73.アンズさんの大発見
私に天啓のあったその日は休息日で、私はお休みだった。
のんびりと起きた私は、ダイニングにて朝の紅茶を飲み、遅めの朝食に本日は、イン(米)のお握りを頂いていた。
「奥様……」
そんな私に沈痛な面持ちで近付いてくるセバスチャン。
「セバスチャン、どうしたの?」
一瞬、グレイに何かあったのかしら、という不吉な考えが頭をかすめて身構える私。
「奥様、非常に申し上げにくいのですが……」
悲痛なセバスチャン。
なになに、やだやだ。
「インが手に入りにくくなってきております」
重々しく伝えるセバスチャン。
ほっとする私だ。
「なんだ、びっくりしたわよ、セバスチャン。グレイに何かあったと思うでしょう」
「左様でございましたか、すみません。旦那様でしたら心配ありませんよ。遠征には黎明の聖女様もいらっしゃいますし、他の神官も多数おりますからね」
「まあね、滅多な事では死なないって言ってたもんね」
リサちゃんに掛かれば、その癒しの力で大体何とかなるらしい。ほんと凄いね、リサちゃん。
「今は、イン、でございます、奥様。西部の瘴気が深刻で、今年はインの栽培がままならないようでして、手に入りにくくなると思われるます」
「えぇー、残念ね」
「しばらくは、買い占めた分がございますが、大切に味わってお食べください」
「分かりました、味わうわ。そうかあ、瘴気が濃いと農作物、育たなくなるのよね。住んでる人も大変ね」
「国から少しばかりの補償は出るようですけどね」
「それでもよねえ」
大変だろうな、とお握りを齧る。
そして私は齧りながら、ふと、このお握り、大丈夫かな?なんて思ってしまう。
ほら?瘴気の汚染的な?
そういうの、前の世界で習ったもの。工場の汚染水で井戸水とか、農作物が汚染されて、っていうやつ。
何となく、お握りの匂いを嗅いで、味を噛み締めて、まあ、大丈夫そうねー、でも匂いと味で分かるのかしらねー、でも瘴気って魔法的なものだし、公害とはまた違うわよねー、と思っている時だった。
ピカッ、と私の脳裏にある考えが閃く。
え?
私は、お握りを食べていた手を止める。
あら?ねえ?ひょっとして、瘴気って……
私は頭の中で、この国の地図を広げる。北側は山脈に囲まれ、その山からの大きな川が何本か南の海へと流れている国。
扇状地の平野、北部には大都市が多く、南は穀倉地帯。灌漑で使われる水。そして雨季に氾濫する川…………。
古代人の生活にはなかった瘴気。
山脈を越えてやって来た人達が北部に築いた大都市…………。
「セバスチャン!」
「はい。奥様」
「お城は今日も開いてるわよね?」
「どうでしょう、本日は休息日なので、外交部や人事などは閉まっていますね、図書室も閉まっておりますよ」
「魔法部は?」
「あそこと騎士団は年中無休の交代制です」
「イオさんは?」
「第三王子殿下は、休みなく研究室に居られると聞きます」
「馬車を回して!お城へ行くわ!」
「お急ぎですか?」
「分からない、急ぐほどの事じゃないかもしれないし、至急の事な気もするわ」
先ほど閃いた考えに私の心臓はドキドキして、何なら手も震えていて冷たい。
ただの閃きだし、いろいろ確認してから行動した方がいい気もする。
でも、とにかく、この閃きが熱を持ってる内にイオさんに伝えておきたい、と私は思う。
時間が経てば、いろいろ考えてしまって伝えるのを止めるかもしれない。
今、伝えないと。
セバスチャンによって、すぐに馬車は用意され、私は大急ぎでお城へと向かう。
聖女なので、顔パスで休日用の入り口より入り、早足でまず研究室に向かうとそこは閉ざされていたので、魔法部へと向かう。
息を切らして、たどり着いた魔法部には、普段より少ない魔法使い達が居て、カンナちゃんもイオさんも居た。
「イオさんっ!!」
「アンズさん、どうしました?本日は休息日ですよ、忘れ物ですか?」
「違います、私、今朝、お握りでっ、閃いたんですけど、はあはあ」
「落ちついてください、珍しいですね、アンズさんが取り乱すなんて」
イオさんが、驚きながら立ち上がって私を宥める。
「まだ、閃いただけで、根拠は無いんです、でも、正しい気がするんですっ」
「どうぞ、仮説をたてることは大切です」
イオさんがそう言って、私の背中を押してくれて、私は意を決して口を開く。
「イオさん、瘴気って水に含まれてるんじゃないですか?水が何かに汚染されてるんです。都市の下水はどうなってますか?川に流されてませんか?その水が南部で使われて、土や植物に溜まるんじゃないでしょうか?」
私の仮説にイオさんと、魔法使い達が目を見開いた。
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「汚れているのは土なんです」子供の時に衝撃を受けた、最強ヒロインのセリフです。拙作は水なんですが。
やっと、ここまで書けた。当初からこの設定を温めていたので、やれやれです。




