53.ありがちなお茶会
こほん、皆様、こんにちは、アンズです。
本日は、私、カサンディオ邸のサロンにて、レディ達のお茶会のホストを勤めさせていただいております。
ほほほ、侯爵夫人っぽいわよね。まだ結婚してないけど。
ほほほほ、でも、メンバーは顔馴染みばかりだ。
まずやって来たのは、ローズ。
「このようなお屋敷に招待いただく身分ではないのですが、、」とか何とか、堅苦しい事を言いながらやって来た。
「ローズ、友人に身分なんてないわよ。それに今日来るの、私も含めて全員平民上がりだから大丈夫」
「アン、あなたは平民上がりではありません。こちらに来た時より聖女です」
「前の世界では、ど平民よ。あ、来た来た、フローラちゃーん」
サロンに華やかな花が咲いたわ、なんて思ったらフローラちゃんだった。
淡いピンクの可愛いデイドレスを着てのご登場。
くぅーっ、可愛いわね。
私とローズはどうしたって、紺とか、グレーとか、深緑色、とか着てしまうから、こういう甘い色合いが入るのはいいわね。
「あ、良かった!アンズさん、ローズさん!」
フローラちゃんは、パタパタやって来ると、なかなか優雅なカーテシーを披露した。
フローラちゃんは、ロイ君と結婚した後、ロイ君の実家のブラント家で淑女のマナーを学んでいるのだ。「商会で働いているし、積極的に社交するつもりはないんですけど、最低限は出来た方が恥をかかないので」との事。
若いので、飲み込みが早い。
私のカーテシーより優雅だ。
「本日はお招きいただきありがとうございます」
そして、にっこり。
うむうむ、素敵よ、フローラちゃん。
「すごいお屋敷ですね、執事の方も、ザ・執事、って感じで緊張しました」
しかも名前までセバスチャンなのだよ。
「意地悪な令嬢に、“アンダーソン家なんて、狭くて猫も暮らせませんわあ!”とか言われたら、“あらあら、あなたのお家もカサンディオ家に比べたらミミズのお家ですわあ!”とか言って貰っていいわよ」
「え、、、ミミズ、、、言いませんよ。言われませんしね」
「そうなの?成り上がり貴族なんて、悪口言われないの?」
フローラちゃんは、元々はライズ商会の娘で平民で、この度、ロイ君と結婚して子爵夫人になったばかり。
おまけにロイ君も、すでに白紙となった私との結婚で子爵位を賜ったという、どこをどうつついても、ピカピカの成り上がり新興貴族だ。
何だか、苛められそうじゃない?
そして、フローラちゃんが黙って苛められてるとは思えない。
「変な小説、読みすぎですよ。アンズさん。私、人形劇の悲劇の恋人なので、皆さんチヤホヤしてくれます。私が気に入らない方は、普通に無視だけしてきます」
「へー、無視」
無視かあ、、、地味だけど、嫌よね。
やり返しも出来ないしね。
「商家の娘だった時から、取引先の貴族の家なんかで父娘共々無視されたりはあったので、そこら辺は鍛えられてます、実害はないし、平気です」
「強いわねえ、フローラちゃん」
ほんと、しっかりしてる。
「アンズさんとローズさんほどではないですよ」
「またまたあ」
なんてやり合ってると、本日の大トリが登場した。
「さーせんっ!!!!遅れましたっっ」
すみません、が、さーせん、になってる。
そう、サロンの入り口で、野球部の新人みたいに、がばりと頭を下げてるのは、大トリ、黎明の聖女、リサちゃんだ。
「リサちゃーん、大丈夫よ」
「アンズさん!と、ご友人の方々!」
私がひらひらと手を振ると、タタタタっとリサちゃんは軽快にこちらまで来て、及第点のカーテシーを行う。
「遅れましてすみません、本日はお招きいただきありがとうございます、、あ、ローズさん、良かったあ、ご友人ってローズさんだったんすね」
「私、友達少ないもの、あ、こちらはアンダーソン子爵夫人。フローラちゃんよ」
リサちゃんの「さーせん!」と「~っす」に衝撃を受けているフローラちゃんは、私の紹介後に何とか平静を保って挨拶した。
そして、私にこそこそ聞いてくる。
「リサ様って、本当に、気さくな方なんですね」
「そうよう、言ってたでしょ」
にっこりする私。
今日は、フローラちゃんとリサちゃんを引き合わせたくて開いたお茶会でもあるのだ。
「リサちゃんとフローラちゃんは、勝手に同い年くらいなんじゃないかなあ、と思ってたんだけど、違う?」
この2人、たぶん年が近いはず。召喚された時、リサちゃんは女子高生の格好だったもの。
「あ、私17才っす」
「えっ、私もです、あ、もうすぐ18ですけど」
「じゃあ、1コ上っすかね」
「どうでしょう」
「敬語なしで、いいっすよー、1コ上っぽいし」
「え?いやあの、え?」
「フローラさんでいいっすか?私は、リサで」
「あああ、呼び捨てでいいですよ!」
「じゃあ、フローラ、とリサ、で」
とか何とか、早速仲良くなる若人達。
うむうむ、良い感じだわ。目論見通りだわ。
私はローズとしっぽり、大人の会話を楽しみましょうね。
「あ、そういえば、アンズさん、ご婚約、おめでとうございます」
フローラちゃんと一通り盛り上がったリサちゃんが私にお祝いを言ってくれる。
「えへへ、ありがとう」
「カサンディオ団長と婚約なんて、びっくりしましたよ、あ、カサンディオ団長、私の護衛してくれた事あるんすよ、無口なイケメンですよね。いやあ、、、流石っすねえ、あれ、落ちるんですねえ」
「ええ、ほほほ、落としましたよ」
ほほほ、未だに、なぜ落ちたのかピンと来てないけど。グレイから聞いた感じだと、ほぼ一目惚れじゃない?一目惚れ、、、される要素あるかしら?
