91.王子2人の恋模様
どうも、アンズです。
顔見せに夜会に大神官に刃物沙汰、死にかけのフェンデル王子、より1ヶ月経ちましたよ。
王室主催の大規模な夜会での刃物沙汰、に城はしばらく、バタバタした。
レバンド伯爵令嬢本人やレバンド家の処遇についてはもちろん、夜会会場に刃物を持ち込まれ王子が刺された、という事実についての反省と今後の対応で会議はもめにもめた。
同じ手を使われると、今回のように王族までも害する事が出来るのでは?という意見が出たのだ。
まあ、出るでしょうね。
しかし、正式な招待状を持つ貴族へのボディチェックは通常行われないし、ましてやレディのスカートの中なんて見れる訳がない。
でも、実際に聖女が狙われ王子が刺されたんだぞ、どうするんだ!?
という感じですね。
これについては、すぐに結論が出るはずもなく、結局、そもそも、貴族の令嬢が公の場で自らスカートを捲るなんて社会的に死ぬ行為なのだから、今後これと同じ事が起こる可能性は低いのでは…………?
みたいな感じで、もごもごと締め括られたとの事。
レバンド伯爵令嬢は極刑となり、レバンド家は存続こそ許されたものの、かなり領地を削られ、爵位は遠戚の名もない若者に譲られる事になった。
そして、すっかり忘れてないかしら?
そう、大神官だ。
こちらは神官の資格が剥奪され、神殿より追放。
今後は、僻地の修道院で修道僧として一生を奉仕活動に捧げる生活を送る予定との事。
本人はそれを聞いて、憑き物が落ちたように晴れやかな様子らしい。
拘束場所の貴賓牢へと通うジェンキンくんを通じて私への詫びも伝えてきた。
治癒魔法への誇りや神殿への想いは本物だっただろうし、今後の大神官の生活が、安らかなものだったらいいな、と私は思う。
私はというと、レバンド伯爵令嬢の件も大神官の件も当事者ではあったので、調書を取られたり、現場確認したりで、何だかんだと忙しく、2週間ほどは仕事もお休みするしかなかった。
その後は、元の生活に戻っている。
「大変でしたね」とヘラルドさんに迎えられ、スミスくんと本の補修や目録修正に勤しむ日々だ。加えて、ハンク副長官が「近々、麗しいアンズ殿に翻訳をお願いしたい案件がある」と言ってきていて、忙しくなりそうだ。
さてさて、そして今日は、久しぶりの古代魔法研究室助手だわ、と半地下の研究室に出勤したのだけれど、私を待っていたのは魔法文字達ではなく、恋愛相談だった。
***
「これが、俗にいう、みゃ、脈あり、という事でよいのでしょうか?」
朝イチから魔法文字そっちのけで、一部始終を話した後、イオさんが、ずずいっと私に詰め寄る。
「あー、えーと、そーですね」
「どうなんですか?アンズさんの忌憚のない意見を聞きたいんです」
さらに詰め寄るイオさん。
「うーん」
イオさんが、仕事を放ったらかしで気にしている案件。
もちろん、ローズだ。
出勤するなり、「アンズさん、お仕事の前に聞きたい事があるんです」と神妙な面持ちで切り出したイオさん。
何かしら、と聞くと、ローズの事だった。
話はあの夜会の晩に遡る。
あの夜会の晩、やっとのことで出席者達を全員帰し、ふらふらと会場を出たイオさんをローズが待っていた。
驚くイオさんに、ローズは騎士達が「夜会で王子殿下が負傷されたらしい」と出ていくのを聞いたと言い、「第三王子殿下はご無事でしたか?」
とイオさんに聞いた。
「私は何ともないです。負傷したのは次兄で、リサ様のお陰で大事ありませんでした」
「よかった」
「私を、心配していただいたのでしょうか?」
「おそらく」
そう答えたローズは珍しく、狼狽える様子だった。
イオさんはそっとローズの手を取る。
「ありがとうございます、その、嬉しいです」
「いえ、こんな所まで押し掛けてすみません、失礼いたします」
ローズは、手を引くとさっと礼をして去って行った………
ここからの、脈ありか?発言だ。
エピソードとしては、とても小さいわよね。潤んだ瞳で「あなたに何かあればと思うと、いても立ってもいられなくて」みたいなヤツではない。
でもね、ローズなのよ。
騎士達の任務に関する会話を聞き、そこから気になって夜会の会場まで来る、なんて、全然ローズっぽくない行動だ。
普段のローズなら心配するとしても、翌朝まで待って騎士達に尋ねる、という正規のルートでどうなったか確認すると思う。
つまり、これは、脈ありよね?
