聞こえてくるのは王女の投げ飛ばされる轟音ではなく、くぐもった声だった。


「お、おうじょでんか~くるしいですよ~」


王女の胸の中でじたばたともがく陽木を見て、ホッとして毒気を抜かれてしまった。

王女は陽木を解放してあげて優しく頭をなでて謝罪した。


「ごめんなさい…つい家に残してきたチャッピーのことを思い出しちゃって…」


やっと息ができるとばかりに深呼吸をした陽木は笑いながらも顔を真っ赤にしながら応えた。


「ちょっとー!恥ずかしいので撫でないでもらえますかー!」


実にかわいい光景である。

その光景を見ていた女性魔術師の一人が何かにめざめてしまうのも仕方のないことである。


「あの子、持って帰れないかな…」


そんなことをボソッとつぶやいたとか。


気を取り直した一行は陽木の案内で、スイーっと通路を進む謎の板に乗せられて、あっという間に建物の入り口にたどり着いた。

一行はスイーっと進む謎の力に驚き、それを陽木の魔術だと勘違いしたが、日本国民ならだれでも利用できる魔道具のようなものと聞いてその技術力の高さに驚かされた。

日本国の技術力を褒められて喜ぶ陽木に耳としっぽが幻視されては心が和み、技術的な質問をすれば納得できる回答をしてくれる陽木に信頼を寄せるようになった。


「それでは、これより日本の首都や主要な観光地などに時間が許す限りご案内いたしまーす!

さあ、この乗り物に乗りましょー!!」


陽木が手で指し示す方向には、地面から30㎝ほど宙に浮く箱馬車のような物体が一つだけポツンとあった。


「もしかして、あれは”馬いらず”かしら…」


王女がつぶやいた。ガチ帝国が最近開発に成功し、兵站戦略に革命を起こしたと言われている魔力で動く乗り物のことだ。馬などの従来、車を牽くのに必要であった生体動力が不要となり、大幅に物資と人員が削減された結果、ガチ帝国は神速で戦地を拡大し押し上げ始めたのだ。

ヘボ族陣営でも開発が急がれるが、未だに実用段階には至っていない最先端の技術である。

しかし、車輪はついていたはずだ。目の前にで浮いている車には車輪がついていなかった。

王女一行は車をべたべたと触りながら陽木にいろいろな質問を飛ばした。

陽木も知っているは答え、知らないことははっきりと知らないと答え、車に乗車するように促した。


「よし!みなさん乗りましたね。先ほど付けていただいたシートベルトは車が動いているときは外さないでくださいねー!」


各々が明るく返事をすると、陽木は一番前方の席でその席にしかついていない輪っかを握りしめた。


「びっくりして舌をかまないでくださいねー!それじゃー出発!」


皆を乗せた車が揺れもなく前に進みだした。

窓の外を眺めて景色の変化を眺めていた一行は、やがて地面から車が飛び立っていることに気が付いた。


「陽木さん、もしかして空を飛んでいませんか?」


ガチ帝国の馬いらずが空を飛ぶなんて聞いたことがない。

本当にとんでもない世界に来てしまった。圧倒的な技術力の差に唖然としてしまう。

これからの1週間でどんな体験をしてしまうのだろうか?

怖くもあり楽しみでもある。

王女一行の日本体験ツアーはこうして幕を開けた。



――――――――


「行ったか…」

王女一行の去った建物の一室で空へ飛び立つレビカ―を窓越しに見送りながら一人の男性がつぶやいた。

彼は”壁の声”こと服部恒蔵(ハットリ コウゾウ)。特別渉外庁長官官房有事対策室室長である。

彼の横で床に転がって呼吸困難になっている部下を呆れたように一瞥した。


隣で笑い転げて呼吸困難になっているのは、王女一行を恥辱と諦観の境地へと突き落としたハザマこと、硲菊理予(ハザマ キクリヨ)である。彼女は恒蔵直属の部下である。


「……ひぃー……ひぃー……ひっ…ひゃっ」


陽木の正体を知る彼女は毎度の光景に飽きることなく笑い転げていた。

恒蔵は菊理予の痴態を気にすることなく続ける。


「第3018並列世界……。脅威度評価は丙。技術水準は()()であったが、倫理基準の異常検出と()()()()段階で少数人員次元穿孔の成功という異例事象が重なったために()()に回されてきた案件だったが、()()()()()()技術以外は選民思想の傾向は見えるも危険水準には達せず……か。十段以上の世界からの干渉痕跡は今のところ不明だが……臭うな。」


いつの間にか立ち直っていた菊理予が服を叩きながら立ち上がった。


「あれは確かにチグハグだった。一度オラヌカ教への調査人員を送った方がいいね。うち(日本)が干渉すれば技術革新の揺らぎは確かに発生するけど、開発に乗り出してからほんの数年の間であんなに洗練された技術を開発できるはずがない。あれは完璧な固定圧縮魔導技術と、転送魔術による栄養と魔力循環の確保がされていた。だから救い出すこともできたんだが……。あんなに高効率の魔力抽出を可能とする初段世界なんて前例がないよ…。明らかにオーバーテクノロジーでしょ。あそこ(異世界)の開発は淵井商事が希少魔金属鉱山(レファメタル)の採掘を主目的でやってるから文明調査はザルだろうしねー。」


剣呑な表情になった恒蔵は椅子から立ち上がり部屋の外へと歩き出した。


「久々に俺も運動でもしてくるか……」


菊理予が目を丸くして恒蔵を見返した。


「え?”不動の恒蔵”ことふくよか地蔵が動く!?……ブフッ!!ぜひお供させてください!後学のために動画撮らせてください!」


仕事モードでないときは感情豊かな部下を苦笑いで引き連れて、服部恒蔵は異世界侵略の脅威から日本を護るために調査を開始した。

・脅威度評価 甲=鬼ヤバ 乙=危険 丙=少し危険 丁=雑魚

・技術水準 初段:自力でなんとか異世界転移可能

      二段:自力で複数の異世界へ転移可能

      三段:自力で一度訪れたことのある異世界の任意の場所へ転移可能

      四段:異世界の法則、概念を利用可能

      五段:異世界の国家を支配・運営可能

      六段:異世界から自世界への転移を検知可能

      七段:自力で任意の異世界を探索・転移が可能

      八段:異世界から自世界への転移を阻害可能

      九段:異世界を実効支配可能

      十段:異世界の法則、概念を書き換え可能

      十一段以上:異世界の存在を任意に創造・破壊可能

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