異世界転移帰し③
――回収班
闘技場の外では、強襲班と合流した回収班が救出対象の6名を走行車両へと収容し終え、周囲を強襲班に護衛させながら港へと走り出していた。
闘技場の外を警備していた警備兵たちは既に無力化されており、地面に転がっている。
走行車両は常人では追いつけないスピードを出して走っているが、強襲班は車両の周囲を変わらず並走している。
その背後で闘技場の各所が爆発した。
強襲班が各所に仕掛けたC4爆弾を班長が起爆したのだろう。
爆音に驚き、街の住人がドアや窓から顔を出してくる。
回収班の車両は人だかりができる前に街を疾走していく。
あと3分ほどで港に到達するあたりで強襲班の班長が合流してきた。
『隊長。ただいま合流しました。後ろから手練れが追跡中です。』
『了解。クジラは現時点をもって出向せよ。車両は跳躍乗艦を実行する。』
『『了解!』』
『敵、来ました!』
追いついてきた警備主任が放った風の斬撃が強襲班の一人に襲い掛かり、防御しきれなかった班員の腕を深く切り裂いた。
傷口から鮮血がこぼれ落ちる。
回収班の班員が装甲車に設置されている機関銃をばらまいて警備主任を牽制している。
「くぅっ」
「硲!大丈夫か?!」
班長がケガをした班員に駆け寄り、肩を支えて伴走する。
「大丈夫です……!」
「あと少しの辛抱だ。このまま駆け抜けるんだ!」
「了解!」
建物屋根伝いに飛ぶように駆けてくる警備主任を一度にらみつけてから装甲車に飛び乗り、同じように飛び乗ってきた他の班員に硲ハザマを任せた。
「俺がやつにとどめを刺す。こちらの手札をいくらか見られてしまった。」
「ということは、あれをやるんですね!了解です!」
班長はガタガタと揺れる走る装甲車の屋根に立つと、集中をし始めた。
既に港のふ頭、その先の海が見える位置まで装甲車は走破してきていた。
しかし、港にクジラ潜水艦の影も形も見えない。
装甲車はそのまま構わず海に向かって爆走していく。
「おらあ!やっと追い詰めたぜえ!」
相変わらずピョンピョンと飛び跳ねながら追いすがる警備主任の猛攻を何とかしのぎながら、ふ頭へとあと100mのところまで到達した。
警備主任は今度は地面を滑るように進みながら何度か装甲車に肉薄しては攻撃をかわすために離されるいたちごっこのような追跡劇が繰り広げられていた。
その車内で指示を出しながらもずっと何かに集中していた部隊長が急に目を見開いて叫んだ。
「みんな!何かにつかまれ!」
車内にいた救出対象たちはハーネスベルトの紐にしがみついた!
部隊長の合図は通信もされていたらしく、装甲車の屋根や側面に設置されたハンドルに班員たちが飛びついた。
〈発射!〉
次の瞬間、装甲車はまるで大砲から発射されたように空へと飛び出した。
そのとてつもない急加速に救出対象の何名かは失神した。
ふ頭から飛び出し海の上空を飛んでいく装甲車。
しかし、その勢いはいつまでも続かず、空を昇っていたはずの一行は海に向かって落ち始めた。
――このままでは海面に衝突する。――
その想像をした救出対象たちは絶望した。
その時、真っ暗な海面が大きくうねった。
うねりはどんどん大きくなり、やがて大きく膨らみ切った海面を破るように潜水艦がジャンプしながら現れた。
だから何だというのだ。潜水艦が現れたところで装甲車の運動エネルギーは相殺されない。
海面よりも硬い潜水艦の甲板に衝突すれば確実に助からないだろう。
甲板が迫ってくる。
救出対象たちは硬く目を瞑り身を固くした。
……いつまでたっても衝撃が訪れないことに気づいた救出対象たちが恐る恐る片目を開けると、なぜか装甲車は潜水艦の甲板に着地していた。
「もうわけがわからない……」
とにかく助かったことで緊張が解けたのか、そのまま気を失うように眠ってしまった。
もう助からないと思っていたら救助が現れ、なぜか異世界にいるはずなのに防衛軍が助けに来て、その防衛軍は魔法のような力を行使して潜水艦まで現れた。
理解をする方が無理である。
願わくば、良い夢を見ることができますように。
と言いたいところであるが、まだ脅威は排除されていなかった。
砲弾のように発射した装甲車を目の当たりにした警備主任はまたしても驚いたが、奴隷を奪われたままでは自分の評判が下がってしまう。
意地とプライドと明日の酒をうまく飲むために、お得意の風魔術を用いて最大跳躍を敢行した。
装甲車が海から飛び出てきた船のような何かに着地をしてまた驚いたが、すべてを制圧して国にでも売り払えば一生遊んでも使い切れない財産をもたらしてくれそうだとむしろ漲っていた。
今夜はかなり魔力を消耗したが、自分の奥の手はまだ使えるだけの魔力は残っている。
――だから、張り切ってぶちかます!