そうよね、ローズ、思わず駆けつけちゃったのよね?
でも、ここは、ローズの為にもゆっくり進めるべきよね?
「そうですね、アリかナシかだと、アリでしょうね」
「やっぱり、そうですか!」
がたんっと立ち上がるイオさん。
「でも、落ち着きましょう、イオさん。二択にした場合はアリかなあ、という状況です。友人として心配したのかもしれません」
「あ、そうか、そうですね」
しょんぼり座るイオさん。
「友人かあ」
「でも、妙齢の男性でローズに友人扱いされてるなんて、イオさんだけですよ。これは希望の光です。次はデートくらい誘ってみましょう」
「えっ、で、デートですか?」
「はい。ゆっくりローズの気持ちを確かめて、掴みましょう、イオさん」
私はぐっと拳を握る。
「あっ、はい!」
イオさんもつられて、拳を握った。
その時、バーン、と研究室の扉が開かれる。
「アンズ殿!」
びっくりして振り向くと、そこに居たのはすっかり元気なフェンデル王子だった。
「よかった、見つけた!早急に相談したい事があるんだ!」
「私にですか?」
「そうだ、もうすぐリサの誕生日なのだが、何を贈るといいだろうか?」
「あー、そうか、絶交を解いてもらったんですよね」
私はとても元気そうなフェンデル王子を見る。
フェンデル王子の肌は艶々で、光り輝く笑顔だ。ええ、リサちゃんと仲直り出来たからですよ。
それについてはリサちゃんより聞いている。
レバンド伯爵令嬢の件では、リサちゃんも現場でフェンデル王子の治癒をしたので、私とリサちゃんは一緒にその時の状況を聞かれたりもした。
その休憩時に、リサちゃんが教えてくれたのだ。
「フェンデルと口きくことにしたんす」
ぽそっと言ったリサちゃん。
「ふーん、付き合うの?」
さらりと聞いてみた私。
「うーん、いや、とりあえず、頑張らせるっす」
と答えたリサちゃん。
こちらはまだ、脈ありとまでは言えなさそうよね。
情けをかけた、くらいかしら。
「ドレスも宝石も要らない、と過去に言われているんだ。それらを要らないと言われると、何を贈るのかさっぱりだ!」
清々しいフェンデル王子。
「殿下、贈り物とは、相手の事を想って、考えて悩んでですね、」
まず、たくさん悩みましょう、と伝える私。
この人、見た目が美形だから誤魔化せてるけど、実は脳筋じゃない?軍の事ばかり任されていたからかしら?
お隣ではイオさんが、「そういえば、ローズさんの誕生日なんて、私は知りません」と、ぶつぶつ言っている。そして私は知っている、ローズは少し前に誕生日を迎えたばかりだという事を(私はちゃんとお祝いしたわよ)。
どうしようかしらね?
ええ、こんな感じで、司書に研究室助手に聖女に侯爵夫人もこなす私は、王子2人の恋模様も見守っている最中だ。
お読みいただきありがとうございました!
こちらで完結となります。
50話ですっきり完結させたので、その後の構想はあるものの蛇足かなあ、と思いながらも書きました。話の展開も大きくなり、不安でしたが、とりあえず完結できてほっとしています。
ずっと読んでいただいた方、本当にありがとうございます。ここから読んでいただいた方、楽しめていれば嬉しいです。
ブクマに評価、いいね、感想、いつもありがたいです。
誤字脱字、本当に助かります。
ありがとうございました。




