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9.お茶会


「のしを付けて差し上げますわ!オーホッホッホッ」

アンダーソン家の小さな庭に、私の高笑いが響く。


「アンズさーん、止めてください、あの時は必死だったんですよぅ」

私の高笑いにフローラちゃんが真っ赤になって、恨めしい目付きをする。


「ふふふ、あの時はびっくりしたわよ、ロイ君も目が点だったもんね、本当にこんなだったのよ、ローズ」

「まあ、ふふふ」

私の熱演にローズも慎ましやかに笑う。


本日は、フローラちゃんとローズを招いてのアンダーソン家でお茶会だ。

招いて、といっても、フローラちゃんは最初に我が家に呼びつけて以来、ほぼ毎日来てるので、招いたのはローズだけだ。


ロイ君は昨日より、2週間の結婚休暇を終えて、仕事に戻っている。

本来なら、妻である私と蜜月を過ごすはずの2週間だったのだが、私達はフローラちゃんとサイファも入れての4人で毎日楽しく暮らした。


朝、私とロイ君、我が家に住み込みのサイファと3人で朝食を取り、フローラちゃんが来るのを待つ。フローラちゃんが来ると、4人で買い物へ出掛けたり、お菓子や昼ごはんを一緒に作ったり、少し遠出のピクニックをしたりもした。

フローラちゃんは夕方には帰っていくので、夕食はまた3人で取り、めいめいの寝室へ引き揚げて眠る。そんな2週間だった。


そんな2週間で、私はロイ君とフローラちゃんとサイファとすっかり仲良くなったし、4人で付近をうろうろしていたので、ご近所の方とかよく行くお店の主人とも仲良くなれた。


アンダーソン家があるのは、貴族の屋敷が立ち並ぶ地区ではなく、比較的庶民よりの地区だ。フローラちゃんのお家であるライズ商会も近距離にあり、この辺りの人達はロイ君とフローラちゃんの交際を温かく見守っていた人達だった。

何なら花屋さんには結婚式のお花の予約が入れられていたし、居酒屋さんには結婚式後の飲み会の予約が入っていた。

それらがすっかりキャンセルになり、近隣の方皆さんで2人の結末に心を痛めていたのだ。


そんな所へのこの急展開。

皆さん、「良かったなあ」と涙ぐみながら喜んでくれた。そして私もとてもありがたがられる。「あんたのお陰だ、アンズさん、この2人は本当にいい子達なんだよ」「さすが、聖女様の従者様だなあ」「アンズさん、これ、俺からの感謝の気持ちだ」「アンズさん、これからもロイとフローラをよろしくね」と、本当に良くしてくれる。


これ、逆に私がロイ君と結ばれてたら、めっちゃ怖かったやつじゃないかなー、村八分だったよなー、と変な汗が出てきてしまうくらい、良くしてくれる。

ロイ君に手を出さなくて、本当に良かった。


結婚して1週間くらいで、ローズが私を心配して訪ねて来た時は、4人でダイニングでパンを捏ねていた所で、ローズは目を丸くして驚いた。

私から事の顛末を聞き、ローズは少しだけロイ君を睨んだ。ローズとしては、こういう形の結婚はあまり良い気はしないのだろう。


「ローズ、ロイ君は悪くないから、ま、私も悪くないけど。

大体好き合ってもないのに結婚とか少し無理があるのよ、そら結婚はもはや生活だし、愛より情なんだろうけど、それにしたって愛し合う恋人達を裂いてするようなもんじゃないよ、私は無理よ」

私がそう言うと、ローズは納得はしていないみたいだったけど、私が元気そうだし、ロイ君とフローラちゃんはいい子だし、で睨むのは止めてくれた。

でも、たまにちくちくは言ってくる。


「ご近所の皆さんは、あなた達の事を知っているから温かい目ですが、やはり世間的には眉をひそめる事態です。体裁だけでも整えておいた方がいいですよ。

特にフローラさん、何かあった時に一番責められるのは貴女です。お父様とはきちんと話し合われてますか?アンダーソン様もアンに流されないでください。そしてアン、本当に2人の事を考えるならこんな中途半端な応援は止めなさい」


ちくちく、というより、ぐさぐさだな。

ぐさぐさ、言ってくる。私達は尤もだなあ、何とかしなきゃなあ、と神妙に聞く。

特に私は、ここは最年長たる私が何とか打開策を見つけなくては!とローズにぐさっと言われる度に1人拳を握りしめている。


本日のお茶会でも、ローズは最初にぐさっと言ってきて、私は拳を握りしめ済みだ。

まあ、ローズの言いたい事は分かる、せめてフローラちゃんを第二夫人とか、妾の形で屋敷に囲えって事なんだろうなあ、、、とは思う。


ロイ君には爵位もある、第二夫人や妾を囲うほどの財力はないから少し変だけど、出来なくはない。たぶん。


フローラちゃんが実家から、結婚している夫婦の屋敷に堂々と通っている、おまけに夫は元婚約者、というのは確かに外聞も心証も悪い。完全に通いの情婦だ。もちろん、ロイ君とフローラちゃんは清い交際なのだけれど。(この点については、フローラちゃんにきちんと確認済みだ。どうやら、触れるだけのキスを2回した事があるだけの、本当に清い交際。やっぱりめっちゃ大切にしてたんだな、ロイ君。)


うーん、でもなあ、、、、、第二夫人や妾って法律上の立場が弱いんだよなあ。法律書も読んだから知ってる。

そんな立場にするのに、フローラちゃんのお父さんがフローラちゃんを差し出すとは思えない。


何かいい方法ないかなあ、、、、。



「あ、そういえばアンズさん、こないだ言ってた内職の事なんですけど」

そこでフローラちゃんが、スコーンにブルーベリージャムを載っけながら話題をさらっと変えてきた。


もう少し、オーホッホッホッ、で引っ張りたかったけど、そしてその後の「バカ、、、待ってる」までやりたかったけど、しょうがない。

内職の話の方が気になるから、私の1人演劇を終了させて乗ってあげる。

日中、あまりに自由な時間が多いので、フローラちゃんに商会のお仕事で、私が出来そうな事を回して貰えないか頼んでいたのだ。


「何かあった?」

「はい、まずは手紙の代筆はどうですか?」

フローラちゃんはそう提案してくれた。



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