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35.イオさんの大きな一歩


「お体はもういいんですか?」

本日、こう心配してくれたのはイオさん。


所変わって、こちらは古代魔法及び歴史研究室。今日の私は研究室助手だ。


「はい、もう大丈夫です、ご心配とご迷惑をおかけしました」

「迷惑だなんて、かかってないです。高熱が1週間近く続いたんでしょう?1度、神殿で診てもらった方がいいかもしれませんよ」


「大丈夫ですよー、もう元気です。あんまり治癒魔法ばっかり使うのも良くないんでしょう?」

「まあ、高くつきますし、ただの風邪程度では通常は使いませんけどね。あ、お金の事を気にしてるなら、私が出しますよ」


「いやいやいや、何を言ってるんですか、どこの世界に部下の治療費出す上司が居るんですか」


「ここに居ます」

真っ直ぐな瞳で宣言されてしまった。


おうふ、その美しい顔で真面目にそんな事言わないで。

王子みたいだな、このやろう。


「イオさん、気を遣ってしまうので、そういうのは止めましょう」

私が本気モードで断ると、イオさんは、しゅんとした。


「すみません、押し付けがましかったですね。先週、アンズさんが居なくて、心細かったのでつい」

「心細かった?」


「はい、私はずーっと、ただの趣味みたいなもので1人で古代の生活を読み解いて満足していて、それでいいと思っていました。

でも、あなたと2人で、古代人のおおらかさ、とか、あなたがよく言う、“スローライフ”の良さを語らい合う中で、こういうのもいいな、と。

分かり合えるのがこんなに楽しいなんて思ってもみなかったんです。だからアンズさんの出勤日にあなたが休んだ時は、自分でも驚くほど、心細かった」


あら、何だか、懐かれた感じだわ。


「すみません、こんなの、気持ち悪いですよね」

「大丈夫ですよ、気持ち悪くなんかないです。私にとっても、イオさんとの時間はほっこり出来る心地よい時間です」

「本当ですか?良かった」

「ええ、でも、治癒魔法代、出すのは止めましょう。もう元気ですし」

「分かりました」


ふふふ、と笑いあって私達は、犯行声明文、じゃなかった、魔法文字の読み解きにかかる。

本日読み進むのは、古代の人達が織っていた織物の、1つ1つの模様の記述だ。


私の訳した物を読みながら、イオさんが模様の意味について、「カエルは子沢山を願ってるんです」とか「この花は、変わらぬ愛を表すらしいので、恋人に贈るんですかね。おっと、しかも、待ってください、この花が身近だったという事は、やはり、住んでいたのは南部になるんでしょうか!?」と、解説や考察を入れてくれる。


イオさんは、図書室で古代の文明関連や、地方の昔話みたいな物を読み漁っているので、いろいろ詳しい。私はひたすら、「へー、そうなんですねえ、カエル子沢山は全世界共通ですね」なんて感心しながら、翻訳していく。


そんな風に助手として励んでいると、ゼンマイ式のタイマーがジリリリと鳴った。

これはいつもはお昼の合図で鳴らされるタイマーだ、でも、まだお昼じゃない。


何かしら?


「もう時間ですか。アンズさん、少し席を外します」

タイマーを止めてイオさんが立ち上がる。


「珍しいですね、図書室ですか?」

「いえ、魔法部です」

「魔法部?」

こちらの世界において、魔法部は一番の花形部署だ。そんな華やかな部署にイオさんが?


「ええ、前にアンズさんが翻訳してくれた、神殿の儀式の所で、古代の人達が大気から力をもらって魔法を使う記述があったでしょう」

「ありましたね、イオさんがすごく興奮してた所ですね」

「その事について、魔法部に少しだけのつもりで聞きに行ったら、逆に捕まりまして」

「あら」

「研究室に魔法部から駐在員を置きたい、とまで言われたんですけど断って、翻訳した部分に私の解説を付けたものを、私が定期的にあちらに持って行く事になったんです」


「えっ、私、持ってきますよ」

忘れがちだけど、あなた、王子ですよ?

そんな雑用していいの?


「だ、ダメです!」

「いやいや、イオさん、王子が使い走りしちゃダメですよ」

「だからと言って、アンズさんはダメです!前に外交部がアンズさんを引き抜こうとした時は大変だったんですよ。魔法部ともなれば、トップはカイザル兄さんです、私では太刀打ち出来ません」


「カイザル第一王子かあ、それは確かに難敵ですね、、、、、、いや、そうじゃなくて、ちょっと待って、何で私が引き抜かれる前提なんですか、魔法部が私に用がある訳ないです。魔力はないし、魔法も使えません」


「あなたは油断なりませんからね、どこでどうして、魔法部が欲しがるか分かりません」

「はあ。てか、どうして、駐在員を断ったんですか?そして、そんなにすごい事なんですか?あの大気から力を貰うとかいうやつ」


「ええ、以前から、大気中の魔力の素、“魔素”については存在は言われてたんですけど、確証はなかったんです。古代人が本当にそれを使っていたなら、その存在を認められる事になります」


わーお、隠された魔法の真髄、みたいなやつ来たよ。


「大発見的な?」

「大発見とまでは、、、でも魔素の研究の大きな一歩にはなりますね」

「十分すごいじゃないですか、お手柄ですね、イオさん」

「いえ、アンズさんのお陰です」

「いやいや、私は翻訳しただけです。意味も全然分からなかったし」


そう、全然分からなかった。私は、“大気の声を聞き、精霊達に歌を唄わせた”、と訳しただけで、ここから、これはひょっとして!と前後の文とか、状況を精査しだして、結論まで持っていったのはイオさんだ。

私には、未だにあれがどうして、大気から力をもらって魔法を使った事になるのか分からない。

イオさんによると、古い呪文にも似たような表現が出てくるらしい。

ふーん。


そう、ふーん、ですよね。



「でも、そうなら、尚更、駐在員置いてもらったら良いのでは?」

私が畳み掛けると、イオさんは黙った。


「、、、、、私は、王族なのに魔法が使えないんです。魔力は少しだけあるんですけど」

ぽつり、とイオさんは言う。


「魔法部から何か言われた事があるんですか?」

魔法って高位の貴族程、使える人が多いらしい。王子なのに使えなかったら、いろいろ言われたんだろうな。


「言う人も居ました。魔法部の方、皆に言われた訳じゃないですけど。なので、魔法は好きですけど、魔法部は苦手です。苦手な人と四六時中一緒になるのは嫌で、断りました」


「えー、でも、それで、その苦手の巣窟、魔法部に単身で定期的に行くのはもっと嫌なんじゃ」

「嫌ですけど、短時間ですし」

「嫌なんじゃないですか、やっぱり私行きますよ」

「ダメです!アンズさんが取られます」

「取られませんよ!」

「取られたら、どうしてくれるんですか!」

「だから、何で取られる前提なんですか」

「絶対、ダメです!」

「でも、嫌なんでしょう?私、平気です」

「嫌だ、アンズさんを取られる方が嫌だ!」

「だから、取られませんって」


2人でそんな風にわちゃわちゃした後、「これだけは絶対に譲れません」と言ってイオさんは単身で苦手の巣窟に出掛けていった。


王子もいろいろあるんだなあ。そして、魔法部が注目するような発見をするなんて、イオさんってけっこうすごいのでは、と残された私はぼんやり思った。





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