異世界転移帰し①
ここは特筆するところもない、日本のとある地方都市。
その中心街のビルに設えられた大画面ヴィジョンでは、軽快なリズムに合わせてダンスを踊りながら、女の子の初恋をテーマとした歌を歌うアイドルが踊っている場面が映されていた。
道を行き交う人々は信号待ちの間、ヴィジョンを眺めるものもいれば、手元のスマホを食い入るように覗き込みながら必死に画面をタップしているものもいる。
まさにありふれた光景である。
しかし、次の瞬間から人々は、日本は、変革の時を迎えることとなる。
ヴィジョンの中でパフォーマンスをしていたアイドルの映像が突如暗転すると、続いて報道スタジオを映し出す映像へと切り替わり、画面の向こうで緊張した面持ちで待ち構えていたキャスターが口火を切った。
『――本日、衆議院本会議にて全会一致で成立した通称"異世界法"こと”並行世界における敵性国家に対する国体防衛に関する法案”が可決され、即日施行されました。
2054年の世救勇氏の異世界からの帰還からたったの2年で、まさに怒涛の勢いで行われた対並行世界に関連した憲法修正および新法整備の集大成ともいえる法律が、本日全会一致で可決され、即日施行となりました!
政府の発表によると、異世界法の施行からわずか1時間後の本日15時過ぎに、日本防衛軍の対外威力行使特殊作戦群が"第23番世界の専制君主国家ノゾケルガ王国"に不当に拉致された日本人6名の救出作戦を敢行し、全員を救出することに成功しました。
救出された被害者の方々は衰弱や負傷が見られるものの意識もはっきりしており、現在防衛軍施設内にて並行世界に長期間滞在したことによる身体への影響を検査を受けているようです。
今後、日本は現在地球上にて25ヵ国、異世界国家を含めると58ヵ国が批准している…………条約…………加盟…………宣戦……」
ニュースはまだ続いていくようだが、そのニュースを偶然目にしていた人々の喧騒かき消されていった。
歓喜を爆発させ、咆哮のような声を上げるもの、目に涙を浮かべ念願の達成を噛み締めるもの、血の気の引いたような真っ青な顔で立ち尽くすもの、様々な反応が見られる。
この日、日本は各地で熱狂と混乱を巻き起こした。
これまで散々、煮え湯を飲まされ続けてきた異世界に対してようやく日本が反旗を翻した記念すべき第一歩となったからだ。
この日より、日本はただ一方的に国民を搾取されていた被害者から、慈悲のない侵略者へと驚くべき変貌を遂げることとなった。
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――第23並行世界
――ノゾケルガ王国の港湾都市メーレル近郊の海中
――日本時刻14時00分
――現地時刻03時16分(推定)
コポッ
漆黒の海面に波紋が拡がり、海中より静かに何かが浮かび上がってきた。
深夜の暗闇の中に溶け込むような濃紺の流線型ボディを持つ潜水艦だ。
その潜水艦の中では潜水艦の運航に必要な人員はおらず、完全自律航行で街の灯りへと近づいていた。
その潜水艦の中には、無人であれば必要のない不自然な部屋が点在していた。
その中の一室。
人が詰めて入れば30人ほどは入れそうなスペースの中央に直径2メートル程度の円環が厳重に固定されている。
その円環の外縁部にはなにやら複雑な紋様が刻印されているようだ。
次の瞬間、刻印が光を帯びた。
ピシッ
そして、円環の中心。何も存在しない中空に白く小さな亀裂が入った。
亀裂は時間を経るごとに大きくなり、やがて蜘蛛の巣上に広がった亀裂が円環の外縁部へと到達した。
すると、亀裂の中心部に白いくまばゆい光が発生し、まるで空間に穴を開けるように拡がっていった。
光が亀裂をすべて呑み込み円環の外縁まで到達したとき、光の中から人影が現れた。
その人影は部屋の中を確認すると、そのまま歩みだした。
人影の背後から再び別の人影が現れて、やはり部屋の中へと歩みを進めた。
そうして10人の人影が光の中から排出されると、光の勢いは急にしぼみ出していつの間にか円環を残して消えてしまった。
光から現れた10人は、一様に上から下まで黒ずくめの装束を身に纏っており、どこか物々しい雰囲気を漂わせている。彼らは日本防衛軍対外威力行使特殊作戦群第一大隊所属、通称”鵺分隊”
一番最後にこの部屋に現れた男性が口を開いた。指揮官のようだ。
「これより、港湾都市メーレル第25エリアの通称”闘技場”に囚われている日本人推定18名の救出を目的とした強襲作戦を実行する。事前確認の通り、強襲班7名は垂直カタパルトにて港湾市内へ侵入し適正武力を無効化ののち、日本人を回収。回収班2名は私とともにクジラが接岸後に浮揚式装甲車にて第25エリアまで進行し、強襲班及び救出対象を回収。クジラに護送する。与えられた役割を全うすることを期待する。作戦完了予定時刻は現時間03時56分。現在時刻は03時18分全員時計を合わせろ。」
全員が時計を合わせると、指揮官の号令の下、隊員たちは散っていった。




