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67.瘴気とは


こんにちは、アンズです。

イオさんとの蜜月、、じゃなかった、魔法文字翻訳生活も1ヶ月が経ち、私事ですが、その間に私は29才になっておりますわよ。


誕生日にはセバスチャンが、朝からダイニングを花で埋めてくれて(グレイの指示)、侍女さん達からお祝いされた。

出勤すると、そのお昼休みにはローズがささやかなプレゼントをくれ、イオさんには誕生日を教えていないので(王子からプレゼントなんて貰ったらややこしそうなので教えていない)、イオさんとは普通に働いた。


比較的ひっそり29才になった私は、本日もイオさんとせっせと魔法文字を読んで、古代人達の文化や生活を味わっている。


最近のイオさんの興味は、もっぱら、古代人達のルーツと、住んでいた場所だ。

神殿の開かずの部屋から出てきた、新たな魔法文字の本により、いろいろ分かってきて、連日興奮しているイオさんだ。


「アンズさん!やはり、彼らは海を渡って、この国に来たようですね!ほら!船の記述です!」

「アンズさん!やはり、彼らはこの国の南部に住んでいた可能性が高いですね!辿り着いた海辺で暮らしていたようです!」


「アンズさん!」

はーい。

「アンズさん!」

はいはーい。

「アンズさん!」

はあいいぃ。


みたいな感じだ。


そして、今日、私は魔法文字を訳しながら、ふと気付く。


「イオさん、思ったんですけど…」

「何でしょう、アンズさんからの問題提起は珍しいですね、聞きましょう」

イオさんが顔を引き締める。


「問題提起というほどではないんですけどね、古代人達のこのスローライフは五千年くらいは続いていたんですよね?」

これは、イオさんの受け売りの知識だ。


「そうですよ」

助手(私ね)の成長に満足そうに頷くイオさん。


「その間、瘴気の発生なくないですか?そういう切羽詰まった事柄がないですよね?魔物の大量発生とか」

私の提起にイオさんは、とても満足そうだ。


「素晴らしいですね、異世界から来たアンズさんが、そこに着眼出来るなんて、鋭いです」

「あ、気付いてたんですね」

そらそうか、そうよね。こっちの人にとっては、瘴気って死活問題だものね。

私は、瘴気を払えるリサちゃんと同時にこちらに来たから、来た瞬間から瘴気の解決策は見えてたけど、それまではいろいろ苦労してたのよね。

ローズも瘴気のせいで、大変な目に遭った訳だし。


「ええ、瘴気が魔素の一種では、と魔法部との研究が始まってから、その点についても着目はしています」

「してましたか」

「はい、当初は、古代人達は人口もそんなに多くないですし、瘴気の発生が少ない北部に住んでいたのでは、という議論も出たのですが、神殿で見つかったこれらの本より、南部に住んでいた事は確実で、そうなると何故、瘴気が発生していないのか。

この国の歴史の中で瘴気は100年に1度くらいの割合で発生していますし、近年はその頻度が高くなっているのに………不思議です。今、魔法部でも様々な説が出ています」


イオさんによると、

・古代は瘴気の発生場所が南部ではなかった説。


・瘴気は魔素の濃い物で、古代人のように魔素を使って魔法を使う事で薄まるのではないか説。


・この国のルーツは北の山脈を越えて来た民族のようなので、古代人と何らかの諍いがあり古代人が敗北した事により彼らの神が怒った説。


等々が、唱えられているらしい。


「ふーむ、そもそも、瘴気って何なんですか?昔は無かったものとか?」

「何かは分かってないんですよ、だから、なぜ古代人達の生活に瘴気が出てこないのか、が重要になってくるんです。昔は無かった説、かあ、それを唱えられると対策の立てようがないですね」


「古代人の神が怒っての瘴気のなら、昔は無かった説ではありますねえ……瘴気って発生すると、どうなるんですか?」

魔物が増える、くらいの知識しか私にはない。


「前兆としては、農作物が育たなくなります、そして草木が枯れていくんです、大木も理由も無く枯れていきます、その後、瘴気が濃くなって、溜まり、という裂け目のようなものが現れます、そこに入った動物が魔物化したり、溜まりから直接魔物が出てきたりして、魔物が増え、増えた魔物は人を襲います。我が国の歴史の中では、瘴気は主に南部で発生しますね、地図、見ます?」


イオさんがそう言いながら、机の引き出しより、大きな地図を広げる。


「おっと、私、これ、見てもいいヤツですか?地図って国家機密とかじゃありません?」

何となくだけど、こっちの世界ってそんな気がする。


「アンズさんは、古代魔法研究室助手ですし、問題ないですよ」

堂々と言い切るイオさん。

という事は、やっぱり、なんらかの機密なのね。研究室助手……って、そんな地位高いかな?見てもいいのかしら?


「これは、瘴気の発生箇所と、古代人の生活場所を照らし合わせる為に、騎士団よりいただいたばかりの地図です。砦や防塞などの戦略的な施設は省かれていますし、大丈夫ですよ」

不安そうな私にイオさんはにっこりする。


ううむ、なら、拝見しましょうね。

私はそっと地図を覗き込んだ。


北に広がる山脈と南の海に囲まれた、この国の全体図。幾つかの大きな川に広がる平野、扇状地ってやつかしら。点在する大きな都市は北部に多く、ルーツが山脈を越えて来た民族だからなのか、南部の瘴気を避けたからなのか、どっちかなんだろう。


南部は小さな町や村が多く、農耕地帯になってるみたいだ。そう言えば、イン(米)は南西部で栽培されているって聞いたな。

南西部には、特に大きな川の支流が幾重にも分かれていて、水も潤沢に手に入りそうだ。


地図には、過去に瘴気が発生した箇所が示されていて、その場所は大体同じだ。

発生箇所は南部に片寄っていて、西に行くほど多い。

そして、イオさんにより、古代人の住んでいた場所の候補が書き加えられている。

南部ばかりだ、ばっちり瘴気と重なっている。


「重なってますねえ」

「そうなんですよ」

「そうすると、有力なのは、魔素を使えば薄まるかも説、ですか?」

「魔法部では、それが有力ですね。なので、魔素の存在も有力になった今、どうすれば、魔素を使えるのかを、今、急ピッチで研究しています」

「最近、イオさんもよく魔法部に行ってますもんね、お手伝いなんですか?」

「私の古代人とその魔法の知識を買ってくれています」

イオさんは嬉しそうに照れて笑った。


イオさんは、古代人の生活も好きだけど、その魔法も好きだ。

だからきっと子供の頃、魔法部は憧れだったんじゃないかな、と思う。

そんな憧れに冷たくされて苦手になってたのよね、それに今や必要とされているんだもの、良かったね、イオさん。

照れるイオさんを私は温かく見守る。


「使えるといいですね、魔素」

「そうですね、ただ、古代人達はそんなに人口も多くなく、儀式の時だけ魔素を使っていた筈なので、それだけで瘴気が薄まるのかは、疑問ですが」

「ははあ、そう言われると、確かに、」


なんて、イオさんと専門的 (たぶん)な話をしながら地図を睨んでいると、研究室のノッカーがコンコンと音を立てた。





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