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28.ソフトな監禁です

***


どうも、アンズです。

ナリード伯爵家に拉致られて丸1日、私は今、伯爵家でソフトに監禁されております。


どうやら、伯爵は娘が心配なあまり、ちょっと変になってるようだと思う。態度は丁寧で紳士的なんだけど、じわり、と話が通じない。


昨日はあの後、有無を言わさずに客間に案内され、侍女達にお世話され、豪華な夕食も出てきた。

家の者が心配するから帰らせて欲しい、と言うと、「アンダーソン家には、アンズ様が伯爵家で体調を崩してしまい臥せっている、という旨の連絡をしておくから大丈夫ですよ、もちろん明日にはアンズさんの職場にもそのようにご連絡しておきます」と微笑まれた。

いやいやいや、怖い怖い怖い。

大丈夫じゃないよ。


そんな嘘つくって事は、拉致して監禁している自覚はあるんだね?

なぜ、儚げに微笑めるの?怖い。


とにかく扱いは丁重だけど、案内された部屋の外にはびっちり護衛という名の見張りがいるし、窓だってはめ殺しの窓だ。

ええぇ、ここに2ヶ月、、、、?

無理があると思うんだけど、、、、

と、もやもやしながらも昨夜は無理矢理寝た。



本日、朝から豪華なお食事は出てきたけど、この先の不安からあんまり食は進まない。


困ったな、、、、と途方に暮れていると、窓の外から微かに声が聞こえた。


「ちょっと、離しなさいよっ、どうして会えないの?おかしいわよ!」


この声、フローラちゃんだ。


私は立ち上がって窓辺へと行く。

窓から屋敷の玄関は見えないが、おそらく玄関の方からフローラちゃんの声が聞こえる。


「アンズさんの具合が悪いんでしょう?会わせてよ。ねえ!変よ!何したのよ!あの人に何したのよ!」

怒ってるフローラちゃんの声が小さく聞こえる。

心配して来てくれたんだ。と胸が熱くなるけど、すぐに「きゃあっ」という悲鳴が聞こえて私は青ざめる。

「お嬢様!」

これはサイファの声だ。


くそう、何も見えない、大丈夫かな?

何もされてないよね?


しばらく何も聞こえなかったけれど、「また来ますからっ」と、フローラちゃんの捨て台詞が聞こえて私はほっとした。

無事なようだ。


無事なようだが、これはまずいぞ。


私は朝食を下げに来た侍女に、伯爵に会わせてくれるよう頼んだ。




「私の手で、家に手紙を書かせてください。心配をかけたくないんです。中身も確認していただいて結構です」

フローラちゃんに、きちんと私の字で無事を伝えて、良くしてもらっていると伝えよう。

実際、良くはしてもらっているのだ。身の危険は無さそうだし、フローラちゃんが乗り込んで来る方が心配だ。


部屋までやって来てくれた伯爵に、そのようにお願いしてみると、あっさり承諾してくれた。


伯爵は、会いたいと言えばこうしてすぐに会いに来てくれるし、私への扱いは丁重で、帰りたい以外の要望は通るようだ。

娘さんの事でちょっと思い詰めてしまっているだけで、話が通じない訳じゃない。


きちんとお話すれば、何とかなるのでは?

私は希望を抱きながら伯爵に話しかける。


「伯爵、あと10日もすれば、第一騎士団である夫が帰って来ます、私は城で働いてもおりますし、日にちが経てば、私の不在は騒ぎになるでしょう、大事になる前に穏便に帰していただけませんか?聖女様が戻られたら、必ず、娘さんの事はお伝えします」


