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【書籍化】異世界に聖女として召喚されましたが、私はただのアラサー女です   作者: ユタニ


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69.恋模様


イオさんに恋のイナズマが落ちて2週間。


「では、行ってきますね、アンズさん。私が居ない間は戸締まりして、誰が来ても出てはいけませんよ」

絵本のお母さんみたいな事を言いながら、イオさんは本日も魔法部へと出掛けていく。


魔法部では、瘴気の正体解明への光が見えた事と、南西部の瘴気がどんどん濃くなっている事を受け、元々あった瘴気対策室みたいな所が拡充され、対策と研究に熱が入っていて、イオさんは連日そちらに顔を出しているのだ。


もちろん、瘴気の研究に自分の知識が役立つとあって燃えてもいるイオさんだけど、こんなに連日通うのには下心がある事も私は知っているのよ。


イオさんの下心。

それは、ローズだ。


魔法部には毎日、遠征中の騎士団より現地の状況の報告が入るのだけど、それは騎士団付きの侍女が持って来たりするんですね。


ええ、そうなんです。

来るんですね、ローズが、魔法部に。


イオさんは、さらりと手を回し、機密保持の為にも伝令は固定の方がいいと説き、ローズの有能さを理由にローズをその伝令役に固定した。

やるわね。


さらに、魔法部では現在、南東部の遠征に合流して大気中にあると思われる瘴気を採取する試みも検討されていて、瘴気対策室では人が足りてない。

猫の手も借りたい魔法使い達は、ローズに伝令だけでなく遠征の状況を地図に落とし込む作業をお願いする事になり、イオさんは午後から魔法部で小一時間程、ローズと共に仕事もしている。

もはや、イオさん的には、アバンチュールだ。


という訳で、本日も、いそいそと出掛けるイオさん。


ローズの事は、既に「ローズさん」ときちんと名前で呼ぶようになり、ローズは「第三王子殿下は、名前の間違いはなさりませんね」とたぶん褒めていた。


名前、ちゃんと呼ぶ、だけでローズのイオさんへの心証が上がったのは、ひとえにローズの名前を間違いまくったフェンデル王子のお陰よね。

ありがとう、フェンデル王子、ありがとう。

私はフェンデル王子に感謝する。

遠征、頑張ってるかしら?

リサちゃんに近付いてないといいんだけど。


私はそんな風にフェンデル王子に想いをはせつつ、のんびりと……いいえ、せっせと1人で魔法文字を読み、地図を眺める。


今日もこんな感じでゆったり終わるのねー、なんて思ってたら、アバンチュール…ごほん、ごほん、魔法部での作業を終えたイオさんが、ローズと共に戻ってきた。


「えっ、ローズ。どうしたの?」

ガタンと立ち上がる私。


大変、一刻も早く、用事を作って、ここから去らねば。

私は完全に世話焼きおばさんモードになって、何とかイオさんとローズを2人きりにする為に頭がフル回転し出す。

そんな私に、顔面蒼白のイオさんが、震える声で言った。

「魔法部にお茶菓子の差し入れがあったので、アンズさんと食べようと思い、ローズさんも誘ったんです」


ん?

顔面蒼白?

震える声?

一生懸命出かける用事を考えていた私の頭が止まる。


これは…………頑張って誘ってみたものの、上手く行き過ぎてどうしたらいいか分からない、みたいな状況かしら?


