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55.ローズですよ


うん?何か金色のふさふさが見えたよーな、、、。


ローズとの恒例の裏庭での昼休み中、目の端で金髪がちらちらして、私は遠くを見据えた。

遠くの金髪は徐々にこちらに近付いてくる。


「ローズ、大変、近付いて来てるわ」

「そのようですね、アンに用事なのでは?」

「どうかしら、あなた、という可能性もなくはないかと、、」

なんて、ひそひそ言っていると、金髪の主、フェンデル第二王子殿下が、ばばーんとやって来た。


「アンズ殿!、、、と、ローザではないか」

ローズですよ、殿下。

いきなり、ローズの名前を間違ってるフェンデル第二王子殿下だ。

侍女の名前まで覚えようとしている所を褒めるべきなのかもしれないが、間違ってるんじゃなあ。


ローズは、フェンデル王子による名前の間違いは全く気にしないで、さっと淑女の礼をする。私も慌てて礼をした。


「よい、気楽にしてくれ」

「はい」

着席する私達。


「アンズ殿、探してたんだ」

「そうなんですね。ところで、殿下。謹慎中では?」

「明日までだ!それに、、、これは、散歩だ。散歩は許可されている」


明日までって事は、今日は謹慎中だよね、そして散歩って、謹慎してるらしい離宮からここまではかなり距離があるぞ、もはや散歩みたいな気楽な距離じゃないよ。


こいつ、まさかリサちゃんに付きまとってないよな、、、。

と思いながら、疑う目付きで私は王子を見る。

フェンデル王子は雰囲気で察したようだ。


「心配せずとも、リサの所には行ってない」

それを聞いて、なんだ、賢くしてるんだな、とちょっと第二王子を見直してしまう私だ。

当たり前なんだけどね、謹慎中なんだからね。絶交されてるしね。

当たり前だけれども、「おっ、君も頑張ってるね」と思ってしまうから不思議だ。


「今日は、そなたに謝りたくて来たのだ」

「謝る、とは?」

「その、、、深く考えずに、厄介払いの目的だけで、結婚を無理強いしてすまなかった」

ぺこり、とすぐに頭を下げる、フェンデル第二王子。


「第二王子殿下、王族の方が簡単に頭を下げるのはお止めください」

王子の謝罪に私ではなく、ローズがぴしゃりと戒める。

「はは、ローザはいつも厳しいな」

だから、ローズだぞ。


「だが、ローザ、今回は謝らせてほしい。兄上にこってり搾られた。謹慎が明ければ、溜まった仕事と遠征の準備で忙しくなる、自由の利く内に謝罪をしようと思ったんだ。アンズ殿、すまなかった!」

がばり、と再び王子の頭が下がる。

ローズだってば。

そして、ちょっと困るぞ、王子よ、あんた、王子なんだからね。ペコペコ頭は下げないで欲しい。


「王室から正式な謝罪も貰いましたし、もう気にしていませんよ。こういうの、困ります。頭を上げてください」

「私の気持ちの問題だ。押し付けがましいのは分かっている。すまんな」

私の言葉にフェンデル王子は頭を上げて、悲しげな優しい笑顔でそう言った。


こういう繊細な表情のフェンデル第二王子を見るのは初めてだ。


「、、、殿下は少し、様子が変わられましたか?」

初めて見る様子に思わずそう聞いてしまう。


「そうか?ははは、失恋したしな、そのせいではないか?」

乾いた笑いで、ふっと遠い目になるフェンデル王子。

そのまま、遠い遠い空を見る。たぶん、リサちゃんに想いを馳せてるんだろうな。


「、、、リサ、、」

王子の唇が小さく、その名を呼ぶ。

え?目尻、光ってない?

、、、泣いてるの?


王子の見ている空に目を向けると、確かにリサちゃんが優しく笑う幻影が見える。

未練、すごいぞ。


大分、自分に酔ってる感じがするけど、悲劇というよりは、喜劇っぽくて、申し訳ないけど面白い王子。

私は面白くて弛みそうになる口元を引き締める。


「、、、リサは元気にしているだろうか?アンズ殿の茶会に参加したと聞いたのだが」

おっと、情報収集はしてるんですね。


「元気でしたよ」

私はにっこり笑って、リサちゃん情報はお仕舞いにしてやる。

リサちゃん、あなたの情報、売ったりしないわ。


「そ、そうか、、」

フェンデル王子はまだ何か聞きたそうだったけど、我慢したようだ。


「そうかあ、、、元気かあ」

切なげにまた空を見上げるフェンデル王子。

そこに映るリサちゃんの幻影。


やっぱり、ちょっと面白い。


「そうかあ、、、」

ちら、と私を見てくる王子。


「元気かあ」

ちら。


「リサは、、元気かあ、、」


ちら、ちら、ちら。



ちーらー。



「、、、、明後日の激励会は少し心細いみたい

でしたよ」

私はついつい、美形の、ちらちら攻撃に絆されてしまう。

フェンデル王子は、兄弟だからもちろんイオさんとも似てるし、そんな顔で寂しげにされると可哀想にもなってしまうのよ。


「そ、そうなのか!?」

「はい、私に絶対参加して欲しいって言ってました、、、あら?明日、謹慎が解けるという事は、第二王子殿下も参加なさいますか?」


「いや、私は遠慮した。さすがに現金すぎるし、リサも嫌がるだろう」

「嫌がるでしょうね」

「ぐっ、、アンズ殿は容赦ないな、ローザみたいではないか」

だから、ローズだ。


「遠征の際も、リサの世話は別の者が付く。基本的には関わるな、と兄上から言われている。どうも、私はリサが絡むと周囲が見えてないらしい。確かにそうだったと、反省している」

