41.濃ゆい1日の始まり
新聞記事にすっかり気を取られて時間を食い、始業時間ギリギリに図書室に滑り込んだ私を、受付のレディ達がじっと見てくる。
そうよね、あの新聞、この国一の発行部数ですものね、読みましたわよね。
レディ達の半分くらいとは、後輩を育てる基本の、感謝と褒める、のおかげで仲良くなっていて、心配そうに見つめてくれる子達もいる。
私は曖昧な笑みを浮かべて、奥の作業室へと向かう。
そして、そこで私は本日二度目の裏切りに会う事になる。
「おはようございます、アンズさん。記事見ましたよ、バタバタしていませんか?」
そう気遣ってくれたのは、ヘラルドさんだ。
「おはようございます、ヘラルドさん。すみません、もしかしたら職場にご迷惑がかかるかも」
「気にしないでください。今回のこれには私の責任もありますので、あなたへの冷遇をリークしたのは私ですからねえ」
「はっ、えっ?」
びっくりして、私は言葉を失う。
「ほら、ここの関係者によると、、、、の関係者、私です」
どや顔で、新聞を広げて指さすヘラルドさん。
「ええぇ」
ヘラルドさん、貴方もですか。
「すみませんねえ、バタバタさせてしまって」
「はあ、え?あれ?」
もう、今朝から何が何だか追い付いてないぞ。
とりあえず、ロイ君とヘラルドさんは、今回の計画のグルだという事ね。
「あれ、アンダーソン君から聞いてませんかね、今回の事、カサンディオ家も関わってます。私はカサンディオの者ですよ」
「そうでした、、、、ところで、何でカサンディオ家がこんな事に関わってるんですか?」
「つい先日、当主が代わりまして、新当主の意向です」
ごくり。
新当主?カサンディオ家の?
それって、、、、
「、、、、あの、新当主とは?」
「グレイですよ」
そおでしょおねえええ。
マジかあ、カサンディオ家じゃなくて、カサンディオ団長が直で関わってるのかあ、なら私本人にちゃんと相談してよお、と頭を抱えていると、図書室に始業開始のチャイムが鳴り、それと同時に受付カウンターから私を呼ぶ声が響いた。
「アンズさん!アンズさんは居ますか!?」
次から次々だな、ちょっと整理する時間が欲しい、と思いながら受付に出ると、蒼白な顔をしたイオさんだった。
「アンズさん、これ、どういう事ですか??」
イオさんが泣きそうな顔で新聞を握りしめている。
そうだよー、この人、批判されてる側の王家の人だったよ!
「えーと、私も今朝読んだ所で、こんな記事が出るなんて、知らなくてですね」
「そうじゃありません!不当に扱われてたって本当ですか?」
、、、、あー、そういう理由からの、泣きそうな顔、か。
私はとりあえず、イオさんを「図書室で騒ぐのは良くないので」と外の廊下へと連れ出した。
「あなたは従者ではなく、しかも王家に冷遇されてた、というのは本当なんですか?それなのに、何で王子の私の手伝いなんかしてくれたんですか!?」
「イオさん、確かにそれは本当ですけど、私はもう気にしてない事です。イオさんのお手伝いは、イオさんが王子とか関係なくやってる事です」
「どうして、私が王子であると分かった時に、言ってくれなかったんですか?」
「言う必要はなかったですし」
「私は、私達がアンズさんに、何をしたかも知らないで、のん気にあなたと仕事してたって事ですか!?」
イオさんの、顔がどんどん悲愴になっていく。
待って、落ち着いてくれ!
「イオさん」
「何ですか!」
「落ち着いて、落ち着きましょう。まず、私はそんなにひどい事をされたなんて思ってません。当時は荒れましたけどね。だからこその今ですし、もう解決済みです。王家もイオさんも恨んでません。
それに、イオさんとの研究室は、楽しく過ごさせてもらってます。ね、ここ大事です。だから気にしないでください」
私は微笑む。
イオさんの顔色が、蒼白から少し色をとり戻す。
目も冷静な輝き方になった。表情は珍しく、きりり、と凛々しい。
「、、、分かりました。でも、このままという訳にはいきませんね。こんな記事が出た、という事は素地はあるんでしょう。なら、私は私でアンズさんの地位の回復に努めます」
おや?
「イオさん、私は現状維持でいいかなあ、とですね」
私の言葉に、イオさんはまるで王子のように(王子だけど)笑うと、私の手をそっと取った。
「ダメですよ。アンズさんは今や、私のかけがえのない人です。あなたのお陰で、私は他人と過ごす楽しさを知ったし、苦手な魔法部にも行けるようになりました。
ずっと、王子の自分が嫌で、王族としての役目や義務から逃げてきましたが、そのせいであなたを、ひどい目に遭わせた」
「いやいや、ちょっと飛躍しすぎです」
聞いてたかしら?
私はそんなにひどい目には遭ってないんですよ。ましてや、それは、イオさんのせいではないと思うな。
「王族の1人として、責任があるという事です」
「はあ、なるほど」
「聖女の召喚に関する事は、フェンデル兄さんに一任されてましたが、私やカイザル兄さんも関わるべきでした」
「そうですかねえ」
「そうです。アンズさんのお陰で、魔法部では瘴気の正体についても、魔素の一種なのでは、という新しい考え方まで出てきています。私は父上とカイザル兄さんにそれを伝えて、アンズさんを聖女であると、認めさせてきます」
「その、瘴気の正体、私絶対関係ないですよ」
「何でですか、大有りです。魔法文字を読める人なんて、あなたしかいないんですよ、それって凄い事なんですよ、全てはあなたが読めたからなんです」
ぎゅうううっと、私の手が強く握られる。
「読めただけなんですって」
「だから、読めるのが凄い事なんです、とにかく、認めさせてきます。そして、アンズさん」
「はい」
「先ほども言いましたが、アンズさんは私にとってかけがえのない人です。私は何も知らずにあなたを頼っていた不甲斐ない王子ですが、アンズさんには、これからも、私の支えとなって側に居てほしいんです」
、、、、、ん?
ちょっと、プロポーズっぽくない?
なんかイオさんが、キラキラしている。
やだわ、ドキドキしちゃうわね。
ここは、落ち着きましょうね。
「翻訳者として、という事ですよね?」
「もちろんです」
「承りました」
いつも、ブクマや評価、いいね、に感想、誤字脱字報告、本当にありがとうございます!
ただいまラストスパートに入っております。
たぶん、あと5話くらいで終われるかと、、、、。
ラストがまだ、固まりきってなくて、1日1話更新になると思われます。
よろしくお願いします。