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72.魔法部にて


アマリリスさんからの忠告を受け、私はイオさんに噂について相談した。


「私はもちろん、アンズさんの事は、唯一の同志だとは思っていて、かけがえのない人だとも感じています。アンズさんなしの人生なんて考えられませんし、一生側に居て欲しい人で、私の全てをかけて守って」


「ストーーップ!ストップですよ!イオさん。私への恋心を失礼のないように否定しようとしている事は分かるんですけど、もう、それ、プロポーズです。聞く人が聞いたら誤解を生みます」

ええ!

私は、分かりますよ!

もう、慣れっこで、ドキドキもしませんよ。


「え? プロポーズ? 今のがですか?」

「そうです、劇的すぎますよ。それは、本当のプロポーズの時に言いましょう」

「ほ、本当の!?そ、そんな時は、お、訪れませんよ!」

真っ赤になって慌てるイオさんだ。

ローズの事、考えたわね?


「とにかく、噂です」

「あ、そうでしたね、噂ですね。ふーむ、そうですねえ、私が魔法部へ行く間はアンズさんは図書室に戻りますか?でも図書室は誰でも入って来れますし、誰かが悪意を持って噂を広げているなら、尚更、カサンディオ侯爵が戻るまでアンズさんを図書室に戻す訳にはいきませんね」


イオさんは、しばらく考え込み。


結果、


「本日より、イオさんの助手として、午後はこちらで雑用も手伝います、アンズです。よろしくお願いします」


私は、午後からイオさんと共に魔法部の一角、瘴気対策室にて仕事をする事になった。


魔力なし、魔法なし、の聖女なんて冷たくあしらわれるのかな、と思っていたけれど、魔法使いの皆さんは一部を除いてわりと歓迎してくれた。


「神殿の、開かずの部屋の一件は聞いてます。お会いしたかった」

「開かずの部屋は歴代の偉大な魔法使い達にも開けられなかったんですよ」

「アンズ様のお陰で、魔法の様々な可能性に気付いています。魔力があるだけが魔法ではない」

「イオンカルド殿下の、魔法への造詣の深さ、特に古代の呪文への知識の深さには敬服しているのです。アンズ様は同志だとお伺いしています、是非、語り合いたい」

「魔法文字も読めるのですよね?その読む過程をずっと見たかったのです」


という風に、まあまあ熱く歓迎された。

一部の方は蔑む目付きだけど、私の事は無視するみたいだし放っておく。


そして、瘴気の遠征真っ只中で、遠征に人手を取られ、瘴気採取プロジェクトにも追われ、瘴気の正体解明にも力が入っている魔法部は何せ、人が足りてない。

文官でも侍女でもいいから、人を回してくれ!とお城の人事にせっついているみたいだけど、中々、回してくれないみたいだ。


分かるわあ、前の世界でもそうだったもの。

嫌なのよねえ、他の部署に人を取られるの。

返してくれないんじゃないかって思うものね。有能な人だと、実際に返してくれなかったりするしね。


なので、魔力も魔法もない聖女でもありがたがられる。

最近はローズもすっかり午後の間中、魔法部を手伝ったりしているようで、ローズとも働ける私としては、ホクホクの職場だ。


ヘラルドさんも、「魔法部なら、誰もが訪れる場所ではないですからね、図書室よりは断然安心でしょう」と頷いてくれた。

お城のエリート花形部署、魔法部は敷居も高いのだ。



という訳で、私は午前中は古代魔法研究室にて、午後は魔法部瘴気対策室にて、せっせと魔法文字を読んでいる。


魔法部に居ると、自然と魔法についても詳しくなってくる。

魔法使い達は、ほとんど全ての人が魔法の事となると熱く語ってくれるからだ。


本日は、仲良くなった眼鏡の小柄な女の子魔法使いのカンナちゃんが、浄化魔法について熱弁中だ。

「こうして、こうです!」

カンナちゃんは、ばっと両手を虚空に広げる。


「うーん、理論はよく分からなかったんだけど、要は、何となく汚れを取るイメージで大気に働きかけるのね?」

「簡単にまとめてくれましたね、まあ、そうです。でも、そもそも見えない上に何かも分からない瘴気を掴むのはとても難しいんです」

「そうねえ」


「なので、古代の研究によって、魔素がある事が確実になり、瘴気もその一種では、という仮説が出た事で、潜在的にもその実態を頭の中でイメージ出来るようになった事は、云々……」


