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5.聖女リサちゃん


「えっ、放ったらかしだったんすか?マジすか?」

お互いのこれまでを伝え合い、私の境遇を聞いたリサちゃんは目をひん剥いて驚いている。そう、本当に目をひん剥いている。そんな顔したらせっかくの美少女が台無しなのに、リサちゃんはそんな事気にはしない。そして怒ってくれる。


「なんすかそれ?喚んでおいて、聖女じゃなかったからってひどいっす。勝手っすよ!私、後でフェンデルに言っときます」


「いやいや、いいよ!大丈夫、もう平気になってるから!」

フェンデルって確か第二王子だよね、ちゃんと王家についても図書室で調べたから私は知っている。王子に告げ口なんてやだやだ、大事にはしたくない。


「でも、そんなの、アンズさん、可哀想っす。部屋に鍵なんて、、、、おまけに1人で泣いてたんでしょう?」

リサちゃんが今度は目をうるうるさせて同情してくれる。


「うぅ、、、私がもっと早くに会わせてって言えば良かった、ごめんなさい」

ぐすっ、ずびっ、チーンとリサちゃんは鼻をかむ。いい子だなあ。


「大丈夫、もう大丈夫なの、私にはローズが居てくれたし」

「いや、ほんと、ローズさんにはマジ感謝ですね、私からもお礼を言っとくっす、ローズさん、ほんとありがと」

リサちゃんのお礼に、後ろに控えているローズが美しいカーテシーで応える。

そのカーテシーに私とリサちゃんの2人でしばし見惚れる。


「、、、ローズさん、マジ素敵っすね」

「本当にね、私には無理だわ」

「私もっすよ。今、めっちゃ練習させられてるんすけどね」

「がんばってね。ところで、リサちゃんは、王子の前でもその言葉遣いなの?」

「そっす。面白いなって言ってくれます、あ、ちゃんとも出来るんすよ、ん、んんっ」


リサちゃんは咳払いをすると、しゃんと背を伸ばして、柔らかく微笑んだ。


「このように、きちんとお喋りも出来ますのよ。陛下や皇后陛下の前ではこのようにしておりますので、ご心配には及びませんことよ」


おおーー!

なんか少しくせはあるけど、ぐっとそれっぽくなる。

そして、美少女の柔らかな微笑みって凄い、女の私でさえ、きゅーん!ってなる。


「すごい!リサちゃんてばやるね」

「へへへ、あざっす」

「うわ、落差が大きいよ」

「ありがとう存じますことよ」

「あはは、なんか変」

「やばい、楽しいっす」

「私も」

あはは、と2人で笑い合う。

すごく楽しいお茶会となった。リサちゃんはそろそろ瘴気を払う巡礼に出かけるらしく、忙しくなるから、帰ってきたらまたお茶をしようね、となる。


最後に私はリサちゃんに、元の世界に帰りたくないのか聞いてみた。

リサちゃんは困ったように笑うと、そっとドレスの袖をまくって、腕を見せてくれる。


そこには、おそらく煙草の火を押し当てられたであろう火傷の痕があった。


「、、、、、」

「あと、3個くらいあるんす、だから家には戻りたくない」

「、、、、ごめん」

「平気っす、私、ハーフだから、前はこの外見で浮く事もあったんす。こっちは浮かないからそれは嬉しいっす」

「そっか」

「王子、優しいっすよ」

「それ、たぶんリサちゃんだけにだと思うよ」

「そっかなあ」

「そうだよ、リサちゃんも王子に優しくしてあげなよ」

「あはは、そうする」


そうして、私とリサちゃんは平和にお茶会を終えたのだが、リサちゃんはどうやらこの後、王子に私の待遇に対して文句を言ったみたいだった。


リサちゃんとのお茶会の2日後、珍しく騎士の人が私を迎えに来て、私は騎士団の詰所みたいな所へ連れていかれた。


「アンズ殿、こ奴らがあなたの世話を放棄していた侍女達です」

詰所の一室で、私は後ろ手に縛られて、怯える侍女達と対面する事となる。


「ひえっ」

「アンズ殿の陰口を叩いていた事も突き止めております。今から舌を切り、城外へ追放する事に決まりましたので、どうか怒りをお収めください」


侍女達は真っ青だ。

もちろん私も真っ青だ。


「待って!ダメです!止めてください!」

私は騎士にすがりついた。


「舌を切るなんて、絶対に止めてください」

お願いだ、絶対にやだ、夢に出る、絶対出る。

ファンタジーの世界、なめてた。ここは中世ヨーロッパとか、戦国時代とかそういう所なんだと実感する。


「しかし、、、」

「たかが悪口でしょう?しかも私はほぼ一般人です、気にしてません!」

「決まった処分ですので」

「んなもん、覆しなさい!リサちゃんにも聞いてみて!絶対に怒って泣くよ!聖女が泣くよ!いいの?聖女を泣かす事になるよ!?」

私はもう無我夢中で止めた。

リサちゃんの名前を出したのはかなり効いたみたいで、騎士の人はぐっと黙って考えている。


「、、、、分かりました。では処分は保留で、一度聖女様にも伺ってみます」

「ええ!私はこの処分を望んでいない事も覚えておいてくださいね!罰は反省文1枚書かせるとかだけにしてくださいね!」


鞭打ちとかの罰も平気で与えそうなので、しっかり私なりの真っ当な罰も伝えておく。

私は足をがくがくさせて、ローズに支えてもらいながら部屋へと戻ったのだった。


だから更にその2日後、高位の文官らしき人が部屋にやって来て、あの侍女達が反省文を書くだけになった事を伝えられ、私の今後の事で何か希望はあるか、と聞かれた時、私はお城を出たいと答えた。


私みたいな中途半端な者が城に居たらダメだ。私もしんどいし、私に巻き込まれて大変な思いをする人々が出てきてしまうかもしれない。

ここでは何の役にも立ってないのだし、城を出て平民として暮らしたい。それがいいと思う。


そう考えての、城を出たい、だった。

その後、急展開でロイ君との結婚に至る事になるのをこの時の私はまだ知らない。






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