「で、どうやって、くっついたんすか?アンズさんは、カサンディオ団長のどこが好きなんすか?」
目をキラキラ、いいや、ギラギラさせて聞いてくるリサちゃん。
「ええっ!」
えっ、それ、今さら聞くの?
慌てる私に、リサちゃんは逃がさんぞみたいな顔で詰め寄る。
あ、フローラちゃんがニヤニヤしてる。
くっ、向こうのセバスチャンが背筋伸ばしやがった、ばっちり聞いてるな!
「いやあの、それは、またこんど、」
「ええー、ダメっすよ。今度なんていつか分からないんすよー」
私は恥を偲んで、リサちゃんが満足するまで、グレイとの馴れ初めと、魅力について語った。
「ほう、、、いいなあ。いいっすよねえ、結婚は2ヶ月後っすよね」
私とグレイの馴れ初めを聞き終わったリサちゃんは満足そうだ。
「そうよ、お披露目の宴は知ってる人だけで、小さくするの。リサちゃんにも来てもらいたかったんだけど、、、」
「私も行きたかったっす!でも、来月からまた瘴気払う遠征なんすよねー」
そう、リサちゃんは再び、国の南央部の瘴気を払うべく遠征に出発するのだ。
南東部の遠征から帰ってきて、やっと疲れが取れた所なのに、本当に忙しい事だと思う。
「大変ね」
「平気ですよー、旅に疲れるだけで、私、浄化は得意なんす。皆、めっちゃ感謝してくれるのも嬉しいし」
「ほんと、いい子ね、リサちゃん」
「普通っすよー。ところで、遠征出発前の激励会の夜会があるって聞いたんすけど、アンズさん、出席します?」
、、、、う、痛い所を聞いくるな、リサちゃんよ。
「あ、あー、どうしようかなあって」
「えっ、欠席っすか?私、アンズさんくらいしか知り合いいないんすけど」
「えー、そんな訳ないじゃん、聖女でしょう」
「居ませんよ!ずっと遠征だったもん。前はずーっとフェンデルが張り付いてたし。
アンズさん来なかったら、心細いんす。参加しますよね、ね、アンズさん」
「、、、、ぐう」
南央部の瘴気を払う遠征の激励会。
もちろん、招待状はもう来ている。私、いちおう聖女になったし、何より遠征に参加する第一騎士団長であるグレイの婚約者だし。
でも、貴族達が集う夜会なんて、私は行きたくない。ドレスとヒールでカッコよく歩けないし、ダンスも出来ない。「おほほほほほ」って社交もたぶん出来ない。何より知り合いのレディはきっといない。
紫黒の聖女、なんて呼ばれているけれど、私は知っている。魔力も魔法もない私を、見下している貴族の方々も多い事を。
だから、その夜会は完全にアウェーの夜会。
ムリムリムリ、足を引っかけられるとか(簡単に転ぶと思う)、隅でワインとか掛けられそうだもん。そういう小説読んだもん。
ムリよー。そんな事されたら、泣くわよ?たぶん。
グレイは優しいから、ドレスは用意してくれてるけど、当日は、体調が優れない事にして休めばいいって言ってくれてるんだ。へへへ。
「参加、しますよね?」
「いやー、えーと」
「ね?」
「ひゃああ、、、」
「アンズさん、リサ、大丈夫ですよ。私も参加します」
そう言ったのはフローラちゃんだ。
「えっ、フローラちゃんも?」
来るの?そうなの?
「はい。招待されました。だから、大丈夫ですよ、お二人とも、心配せずに参加しましょうね」
「良かったああ、じゃ、アンズさんも来るっすよね」
「あー、うーん、、、分かった」
そっかあ、フローラちゃんも来るのかあ、それなら、、、と気が緩んでついそう答えてしまった。
「良かったああ」
嬉しそうなリサちゃん。前言撤回は難しそうだ。
うーむ、参加する事になってしまったぞ。
人生初の夜会。
女の夢と嫉妬と愛と憎しみが渦巻く(たぶん)夜会。
せめて癒しを、とローズを見ると、優雅に紅茶を味わっていた。