カンナちゃんの説目はいちいち長いので、聞き流す私。


「……ですよ!」

「みたいねー」

「アンズさん?聞いてましたか?とにかく、実態も所在も不明な大気中の瘴気を浄化するのは、凄く難しいんですよ!なので魔法部としては、今回の南東部の遠征で是非とも大気中の瘴気を採取したいんです。南東部の遠征が終わる頃には、南西部は雨季で川が氾濫しますからね、そもそも立ち入れなくなります。そうすると、ますます瘴気の正体解明が遠退きですねえ、そうするとますます浄化も、」


「つまり、リサちゃんがとんでもなく凄いって事よね」

「話を飛ばしましたね?私が言いたかった事は違うんですけどね、でも、まあ、リサ様はとにかく凄いです、瘴気の訳も分からないままなのに、おそらくほぼ力業でそこら辺ぜーんぶ浄化、みたいな感じで浄化していると魔法部では分析しています」


「なるほどぉ」


と、ここで、ローズによって、そっとお茶が私とカンナちゃんの前へと置かれる。


「あっ、もう午後のお茶の時間でしたか!ローズさん、ありがとうございます」

「ありがとう、ローズ」

「いいえ、殿下もどうぞ」

イオさんの前にもローズによりお茶が差し出され、「ローズさん、ありがとうございます」とイオさんが自然にお礼を言う。

ちょっと耳は赤いけど、ローズの前でもあんまり緊張しなくなってきて、挙動不審も大分減っているイオさんだ。


そんなイオさんにローズはにっこり微笑む。その眼差しは甥っ子の成長を見守るように温かい。


「いいなあ、やっぱり、ローズさんはイオさんに優しいですよね」

カンナちゃんが羨ましそうだ。


「カンナちゃんにも優しいわよ」

「私への優しさは仕事での優しさですよ、アンズさんやイオさんへのとは全然違います、いいなあ」

カンナちゃんは、私と同じくローズのファンだ。

彼女が言うには、お城にローズのファンは少なからずいるらしい。


「仕事は隙がなくて、立ち姿も、歩く様子も座っている時さえも、ビシッとしてるでしょう?それにもはやビームのようなあの眼差し。騎士団では、ビームの女、って呼ばれてるみたいですよ。あれに射ぬかれたいと思ってる方はわりといます。

次の侍女長はローズさんだとも言われてますし、今からお近づきになっておこうとしてる人も多いですよ。今の所、アンズさんの旦那様の圧が凄くて、手出し出来ないみたいですけどね。私としては、侯爵家には取られたくないなあ、ほんと、取らないで下さいね」

ちくちく牽制もしてくるカンナちゃんだ。


「それにしてもアンズさんはともかく、イオさんは、どうやってローズさんの気持ちを掴んだんでしょうね?男性であんなに温かく見てもらえてるのってイオさんだけですよね」

不満そうなカンナちゃん。


「そうねえ、まあ、そこは、王子だし」

子供扱いなのよー、なんて、イオさんが可哀想だから言わない私だ。


「でも、王子っぽくないですよ。私なんか、イオさん呼びですよ?あ、なるほど、私なんかにイオさん呼びされるような、そういう無意識に漫然と周囲に撒き散らされる懐の深さ的なものに、云々…………」


カンナちゃんは何かと長くなるので、これも聞き流す。


「……ですね!」

「そうねー」


という、ここはここで穏やかな日々を、私は魔法部でも送っていた、筈だった。


この穏やかな日々は、一転する。

私自身の大発見によって。






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