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異世界転移帰し②

――強襲班


潜水艦の甲板のミサイルハッチが7つ開放された。

ハッチの奥が蒼く輝く光で満たされていく。

光が周囲に漏れ出すほどに光量を増し、最高潮に達した時。


パシュン


軽快な音とともに7つの光が空へ打ち上げられた。

グングンと空を昇っていくミサイルだと思われる物体は、強襲班の7名であった。

レールガンのような発射台から砲弾のごとく撃ち出された7名は、やがて上昇の勢いが衰えて海面に向かい落ち始めた。

すると、いつの間にか隊員たちの体から戦闘機のデルタ翼のようなものが生え、町の中心に向かってカーブ描きながら滑空していった。


メーレルの街は夜も更けているが、経済的に潤っている街のため、歓楽街には明かりがともっている。目標である第25エリアは歓楽街からは離れているが、広い街路に面した大きな施設であり、昼間は多くの人の行き交うメインストリートであることがうかがえる。ローマのコロッセオを彷彿とさせる楕円形の特徴的な建物である。


そんな施設に向かって、小さな風切り音の尾を引きながら滑り落ちていく7つの影に気が付くものは誰もいないようだ。


あと数百メートルで目標施設に到達する地点まで到達した7名は、それまで纏っていた翼のようなものがスルスルと萎んでいき、最初に来ていた黒ずくめの動きやすそうな装束へと戻っていた。

そのまま施設の壁に激突してしまう。そう思った次の瞬間、慣性の法則が突然迷子になってしまったように勢いが衰えて静止した。闘技場内へ侵入することに成功した面々は陣形を組んで




――闘技場警備員詰め所


「ん?……これは」


そのころ、闘技場内で部下と酒盛りをしていた警備主任は不自然な魔力の揺らぎに気づいた。

すぐに卓を囲んでいた部下たち荒々しく急き立てて、酒盛りをしていた詰所から武装して飛び出した。

後ろから合点のいかないような表情で自分を追ってくる部下たちを引き締めるべく叫んだ。


「野郎どもお!久しぶりのお客さんだあ!魔力隠蔽技術のうまさが半端ねえ手練れだぞお!今すぐ傭兵全員で敵を探させろお!!」


指示を済ませた警備主任は舌なめずりをすると不敵な笑みを浮かべ、数名の手塩にかけている部下を伴って魔力痕跡をたどり始めた。




―――闘技場内、剣闘奴隷収容エリア近く




薄暗い通路を静かに7つの影が駆けていく。


道中の警備人員は練度が低いのか、全て鎧袖一触で無力化に成功しており、その進行が妨げられることなく収容エリアへと到達した。


剣闘士奴隷と呼ばれる人々が収容されている牢屋が通路の両サイドに並んでいる。




逃亡を防ぐためなのか、通路には重厚な扉がはめ込まれた出入口が一つだけあり、反対側の突き当りは壁が行く手を阻んでいる。それ以外には採光を兼ねた格子付きの換気窓が等間隔に並んでいるだけの一角は夜間の行動を制限するためか、ほかのエリアでは灯っていた魔石灯が一つも設置されていない。


牢屋にも等級があるのか、複数名が雑魚寝している部屋やベッドが置いてある部屋、家具が一通りそろっている部屋もある。剣闘の人気や成績などで待遇が異なるのだろう。意外なことに、ある程度の清潔感が確保されており、異臭が鼻をつくことはない。


そんな通路の一番奥。明らかにほかの牢屋とは扱いの異なる牢屋があった。近隣の牢屋は全て空になっており、だれの目にも触れないようにその牢屋の前の通路には通行を妨げるようにカーテンのような仕切りが閉じられている。ほかの剣闘士奴隷の目につかないようにされているようだ。


強襲班の面々は仕切りの前に立ち、向こう側の気配を探る。


仕切りの向こうでは、何人かの話声やすすり泣く声が聞こえてくる。




班長が腕に見ている機械を操作した。




「……確かにこの奥から”大和波動”を検知できる。ただし6つだ……」




班員たちのの圧が上がったような気がした。




「ここ以外に大和波動を検知できたポイントはなかった。わかっているとは思うが、俺たちの仕事は日本国民の救出だ。回収班が到達するまで周辺を警戒しろ。いくぞ。」




そう戒めて、カーテンをくぐっていった。


日本人は3つの牢屋に二人ずつ閉じ込められており、男性が2名と女性が4名。大人から子供まで年齢はばらばらだった。


カーテンの先ももちろん明かりなどはなく、暗闇に支配されていたが、班員たちは迷うことなく3つの牢屋へと別れて歩み寄っていく。


班長は一番奥の牢屋へと進み、静かに声を掛けた。




「みなさん、起きていますか?私たちは日本政府よりみなさんを助け出すように派遣された日本国防衛軍の救出部隊です。これから皆さんをこの世界から脱出させて日本へ護送します。」




「……」






それから数分かけて救出対象日本人に夢ではないことを理解させ、救出作戦のことを認識してもらうことができた。


救出対象は涙を流しながら、二度と日本に帰れないと思っていたことや、自分と同じように連れてこられた日本人たちがどこかへ連れていかれた帰ってこなかったことなどを教えてくれた。




