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44.王子をじろじろ見てはいけない


私が鬼気迫るフェンデル王子から、離れようともがいていると、扉が荒々しく開けられた。


「フェンデル!その手を離せ!」

朗々としたよく通る声が響く。


入ってきたのは、数人の騎士を引き連れた、金髪碧眼の凛々しい男だった。


その美しい顔立ちは、フェンデル王子とイオさんと似ていて、身に着けている服の華やかさと、その物腰から、彼がやんごとない身分なのだと分かった。


私はすぐにピンとくる。

カイザル第一王子殿下だ。


「兄さん、、、」

フェンデル王子が弱々しく呟いてその手が離れ、自由になった私は淑女の礼を執った。


「拘束して、連れて行け」

カイザル王子が、騎士達に命じる。


「しかし、、」

「構わない、連れて行け」

「失礼致します」

逡巡する騎士達にカイザル王子は厳しい声で言い、2人の騎士が戸惑いながらも、フェンデル王子を両脇から固めて連れて行く。


「兄さん、、、私は」

「フェンデル、話は後で聞く」

フェンデル王子は項垂れて、出て行った。

やっぱり、なんか、可哀想だ。でもさっきは少し怖かったから、私はほっと息を吐く。


そして私は、カイザル王子と共に残った騎士の中にカサンディオ団長が居る事に気付いた。

気付いて、自分でも驚いたけれど、カサンディオ団長が居る事にとても安心する。




「お初にお目にかかる、アンズ殿でよろしいか?」

部屋の中が落ち着いた所で、カイザル王子が私に向き合う。堂々とした、威厳のある態度だ。


「はい、アンズと申します。王国の若き太陽、カイザル第一王子殿下にご挨拶申し上げます」

私はさっとカーテシーをしながら挨拶する。


我ながら、完璧な挨拶が出来た。ローズに見せたかったな、カーテシーは、優雅とはいかなかったけれど、及第点だったと思う。


「畏まらなくてよい」


王子の言葉に私は顔を上げて、改めてカイザル王子を見る。

輝く金髪に、明るい青い瞳、フェンデル王子とイオさんとひと目で兄弟だと分かるが、その顔つきは少しずつ違う。フェンデル王子は絵画や彫刻のように完成された美形で、イオさんはもう少し柔らかい。

カイザル王子は、3人の中では一番凛々しく、漢らしい雰囲気だ。

体つきも一番がっしりしている。


ふむ、3人の中では、一番好みかしら、、、、。

なんて、じっくり見ていると、王子の後ろのカサンディオ団長から冷たい視線が飛んできた。


王子を、じろじろ見るな。


低い低ーい声が、私の頭の中に響く。

私はさっと、カイザル王子から目を逸らした。


「図書室長から、フェンデルが仕事中のあなたを無理矢理連れて行ったと報告があった。弟が無理をお願いしたようで、すまない」

「滅相もございません、殿下」


「また、弟のあなたへの待遇は不適切だったようだ、それについては、きちんと調査しよう。あれには何らかの責任を取らせるつもりだ」


「あ、えーと、、、、はい」

何とも締まりのない返事をしてしまうと、カイザル王子に、ふっと笑われた。


おおー、さすが第一王子、笑うとバックに薔薇とか牡丹とか芍薬が飛びますね。


「心配せずとも、あれは王族だ。舌を切られたりはしない。南東部の瘴気を払う遠征では功労者でもあるから、謹慎がいい所だろうが、アンズ殿は厳罰を望むだろうか?」


その問いかけに、私ではなくリサちゃんが身を固くする。私は直ぐ様答えた。

「いえ!謹慎で!謹慎にしましょう!」


万歳、謹慎。

間違っても、王位継承権の剥奪とか、僻地での兵役とか止めて欲しい。

私、今、元気なんだし。フェンデル王子は少ししか関わってないけど、悪い人ではないようだし。ちょっと、いや、大分、残念なだけだし。


「聞いている通り、慈悲深いな。今回のアンズ殿の件については、私も責を負うべき部分がある。フェンデルは軍事の事ばかり担ってきた奴だ、聖女召喚とそれに伴う遠征は対になるからと、全てを任せたが、少し荷が重かったようだ」

王子の言葉を、私はローズ直伝の曖昧な微笑みでやり過ごす。高貴な方の言葉ですもの、否定も肯定もしませんよ。


「新聞記事になった事で、世間の声も厳しい。王家として、何らかの対応を取ろうと考えている」

「はい」

別にいいですよー、なんて、言えるわけないので、曖昧な微笑みのまま私は頷く。



「リサ殿も、ご迷惑をかけている」

カイザル王子が今度はリサちゃんに向き直り、リサちゃんもさっと及第点の淑女の礼をした。


「あなたは、弟の初恋のようだ。いろいろ先走っていると聞いている、すまない、しっかり振ってくれて構わない」


「はい、えーと、、、畏れ多いお言葉でございます?」

リサちゃんは、困った顔でそう返した。

語尾がなぜか疑問形になっている。


何て返したらいいか、分からなかったんだね。分かるよ、私も、第二王子の初恋、とか言われたら、何て返すのが正解か分からないよ。


リサちゃんの返しに、カイザル王子は、ふはっと笑った。


「「!」」

その飾らない笑顔に、私とリサちゃんは劇画タッチになる。



えっっ、カッコよ!!!


うっわ、カッコよ!!!



恐らく同じ気持ちでカイザル王子をガン見する私とリサちゃん。

雄々しい美形が無邪気に笑うのって、くるわね。キュンキュンするわね!


もちろん、飛んでくるカサンディオ団長の冷たい視線。さっきよりも更に低い声が聞こえてくる。


だから、王子を、じろじろ見るな。


はいはい、分かってますよ、高貴なお方ですものね、不敬ですよね。

私は、さっと王子から目を逸らした。




すみません、予告の5話より、すこーし増えそうです。書き出すと長くなってしまう、、、、。

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― 新着の感想 ―
[一言] カサンディオさん!ライバルですよ!! まあ王太子ならもう婚約者も居るだろうし妾お断りだから目の保養以上にはならんだろうけど……
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