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42/91

42.それはきっと、こ、



イオさんの来襲の後、図書室には私を心配したローズが顔を出し、ローズの後にはハンク副長官もやって来た。


「今日は美しいアンズ殿の事で、城が騒がしいようだ」

色気のある笑顔でハンク副長官は言う。

「ロイ君から聞いてますよ、ハンク副長官もグルなんですよね?」

「アンズ殿には、本当にお世話になったからね」

ここでウインクが飛んでくる。

さっと避ける私。


「つれないなあ」

「本日はどのようなご用件で?翻訳ですか?」


「用事ではないよ、アンズ殿が心配で様子を見に来たんだ。城には朝からすごい数の抗議の手紙が届いていて、上の方も騒がしい。先走った変な奴がこちらに来ていないか気になってね」


「すごい数の抗議の手紙?」


「私としては、心配で様子を見に来た、に、引っ掛かって欲しかったなあ。

ああ、すごい数だよ。世間は今、聖女フィーバーだからね。都の民達は自分達のヒーロー、従者様が実は聖女だったかもしれないのに、冷遇されていたとなって怒っている、おまけに聖女リサ殿まで、アンズ殿の冷遇を不満に思っていたとあっては尚更だろう」


「そんなあ」

「お陰で朝から、バタバタしている。カサンディオ団長は第一王子殿下に呼び出されているようだ」


「えっ、何ですかそれ、大丈夫ですか?」

私はさっと、血の気が引くのが分かった。

そんな私をハンク副長官は、興味深そうに見つめる。


「ふーん、、、なんと、私は失恋したようだ。大丈夫だ、カサンディオ団長とカイザル第一王子は知らない仲じゃない、お咎めではなくて、相談や聞き取りといった所だろう」


「本当にお咎めではないんですね?」

「私としては、失恋したようだ、に引っ掛かってほしかったな」


お咎めなら私も呼ばれている筈だよ、とハンク副長官は言い、今日は図書室から出ない方がいい、と忠告して戻って行った。



新聞記事の衝撃に加えて、カサンディオ団長が第一王子に呼び出されている、という事まで加わり、私は完全に、心ここに在らずの状態で目録の修正を行う。


「アンズさーん、初っぱなから一段ずれてますよー、アンズさーん、、、、、だめだこりゃ、」というスミスくんの声が聞こえたような、聞こえなかったような、、、、


気が付くと、お昼の鐘が鳴っていて、私は図書室の奥でひっそりお昼を食べた。



そして、昼休み終了後、「アンズ殿!アンズ殿はいるか!?」と、カウンターからまた私を呼ぶ声が。

この朗々とした声、嫌な予感だなあ、と思って受付に出る。


予感的中、受付で息を荒くして立っていたのは、フェンデル第二王子殿下だった。


淑女の礼を執る私に構わずに、フェンデル王子は問答無用で、がしっと私の腕を掴む。

振りほどけない強さでちょっと怖い。もしかして、新聞の記事に、怒ってるのかしら?

掴まれた腕が痛い。


ハンク副長官!

今!

今来て欲しかったよう。



「一緒に来てくれ」

及び腰の私にフェンデル王子はそう言うと、ぐいぐい私を引っ張って、早足で歩き出す。


「あのっ、殿下、どちらへ?」

「リサの所だ、頼む、もの凄く怒ってるんだ」


えっ?リサちゃん?

リサちゃんのとこに今から行くの?

リサちゃんの名前が出てきた事で、怖さは少し和らぎ、私は王子の早足に頑張って付いていく。

おみ足が長いので、なかなか大変なんですけどね。


「というか、アンズ殿、城で働いていたのか!?知らずにアンダーソン家まで行ってしまったぞ」


ここで王子から衝撃の発言。


、、、、、、。


、、、、、、。


城で働いてる事、知らんかったんかーい!



「ああ、ええ、まあ、それは、ご足労を」

引っ張られながら、じと目になる私。


そこはさ、知っとくとこじゃない?私、これでも聖女の従者だよ?そして、どうやらあなたの独断で結婚までしたんだよ?その後の事、知っててもよくない?