「ここには18名の日本人が閉じ込められているという情報を得ていたのですが、ここ以外に日本人が閉じ超えられている場所に心当たりはありますか?」




班長は念のため確認するも、返事はる意味で予想通りのものであった。




「人数なんてわからない。私もここにきて1週間ぐらいだし、この子も三日前に連れてこられたばかりなの。この子が来る前には同室の女性がもう一人いたけど……」




――戻ってこなかった。――


暗い表情でそう告げた。

班長は、気持ちを切り替えるように手をポンと打ち合わせると、救出対象に立ち上がるように促した。


「伝えにくいことを聞いてしまいましたね。申し訳ありません。さあ、これから皆さんを日本に送り届けますのでここから脱出しましょう」


他の牢屋でも説得が終わったのか、残りの4人を引き連れた班員たちが牢屋から出てきた。

周囲を警戒していた班員の一人が班長に告げる。



「あと1分で回収班が到達します。」



「よし、手筈通りに北東方面の壁を破壊して外に出るぞ。方円陣形で対象を護りながら進め。」



『超音波破砕』


班員の一人が牢屋の奥の壁に両手をかざしながら何かを口走った。

モスキート音のような高音が微かに聞こえてくる。

すると、分厚いレンガの壁が瞬く間に細かく砕け散り壁の向こう側へとつながってしまった。

さすがの異音に驚いたのか、カーテンの向こう側がザワザワと落ち着かない様子になってきた。

班長は救出対象に対して優しく語り掛ける。


「さあ、迎えが近くまで来ています。前にいる隊員について進んでください。」


陣形を組んだ班員たちに囲まれた救出対象たちはおずおずと歩き出し、一行は替えの向こう側へと進み始めた。



その時、


§ΔЙЙПΘ(風斬り)!!〉


何者かの掛け声とともに仕切りのカーテンが真っ二つに切り裂かれ、不可視の斬撃が勢いそのままに一行に襲い掛かった。

殿(しんがり)で警戒していた班長がとっさに反応して腕を立てて防御した。




パァーン!!



班長の腕が破裂音とともに弾かれた。その腕に巻かれた手甲には青い刻印が輝いている。



「お?腕をもらったと思ったんだがなあ。やっぱり()()()()…」



カーテンの向こうから複数の武装した現地人が現れた。闘技場の警備兵のようである。

風の斬撃を受けて腕を弾かれた班長を見て楽しそうにニヤついている。



「久しぶりのお客さんの狙いは()()か。返してもらおうか。」



肩に大剣を担ぎ、他の者たちとは一線を画す存在感を発する男が警備兵を束ねる人間警備主任のようだ。

すでに班員たちに促されて壁の向こうに消えた日本人のことを指して不穏なあだ名で呼んだ。

班長は一人でその場に残り、警備兵たちに相対してナイフを構えた。



「……」



「なんだあ?今度のお客さんは口下手みたいだなあ!それともビビッて何も喋れないのかあ?」



嘲笑しながら部下の警備兵を鼓舞する警備主任がよそ見しながら笑い声をあげたとき、班長が飛び出して警備主任へと切りかかった。




ギィィィン!




わざと隙を見せて攻撃を誘ったのか、警備主任は大剣を振り下ろして班長のナイフと衝突した。

それから数合打ち合い後ろへ飛びのいて距離をとった。




「やるじゃねえかあ!そんなおもちゃで俺とやりあえるとは相当の使い手だなっらあ!」



褒めながらも大剣を振り下ろし床が砕け散った。その大剣には緑色の燐光がまとわりついている。

まるで木の棒でも扱うように素早い動きで大剣を振り回して班長へ迫る。

班長もさすがにナイフで攻撃を受け続けるのは分が悪いと察したのか回避に徹する。

その間にナイフの刃に手をかざして何かを唱える。




〈高周波振動〉




それをチャンスととらえた警備主任が横なぎに大剣を振るった。

班長は回避に徹していた体勢から前方へと重心を移動させながらナイフの刃を立てた。

そして、双方の武器が交錯した瞬間、




キィイイイイイイイ



耳障りな音が周囲に響き、警備主任の大剣が両断された。



「なあっ?!」



まさかの事態に警備主任も驚くが、勢いは止まらずにたたらを踏む。

その背中に向かって班長のナイフが迫る。

そのままナイフが背中に吸い込まれていくと覆った瞬間、班長の腹部に衝撃が走った。



「グッ」



警備主任も一筋縄ではいかないようで、とっさに風の弾丸を班長に撃ち出したようだ。

だが、とっさのことだったので、班長の体を貫くことはなく、一歩だけ後ろに退かせるにとどまった。

両者はたまらず大きく飛びのき距離をとった。



「ヒュー!こいつぁ驚いた!そんなマギ魔術は初めて見たぜえ。あの剣は高かったのによぉ…おい!お前の剣を貸せ!」



警備主任は後ろで固唾をのんで見守っていた部下に声を掛けて武器を替えて仕切り直しをしようとした。

しかし、班長の耳には救出対象たちが全員、回収班の車両に乗せられたことが聞こえていた。




「いや、ここまでだ。」



こちらに駆けだす警備主任を一瞥しながら、班長は懐から取り出したトリガースイッチを押した。


連続する爆音。


闘技場全体が揺れ、天井の一部が崩れてレンガの塊が二人の間に降ってきた。



「今度はなんだあ?!なんの魔力も感じなかったぞお!お前、何をしたあ!」



愕然として崩れた天井の穴を一瞥してから班長の方へ向きなおしたが、すでに班長は姿を消していた。



「やられたあ!おい!お前ら!追いかけるぞお!」



警備兵たちは壁に空いた穴へと殺到し、救出部隊の後を追いかけていった。

その後ろでは、剣闘奴隷たちの閉じ込められていた鉄格子が破壊されており、奴隷たちが脱走し始めていた。





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