おおー!失恋で成長したみたいで、何よりだ。



「そういえば、()()()。あなたは会場に居たりしないの?ほら、仕事でさ」

ここで、ローズ、の部分を強調して、私はローズに聞いてみる。

「準備には関わりますが、会場にはお邪魔しませんよ」

「残念だわ」

「アン、リサ様もいらっしゃいますし、何よりカサンディオ侯爵があなたを離しはしないでしょうから、大丈夫ですよ」


「うん、まあ、、それはね」

お茶会の後、グレイには激励会に参加する旨を伝えて、「では、俺はずっとアンズの側に居よう」と言われている。

恐らく沢山の人がいる中で、グレイにびったり付かれるのは、嬉しいような恥ずかしいような、、、、。元々、あんまり人前でイチャイチャする国民性ではないのでね、恥ずかしさが勝つような気がするのよね。


「そういえば、カサンディオと婚約したのであったな、おめでとう」

とっても羨ましそうなフェンデル王子。


「ええ、ありがとうございます」

「良いなあ、、、」


「ところで、第二王子殿下が激励会に参加しないなら、リサちゃんはどなたがエスコートするんですか?黎明の聖女リサちゃんの、エスコートなんて、王族かそれに次ぐ身分じゃないとダメですよね?」


「、、、イオンカルドがする」

私の問いにフェンデル王子は、言いにくそうに答えた。


ええっ!?

「イオさんが!?」


それ、、、無理じゃない?


「イオさん、大丈夫でしょうか?」

「泣きそうだったが、承諾はした。カイザル兄上の奥方は悋気が強いからな、兄上には頼めない。そうなると、リサをエスコートしてもおかしくないのはイオンカルドしかいない」


「えぇ、、、でも、イオさんって、そもそも社交の場が久しぶりですよね?」

今まで逃げ回っていた、と本人から聞いている。


今回も、私が病欠止めてやっぱり参加するんですよー、と言うと、「私も、王族としての務めを果たさなくてはと思っていて、社交の場もこなしていこうと考えています。私も出ます」と青い顔で決意表明していたのだ。

久しぶりの社交で、女性のエスコートもするのは無理じゃない?


「そうなんだ、、、、イオの奴、大丈夫かな」

フェンデル王子も本当に心配そうだ。


その様子に意外だなあ、と私は思う。

例えイオさんであっても、リサちゃんのエスコートなんて嫉妬して取り乱すかと思ったのに、フェンデル王子はイオさんの方が気掛かりみたいだ。


「イオさんが心配なんですね」

「あいつ、昔から引っ込み思案で、おまけに魔力もほとんどないから自信を失くして、あんな風に育ってしまったんだ。せっかく前向きになっているのに、久しぶりの社交でエスコートに失敗したらまた自信を無くすんじゃないかと思ってな。

、、、、まあ、リサは明るくて優しく、機転も利くし、あんなに細いのに強いし、治癒魔法は完璧に使うし、浄化まで出来るし、体力もあるし、いっぱい食べるし、よく笑うから、イオが失敗した所で、気分を害したりはしないだろうが」


「あ、、、、うん、はい」

リサちゃんの特徴、長かったな。


「そう言えば母上から、イオが前向きになったのは、アンズ殿のお陰だとも聞いている。本当にありがとう、兄として、礼を言う」

「いえいえ、何もしてないんですよ」

「古代の生活について、興味を持ってあいつと対等に語り合ってくれたのは、あなたが最初なんだ、何しろ、魔法文字なんて、誰も読めなかったからな。あなたと出会った日、家族の夕食の席でとても久しぶりに生き生きした弟を見た」

「そうだったんですね」


「ああ、私は私なりに、兄上を支え、弟を守ってきたつもりだったのだが、力不足だったようだ。

最近は、魔法部へも顔を出せてるようだし、また落ち込んだりして欲しくはないんだ」


本当に意外なフェンデル王子だ。

イオさんには、優しく真剣に向き合ってたんだな、と思う。

“守ってきたつもり”の部分は、いろいろ余計な事とか、見当違いの事をしてそうだけれど。


「私、出来るだけ、イオさんをフォローしますね。相手はリサちゃんだし、きっと何とかなりますよ」


「そうだな、何せリサは、、、、、」

おっ、いかんな、王子の長い長いリサちゃんの説明が始まってしまう。



「、で、、、、、、な上に、、、、、、、、だ。、、、、、、だし、、、、、、だし、、、、、、、、、、、、、、、、、。、、、、、」


長いので聞き流す私とローズ。黙々とご飯をいただく。


「、、、だからな!」

「ですね!」

最後だけしっかり相槌を打つ。最後大事。


「おっと、かなり長居をしてしまった。昼休みにすまなかった。アンズ殿、謝罪を受け入れてくれてありがとう。

くれぐれもイオンカルドを頼むぞ。もちろん、リサも心細くないようにお願いしたい。あ、ローザも、邪魔したな!」

フェンデル王子は爽やかな笑顔になると、そう言い残し颯爽と去って行った。


「「、、、、、」」

ローズなんだけどなー。





お読みいただきありがとうございます。

アンズさんと、グレイの結婚式くらいまでは毎日更新したいと思ってます。

よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 一度、脳内固定されちゃうと、どうしても変更できない名前や物ってありますよね〜(^◇^;) で、結局どっちか分からなくなってしまう…なんて事もw
[一言] ユタニ様こんにちは。 いつも楽しく読ませていただいております。 ユタニ様の書く主人公はもちろん、ヒーロー本当に好きなので今作もグレイ様大好きなのですが、55話まで読んでどんどん第2王子の魅力…
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