そういえば、ロイ君が遠征から帰ってきた時、「フェンデル王子は僕の事覚えてないようでした」って珍しくちょっと怒ってたな。

さては、王子、私に全く興味ないね。


そしてさ、新聞は?読んだ?ねえ、読んだ?

新聞の事はいいの?


「あの、殿下。新聞の事は、、、?」

「そうだ、その新聞でリサが怒ってるんだ!」

「へ?リサちゃんが?」

「そうだ、私がアンズ殿に望まぬ結婚を強いたと怒っている」

「あー」

「あー、ではない。私は評判の良い騎士を妻合わせただろう?信頼出来る文官の意見を聞いたんだぞ。見た所、アンズ殿は城に居た頃より、肌艶も良い、幸せなのだろう?それをリサに伝えてくれ」


ええぇ。

何それ、何だそれ、、、、

肌艶が良いのは、結婚のせいじゃないと思う。


肌艶がいい理由はさ、きっと、あれですよ、ねえ、ほら、私はもう28才の大人の女ですもの、分かってましてよ、自分で言うのは恥ずかしいけどさ、それはきっと、こ、


とか思っている内に、私達は本宮の王族の居住区の奥へと進み、リサちゃんのお部屋にたどり着いた。


フェンデル王子は、ノックして、ばーん、と扉を開ける。

「リサ!」



「何ですか?勝手に入って来ないでください」

迎えたのは、絶対零度のリサちゃんの声。


広くて豪華な部屋の隅っこのソファに、ちょんと座ったリサちゃんが居た。

遠征の疲れなのか、少し痩せたように見える。


「リサ!お願いだから止めてくれ、そんな言葉遣い。ほら、アンズ殿も連れてきたんだ」

フェンデル王子が、ずずいと私を前に出す。


「アンズさんっ」

リサちゃんは弾かれたように立ち上がって、私の側までくると、フェンデル王子の手を振りほどく。フェンデル王子はリサちゃんに払われると、さっと手を離してくれた。


「無理矢理連れて来られたんっすか?大丈夫?痛かったんじゃ」

「無理矢理ではない、頼んで来てもらったんだ、そしてリサ!ほら、アンズ殿は幸せそうだろう?だから、な」


「あなたとは、口を利きたくありません」

私への態度とはうって変わって、冷たく無機質に響くリサちゃんの声。


ひょおお、リサちゃん、あれだね、本当に怒ると口調が丁寧になるタイプなんだね。

「~っす」からのそれをやられると響くわね、堪えるわね。


「っ、リサ、、、、。アンズ殿、結婚生活について、リサに説明してやって欲しいんだ、あの若い騎士は見目も年上の女性受けするものであったし、性格も穏やかで優しかったであろう?人形劇は実話ではないよな?」

フェンデル王子が、私に助けを求めるように聞いてくる。


「、、、ロイ君は、確かに、いい子です。そして、私は今、わりと幸せです」

「なっ、ほら」

「フェンデル王子殿下」

私はにっこりと、フェンデル王子に微笑みかけた。


「誤解のないように、全てお話ししますね」


私はちょっと怒った。


ロイ君が、どんだけ悲愴だったと思ってるんだ、王子よ。そして、フローラちゃんがどんだけ泣いたと思ってるんだ、王子よ。


ぜーんぶ、リサちゃんに、チクってやる!

ふん、ふん、ふーんだ!

チクってやる!

フラれろ、バーカ、バーカ。



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― 新着の感想 ―
[一言] そーだそーだ!フラれてしまえっ!バーカバーカ。
[一言] 思いっきりフラれてしまえ! 一度反省したとしてそもそも性格に問題があるので直そうとしても中々直りませんよ!この王子を選んだら後々リサちゃんが苦労するだけだ! リサちゃんにはもっと素敵な人がい…
[良い点] そうだ、そうだ!全部チクっちゃえ!第2王子のせいで辛い思いをした人いっぱい居るんだぞ!リサちゃんに思いっきり怒られちゃえ!
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