警備主任は潜水艦の後方で魔力を練り始めた。
――――クジラ潜水艦甲板上
強襲班の班長は追いすがってくる警備主任を待ち構えていた。
刃を交えた経験から、相手は相当の実力者であり、きっと追いついてくるだろうと信じていた。
今夜はかなりこちらの手の内をさらしてしまった。今後もこの世界で救助活動を継続するにあたりなるべくこちらの情報は漏れないようにしたい。
――何よりも、日本人を爆弾扱いしたことを許さない。
事前の潜入で諜報員が情報屋から仕入れた情報では、この世界に転移してしまった日本人は莫大な魔力を内包しているが、魔力のはけ口となる魔術への適性が低く、それ故に迫害されていた。
そして、だれが始めたのかは知らないが、戦場で魔力を暴走させて魔力爆発を起こす兵器として利用され始めた。
巨大な氷の彫像を瞬時に作れたり、カラフルな火炎が燃え広がる花火が上がったりと、様々な用途で日本人を資源として使う技術が発展しており、電池としての需要があったようだ。
なんともおぞましいことである。許しがたい。許せない。
目の前に欲にまみれた顔で突撃してくる警備主任が肉薄してくる。
〈ΘΓΟΞδψΛΣ!!〉
一手早く警備主任が魔術を発動した。巨大な竜巻が発生して甲板上の一行を呑み込まんと迫る。
班長は怒りの炎を具現化するように術を発動させた。
〈火遁・火竜の咢〉
班長は竜の口を模した両手を警備主任に向かって開いた。
両手から巨大な火炎の竜巻が発生した。くしくも似たような魔術の衝突である。
とてつもない業火が渦巻き、目の前に迫る竜巻を燃やし尽くさんと激突した。
両者は一歩も引かずに術で押し問答を繰り広げる。
風の竜巻が押せば炎の竜巻も押し返す。まさに一進一退の攻防である。
「おらあぁぁぁあ!死ねえぇぇえええ!」
「うぉおおおおおおおお!」
両者の裂孔の気合が炸裂して膠着状態がついに動き出した。
風の竜巻が炎の竜巻を呑み込み始めたのだ。
「くっ」
班長は踏ん張って術を発動し続けるも、見る見るうちに炎の勢いは弱まっていく。
「ひゃーっはっはあ!!俺の勝ちみたいだぜえー?」
風の竜巻は勢いを増し、ついに班長を呑み込むと思った。その時。
突如、一発の銃声が響き渡った。
「かっ……」
警備主任の頭には風穴があいていた。
もう何度目になるのかわからないが、またもや目を見開いた警備主任は、それを最後に海へと沈んでいった。
二人が戦っていた甲板の少し先に出っ張っている艦橋の上に人影があった。
その人影はスナイパーライフルを構えており、ちょうど発砲した直後のようだ。
スコープから目を離すと、その片目が緑色に光っていた。
やがて緑色の光が収まると、日本人らしい茶目に戻った。
一息ついていると、班長から交信が入る。
『助かった。ありがとう。それと、さすがだな鷹の目。』
『いえ、班長が気を逸らしてくれたおかげです。伊賀の本領を垣間見ました。』
『……押し負けてしまったがな。まだまだ精進が必要だな。』
そんな労いをくれた部下に苦笑いを浮かべると、すぐ近くの装甲車から這う這うの体で這い出してきた隊長に報告した。
「隊長、敵の無力化を確認。他の敵性存在は確認されません。以上を持って救出作戦を完遂しました!」
「よ、よくやってくれた……救出対象をクジラに収容後、本国へ送還する。」
他の隊員たちに支えられてようやく立ち上がった隊長は敬礼をすると、そのまま医務室へと連れられて行った。
人を16人も載せた装甲車を5km近くも飛ばしたのだ。魔力切れが起きてもおかしくない。
班長は自身も立ち眩みを感じながら隊長の貢献に感心していた。
気絶から目覚めて、自分たちが解放されたことをようやく自覚できた救出対象者たちが甲板上で抱き合ったり飛び跳ねたりして泣きながらはしゃいでいるのを笑顔で見守り、全員を艦内へ収容すると、潜水艦は海中へと潜っていった。
そして、異世界法施行から1時間後に日本人救出のニュース速報が日本中を駆け巡ることになったのだった。