イオさんは私を見るとがくがくと頷く。

「一緒にいただきましょう、アンズさん。私はあなたと一緒がいいんです」

言外に絶対にローズと2人きりにしないでくれ!!!と聞こえてくる。

2人きりは荷が重いみたいだ。

着席する私。


「嬉しいわ。一緒にいただきましょう、ローズ」

イオさんに、大丈夫ですよ、居ますよー、とにっこり微笑む。

「では、お言葉に甘えて」

ローズもにっこりそう言い(イオさんの頬がほんの少し色味を取り戻す)、すぐにローズによってお茶が淹れられ、3人でいただく事になった。



***


カタカタカタカカタ

と何やら細かい音がするけど何だろうな、と思っていると、イオさんが持ってる紅茶のカップが震えて受け皿に当たっている音だった。

何だかデジャヴだわ。

私、それ、王宮の応接室でやった事あるわよ。


そうよねえ、ローズが淹れてくれたお茶だものね。震えるわよね。


私とローズが心配そうに見守る中、

「あっ、」

がっちゃん、だばー

あっという間にイオさんが机に紅茶を溢した。

書類と地図をかばってその腕がまあまあ熱い紅茶を被る。


「わっ、イオさん、大丈夫、」

慌てる私の横でさっとローズが立ち上がると、ハンカチで紅茶を塞き止めて、「失礼します」と、イオさんの腕を取ると素早く袖をまくった。


「大丈夫ですか?すぐに冷やしましょう」

ローズは急いでイオさんを部屋の隅の水場へ連れて行き、流水で腕を冷やす。


ザアッと流れる水。

因みにこの水は、水を出す魔道具の蛇口より魔法によって呼び出された水だ。

この国の水やお湯は大体、こういう魔道具の蛇口から出てくる。

イオさんは、魔道具なんて使ってなかった古代人に傾倒しているだけあって、魔道具は出来るだけ使わない主義なのだが、水となると話は別で、研究室の水場はちゃんと魔道具完備だ。


「これは、温度調節が出来ないタイプの蛇口ですね?」

「はい。すみません、私は旧式の物が好きでして」

ローズの問いかけに、真っ赤を通り越して真っ白なイオさんが答える。

「旧式の方が単純で故障が少ないですものね」

「あっ……はい!そうですね!そうなんです!良いですよね、旧式!」


ふむふむ、ちゃんと会話してるわね。

頑張れイオさん。

私は2人を見守りつつ、邪魔にならないように机の上の片付けに専念する。

片付けながら、ちらちらとローズの様子を見てみる私。

イオさんを心配そうに見るその目付きは優しく、そして温かみに満ちている。


優しく暖かいけど、熱はない。照れもない。


………………。


これは…………子供扱い、よね。


うーむ、イオさん、これは、完全に弟枠では?

弟ならまだいい方かも。

甥っ子とかじゃない?


でも、ローズが大人の男性相手にこんなに温かな眼差しを向けるのは珍しい。

いつもは冷たく一線も二線も引かれた眼差しなのだ。

そういう観点からなら、イオさんのアプローチ(?)は成功しているとも言えるのかしら。

出来るだけ前向きに考えながら、私は紅茶を拭き、書類と地図の被害を確認した。



イオさんが腕を冷やし終わり、着替えをするイオさんの為に外へ出るついでに「せっかくだし、送るわ」と、私はローズと連れだって騎士団詰所へ向かう事にする。

向かいながら魔法部でのイオさんの様子を聞き、さりげなく、ローズがイオさんをどう思っているか聞いてみた。


「第三王子殿下の印象ですか……そうですね。挙動不審ですが、博識でいい方です」

「……挙動不審」

「ええ、慣れない魔法部で緊張されているようですね」

「へえ」

違うわよ、ローズ。慣れないローズに緊張しているのよ。


「書類は落とされるし、インク壺はひっくり返されるし、棚に足や頭をよくぶつけられますし、よく躓いておられます」

「おおー」

なるほど、それで子供扱いなんだわ。

通常状態なら、もうちょっとマシなんだけどな。


「インク壺は本当に困るので、騎士団の詰所で余っていた、インクの充填が要らない魔道具タイプの万年筆をお渡ししました」


「…………」

それ、知ってるわ。

数日前からイオさんが、ため息つきながら眺めてる万年筆だわ。

イオさんめ、聞いてないわよ。

通常状態でも、インク壺はたまにひっくり返すから、私が魔道具の万年筆を勧めた時は、「インク壺からインクを付ける手間がいいんです」とか言って拒んだくせに。


「及ばずながら、出来るだけフォローをさせていただくようにはしているんですけど、中々難しいですね」

そうでしょうね、ローズが近付くと酷くなるでしょうしね。


「でも、すごく良い人でしょう。王子なのに偉そうじゃないし」

「そうですね。アンにもお茶菓子を、なんて優しい方です。侍女の私の名前もきちんと呼んでくれますし」


「ね!」

ありがとう!フェンデル王子、ありがとう!

私は再びフェンデル王子に感謝した。





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