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81.疫病の流行


朝、目を覚ますとグレイの腕の中だった。


あれっ?

一瞬戸惑って、すぐに昨日グレイが遠征から帰ってきた事と、今日と明日、私はお休みをもらった事を思い出す。


そうだった、お休みだった。


外を見ると、太陽はまあまあ高くなっているけど、隣のグレイはまだぐっすり眠っている。


「駆けられるだけ、駆けて帰ってきたんだ」

と昨晩、私を抱きしめながら言っていたし、

「俺のいない間に名声を高めるのは、もうやめてくれ。どれだけ心配したと思ってるんだ」

とも言っていて、少し無理して帰ってきてくれて疲れているようだ。


ワーズワース長官と何かあったみたいで、しきりに長官の事を気にしていた。

「口説かれたのは、冗談ですよ」と昨晩だけで何回言ったかしらね。


都に入ってから、露店で売られまくっている私の葉書大の肖像画も目にしたらしく、「もっと可愛いだろう」と不満も口にしていた。

肖像画は賢さを売りにしてるから、かなり、きりっと描いてあるのよね。

私としては、似てない方がありがたい。



お腹も空いてきたし、私はグレイを起こさないように、そろりと腕をどけて体を離す。

半身を起こして、ずりずりとベッドから出ようとして、がしっと腕を掴まれた。


「わっ」

「行くな」

「起こしちゃいましたか」

「それは構わない。もう少し、俺の隣で眠っててくれ」

私の返事は聞かずに、グレイは再び私を抱きしめて目をつむる。


「…………」


「…………寝てる」

やっぱり疲れているみたいだ。

そして、私が離れるのは、とにかく嫌みたい。


ひどく心配をかけたみたいで、申し訳なかったな、と思う。

しょうがないから、私もうとうとと二度寝を楽しんだ。







***


グレイが帰還し、2日間の夫婦の甘い時を過ごしてから1週間。

私は完全に図書室司書として復帰している。

受付レディ達に、ヘラルドさん、スミスくんなんかとしっかり働く日々だ。


賢いフィーバーが収まるまでの間は、カイザル王子による命で図書室には護衛の騎士も張り付く事になった。安心よね、毎日日替わりで若手の騎士が2名やって来るので、レディ達もほくほくしている。

良い出会いがあるといいわね。


さて、そんな今日、朝、出勤すると文官達が慌ただしく行き交っていて、城全体に落ち着きがない。


何かあったのかな?


「おはよう、スミスくん。何だか今日、バタバタしてない?」

図書室にて、私は早速スミスくんに聞いてみる。


「おはようございます、アンズさん。西部で流行っていた疫病の患者が騎士団で出てるみたいなんです」

「えっ、騎士団で?」


「はい、疫病対策で現地に行っていた、第九騎士団が先週帰ってきたんですけど、疫病を持って帰ってきちゃったようなんですよね」

「えー」

西部の疫病は少し前にやっと終息して、現地に赴いていた第九騎士団と神官達が帰ってきた所だったのだ。


「数日前より高熱を出す騎士が増えて、寮を中心に感染が広まってるみたいですよ。朝から神官達が呼ばれてます。ワム大神官も、遠征に同行していた責任を感じて来られてるみたいです。まあ、だからすぐに解決はしますよ」

「そっかあ、なら大丈夫ね」

寮の中だけの流行なら隔離も簡単だし、すぐに収まるだろう。


なんて、スミスくんと2人でのんびり話していたのだけれど、疫病の流行はすぐに解決はしなかった。


第九騎士団はしっかり、疫病を持って帰ってきてしまっていたようで、寮暮らしではない騎士から疫病は市井にも広まった。


西部で発生していた疫病は、初期症状は軽い咳だ。中には咽の痛みだけの人もいて、感染の初期は気付きにくいのが災いした。

第九騎士団の騎士達には、どんな軽微な変化であってもすぐに神官の診察を受けるようにと、現場でも、帰路でも伝えられていたけれども、すり抜けてしまっていた様子。


王都で高熱に倒れる人が増えた頃には、感染がそれなりに広がった後だった。


疫病の流行を受けて、神殿の神官達は、大わらわで寝る間も惜しんで治癒に奔走する事になる。

治癒魔法の代金が払えない平民にも、神官達は無償で奉仕し、流行の最盛期には、ワム大神官も、副神官であるジェンキンくんも不眠不休で治癒魔法をかけ続けた。


神官達の献身的な働きで、1ヶ月程で何とか流行は下火となったけれど、それまでの間は、「大流行が起こるんじゃないか」とか「大流行した場合は、神官達が足りなくて、多数の死者が出る」と、いろいろな噂が飛び交って、王都は騒然とした。


都の貴族達は競って神官を囲い込み、神殿に多額の寄付をして、皆が神殿と治癒魔法のありがたみを再確認する事になった。



カサンディオ侯爵家では幸いにも感染者は出なかったけれど、それなりに戦々恐々とはして、流行が収まってから、私も改めて治癒魔法ってすごいなあ、と感心する。


感染性の流行り病は、治癒魔法さえ間に合えば治る。

本当にすごいな、と思う。

そりゃあ、食事とか生活習慣に目が向かない訳よね。大体の病は治癒魔法で治っちゃうのだ。


治癒魔法は、魔法を使える人誰でもが使えるのではなくて、特性がある人だけが使えるらしく、そういう人達はほとんど神官になって神殿で働くらしい。


神官って、偉いなあ。

やっぱり、ワム大神官は立派な人ではあったのね。私には感じ悪かったけど。


次に会う機会があれば、私が治癒魔法を軽視している、という誤解を何とか解きたいなあ。

と私は思った。





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