”PLAY” Your Role⑤
「まあでも、VR訓練でかなりやりこんだから、ここら辺は余裕かな!」
そんなデルタの慢心がフラグとなったのか、その後もウィンプルバグを発見するたびに小型の蛙型の魔物やムカデ型の魔物に襲われて時間を取られてしまい、10匹目の時に現れたカラス型の魔物との死闘を終えた頃には夕方になっていた。
最後のカラス型の魔物はさすが賢いカラスに似ているだけあり、魔法を有効に活用して木の実を飛ばしたり、刃物のように硬化した翼を飛ばしてきたりとデルタを翻弄するように立ちまわっていたが、デルタの巨大魔物に対する恨み?の方が上回り、ボロボロになりながらも最後は何とか勝利を掴み取っていた。
「つかれたぁあああ~~~。簡単なチュートリアルだと思ってたけどなかなか歯ごたえがあったなぁ~」
カラスの魔石と羽根をゲットして、ウィンプルバグの魔石も忘れないように回収すると、もう森に用はないとばかりに一目散にヒフニ―の待つ森の入口に向かった。
なぜか森の中でこれ以上魔物に遭遇することなく、非常にスムーズに森の入口へと近づいていったが、そこで異変に気が付いた。
ズズーン……ドーン
ヒフニ―と別れた場所で断続的に爆発音が響いているのだ。
一度は立ち止まったデルタだが、再び飛び出した。今度は地面を這うような飛び方ではなく、風魔法で上昇気流を産み、晴香上空へと駆けあがっていった。
森が切れている当たりで爆炎が上がる。
そのたびに四つ足の魔物らしき影が爆発に巻き込まれて吹き飛ばされているのが見えた。
やがて、ヒフニ―の馬車が見えてきた。
ヒフニ―は馬車の屋根に上がり、馬車を囲んでいる狼らしく群れと戦っているらしい。
狼の体長は2Mほどあり、群れの主に至っては4Mを超えていた。
そんな巨体を持つ狼たちに向かって、懐から試験管を取り出してはヒョイヒョイ投げて狼たちを吹き飛ばしている。
「かっかっかぁあーーー!幻影狼なぞ恐れるに足らんわい!全部吹き飛ばせばいいんじゃあーー!」
最高にハイになっているのか高笑いしながら爆裂薬を投げまくっていた。
そして、群れの主に向かって渾身の力を込めて投げようとしたとき。
ぽきっ
「お゛………」
普段は研究室にこもりがちで運動不足であることが祟ったのか、ヒフニ―老人の腰が限界を迎えた。
ヘロヘロながらもなんとか投げた最後の一投は、ラッキーなことに近くにいた狼を吹き飛ばしたが、それが最後だった。
幻影狼たちの主は好機が訪れたことを察し、即座に一吠えして群れをけしかけた。
殺到する幻影狼たちに腰を抑えるヒフニ―は万事休すとなる。
「《二重圧縮空気銃!》」
戦闘の狼が突然上から打ち下ろされたように地面に叩きつけられた。
その立派な鼻からは鼻血が垂れ落ちており、痛そうだ。
鼻を抑えてキャインキャインと鳴いている狼を取り巻く狼たちは自然と上空を警戒する。
しかし、なんの気配も感じられなかった。度重なる爆発で砂ぼこりが舞っているため、デルタを捕捉することができなかったのだ。
戸惑う狼の群れを飛び越えて、デルタはヒフニ―がうずくまる馬車の屋根に着地した。
「ヒフニ―さん!助けに来たぞ!」
「おお!デルタか!ウィンプルバグの魔石は集まったのか?」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ!早く小人化を解除してくれ!」
「そんなこととはなんじゃ!わしの研究がかかっておるのだぞぉ!」
「ああ~!もう!集めたよ!集めたから早く戻して!」
「ほぉ!よくやったぞ!では、まずはこれじゃあ!」
なんとも緊張感のかけらも感じられないとのやり取りののち、ヒフニ―は懐から出した小瓶を振り上げた。その目は完全にキマッており、凶器すら感じる。
―――まさか、用済みとばかりに殺される?!
そんなことを一瞬思ったデルタは目を瞑ってうずくまった。
ガシャン
デルタのすぐそばに小瓶が叩きつけられ、音を立てて割れた。
中に封じられていた魔法薬が解き放たれデルタに襲い掛かる。
バシャーン!