「いいえ、聖女様には戻られてすぐに、我が家に来ていただかなくてはなりません。その為には、アンズ様に居てもらわなくては」


だめだ、こりゃ。


「騎士団が踏み込んで来ますよ?」

「そうなれば、あなたを盾にさせていただきます」

「えっ」

「妻に先立たれ、私には娘しかいないのです、あの子を失うくらいなら、、、、」

そこで、伯爵はうっと声をつまらせて、涙ぐむ。


少し、自暴自棄になっていらっしゃる、、、、。

私は、控えている使用人の皆さんに視線を送るが、悲しそうに首を振られた。


うーん、でも、フローラちゃん達は心配してるし、仕事もあるし、本当に騎士団が来て、伯爵に盾にされるのは嫌だ。


頭を抱えて、何か、やれる事はないかと考える。

脅しは利かないみたいだ。

、、、、なら。


「伯爵、娘さんに会わせてもらえませんか?」

「、、、娘に、ですか?」

「はい、変な事はしないと誓いますので」

「もちろん、アンズ様がそんな事はなさらないでしょうが、なぜ?」

「私はご存知の通り、異世界から来ました。前の世界の知識が役に立つかもしれません」


ダメ元で娘さんに会おう。

治癒の力はないけど、病気が軽いものなら、何か出来るかもしれない。

軽いものであれば、、、、、

軽いものであって欲しい、、、


前の世界で、私が悩まされてた、花粉症とか、偏頭痛とかなら、対処法くらいは考えられる。

ここにソフトに監禁されているままなら、やれる事をやろう。



「分かりました」

伯爵はそう言うと、私を娘さんの部屋へと案内してくれた。





***


「娘の、バイオレットです」

フリフリの可愛らしい内装のお部屋の、豪華なベッドでナリード伯爵の一人娘、バイオレット嬢は臥せっていた。


「疲れやすくなり、力が入らなくなるのが、この病の初期の症状です」

部屋と同じくフリフリのベッドで、フリルとリボンがたっぷりあしらわれたネグリジェを着て、バイオレット嬢はその紫色の瞳でイライラとこちらを見ている。


「ねえ!誰?早く出ていってよ!」

バイオレット嬢が私を睨む。


「すみません、怒りやすくなるのも、この病の症状の1つなんです。甘やかして育てましたが、本来ならお客様に声を荒らげるような子じゃないんです」

「ねえってば!」


私はバイオレットをよく見てみた。

本来は愛らしい女の子なのだろうけど、今は見る影もない。イラついた目は落ち窪み、肌も乾燥しているようだ。

腕には、痣も見える。


花粉症や偏頭痛なんかではない、という事は一目で分かった。


何の病だろう?何度も再発する、という事は、細菌とかウイルスに感染してかかる病気じゃないって事だ。


何か、慢性のもの。

、、、癌?

癌なら私はお手上げだ。


後は、高血圧とか、糖尿病?

このあたりは、祖父がこれで通院していたので、何となく知ってはいる。


バイオレット嬢の様子は、祖父の様子とは全然違う気がする。

でも、祖父はちゃんとお薬も飲んでたしなあ。高血圧とか糖尿病って、悪くなると、疲れたり、怒りっぽくなるとかあるのかな?

でも、多分だけど、こんな若くしてなる病気じゃないよね。


「貴族のご令嬢が、稀にかかる病なんですね?」

「はい、貴族の男性がたまになる、親指病、とはまた違うものです」

「親指病?」

「足の親指の関節がある日、突然激しく痛む病です」

「、、、それは、痛風ですね」

それなら知ってる。祖父はそれでも悩んでいたのだ。


「え?ツウフウ、ですか?」

「あ、いや、気にしないでください、娘さんはまた違うんですよね」

「はい、この病は、放っておくと、やがて全身に痣が出来て、歯茎が腫れ、そして、徐々に、、、、」

伯爵はううっ、と言葉に詰まる。


そこで、私は、バイオレットのベットの脇の食事のお膳に気付いた。

そこには、ロールパンとケーキが残されている。

朝からケーキかあ、と思っていると、ノック音がして、侍女が昼食を運んできた。

お膳には、やはりパンとケーキだ。


「それは、バイオレット嬢のお昼ごはん、でしょうか?」

「はい。娘は偏食でして、基本はパンとケーキしか食べません。夕食には肉も食べますが」


「えっ」

それは、絶対、ダメだよね?



「ねえ!もう出ていってよ!!今すぐ!!出てって!!!」

そこでバイオレット嬢の怒りが爆発して、私と伯爵は部屋から追い出された。


部屋から追い出されながら、私はあの食事は絶対にダメだと確信する。

もしかしたら、病気って食事のせいじゃない??




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