"PLAY" Your Role①
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真夏の昼下がり。
怒涛の如く地面を打ち付けるスコールが予定通りに降り止むと、去っていく雲の尾から太陽が顔を出した。ホコリの洗い流された澄んだ空気の中、浴びたものを焦げ付くさんばかりにジリジリと照りつける陽光を降り注ぎ始めたようだ。今日もまだまだ暑い一日になりそうだ。
この世界の天気予報が的中率100%を達成し、文字通りの予報となったのはほんの数年前のことだ。
爆発的に科学を発展させた人類はついに気候を操作する技術を手に入れ、年間のスケジュールに沿って世界各地の天候を制御する体系を作り上げたのだ。
その結果、世界の農業生産効率が大幅に改善され、学者の予測によれば世界から飢餓を撲滅できるXデーはあと数年に迫っているということだ。
計画的晴天、時々計画的スコールの天気を過ごす町の住人は、今日も味気ない空気を吸い込み減菌タウンを闊歩している。
ポーン!
学校帰りなのだろうか、友達を連れ立って町中を歩く少年の脳裏に、メール着信を知らせる電子音が鳴り響いた。
少年は、友だちとのお喋りに興じながらも、並列思考コマンドを実行して即座にメール内容を確認した。
メールは味気ないものであったが、その内容は少年を興奮へと掻き立てることに成功したようだ。
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from:徳臣開発株式会社 DARG事業部 ゴリラント・タイラント開発チーム
title:RRPG【ゴリラント・タイラント】βテスター(第二カテゴリ)ご応募結果のお知らせ
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本田デルタ様
平素より格別のお引き立てを賜り、厚く御礼申し上げます。
株式会社徳臣開発 DARG事業部のゴリラント・タイラント開発チームでございます。
この度は、2067年冬にリリース予定の弊社開発タイトルであるRRPG【ゴリラント・タイラント】におけるβテスター募集にご応募頂きありがとうございます。
多数のユーザー様からのご応募に我々開発チームも興奮すると共に、皆様からの熱いご期待に
応えるべくより一層の情熱を持って開発に取り組んでおります。
本田デルタ様、おめでとうございます。
あなたは当タイトルのβテスター(第二カテゴリ)に当選いたしました。
つきましては、本日十六時より本ゲームβテストについて説明会ストリーミング及び諸手続きを
開始いたしますので、当選通知証をダウンロードし、ご都合のよろしい日程にご参加ください。
説明会会場(ゴリラント・タイラントβテスト特設サイト)などの詳細は添付資料をご参照ください。
H田△様の今後のご活躍を心よりご期待申し上げます。
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株式会社徳臣開発
DARG事業部 ゴリラント・タイラント開発チーム
添付ファイル:RRPGゴリラントタイラントβテストについて.nsf
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「おい! やったぜ! この間話してたゴリラント・タイラントのβテスターに当選しちゃったよ!」
それまで話していた会話の腰を折った少年は、隣を歩いていた友人を見上げながら喜びの声を上げた。
「マジで!? いいなぁ~、俺は……落選したわ……それ狙ってたのにな~。 ま、いっか。 そういえば、カテゴリは支配型?それとも搭乗型?」
傍らの友人も同じゲームへの参加応募をしていたのか、自分も数テンポ遅れて結果を確認して落選を確認すると、あまり気にしていないのかβテストの内容を聞き出すことにしたようだ。
確かに、RRPGは世に掃いて捨てるほど存在しているし、これからも続々と新たなタイトルが開発されることだろう。そんなことにいちいちクヨクヨする方が馬鹿らしいのかもしれない。
「ちょっと待って、確認してみるわ」
βテストに当選したことを喜ぶ少年が、脳波インターフェイス機能によってBMD(|バイオニックメモリードライブ《生体記憶装置》)にダウンロードした添付ファイルを呼び出し、視神経バイパスを通じて件の当選通知メールに添付されたゲームの説明を目の前の視界の一角に半透明に表示させた。
「ん~っと、今回は搭乗型みたいだね。けっこう開発進んでるみたい。」
「そっかぁ、コロンブスボーナスはゲット出来ないかもね」
少し残念そうに友人が言った。
「うん……まぁ、今回は久々にレアマタが発見されちゃったらしいから、支配型はみんな”第一カテゴリ”に回されちゃったみたい……。でも、この”世界”には魔法があるからね! エンチャントガンナーで撃ちまくりだぜ!」
少年も友人の言葉を受けて少々勢いを落とすも、気に入った要素を思い出すと再び活気付く。
「にしても、お前は本当に銃器類が好きだよな~。RFPSやりゃあいいのに……」
「いやいやいや!戦争なんてロマンがないよ。やっぱ冒険してこそのゲームでしょ!」
少年が力強く拳を振り上げ、RRPGへの情熱を表した。人によってゲームの志向は様々である。
少年はファンタジーテイストのゲームを好む傾向にあるようだ。
「う~ん、確かに……開発の初期段階にユーザーを巻き込んで戦争しちゃうのは帝国主義っぽくて少し強引かもね。そればっかりだとつまんないよな……日本だとやたら”人道的道義に反する”って訳の分からないクレームも殺到するしね……」
最近、歴史の授業で習ったキーワードを得意気に使いながら、友人は空を仰いで苦笑した。
少年も笑いながら応える。