大洪水が起きたのかと思った。
デルタは小瓶から勢いよく流れる薬液の流れにのまれ、馬車の屋根から落ちていった。
そして、地面に着地するころには元の大きさに戻っていた。
見事な三転着地を決めたデルタは静かに立ち上がると、狼の群れと対峙した。
新手が突然現れたことで警戒した狼たちだったが、主の一吠えでデルタに向かって殺到した。
ヒフニ―がかなり削っていたが、残り10頭ほどの手下と主が残っている。
「《風魔散弾銃!》」
デルタの銃手から風魔法の散弾が撒き散らされる。
今度は実体弾を使わない魔法弾のようだ。
実体弾と比較すると威力が下がりそうだがそんなことはなく、狼たちの体を穴だらけにしていった。
「派手に暴れていいならこっちの方が調子いいぜ!おらぁ!《風魔散弾銃!》」
どうやら、派手に魔法弾を使ってしまうと、魔力の気配が周囲に拡散され、ウィンプルバグが隠れてしまうために最低限の魔力で実体弾を撃つことを選択していたようだ。
本領を取り戻したデルタはあたりに魔法弾をまき散らす。
残すところは幻影狼の主だけになってしまった。
主は、群れの仲間たちが敗れてしまったことで怒り浸透したのか、デルタにさっきを向けると、いくつもの幻影を生み出してデルタに向かって襲い掛かった。
幻影狼の特徴は、自身の幻影を作り出し、獲物を翻弄して死角から襲い掛かることであるが、一定以上の経験を積んだものは、さらにある魔法を習得する。
デルタは実体だと思う狼に向かって両手の銃を向けて撃つ。
《影渡り》
しかし、幻影狼は球の届かない自身の幻影に本体を転移させて銃弾を躱した。
襲い掛かる狼の爪。
デルタの背中が切り裂かれた。
「あぐっ….…やるじゃん!」
自分よりも巨体である幻影狼の主を睨みつけて不敵な笑みを向ける。
「デルタ!約束の薬じゃぁぁあー―――ーああああああああ~とは頼んだ……」
背後からヒフニ―が最後の力を振り絞って投げてきた試験管を受け取ると、中身も確認せず一気に呷った。デルタには確信があったのだ。
そして、再びデルタの視界に変化が訪れる。
視界が馬車を越え、幻影狼の背を越え、森の木々を越えた辺りで変化が止まった。
デルタは10Mを越える巨人へと変身していた。
「うおおおおおおおおおおぉおお!!」
地面を揺らす轟音のような雄叫びを上げたデルタは、幻影狼を見下ろして不敵な笑みを浮かべた。
そして、急激な変化を遂げたデルタを唖然として見上げていた幻影狼に向かって片足を振り上げた。
「おらぁああああああ!」
そして、勢いよく足を振り下ろし、幻影狼を踏み潰そうとした。
間一髪、我を取り戻した幻影狼はなんとか幻影を生み出し、影渡りを成功させる。
そのままありったけの幻影を生み出して、的を絞られないうちに逃げ出そうとした。
しかし、巨大化しストンピングを空振りしたデルタは両手を構えて次なる手を用意していた。
両手の口が合体でもしたのか、両手で竜の顎を模した銃手へと変貌を遂げていた。
その竜口の奥から白い光があふれ出す。
「これで終わりだぁああ!!《巨大なる竜の咆哮!》」
竜口から巨大なエネルギー光が放たれた。
その白い光は周辺に散らばり逃げていた幻影狼たちをことごとく薙ぎ払い、光の中へ呑み込んでいった。
やがて、光が収まると視界のはるか先で幻影狼が体の半分を吹き飛ばされて倒れていた。
残心を解いたデルタは幻影狼に向かって勝ち誇った顔で語りかけた。
「俺を見下ろした時点で、お前の運命の行き着く果ては終焉だったんだ…」
自分史上とびきりに渋い顔で決めゼリフをキメたデルタは満足そうに天を仰いだ。
「今日はやけに空が近く感じられるぜ…ふっ…」
そして、自己陶酔に陶酔を重ねて巨大化した自分を味わっていると、足元でヒフニーがピョンピョン飛び跳ねながらデルタを褒めていた。
「でかしたぞぉ!デルタぁ!さすがわしが見出した最高のパートナーじゃあ!」
何が不穏なセリフが聞こえたような気がしたが、巨大化したことで気分がいいデルタは気にしない。
デカいデルタは器もデカいに決まっている。
そんなわけでひとしきり喜んだあと、幻影狼たちの素材を回収して、チュートリアルタウンに帰ることにした。
懐からおもむろにミニマイザーで小さくして隠していた馬を取り出すと、解除薬を振りかけて元の大きさにした。
ヒフニーは次にデルタに向き直ると、解除薬を掲げた。
「ほれ、介助薬をやるから元の大きさに戻って帰るぞぉー」
しかし、デルタは首を横に振った。
「いや、ヒフニーさん。実はこれが俺の真の姿なんだ。だから、もう戻っている。さあ、送るよ。帰ろうか。」