「そういえば、そのままゲームの開発中止に追い込まれた会社あったね……。 でも、作りなおしたゲームがまさかの神ゲーになるとは思いもしなかったよ――」
そして、ひとしきり会話を終えると、二人の少年の家路が別れる分岐点に差し掛かった。
「ま、楽しんでくれ! それより今日はどうする?」
「今日から早速アバターの搭乗訓練始めたいから、今日は帰るね。 ごめん」
「気合入ってんな~、オープンしたら俺もやるから、色々教えてくれよ?」
「もちろん! じゃあね!」
「おう、バイバイ」
少年は、友達と別れると急ぎ足で家路へと着いた。
10分後、RRPGのβテスターに当選した少年は自宅の門前に辿り着いた。
そのまま門に近づくと、重厚な門扉が音もなくスライドして少年に道を開けた。
少年は特に感慨もなく門をくぐると、今度は数歩進んだ先にある玄関のドアがまたしても無音で開いて少年を迎えた。
家の中には人の気配を感じられない。どうやら、両親はどこかに出かけているようだし、二つ上の姉は部活動で帰りは遅くなるのだろう。
玄関で靴を脱ぎ散らかした少年は、まず台所へと向かう。
たとえ、拡張型防護皮膚を装着しているとはいえ、真夏の炎天下の中を歩けば喉も乾いて当然だ。
冷蔵庫を開いて少しの躊躇を見せた後、少年は牛乳ボトルを掴み取ってそのまま一気に飲み干した。
飲み終わった後に多少顔を顰めているところを見ると、好みの味ではないようである。そんなものを我慢して飲み干すということは……、なんとなく少年のコンプレックスが透けて見えてしまう。
牛乳を飲み終え空になったボトルを律儀に水洗いしてからゴミ箱に投入すると、少年は小回りの利く体躯を活かして、家の中を駆け抜ける。
期待に胸を弾ませながら自室へと階段を駆け上がると、自室のドアに施したセキュリティをヤキモキしながら解除する。
この世代の少年に特有の様々な秘密を内包した部屋には、親の襲来を未然に阻止する手段を講じる必要性は語るまでもないが、この時ばかりは少年も己の用心深さに辟易せざるを得なかった。
ようやくセキュリティを解除した少年はドアを勢い良く開くと、自分の位置情報を常時監視する家庭内情報共有システムによって既に始動されていた空調がヒンヤリとした空気を少年に浴びせかけた。
そのまま、部屋の中に駆け込むと、汗ばんだTシャツとハーフパンツを脱ぎ捨て部屋着へと着替え、部屋の隅に設置された机の前に腰を下ろした。
部屋の壁に掛かっている時計は十六時を三分経過していた。
「ふぅ……よし!」
大きく深呼吸をすると、先程ダウンロードした資料ファイルを再度開いて、今度は目の前に情報を表示させた。まるで、紙の資料のように自然に見える資料を読み込み始めた。
そして、資料内のリンクを選択してRRPGゴリラント・タイラントのβテストの説明会ストリーミングページへアクセスした。画面には、説明会の参加期限についての記述と説明会へ参加する為のリンクが用意されており、少年は迷うこと無く参加を選択した。
すると、眼前の仮想スクリーンが拡大して視界いっぱいに広がり、ゴリラント・タイラントの世界観やゲームの仕様に関する説明動画が流され始めた。
『ここは豊かな緑に覆われた広大な大地が広がる世界。この世界には様々な生命体がその生命を育み日々の生活を営んでいます。 地球とは異なる生態系を擁するこの世界には、科学とは異なる大いなる力が存在しています。 それは、幾多のファンタジー作品の中で多く語られてきた夢のような力。魔法です! プレイヤーの皆さんは、そんな素晴らしい世界で、平和を脅かす魔王を討伐するべく神に遣わされた”英雄の卵”として冒険していくことになります。――――』
はっきりと言ってしまえば、どこにでもあるようなゲームの世界観をさも有難いように紹介する動画に苦笑せざるを得ないが、そんなことを些事に過ぎない。
少年は、胸を高鳴らせながら説明動画を食い入るように見続けていた。
やがて、説明動画が終了すると、画面が遷移してキャラクターメイクへと移行した。
少年は、あらかじめ頭の中にモデルを思い描いていたのか、30分も立たずにキャラクターの外見設定を完了してしまった。
眼前に表示されるキャラクターの全体像を回転させながら確認する。
このゲームでは人間の他に20の知的生命体が存在しているため、その中でも少年の琴線を大いにかき鳴らした竜甲翼人の男性を選択。身長を上限いっぱいの3メートルまで高く設定していた。
竜甲翼人がゴリラント・タイラントにおける最大身長を誇る知的生命体の種族であることを考えると、少年のコンプレックスはもはや丸裸同然である。
職業は大好きな射撃をするためにドラゴニックガンナーという特殊な職業を選択していた。
この職業は竜甲翼人限定のもので、銃器などは持たないが、特殊な形状の腕部やカパッと開いた口から魔法で形成した弾丸などを発射することができる職業である。
その巨大なフォルムに満足してほくそ笑んだ少年は、五回表示される”一度決定したアバターの変更にはゲーム内ポイント1,000,000pt分が必要になる”という確認画面に決定ボタンを連打した。
眼前にメッセージが表示される。
『作成キャラクターを受理しました。これより造形プロセスへと移行します。プロセス完了までは2週間が必要となります。それまではVRにて訓練をご利用ください』
メッセージを確認した少年は、椅子から立ち上がると、机の上においておいたアイマスクを手に取りベッドへと向かう。
「おっし! ガンナーガンナーガンガンナー♪」
ウキウキとスキップした少年は、勢いそのままにベッドへとダイブし、アイマスクをかけると枕に頭を落とした。アイマスクに何か特別な機能が有るわけではない。ただの気分である。
こうして、少年のゴリラント・タイラントは最終準備段階へと入った。
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