妙にわけの分からないことをのたまうデルタに促されて馬車に乗せられたヒフニーはそのまま馬車ごと小脇に抱えられそうになったが、さすがに10M程度の身長では馬車を抱えるのは辛かったのかすぐに降ろされた。
アホである。
馬車の隣をわざとズシンと足音を立てて歩くデルタに怯える愛馬を、ヒフニーがなんとか宥めながら、チュートリアルタウンへと帰っていった。
その後、街の門番に街への立ち入りを咎められて一悶着あったが、ヒフニーの「巨人化薬の効果は1日だけ」という情報を聞いたデルタが大量の巨人化薬提供の約束を取り付けることで、ようやく解除薬を飲んて元の大きさに戻って事なきを得た。
―――ヒフニーの研究所
ようやく戻ってきた小汚い研究所で、デルタは約束の素材を護符から取り出してヒフニーに渡していた。
早く巨人化薬を手にしたくてはやる気持ちが抑えられない。
ヒフニーは勢いよく渡されたウィンプルバグの魔石を落としそうになりながらなんとか手の中に収めると、実験台の怪しげな緑色の光を湛える液体が入れられた三角フラスコの中に一つだけ落とした。
すると、魔石を中心に泡立ち始め、液体の色が黄色、赤、ピンク、紫へと変わり、最後にオレンジ色になって反応がおさまった。
その三角フラスコを持ち上げて念入りに観察してヒフニーは、実に自然な動作で三角フラスコの中身を呷った。
「うえー。よくあんなの飲めるなー」
デルタはドン引きでおえーっとした。
そんな仕草をするために、ほんの一瞬視界を外しただけだったのだが、突然ヒフニーが消えた。
「え?どこ?」
周辺をキョロキョロするデルタ。しかし、ヒフニーは見つからない。
「デルタよ、ここじゃよぉ」
突然目の前からヒフニーの声が聞こえてきてビクッとしてしまう。
「え…ヒフニーさん。もしかして…」
「そうか、消えたか……かっかっかぁぁあああ!わしに不可能はない!」
「ほんとに消えてる。すげー。」
見えなくなったヒフニーの高笑いが聞こえる方を見ながら称賛の言葉を贈るデルタだが、どこか上の空だ。
そんなことよりも巨人化薬を早く手に入れたくて仕方がないらしい。
「デルタ、礼を言うぞぉ。おぬしのおかげでまた一つ研究が進んだ。」
「うんうん。よかったよー。それで…ね!」
もみ手をスリスリしながら腰をかがめてヒフニーの目線に合わせたデルタは笑顔で報酬を催促する。
「うむ、わかっておるぞぉー。うむ。あれなぁー。うむ。」
ヒフニー歯切れが急に悪くなる。姿は見えないのに冷や汗をかいている様が思い浮かぶようである。
「さっきのが最後なんじゃ…」
「銃手」
笑顔で固定された表情のまま、銃手に変形させた両手を実験台に向ける。
「《空気炸裂…」「まてまてまて!在庫が切れただけじゃあ!早まるなぁ〜。作れるから!作れるから落ち着いて!」
ヒフニーは透明なままデルタの銃手に飛びついて研究成果の破壊を阻もうとする。命を懸けて真理を探求する研究者の鑑である。
「で?」
笑顔から絶対零度の冷徹な表情へと早変わりしたデルタは続きを促す。解除薬解除薬を飲んで姿を現したヒフニーはデルタと実験台の間に立ち、両手を広げながらデルタを見上げる。
「作れるんじゃぁ…ただ、素材が手元に無くて…」
「どこにあるんだ?また俺が集めてくるから言え!」
ヒフニーの頭に銃手を突きつけて脅すデルタは、端から見れば押し込み強盗である。
「それが…この近辺では取れない素材でのぉイタっ!牙がくいこんどるぅ〜。頼むから続きを聞いてくれぇ〜」
銃手の牙でヒフニーの頭に齧りつかせたデルタの目は完全にイッテいる。
「この街から東へ1週間ほど進んだところにエテキージョアという貴族領があってのぉ。その領地の中に入ってから南東に続く街道をさらに1週間ほど進むと見えてくるメメレケレレ山という見事な山が聳えておる。その山の麓の樹海に生息しているギガギガンという巨人の魔物から採れる魔石を集めればすぐにでも巨人化薬は作れるぅっ。わしも一緒について案内するから、許してけれぇ!」
ヒフニーは実験台を壊されまいと必死にへばりついていた。
そんなヒフニーをいつの間にか銃手から戻っていた手で引っ剥がすと、そのまま引きずって研究所の出口へと向かった。
「当然付いてきてもらうよ。今から行こう!」
「いやぁじゃあああ!せめて透明化薬を少しだけ作らせてええ!」
実験台に向かって名残惜しそうに手を伸ばすヒフニーを無慈悲にも連れ去ったデルタは、ヒフニーの馬車を駆り、チュートリアルタウンを飛び出し東へと向かった。
ボーイミーツガールではなくボーイミーツジージなデルタの旅はついに始まったのだ。




